薬剤概要
薬剤名と分類
この薬剤グループにはACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)とARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)の2種類があります。
代表的なACE阻害薬:カプトリル(カプトプリル)、レニベース(エナラプリル)、コバシル(ペリンドプリル)
代表的なARB:ブロプレス(カンデサルタン)、ディオバン(バルサルタン)、ミカルディス(テルミサルタン)、オルメテック(オルメサルタン)
どちらもレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAS系)を抑制する薬剤として分類されます。
適応
高血圧症、慢性心不全、心筋梗塞後、糖尿病性腎症などに使用されます。特に心不全の患者さんでは、心臓への負担を軽減し予後を改善する効果が証明されているため、第一選択薬として広く使用されています。
剤形と規格
主に経口薬(錠剤)として使用されます。1日1~2回の投与が一般的で、食事の影響を受けにくいものが多いため、服薬しやすい薬剤です。
作用機序
薬理作用
体内には血圧を上げる仕組みとして**レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAS系)**というシステムがあります。この系では、レニン→アンジオテンシンI→アンジオテンシンII→アルドステロンという一連の流れで、血管を収縮させたり体内に水分とナトリウムを貯留させたりして血圧を上げます。
ACE阻害薬は、アンジオテンシンIをアンジオテンシンIIに変換する酵素(ACE)を阻害します。これにより、血管収縮作用を持つアンジオテンシンIIの生成が抑えられ、血圧が下がります。
ARBは、アンジオテンシンIIが受容体に結合するのを直接ブロックします。結果として血管が拡張し、血圧が下がるという仕組みですね。
どちらも最終的には血管拡張、ナトリウムと水分の排泄促進により、血圧を下げ、心臓への負担を軽減します。心不全では、心臓のリモデリング(心臓の構造変化)を抑制する効果もあり、長期予後の改善につながります。
体内動態
経口投与後、1~2時間で効果が現れ始めます。最大効果は4~6時間後で、作用は24時間程度持続するため、1日1回の投与で済むものが多いです。主に肝臓で代謝され、腎臓から排泄されます。腎機能障害がある場合は蓄積する可能性があるため、用量調整が必要です。
使用方法・投与方法
用法・用量
ACE阻害薬の例(カプトプリル):通常、1回12.5~25mgを1日2~3回経口投与します。効果を見ながら徐々に増量し、維持量は1日25~100mg程度です。
ARBの例(カンデサルタン):通常、1日4~8mgを1回経口投与します。効果不十分な場合は12mgまで増量可能です。
投与時の注意点
初回投与時や増量時には血圧低下に注意が必要です。特に高齢者や利尿薬を併用している患者さんでは、初回投与後に起立性低血圧やめまいが起こりやすいため、少量から開始し徐々に増量することが一般的です。
食事の影響は少ない薬剤が多いですが、カプトプリルなどは食事により吸収が低下するため、食前1時間または食後2時間の投与が推奨されます。
自己判断での中断は危険です。特に心不全の患者さんでは、急な中断により症状が悪化する可能性があります。
副作用・有害事象
主な副作用
血圧低下・めまい・ふらつき:特に投与開始時や増量時に起こりやすく、転倒のリスクとなります。
高カリウム血症:腎臓からのカリウム排泄が抑制されるため、カリウム値が上昇することがあります。脱力感、不整脈の原因となります。
腎機能障害:特に腎動脈狭窄がある場合や、脱水時には急性腎障害を起こす可能性があります。
空咳(ACE阻害薬特有):これはACE阻害薬の特徴的な副作用で、ブラジキニンという物質の蓄積によるものです。5~20%の患者さんに出現し、空咳が問題となる場合はARBへの変更が検討されます。
血管浮腫:まれですが重篤な副作用として、顔面・舌・喉頭の腫脹が起こることがあり、呼吸困難につながる可能性があります。
重大な副作用
血管浮腫:顔面、舌、喉頭が腫れ、呼吸困難を引き起こす可能性があります。特にACE阻害薬で起こりやすく、投与開始後早期に注意が必要です。
高カリウム血症:致死的な不整脈の原因となるため、定期的なカリウム値のモニタリングが必要です。
急性腎不全:特に両側性腎動脈狭窄、脱水、NSAIDs併用時に起こりやすくなります。
無顆粒球症:まれですが、発熱、咽頭痛などの感染徴候に注意が必要です。
禁忌・慎重投与
禁忌:妊婦(胎児に悪影響を及ぼす可能性)、両側性腎動脈狭窄、本剤に対する過敏症の既往、血管浮腫の既往
慎重投与:腎機能障害、高カリウム血症、脱水、高齢者、肝機能障害
看護のポイント
投与前の観察・アセスメント
バイタルサインの確認:血圧と脈拍を測定します。特に収縮期血圧が100mmHg未満の場合は、医師に報告しましょう。起立性低血圧の有無も確認します。
検査データの確認:腎機能(BUN、Cr、eGFR)、電解質(特にカリウム)を確認します。腎機能障害やカリウム値が高い場合は、医師に報告が必要です。
既往歴とアレルギー:血管浮腫の既往、妊娠の可能性、腎動脈狭窄の有無を確認しましょう。
併用薬の確認:カリウム保持性利尿薬(スピロノラクトン)、NSAIDs、カリウム製剤との併用は高カリウム血症のリスクを高めます。
自覚症状の確認:めまい、ふらつき、咳の有無を確認しましょう。
投与中の観察
経口薬なので投与中の観察は限定的ですが、初回投与時や増量時には以下の点に注意します。
血圧低下の症状:めまい、ふらつき、顔面蒼白などがないか観察します。初回投与後1~2時間は特に注意が必要です。
起立時の状態:立ち上がる際にめまいやふらつきがないか確認し、転倒予防の声かけを行いましょう。
投与後の観察
降圧効果の確認:血圧の推移を継続的に観察します。目標血圧に到達しているか、過度の血圧低下がないかを評価しましょう。家庭血圧の測定も推奨されます。
副作用の出現:以下の症状に注意して観察します。
- 空咳(ACE阻害薬):乾いた咳が続く場合は医師に報告します。夜間の咳で睡眠が妨げられる場合はARBへの変更が検討されます。
- めまい・ふらつき:特に起床時、入浴後に注意が必要です。転倒リスクが高まります。
- 高カリウム血症の症状:脱力感、筋力低下、不整脈、しびれなどに注意します。
- 血管浮腫の兆候:顔面・舌・喉の腫れ、呼吸困難は緊急対応が必要です。
検査データの変化:定期的に腎機能とカリウム値をモニタリングします。BUN、Crの上昇、カリウム値の上昇に注意しましょう。
心不全症状の改善:心不全患者では、呼吸困難、浮腫、体重の変化を観察し、治療効果を評価します。
患者指導のポイント
薬の目的と効果:「血圧を下げて、心臓や腎臓への負担を軽くする薬です」と説明します。心不全の場合は「心臓の働きを助けて、症状を改善する薬です」と伝えましょう。
服用のタイミング:毎日決まった時間に服用するよう指導します。飲み忘れた場合は、次回から通常通り服用し、2回分をまとめて飲まないよう説明しましょう。
血圧測定の習慣化:家庭での血圧測定を推奨し、朝と夜の決まった時間に測定して記録することを指導します。
めまい・ふらつきへの対応:立ち上がる時はゆっくり動くこと、めまいを感じたら座る・横になることを説明します。転倒予防が重要です。
カリウムの摂取:高カリウム血症のリスクがあるため、カリウムを多く含む食品(バナナ、トマト、イモ類、果物)の過剰摂取は避けるよう指導します。ただし、極端な制限は不要で、バランスの良い食事を心がけることが大切です。
空咳について(ACE阻害薬):「乾いた咳が出ることがありますが、薬の副作用です。ひどい場合は相談してください」と説明します。
自己判断での中止禁止:「血圧が下がったからといって、自己判断で薬をやめないでください。急に中止すると、血圧が急上昇したり心不全が悪化したりする可能性があります」と強調しましょう。
受診が必要な症状:以下の症状が出た場合はすぐに受診するよう伝えます。
- 顔や舌が腫れる、息苦しい
- ひどいめまい、立ちくらみ
- 手足に力が入らない、しびれる
- 脈が乱れる
妊娠の可能性:妊娠中・妊娠の可能性がある場合は必ず医師に相談するよう指導します。
類似薬剤との比較
ACE阻害薬とARBの比較
| 項目 | ACE阻害薬(カプトリル・レニベースなど) | ARB(ブロプレス・ディオバンなど) |
|---|---|---|
| 作用部位 | ACE酵素を阻害 | アンジオテンシンII受容体を遮断 |
| 降圧効果 | 強力 | 強力 |
| 心保護効果 | あり(エビデンス豊富) | あり(ACE阻害薬と同等) |
| 空咳 | 5~20%に出現 | ほとんど出現しない |
| 血管浮腫 | 0.1~0.5%(やや多い) | 0.1%未満(まれ) |
| 高カリウム血症 | あり | あり |
| 腎保護効果 | あり | あり |
| 服用回数 | 1日2~3回のものが多い | 1日1回のものが多い |
ARBはACE阻害薬で空咳が問題となった場合の代替薬として選択されることが多いです。効果や心保護作用は同等とされていますが、空咳や血管浮腫のリスクが低いという利点があります。
一方、ACE阻害薬は心筋梗塞後の患者さんでのエビデンスが特に豊富で、長年使用されてきた実績があります。また、薬価が比較的安価なものが多いという利点もありますね。
他の降圧薬との使い分け
Ca拮抗薬:降圧効果は同等ですが、心不全や心筋梗塞後の予後改善効果はACE阻害薬・ARBの方が優れています。
β遮断薬:心不全や心筋梗塞後には、ACE阻害薬・ARBと併用することで相乗効果が得られます。
利尿薬:ACE阻害薬・ARBと併用すると降圧効果が増強されますが、腎機能低下や高カリウム血症に注意が必要です。
実習でよくある場面
場面1:心不全患者への投与開始
心不全の症状(呼吸困難、浮腫)がある患者さんに、ブロプレス4mgの投与を開始する場面です。心不全の治療として、ACE阻害薬・ARBは必須の薬剤ですが、投与開始時には注意が必要です。
まず、投与前に血圧、脈拍、体重、浮腫の程度を確認しましょう。特に血圧が低めの患者さんでは、初回投与後の血圧低下に注意が必要です。また、腎機能とカリウム値も確認しておきます。
投与後は、めまいやふらつきがないか観察し、「立ち上がる時はゆっくり動いてくださいね」と声をかけましょう。数日後には呼吸困難の改善、浮腫の軽減、体重減少などの治療効果が現れてきます。
場面2:空咳の訴えとARBへの変更
カプトリルを服用している高血圧の患者さんが「最近、乾いた咳がずっと続いて、夜も眠れないんです」と訴える場面です。これはACE阻害薬の典型的な副作用である空咳の可能性が高いですね。
まず、咳の性状を確認しましょう。ACE阻害薬による空咳は、痰を伴わない乾いた咳で、夜間に悪化することが多いです。風邪症状や発熱がないこと、肺雑音がないことも確認します。
医師に報告すると、ARB(例:ブロプレス)への変更が検討されます。ARBに変更後、通常1~2週間で咳は改善します。患者さんには「薬の副作用による咳の可能性があります。別の種類の血圧の薬に変更することで改善することが多いですよ」と説明しましょう。
場面3:高カリウム血症の早期発見
ディオバンとスピロノラクトン(カリウム保持性利尿薬)を併用している高齢の心不全患者さんが「最近、体がだるくて力が入らないんです」と訴える場面です。これは高カリウム血症の可能性があります。
すぐにバイタルサインを測定し、特に不整脈の有無を確認しましょう。心電図でT波の増高などの変化がないかチェックします。医師に報告し、緊急で採血してカリウム値を確認する必要があります。
高カリウム血症が確認されれば、カリウムを多く含む食品の摂取を控えるよう指導し、場合によっては薬剤の調整(スピロノラクトンの減量・中止など)が検討されます。このような症状を見逃さないためにも、日頃から患者さんの訴えに耳を傾けることが重要ですね。
よくある疑問・Q&A
Q: ACE阻害薬とARB、どちらが優れていますか?
A: 降圧効果や心保護効果は両者ともほぼ同等とされています。主な違いは副作用のプロファイルで、ACE阻害薬は空咳が5~20%に出現しますが、ARBではほとんど出現しません。そのため、ACE阻害薬で空咳が問題となった場合にARBに変更されることが多いです。長期使用のエビデンスはACE阻害薬の方がやや豊富ですが、実際の臨床では副作用や患者さんの状態、薬価などを総合的に判断して選択されます。
Q: 空咳が出たら、すぐに薬を中止すべきですか?
A: 自己判断での中止は避けるべきです。まず医師や薬剤師に相談しましょう。空咳はACE阻害薬の副作用として知られていますが、他の原因(風邪、喘息、心不全の悪化など)の可能性もあります。空咳が薬剤性と判断されれば、ARBへの変更が検討されます。急な中止は血圧の急上昇や心不全の悪化につながる可能性があるため、医師の指示に従って薬剤を調整することが重要です。
Q: カリウムを多く含む食品は全く食べてはいけないのですか?
A: いいえ、極端な制限は不要です。ACE阻害薬・ARBは高カリウム血症のリスクがありますが、通常の食事であれば問題になることは少ないです。ただし、バナナ、トマト、イモ類、果物などカリウムを多く含む食品を毎日大量に摂取するのは避けた方がよいでしょう。特にカリウム保持性利尿薬(スピロノラクトン)を併用している場合や、腎機能が低下している場合は注意が必要です。定期的にカリウム値をチェックしながら、バランスの良い食事を心がけることが大切です。
Q: なぜ心不全にACE阻害薬・ARBが必要なのですか?降圧薬なのに心臓に効くのですか?
A: ACE阻害薬・ARBは単なる降圧薬ではなく、心臓の保護作用を持つ薬剤です。心不全では、心臓が十分に血液を送り出せないため、体は血圧を上げようとしてレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系を活性化させます。しかし、この代償機構が過剰に働くと、かえって心臓への負担が増し、心臓の構造が悪い方向に変化(リモデリング)してしまいます。ACE阻害薬・ARBはこの悪循環を断ち切り、心臓への負担を軽減し、心臓のリモデリングを抑制します。その結果、心不全の症状が改善し、長期的な予後も改善することが多くの研究で証明されています。
まとめ
ACE阻害薬・ARBはレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系を抑制する薬剤で、高血圧や心不全の治療に欠かせない薬剤です。単なる降圧薬ではなく、心臓と腎臓を保護する作用を持つことが大きな特徴ですね。
看護師として最も重要なのは、副作用の早期発見と患者教育です。特に、空咳(ACE阻害薬)、高カリウム血症、血圧低下によるめまい・ふらつき、腎機能障害に注意が必要です。定期的な血圧測定、検査データ(腎機能、カリウム)のモニタリング、患者さんの自覚症状の観察を継続的に行いましょう。
また、自己判断での服薬中断を防ぐ教育も重要です。「血圧が下がったから」「調子が良いから」といって勝手に薬をやめてしまうと、急激な血圧上昇や心不全の悪化につながる可能性があります。薬の必要性と継続の重要性をしっかり伝えましょう。
実習や訪問看護では、心不全や高血圧の患者さんの多くがこの薬剤を使用しています。薬理作用を理解し、根拠に基づいた観察とケアを実践することで、患者さんの安全を守り、生活の質を向上させることができるでしょう。
免責事項
本記事は看護学生向けの教育・学習目的の情報提供です。一般的な医学知識の解説であり、個別の患者への診断・治療の根拠ではありません。実際の看護実践は、患者の個別性を考慮し、指導者の指導のもと行ってください。記事の情報は公開時点のものであり、最新の医学的知見と異なる場合があります。本記事を課題としてそのまま提出しないでください。正確な情報提供に努めていますが、内容の完全性・正確性を保証するものではありません。
本記事は特定の医薬品の使用を推奨・推進するものではありません。医薬品の使用については、必ず医師・薬剤師の指示に従ってください。実際の投与にあたっては、必ず最新の添付文書を確認してください。自己判断での医薬品の使用は危険です。

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