【レポート】生涯教育に向けた多職種連携と協同における看護の役割(0043)

レポート

はじめに

近年、医療現場では患者中心の医療を実現するために、多職種連携と協同が不可欠となっている。高齢化社会の進展や医療の複雑化、慢性疾患の増加に伴い、患者が抱える問題は医学的側面だけでなく、心理的・社会的・経済的側面など多岐にわたるようになった。このような複雑な健康問題に対しては、一人の医療者だけでは対応できない状況が増加しており、様々な専門職がそれぞれの知識と技術を持ち寄り、協力して患者のケアにあたることが求められている。厚生労働省も「地域包括ケアシステム」の構築を推進しており、医療と介護の連携、多職種協働による支援体制の確立を重要課題としている。そうした中で看護師は、患者に最も近い存在として、また医療と生活の両面から患者を捉える専門職として、多職種間の調整役を担うことが期待されている。本レポートでは、生涯教育の視点から多職種連携における看護の役割について考察する。

多職種連携とは

多職種連携とは、医師、看護師、薬剤師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、管理栄養士、医療ソーシャルワーカー、介護支援専門員(ケアマネジャー)など、様々な医療・福祉専門職が互いの専門性を尊重しながら、共通の目標に向かって協力することである。WHO(世界保健機関)は多職種連携を「複数の領域の専門職者が協働して、患者・クライアント・家族そしてコミュニティーに対して、最適なケア・サービスを提供するために、共に学び、実践することによって互いから、互いについて学ぶこと」と定義している。各専門職は異なる教育背景と専門知識を持っており、それぞれの視点から患者の状態を評価し、最適なケアを提供するために連携する。

多職種連携には大きく分けて「チーム医療」と「地域連携」の二つの側面がある。チーム医療は主に病院内での多職種協働を指し、医師を中心に各専門職が専門性を発揮しながら患者ケアを行う形態である。一方、地域連携は病院と診療所、訪問看護ステーション、介護施設など、地域の様々な機関・職種が連携して切れ目のないケアを提供する体制を指す。特に在宅医療の推進に伴い、この地域連携の重要性は増している。

多職種連携の最終的な目標は、患者のQOL(生活の質)の向上であり、そのためには職種間の相互理解と信頼関係の構築が不可欠である。専門職間には、使用する専門用語の違いや視点の違い、職種間の壁など様々な障壁が存在することもあり、効果的な連携のためには相互理解と円滑なコミュニケーションが求められる。

私は基礎看護学実習で、脳梗塞後のリハビリテーションを行っている患者さんを受け持った際、多職種連携の重要性を実感した。看護師が患者の日常生活の様子、特に食事摂取時のむせ込みの状況や疲労度、意欲の変化などを理学療法士や言語聴覚士に詳細に伝え、それをもとにリハビリ計画が調整される場面を見学した。また、週に一度開かれる多職種カンファレンスでは、医師からは病状の説明、薬剤師からは服薬状況、栄養士からは栄養状態の評価、ソーシャルワーカーからは退院後の生活環境についての情報が共有され、それぞれの専門的視点から患者の全体像が浮かび上がってくるのを目の当たりにした。このように、多職種が情報を共有し協働することで、より包括的な患者理解と最適なケア提供が可能になることを学んだ。

生涯教育の重要性

医療の現場では、技術の進歩や治療法の開発、薬剤の変化、社会のニーズの多様化に対応するために、継続的な学習が求められる。生涯教育とは、専門職として卒後も継続して専門知識と技術を更新し、常に最新かつ最良の医療を提供できるよう努めることである。日本看護協会は、2016年に「看護師のクリニカルラダー(日本看護協会版)」を公表し、看護師の能力開発の指標を示すとともに、生涯を通じた継続教育の重要性を強調している。

看護においては、基礎教育で得た知識や技術だけでは変化する医療環境に対応することができず、新しい知見を取り入れながら実践力を高めていく必要がある。例えば、COVID-19パンデミックにおいては、感染対策や重症患者ケアの方法が日々更新され、最新のエビデンスに基づくケアを提供するために継続的な学習が不可欠であった。また、遠隔医療や医療デジタル化の進展に伴い、ICTスキルの習得も看護師に求められるようになっている。

特に他職種との連携においては、自身の専門性を高めるだけでなく、他職種の役割や専門性についても理解を深めることが求められる。各専門職の教育背景や思考プロセス、専門用語を理解することで、より効果的なコミュニケーションが可能となり、チーム全体のパフォーマンスが向上する。そのため、職種を越えた合同研修や事例検討会、シミュレーション教育などの機会を積極的に設けることが重要である。

近年では、IPE(Interprofessional Education:多職種連携教育)という概念が注目されている。IPEとは「複数の領域の専門職者が連携およびケアの質を改善するために、同じ場所でともに学び、お互いから学び合いながら、お互いのことを学ぶこと」と定義されており、学生時代から多職種で学ぶ機会を提供することで、将来的な連携を円滑にすることを目指している。日本においても多くの大学で学部横断的なIPE教育が導入されている。

私自身、授業でのグループワークで医学部や薬学部、福祉系学部の学生と共に事例検討を行う機会があった。その中で、医学生は疾患の病態や治療方針、薬学生は薬物療法の選択と副作用、福祉系学生は退院後の生活支援と社会資源の活用という視点から意見を出し合い、看護学生である私は日常生活援助や患者教育の視点で発言した。このように多様な視点から一人の患者を捉えることで、より包括的な支援計画を立案することができ、多職種で学ぶ意義と生涯にわたる専門職間連携の重要性を実感した。

多職種連携における看護の役割

看護師は24時間体制で患者のそばにいる専門職であり、患者の全体像を包括的に把握しやすい立場にある。また、医療と生活の両側面から患者を支援できる独自の専門性を持っている。この特性を活かし、多職種連携において以下のような役割を担っている。

まず第一に、情報共有の促進と調整である。看護師は患者の日常生活の様子、体調の変化、治療に対する反応、心理状態などを継続的に観察しており、これらの情報を他職種に的確に伝えることで、より適切なケア計画の立案につなげることができる。例えば、患者の食事摂取状況(量だけでなく、好みや摂取時の姿勢、嚥下状態など)を詳細に観察し管理栄養士に伝えることで、個別性の高い栄養指導の内容を調整することができる。また、患者の疼痛状態を評価し医師に報告することで、適切な疼痛管理が可能となる。

具体的な例として、私が老年看護学実習で経験した事例がある。脊椎圧迫骨折で入院していた高齢患者が、リハビリテーション後に腰痛が増強していることを看護師が観察し、理学療法士と情報共有したところ、リハビリメニューが調整され、患者の疼痛が軽減した。このように看護師は他職種と患者の状態を共有することで、より適切なケアの実現に貢献している。

次に、調整役としての役割である。看護師は患者と他職種の間に立ち、患者のニーズや意向を他職種に伝えるとともに、各職種からの提案を患者に分かりやすく説明する橋渡しの役割を担っている。医療者と患者間には情報の非対称性や専門知識の差があり、患者は専門用語や治療計画を十分に理解できないことがある。看護師はそうした専門的内容をかみ砕いて説明し、患者の理解を促進する「翻訳者」としての役割も果たしている。

例えば、退院支援においては、患者・家族の希望や不安を医師やケアマネージャーに伝え、実現可能な退院計画を協働で作成することが重要である。また、退院後の生活をイメージし、必要な社会資源の調整や環境整備についても、医療ソーシャルワーカーと連携して支援を行う。さらに在宅療養に向けた患者教育では、薬剤師や栄養士などと協力して、服薬管理や食事療法などの指導を行うことも多い。

また、患者の代弁者(アドボケイター)としての役割も重要である。患者自身が自分の思いや希望を表現できない場合、看護師は日々の関わりの中で患者の真のニーズを汲み取り、それを多職種カンファレンスなどで代弁することができる。特に認知症高齢者や重症患者、終末期患者など意思表示が困難な患者の場合、看護師による代弁が患者の尊厳を守るために不可欠である。

成人看護学実習では、末期がんで意識レベルが低下していた患者について、看護師が「患者さんがこれまでの面会時に語っていた『家に帰りたい』という希望」を緩和ケアカンファレンスで伝え、医療チームで在宅看取りの可能性について検討した事例を経験した。この事例からも、患者の意思を尊重したケアを実現するために、看護師の代弁者としての役割が重要であることを学んだ。

さらに、チームの調和を促進する役割も看護師は担っている。多職種チームでは、時に職種間の意見の相違やコミュニケーション不全が生じることがある。看護師は各職種と関わる機会が多いため、職種間の考え方の違いを理解し、互いの専門性を尊重しながら議論を建設的な方向に導く「チームビルディング」の役割も果たしている。例えば、医師とリハビリスタッフの間で治療方針に関する意見の相違がある場合、看護師が患者の状態に関する客観的情報を提供し、双方の意見を尊重しながら患者にとって最善の方向性を見出す調整を行うことがある。

生涯教育に向けた多職種連携の実践例

多職種連携を効果的に行うためには、継続的な学習と実践が必要である。以下に、生涯教育の視点からみた多職種連携の実践例を挙げる。

第一に、事例検討会(ケースカンファレンス)が挙げられる。これは実際の症例をもとに多職種が集まって意見交換を行う場であり、一人の患者に対するケアを多角的に検討することができる。事例検討会では、それぞれの専門的視点から患者の状態を評価し、最適なケア方法を検討することで、互いの専門性への理解が深まるとともに、多面的な患者理解が促進される。特に、成功事例だけでなく、うまくいかなかった事例を振り返ることで、連携上の課題や改善点を見出すことができる。

私は統合実習で急性期病院の脳卒中センターで実習した際、週に一度開催される多職種事例検討会に参加する機会を得た。そこでは、脳梗塞で入院した70代男性患者について、医師からは画像所見と回復の見通し、言語聴覚士からは構音障害と嚥下機能の評価、理学療法士からは歩行能力と筋力の状態、作業療法士からは日常生活動作の評価、医療ソーシャルワーカーからは家族状況と退院後の生活環境についての情報が共有された。看護師からは日常生活の自立度や精神状態、家族の受け入れ状況などが報告された。この事例検討会を通じて、一人の患者に対する多角的な視点と評価の重要性を学ぶことができた。また授業での模擬事例検討会では、医師役の学生からは病態の説明と治療計画、理学療法士役の学生からは機能回復のアプローチと予後予測、看護師役の私は日常生活の自立度と患者の思い、家族の支援体制などの生活面の課題について意見を出し合い、総合的な支援計画を立案することができた。

第二に、多職種合同研修やワークショップが重要な実践例である。これらは共通のテーマについて一緒に学ぶ機会となり、知識の共有だけでなく職種間の相互理解を促進する。例えば、認知症ケアや褥瘡予防、摂食嚥下障害、感染対策、医療安全、緩和ケアなどの研修を多職種で受けることで、共通認識と共通言語を持つことができる。特に実技を伴う研修では、職種の枠を超えた協働作業を通じて、お互いの技術や考え方を学ぶことができる。また、シミュレーション教育を取り入れた多職種合同研修では、急変時の対応や災害時のトリアージなど、緊急時の連携を実践的に学ぶことが可能である。

私は学内で行われた「多職種協働による退院支援」をテーマとしたワークショップに参加した経験がある。このワークショップでは、医学部、看護学部、薬学部、リハビリテーション学部、社会福祉学部の学生がチームを組み、複雑な事例について退院後の生活を見据えた支援計画を立案するという課題に取り組んだ。各学部の学生がそれぞれの専門知識を持ち寄り、時には意見の相違もありながら議論を重ね、最終的には患者中心の包括的な支援計画を作成することができた。このような体験型学習を通じて、座学では学びきれない多職種協働の実際と、合意形成のプロセスを体験することができた。

第三に、多職種参加型のカンファレンスも効果的な実践例である。定期的にカンファレンスを開催し、患者の状態や目標、ケア内容について話し合うことで、一貫性のあるケア提供が可能となる。病棟カンファレンス、リハビリテーションカンファレンス、栄養サポートチーム(NST)カンファレンス、緩和ケアカンファレンスなど、目的に応じた様々なカンファレンスが実施されている。特に注目したいのは退院支援カンファレンスであり、ここでは病院内の多職種だけでなく、地域の訪問看護師、ケアマネージャー、地域包括支援センター職員、訪問リハビリテーションスタッフなども交えて情報共有することで、切れ目のない支援(シームレスケア)が実現する。

小児看護学実習では、医療的ケア児の退院前カンファレンスに同席させていただいた。このカンファレンスには、病院側からは主治医、病棟看護師、小児専門看護師、医療ソーシャルワーカー、地域側からは訪問看護師、訪問リハビリテーションスタッフ、相談支援専門員が参加し、加えて患者の家族も同席していた。病院での医療的ケアの方法や注意点が詳細に伝達され、家族の不安や質問に多職種が答える姿を見て、地域移行における多職種連携の重要性を実感した。

第四に、多職種で構成される専門チームの活動も重要な実践例である。医療現場では、特定の目的や問題に対応するために、専門的なチームが組織されている。例えば、NST(栄養サポートチーム)、ICT(感染制御チーム)、PCT(緩和ケアチーム)、RRT(迅速対応チーム)、褥瘡対策チームなどがある。これらのチームは多職種で構成され、専門的な知識と技術を持ち寄ることで、複雑な臨床問題に対応している。こうしたチーム活動に参加することで、日常業務では得られない専門的知識や多職種協働の実際を学ぶことができる。

第五に、地域連携パスの活用も多職種連携の実践例として挙げられる。地域連携パスとは、疾患や治療法ごとに、急性期から回復期、維持期(生活期)までの診療計画を標準化し、複数の医療機関や介護施設で共有するツールである。例えば、脳卒中連携パスや大腿骨頸部骨折連携パス、がん連携パスなどがあり、これらを活用することで、施設間の情報共有や役割分担が明確になり、効率的で一貫性のある医療・ケアの提供が可能となる。地域連携パスの運用には多職種の協力が不可欠であり、定期的な見直しや改善のための会議を通じて、地域全体での連携体制の強化につながる。

多職種連携における課題と展望

多職種連携を進める上での課題は多岐にわたる。まず第一に、職種間の認識の違いや専門用語の違いによるコミュニケーション障害が挙げられる。各専門職は独自の教育背景と専門用語を持っており、時に同じ言葉でも異なる解釈をすることがある。例えば、「リハビリテーション」という言葉一つとっても、医師にとっては機能回復訓練、理学療法士にとっては運動機能の評価と訓練、作業療法士にとっては日常生活活動の自立支援、看護師にとっては生活の質の向上を含めた包括的支援と、捉え方に微妙な違いが生じることがある。このような認識のズレが、時にチーム内での誤解や摩擦の原因となる。

第二に、専門職としてのプライドや縄張り意識による協働の難しさがある。長年にわたり独自の専門性を発展させてきた各職種は、自らの専門領域に対する強いプライドを持っている。このこと自体は専門職として重要な要素であるが、時に「これは自分たちの領域だ」という縄張り意識や、他職種の介入に対する抵抗感につながることがある。特に業務範囲が重複する領域(例えば、服薬指導における看護師と薬剤師の役割など)では、責任の所在や主導権をめぐって軋轢が生じることもある。

第三に、多忙な医療現場における時間的・物理的制約も大きな課題である。多職種カンファレンスや合同研修などは、連携を深める重要な機会であるが、シフト勤務や業務の多忙さから、全職種が一堂に会する時間を確保することが難しい場合が多い。また、電子カルテシステムが導入されていても、職種ごとに記録様式や閲覧権限が異なるため、情報共有が十分にできないという課題も存在する。

第四に、多職種連携に対する評価指標や教育プログラムが十分に確立されていないことも課題である。連携の質を測定し改善につなげるための客観的指標が少なく、また多職種連携のためのコミュニケーションスキルや調整能力を体系的に学ぶ機会も限られている。

これらの課題を克服するためには、以下のような取り組みが重要である。まず、お互いの専門性と役割を尊重する姿勢を育むことが基本となる。各職種がどのような教育を受け、どのような視点で患者を捉えているのかを理解することで、相互尊重の文化が醸成される。次に、オープンなコミュニケーションを促進するための仕組みづくりが必要である。定期的なカンファレンスや情報共有の場を設けるとともに、職種間の垣根を越えた非公式な交流の機会も大切である。そして最も重要なのは、「患者のQOL向上」という共通の目標を持ち、常に患者中心の視点に立ち返ることである。職種間の対立が生じた際も、「患者にとって何が最善か」という原点に立ち返ることで、建設的な解決策を見出すことができる。

今後の展望としては、以下のような方向性が考えられる。第一に、医療教育の段階から多職種連携教育(IPE: Interprofessional Education)を積極的に取り入れることが期待される。学生の時から他職種と一緒に学ぶ機会を持つことで、早い段階から職種間の理解を深め、協働する姿勢を身につけることができる。近年、多くの医療系大学でIPEのカリキュラムが導入されており、合同講義や演習、実習などを通じて、職種間の相互理解と連携能力の育成が図られている。私は看護学生として、他の医療系学部の学生と合同で行った高齢者施設での実習が印象に残っている。それぞれの視点の違いを知ることで、自分の専門性を再認識するとともに、チームとして患者を支援する意識が育まれたと感じている。

第二に、ICT(情報通信技術)の発展により、多職種間の情報共有と連携がより簡便になることも期待される。電子カルテの共有や多職種間で利用可能な情報プラットフォームの構築、遠隔会議システムの活用により、時間や場所の制約を超えた連携が可能となるだろう。特にCOVID-19パンデミック以降、オンラインでのカンファレンスや情報共有が急速に普及しており、こうしたデジタル技術の活用は今後さらに進展すると考えられる。例えば、地域包括ケアシステムを支える情報ネットワークとして、医療機関と介護施設、訪問看護ステーションなどをつなぐ地域医療情報連携システム(EHR: Electronic Health Record)の整備が進められている地域もある。

第三に、多職種連携を促進するための新たな職種や役割の確立も期待される。例えば、「多職種連携コーディネーター」や「ケアマネジメント専門家」など、職種間の調整や連携を専門とする役割の重要性が高まっている。看護師の中にも、多職種連携を促進する「連携実践能力」を持った専門看護師や認定看護師が増えており、チーム医療のキーパーソンとしての役割が期待されている

第四に、多職種連携の質を評価し改善するための研究や取り組みの発展も重要である。多職種連携がもたらす患者アウトカムへの影響を科学的に検証し、効果的な連携モデルを構築していくことが求められる。また、連携の質を測定するための評価指標の開発や、多職種連携に関するガイドラインの整備なども進められるべきである。

これらの展望を実現するためには、政策的支援や制度的枠組みの整備も不可欠である。診療報酬や介護報酬における多職種連携への評価、専門職教育における連携教育の位置づけの強化、多職種が協働しやすい組織体制の整備など、様々な側面からの支援が必要となる。看護師として私たちは、こうした制度的変化を理解し、活用しながら、患者中心の多職種連携を実践していくことが求められている。

自己の課題と展望

私は看護学生として、多職種連携における看護の役割の重要性を学ぶ中で、自身にとっていくつかの課題と展望を見出した。

まず第一に、自身の専門性を高めることが最も重要な課題である。看護師として患者のケアに責任を持つためには、確かな知識と技術が必要である。解剖生理学や病態生理学、薬理学などの基礎医学的知識、看護技術、コミュニケーション技術など、基礎教育で学んだことを土台に、卒後も継続的に学習を続け、エビデンスに基づいた看護を提供できる実践者になりたい。特に現代は医療技術や知識の更新が速く、常に最新の情報を取り入れる必要がある。私は実習を通して、ベテラン看護師が文献を調べたり、研修に参加したりして知識をアップデートする姿勢に感銘を受けた。このような生涯学習の姿勢を自分も持ち続けたいと考えている。

第二に、コミュニケーション能力の向上が課題である。多職種との連携においては、自分の考えを明確に伝えるとともに、相手の意見に耳を傾ける姿勢が重要である。実習中に感じたのは、優れた看護師は単に自分の意見を述べるだけでなく、的確な質問によって他職種の専門的見解を引き出し、チーム全体の議論を活性化させる力を持っているということである。特に、専門用語を使わずに患者や家族、他職種に分かりやすく説明する能力や、異なる意見が出たときに建設的な方向へ調整する能力を身につけたいと考えている。成人看護学実習では、難解な医学用語を患者に分かりやすく説明し、不安を軽減する看護師の姿を見て、このような「翻訳者」としての役割の重要性を実感した。

第三に、他職種の役割と専門性への理解を深めることも重要な課題である。実習を通して、私は各職種の業務内容の表面的な理解はできたものの、それぞれの職種がどのような教育課程を経て、どのような理論や価値観に基づいて実践しているのか、どのような視点で患者を見ているのかについての深い理解は不足していると感じた。例えば、理学療法士と作業療法士の専門性の違い、薬剤師の臨床での役割の広がり、医療ソーシャルワーカーの支援プロセスなど、より深く理解することで、適切なタイミングで適切な職種と連携できるようになると考える。そのためには、多職種参加型の研修や勉強会に積極的に参加し、他職種の文献や雑誌も読むように心がけたい。

第四に、チーム内でのリーダーシップを発揮する力を養うことも必要だと感じている。看護学生として実習でカンファレンスに参加する機会があったが、時にチームの議論が停滞したり、特定の職種の意見が優先されたりする場面を目にした。そうした状況で、全体の議論の流れを整理し、各職種の意見を引き出し、患者にとって最善の方向へ導くリーダーシップが重要であると感じた。将来的には、多職種連携のコーディネーターとして活躍できる看護師になりたい。患者の生活全体を見据え、必要な時に必要な職種と連携し、切れ目のないケアを提供できるよう努力していきたい。そのためには、リーダーシップやファシリテーション、コンフリクト・マネジメントなどのスキルも身につける必要がある。

第五に、実践の中で多職種連携の効果を評価し改善していく姿勢も重要だと考えている。単に多職種で情報共有するだけでなく、その連携が実際に患者のアウトカム改善につながっているかを評価し、より効果的な連携方法を模索する視点を持ちたい。そのためには、多職種連携に関する研究論文を読み、エビデンスに基づく連携方法を学ぶとともに、チームで定期的に連携の質を振り返る機会を持つことが重要である。将来的には、職場内でケーススタディや事例検討会を企画し、多職種連携の改善に貢献したいと考えている。

最後に、看護の専門性を発揮しながら多職種の力を引き出す「触媒」のような役割を担える看護師になりたいと考えている。看護師は患者の生活全体を24時間支援する立場にあり、医療と生活の架け橋となる独自の視点を持っている。この強みを活かしながら、各職種の専門性が最大限に発揮されるような環境づくりに貢献したい。そのためには、自己研鑽を積むとともに、チーム全体の成長を促進する姿勢を持ち続けることが重要である。

おわりに

生涯教育に向けた多職種連携と協同における看護の役割は、単に情報を共有するだけでなく、患者中心のケアを実現するための調整役、橋渡し役として機能することである。医療の高度化・複雑化が進む中、一人の専門職の知識や技術だけでは対応できない課題が増えており、多職種がそれぞれの専門性を活かしながら協働することが必要不可欠となっている。看護師は患者に最も近い存在として、また医療と生活の両面から患者を捉える専門職として、患者のニーズや価値観を理解し、それを他職種と共有することで、より質の高いケアの提供に貢献することができる。

近年の医療を取り巻く環境の変化は、多職種連携の重要性をさらに高めている。高齢多死社会の到来により、慢性疾患や複数の疾患を抱える患者が増加し、医療だけでなく介護や福祉を含めた包括的な支援が求められている。また、地域包括ケアシステムの推進により、病院完結型から地域完結型へと医療提供体制が変化する中、病院内の連携だけでなく、地域の様々な職種・機関との連携が不可欠となっている。さらに、患者の権利意識の高まりや情報へのアクセスの拡大により、患者自身も医療の意思決定に積極的に関わるようになり、患者と多職種をつなぐ看護師の役割はますます重要になっている。

こうした状況において、看護師には「連携実践能力」が求められる。これは単に他職種と協力するという受動的な姿勢ではなく、チーム全体の目標達成に向けて主体的に行動し、必要に応じてリーダーシップを発揮する能力である。また、多職種連携を効果的に行うためには、自職種の専門性を明確に理解し、それを他職種に伝える力も重要である。看護の専門性を曖昧にしたまま連携を進めても、看護の独自の貢献を発揮することはできない。

私は看護学生として、多職種連携の重要性を認識し、自身の専門性を高めるとともに、他職種との効果的なコミュニケーション能力を磨いていきたい。そして、卒業後も継続的に学び続け、変化する医療環境に対応できる看護師を目指していきたい。患者一人ひとりの生活の質を高めるために、多職種と協働しながら、看護の専門性を発揮できる実践者になることが私の目標である。

また、将来的には組織の中で多職種連携を促進する役割も担いたいと考えている。カンファレンスの運営方法の改善や、職種間の相互理解を深めるための学習会の企画など、チーム全体の連携力を高める取り組みに貢献したい。そのためには、自身の臨床経験を積みながら、チーム医療や組織論についても学びを深め、実践と理論の両面から多職種連携のあり方を探求していきたい。

最後に、多職種連携は手段であって目的ではないことを忘れてはならない。連携の最終的な目標は、患者・家族のQOLの向上であり、その人らしい生活の実現である。どれだけ職種間の連携がスムーズであっても、それが患者のニーズに沿ったものでなければ意味がない。常に患者中心の視点を持ち、「この連携が患者にとってどのような意味を持つのか」を問い続ける姿勢が重要である。私は看護師として、患者の代弁者としての役割を自覚し、患者の視点から多職種連携のあり方を考え続けていきたい。

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