1. はじめに
内服薬の管理・与薬は、看護師が日常的に行う基本的でありながら非常に重要な技術の一つです。薬物療法の効果を最大限に引き出し、患者さんの安全を確保するためには、正確な知識と丁寧な技術が求められます。
実習においても、内服薬の準備から与薬、観察まで一連の過程を通じて、看護師としての責任の重さと専門性を実感する場面でもあります。単に薬を渡すのではなく、患者さんの状態を総合的にアセスメントし、個別性に応じた看護介入を提供することが重要です。
薬物療法は治療の根幹を成すものであり、看護師の適切な管理と与薬により、患者さんの回復を支えることができます。一方で、薬剤に関する事故は重大な医療事故につながる可能性があるため、常に緊張感を持って取り組むべき技術でもあります。
この記事では、内服薬の管理・与薬に関する基礎知識から実践的なポイントまでを網羅的に解説し、実習や臨床現場で自信を持って実践できるよう支援します。
この記事で学べること
- 内服薬管理・与薬の基本原則と6R(6つの確認事項)
- 薬剤の種類別特徴と取り扱い方法
- 安全で効果的な与薬技術と観察ポイント
- 患者さんの個別性に応じた看護介入
- インシデント予防と緊急時対応
2. 内服薬の管理・与薬の基本情報
定義
内服薬の管理・与薬とは、医師の指示に基づいて患者さんに経口投与する薬剤を適切に保管・準備し、安全かつ確実に服用してもらう一連の看護技術
技術の意義と目的
内服薬の管理・与薬は、薬物療法の効果を最大化し、副作用や合併症を最小限に抑えることを目的としています。患者さんにとっては、病気の治療や症状の改善、健康状態の維持につながる重要な治療手段です。看護師にとっては、医療チームの一員として薬物療法を支える専門的役割を果たすとともに、患者さんの安全を守る責任を担う技術です。
また、薬剤に関する正しい知識を提供し、患者さんの服薬に対する理解を深めることで、治療への参加意欲を高め、セルフケア能力の向上にも寄与します。入院中だけでなく、退院後の在宅での服薬継続にもつながる重要な看護介入でもあります。
実施頻度・タイミング
一般的に1日1回から4回程度、医師の指示により決定されます。食前(食事の30分前)、食後(食事の30分後)、食間(食事の2時間後)、就寝前、頓用など、薬剤の性質や治療効果を考慮したタイミングでの実施が必要です。
3. 必要物品と準備
基本的な内服薬管理・与薬用品
- 薬剤カート(薬品庫)
- 薬杯(ディスポーザブル)
- 水またはぬるま湯(コップ)
- 薬剤鑑査表・与薬指示書
- 薬剤情報提供書
- 乳鉢・乳棒(錠剤粉砕時)
- はさみ(シート薬のカット用)
安全管理・感染対策用品
- 手指消毒剤
- 使い捨て手袋
- マスク
- 薬剤廃棄容器
- スピルキット(薬剤飛散時対応)
- 誤薬防止用チェックシート
特殊状況対応用品
- とろみ剤(嚥下困難時)
- ゼリー状オブラート
- シリンジ(液剤投与時)
- 粉砕禁止薬一覧表
- アレルギー対応マニュアル
- 救急カート(重篤な副作用対応時)
物品準備のポイント
患者さんの年齢、疾患、嚥下機能、認知機能、アレルギー歴を考慮した物品選択が重要です。特に高齢者や小児では、薬剤の形状変更や補助具の使用を検討し、個別性に応じた準備を行います。また、感染予防の観点から、使い捨て物品の適切な使用と、物品の清潔保持に注意を払います。
4. 内服薬の管理・与薬の実施手順
事前準備とアセスメント
環境整備として、薬剤保管庫の施錠確認、清潔な作業環境の確保、適切な照明の下での作業を行います。患者さんへの説明では、服用する薬剤名、効果、副作用、服用方法について分かりやすく伝え、同意を得ます。
状態評価では、意識レベル、嚥下機能、消化器症状の有無、バイタルサイン、アレルギー歴を確認し、与薬の可否を判断します。「お薬を飲むのが怖い」「前回気分が悪くなった」など、患者さんの不安や懸念についても丁寧に聞き取りを行います。
基本手順
- 医師指示の確認と6Rチェック:Right Patient(正しい患者)、Right Drug(正しい薬剤)、Right Dose(正しい用量)、Right Route(正しい投与経路)、Right Time(正しい時間)、Right Documentation(正しい記録)を確実に実施
- 薬剤の準備:薬剤カートから指示薬を取り出し、薬剤名・用量・期限を再確認。錠剤は素手で触らず、薬杯に直接移す
- 患者確認:患者氏名、生年月日を患者本人に名乗ってもらい、IDバンドと照合して本人確認を実施
- 与薬実施:適量の水(100-150ml)とともに服用してもらい、確実に嚥下したことを確認
- 服用後観察:15-30分間は患者さんの状態を観察し、副作用や異常反応の有無を確認
- 記録:与薬時刻、薬剤名、用量、患者の反応を正確に記録
実施中の観察ポイント
服用前には嚥下反射の確認、口腔内の状態、意識レベルをチェックします。服用中は嚥下の様子、むせの有無、薬剤の残存を観察し、服用後は呼吸状態、皮膚色調、意識状態の変化に注意を払います。
5. 特殊な状況での内服薬管理・与薬
嚥下困難のある患者さん
錠剤の粉砕やゼリー状オブラートの使用を検討しますが、徐放錠、腸溶錠、カプセル剤は原則粉砕禁止です。とろみ剤を使用する場合は、薬剤との相互作用がないことを確認し、適切な濃度で調整します。
認知機能低下のある患者さん
服薬の意味を理解できるよう、簡潔で分かりやすい説明を繰り返し行います。拒薬がある場合は、無理強いせず、時間をおいて再度アプローチします。家族の協力を得て、患者さんが安心できる環境を整えることも重要です。
小児の患者さん
体重あたりの薬用量を正確に計算し、小児用製剤や散剤を使用します。服薬しやすいよう、好みの飲み物に混ぜる場合は、薬剤師に確認を取ります。保護者への説明も十分に行い、協力を求めます。
緊急時・夜間の与薬
医師への連絡体制を整え、緊急時使用薬剤の準備状況を確認します。患者さんの状態変化に即座に対応できるよう、バイタルサイン測定器具や救急カートの準備も行います。
6. 内服薬管理・与薬中の観察とアセスメント
薬効の観察
服用後30分から2時間で薬効が現れることが多いため、症状の改善度合いを定期的に評価します。痛み止めでは疼痛スケール、血圧薬では血圧値の変化など、具体的な指標を用いて効果を判定します。
副作用・有害反応の観察
皮疹、蕁麻疹、呼吸困難などのアレルギー反応、悪心・嘔吐、下痢などの消化器症状、眠気、ふらつきなどの中枢神経系への影響を注意深く観察します。特に初回投与時や薬剤変更時は、より頻回な観察が必要です。
相互作用の観察
複数の薬剤を服用している場合は、薬剤同士の相互作用による予期しない症状の出現に注意します。また、グレープフルーツジュースなど、食品との相互作用についても観察が必要です。
7. 看護のポイント
主な看護診断
- 薬物治療効果変調リスク状態
- 服薬アドヒアランス低下リスク状態
- 薬物有害反応リスク状態
- 知識不足(薬物療法に関連した)
ゴードンの機能的健康パターン別観察項目
健康知覚・健康管理パターンでは、患者さんが自分の病気と治療について理解し、服薬の必要性を認識できているかを評価します。「薬を飲むと体調が良くなる」「副作用が心配だけれど、先生と相談して決めた薬だから安心」といった発言から、治療に対する前向きな姿勢を確認します。
栄養・代謝パターンでは、薬剤の吸収や代謝に影響する要因として、食事摂取状況、肝機能、腎機能の状態を観察します。特に食事制限がある患者さんでは、服薬タイミングの調整が必要な場合があります。
排泄パターンでは、薬剤の排泄に関わる腎機能や、便秘・下痢などの消化器症状が薬剤吸収に与える影響を評価します。利尿剤服用中の患者さんでは、排尿パターンの変化も重要な観察項目となります。
ヘンダーソンの基本的欲求からみた看護
正常に呼吸する欲求に関しては、気管支拡張剤や鎮咳剤などの呼吸器系薬剤を服用している患者さんでは、呼吸状態の改善を支援し、酸素化の向上を図ります。適切な服薬により、患者さんが楽に呼吸できるよう援助します。
適切に飲食する欲求については、食欲不振や悪心を引き起こす可能性のある薬剤については、服薬前後の食事摂取状況を観察し、必要に応じて食事時間の調整や制吐剤の検討を行います。
身体の清潔と衣服の整頓および身だしなみを整え体温を正常範囲に維持する欲求では、解熱剤や抗生剤の効果により体温調節機能が改善することを支援し、快適な療養環境を提供します。
学習する欲求に対しては、患者さんが薬物療法について正しい知識を獲得し、退院後も継続して適切な服薬管理ができるよう教育的支援を行います。
具体的な看護介入
第一に、6Rの確実な実践により医療安全を確保します。患者誤認や薬剤取り違え、用量間違いを防ぐため、複数人でのダブルチェック体制を確立し、システム的な安全対策を講じます。
第二に、患者さんの個別性に応じた服薬支援を実施します。嚥下機能、認知機能、身体機能に合わせて、服薬方法の工夫や補助具の使用を検討し、患者さんが無理なく服薬を継続できるよう支援します。
第三に、薬物療法に関する患者教育を充実させます。病気の理解から始まり、薬剤の作用機序、期待される効果、起こりうる副作用について分かりやすく説明し、患者さんの治療参加意欲を高めます。
第四に、多職種との連携を強化し、薬剤師との情報共有、医師への副作用報告、栄養士との食事調整など、チーム医療の一員として患者さんの薬物療法を支えます。
8. よくある質問・Q&A
Q:患者さんが薬を飲みたがらない時はどうすればよいですか?
A: まず患者さんの気持ちに寄り添い、拒薬の理由を丁寧に聞き取ります。「薬が大きくて飲みにくい」「副作用が心配」「効果が感じられない」など、具体的な理由に応じた対応を検討します。必要に応じて医師や薬剤師と相談し、薬剤の変更や服薬方法の工夫を提案します。決して無理強いはせず、患者さんの自己決定を尊重することが重要です。
Q:薬を床に落としてしまった場合の対応は?
A: 床に落ちた薬剤は汚染されているため、患者さんには服用させず、新しい薬剤と交換します。落とした薬剤は適切に廃棄し、インシデントレポートを作成します。予備の薬剤がない場合は、薬剤師や医師に相談し、指示を仰ぎます。このような事態を防ぐため、薬杯の持ち方や移動時の注意点を再確認することも大切です。
Q:粉砕してはいけない薬があると聞きましたが、どう見分けますか?
A: 徐放錠、腸溶錠、カプセル剤は原則として粉砕禁止です。薬剤名に「CR」「LA」「XR」「SR」などの表記がある場合は徐放性製剤の可能性が高く、粉砕により薬効が急激に現れる危険があります。判断に迷う場合は必ず薬剤師に確認し、粉砕可能な代替薬の検討を依頼します。院内の粉砕禁止薬一覧表も活用しましょう。
Q:服薬後すぐに嘔吐した場合の対応は?
A: 服薬後30分以内の嘔吐では、薬剤が十分吸収されていない可能性があります。まず患者さんの状態を観察し、バイタルサインの変化や脱水症状の有無を確認します。医師に報告し、再投与の指示を仰ぎます。嘔吐物に薬剤が混在していないかも観察し、記録に残します。制吐剤の使用や投与方法の変更についても医師と検討します。
9. まとめ
内服薬の管理・与薬は、患者さんの治療効果を左右する重要な看護技術です。6Rの確実な実践により医療安全を確保し、患者さんの個別性に応じた看護介入により、安全で効果的な薬物療法を支援することができます。
覚えるべき重要数値・基準
- 服薬時の水分量:100-150ml
- 服薬後観察時間:15-30分間(初回投与時はより頻回)
- 食前服薬:食事の30分前
- 食後服薬:食事の30分後
- 食間服薬:食事の2時間後
- 嘔吐による再投与判断:服薬後30分以内の嘔吐
- 6R:Right Patient, Drug, Dose, Route, Time, Documentation
実習・現場で活用できるポイント
実習では、まず指導者と一緒に6Rチェックを確実に行い、安全な与薬技術を身につけることから始めましょう。患者さんとのコミュニケーションを大切にし、薬に対する不安や疑問に寄り添う姿勢を心がけてください。また、薬剤の作用機序や副作用について事前学習を行い、患者さんからの質問にも適切に対応できるよう準備することが重要です。
多職種連携の重要性を理解し、薬剤師や医師との情報共有を積極的に行い、チーム医療の一員としての自覚を持って実践に臨んでください。インシデントを恐れるのではなく、予防的な視点を持ち、ヒヤリハットの報告も含めて安全文化の醸成に貢献することが、将来の看護師としての成長につながります。い。。害事象であることを常に意識し、質の高い看護の提供に努めてください。さい。
免責事項
本記事は教育・学習目的の情報提供です。
・一般的な医学知識の解説であり、個別の患者への診断・治療の根拠ではありません
・実際の看護実践は、患者の個別性を考慮し、指導者の指導のもと行ってください
・記事の情報は公開時点のものであり、最新の医学的知見と異なる場合があります
・本記事を課題としてそのまま提出しないでください
正確な情報提供に努めていますが、内容の完全性・正確性を保証するものではありません。


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