【静脈血採血】看護技術解説と実践のポイント

看護技術

1. はじめに

静脈血採血は、看護実習で最も緊張する技術の一つかもしれません。「針を刺すのが怖い」「血管が見つからなかったらどうしよう」そんな不安を抱えている看護学生も多いでしょう。しかし、静脈血採血は診断や治療方針の決定に欠かせない重要な検査であり、患者さんの健康状態を把握する貴重な情報源となります。

現代医療において、血液検査は診断の約70%を占めるほど重要な役割を果たしており、看護師が行う静脈血採血の技術と知識は、患者さんの安全と快適性を左右します。正確な技術を身につけることで、患者さんの苦痛を最小限に抑え、確実な検体採取を行うことができるようになります。

実習では指導者の監督のもとで実施することが多いですが、将来的には看護師として独立して行う重要な技術です。解剖学的知識、無菌操作、患者とのコミュニケーション、そして医療安全への配慮など、多くの要素が組み合わさった複合的な看護技術といえるでしょう。

この記事で学べること

  • 静脈血採血の基本的な手技と安全な実施方法
  • 血管選択のポイントと解剖学的知識の活用
  • 患者の個別性に応じた採血技術の調整方法
  • 採血に伴うリスクと合併症への対応
  • ゴードンとヘンダーソンの理論に基づいた看護介入

2. 静脈血採血の基本情報

定義

静脈血採血とは、診断や治療のために静脈から血液を採取する医療技術

静脈血採血は、患者の静脈に注射針を穿刺して血液を採取し、各種検査に必要な血液検体を得る技術です。この技術により得られた血液は、生化学検査、血液学的検査、免疫学的検査など様々な検査に用いられ、患者の病態把握や治療効果の判定、健康状態の評価に不可欠な情報を提供します。

技術の意義と目的

静脈血採血は単なる血液採取技術ではなく、患者の全身状態を把握するための重要な情報収集手段です。患者にとっては、自身の健康状態を客観的に知ることができる機会であり、適切な診断と治療を受けるための第一歩となります。また、定期的な採血により病気の進行や治療効果を監視することで、より良い医療を受けることが可能になります。

看護師にとっては、患者の状態を科学的に評価し、個別性のあるケアを提供するための根拠となる情報を得ることができます。採血技術を通じて患者と密接に関わることで、信頼関係の構築や患者の不安軽減にも貢献できる重要な看護実践の場でもあります。

実施頻度・タイミング

静脈血採血の頻度は患者の状態や疾患、治療内容によって大きく異なります。一般的な健康診断では年1回程度ですが、入院患者では毎日から数日に1回、重篤な状態の患者では数時間おきに実施される場合もあります。採血のタイミングは、検査項目や薬物の血中濃度測定の目的によって決定され、空腹時採血が必要な検査では早朝の食事前に、薬物濃度測定では服薬前後の指定された時間に実施されます。


3. 必要物品と準備

基本的な静脈血採血用品

静脈血採血に必要な物品は、安全性と正確性を確保するために厳選されています。主要な物品として、真空採血管システム(ホルダー、採血針、採血管)、駆血帯、アルコール綿、絆創膏、手袋、鋭利物廃棄容器があります。

採血針は一般的に21-23ゲージが使用され、患者の血管の太さや状態に応じて選択します。採血管は検査項目に応じて適切な抗凝固剤入りのものを選択し、採血順序も重要な要素となります。ホルダーは針と採血管を確実に接続し、安全な採血操作を可能にする重要な器具です。

安全対策・感染予防用品

医療従事者と患者双方の安全を確保するため、使い捨て手袋、マスク、エプロンなどの個人防護具が必要です。針刺し事故防止のための安全機能付き採血針の使用が推奨され、使用後は速やかに鋭利物廃棄容器に廃棄します。

手指衛生のためのアルコール系手指消毒剤、穿刺部位の消毒のための70%アルコール綿、出血時の圧迫のための清潔なガーゼや綿球も準備します。感染リスクの高い患者の場合は、追加の防護具や専用の廃棄容器も準備する場合があります。

特殊状況対応用品

血管確保が困難な患者や小児の場合は、血管確保用の駆血帯、温罨法用品、血管可視化装置などが有用です。採血困難な場合に備えて、翼状針や小児用の細い採血針、少量採血用の採血管も準備しておくと良いでしょう。

緊急時に備えて止血用品、血管迷走神経反射などの合併症対応のための救急用品も手の届く場所に配置しておきます。また、患者の不安軽減のためのコミュニケーション支援用品や、採血後の安静確保のための枕やクッションも状況に応じて準備します。

物品準備のポイント

患者の個別性を考慮した物品選択が重要です。高齢者や血管の細い患者では小さめの針を選択し、採血量の多い検査では太めの針を使用することで、患者の負担を軽減しつつ効率的な採血が可能になります。

採血管の準備では、検査項目と採血順序を事前に確認し、クロスコンタミネーション(交差汚染)を防ぐための適切な順序で並べておきます。物品の有効期限確認、包装の破損チェックも重要な安全確認事項です。


4. 静脈血採血の実施手順

事前準備とアセスメント

採血実施前には、患者の同意確認と本人確認を確実に行います。患者氏名、生年月日、患者番号を複数の方法で確認し、検査依頼書との照合を行います。採血前の絶食時間、服薬状況、アレルギー歴、過去の採血歴と反応についても確認が必要です。

患者の全身状態を観察し、意識レベル、循環状態、出血傾向の有無を評価します。採血部位の皮膚状態、血管の走行と太さ、弾性を触診により確認し、最適な穿刺部位を決定します。感染症の有無や免疫状態も確認し、適切な感染予防策を選択します。

環境整備では、採血に適した明るさの確保、患者のプライバシー保護、緊急時の対応体制を整えます。必要物品の準備と配置、手指衛生の実施、個人防護具の着用を完了してから採血を開始します。

基本手順

手指衛生を行い、使い捨て手袋を装着します。患者に採血の説明を行い、同意を得てから体位を整えます。一般的には座位または仰臥位で、採血する腕を心臓より低い位置に保持します。

駆血帯を上腕の心臓に近い部分に巻き、収縮期血圧より10-20mmHg低い圧力で締めます。駆血時間は2分以内に留め、長時間の駆血による血液濃縮を防ぎます。血管を触診で確認し、最も適切な穿刺部位を決定します。

穿刺部位を70%アルコールで中心から外側に向かって円を描くように消毒し、30秒以上自然乾燥させます。採血針をホルダーにセットし、針先の向きを確認します。皮膚を軽く進展させ、血管の走行に沿って15-30度の角度で穿刺します。

血液の逆流を確認したら、採血管を所定の順序で採血します。各採血管は穏やかに5-10回転倒混和し、抗凝固剤と血液を均等に混合します。採血終了後、駆血帯を緩め、針を抜いてから穿刺部位を圧迫止血します。

実施中の観察ポイント

採血中は患者の全身状態を継続的に観察し、顔色、意識レベル、発汗、悪心などの変化に注意します。血管迷走神経反射による失神や徐脈、血圧低下の徴候を早期に発見することが重要です。

穿刺部位では、針の位置、血液の流出状況、周囲組織の腫脹や血腫形成の有無を観察します。採血管への血液流入が不良な場合は、針の位置調整や駆血圧の調整を検討します。患者の疼痛や不快感の程度も継続的に確認し、必要に応じて声かけや体位調整を行います。


5. 特殊な状況での静脈血採血

小児・高齢者の採血

小児の採血では、発達段階に応じた説明と心理的支援が重要です。保護者の同席や遊戯療法の活用により、不安と恐怖を軽減します。血管が細く見つけにくいため、温罨法による血管拡張や、23-25ゲージの細い針の使用を検討します。採血量も最小限に留め、必要な検査項目を優先順位付けして実施します。

高齢者では血管の弾性低下と皮膚の脆弱性に配慮が必要です。血管が蛇行していることが多いため、穿刺角度を浅くし、針の進行方向を血管に沿って調整します。皮膚の固定をしっかり行い、針刺入時の血管の逃げを防ぎます。認知機能の低下がある場合は、簡潔で分かりやすい説明を繰り返し行います。

血管確保困難例への対応

肥満、浮腫、脱水、化学療法歴などにより血管確保が困難な患者では、様々な工夫が必要です。温罨法により血管拡張を図り、重力を利用して採血部位を心臓より低い位置に保持します。軽い運動や手指の開閉により血流を促進させることも有効です。

通常の肘窩で血管確保が困難な場合は、手背静脈、前腕の橈側皮静脈、尺側皮静脈などの代替部位を検討します。ただし、これらの部位は疼痛が強い場合があるため、患者への十分な説明と同意が必要です。超音波ガイド下採血や、経験豊富な医師への依頼も選択肢として考慮します。

透析患者・中心静脈カテーテル留置患者

透析患者では、シャント側の腕は絶対に使用せず、反対側の腕で採血を行います。シャント音の聴診により機能を確認し、シャント部位の観察も同時に実施します。血圧測定や点滴もシャント側では行わないよう注意が必要です。

中心静脈カテーテルが留置されている患者では、末梢からの採血が困難な場合、カテーテルからの採血を検討します。ただし、感染リスクの増加やカテーテル閉塞のリスクがあるため、医師の指示のもとで厳格な無菌操作で実施します。採血前には十分な量の血液を破棄し、薬剤の影響を除去することが重要です。

感染リスクの高い患者

肝炎、HIV、その他の血液感染症のリスクが高い患者では、標準予防策に加えて追加の感染予防策を実施します。防水性のガウン、フェイスシールド、二重手袋の着用を検討し、針刺し事故の防止により一層の注意を払います。

採血後の検体の取り扱いにも特別な注意が必要で、感染性検体であることを明確に表示し、運搬時の漏洩防止策を徹底します。採血実施者は事前に血液曝露時の対応プロトコルを確認し、万一の事故時に迅速に対応できる体制を整えておきます。


6. 静脈血採血中の観察とアセスメント

採血実施中は患者の全身反応を注意深く観察し、早期の異常発見と対応が重要です。最も注意すべきは血管迷走神経反射で、急激な血圧低下、徐脈、意識消失を引き起こす可能性があります。初期症状として、顔面蒼白、発汗、悪心、めまい、「気分が悪い」という訴えがあります。

穿刺部位の観察では、針の位置の適切性、血液の流出状況、血腫形成の有無を継続的に確認します。血腫は針が血管を貫通している証拠で、速やかに採血を中止し圧迫止血を行います。また、神経損傷の徴候として、しびれ、電気が走るような痛み、運動麻痺などがないかも確認が必要です。

採血管への血液流入が不良な場合は、針の位置、駆血帯の圧迫状況、患者の体位を再評価します。過度な吸引や針の動かしすぎは組織損傷や疼痛の原因となるため避けるべきです。患者の表情や言動からも苦痛の程度を読み取り、適切な配慮と対応を行います。


7. 看護のポイント

主な看護診断

  • 侵襲的処置に関連した急性疼痛
  • 採血手技に関連した感染リスク状態
  • 医療処置に関連した不安
  • 血管損傷に関連した組織統合性の変調リスク状態

ゴードンの機能的健康パターン別観察項目

健康知覚・健康管理パターンでは、患者の採血に対する理解度と協力度、過去の採血経験と反応、現在の健康状態に関する認識を評価します。患者が採血の必要性を理解し、積極的に医療に参加できるよう支援することが重要です。また、感染予防に対する意識や、採血後の自己管理能力についても確認が必要です。

認知・知覚パターンでは、疼痛の程度と性質、しびれや感覚異常の有無、意識レベルの変化を観察します。採血による疼痛は避けられませんが、その程度を最小限に抑え、患者の訴えに適切に対応することが求められます。また、血管迷走神経反射による意識レベルの変化を早期に発見し、適切な対応を行うことが重要です。

活動・運動パターンでは、採血部位の選択に影響する日常生活動作、利き手の確認、関節の可動域制限の有無を評価します。患者の生活パターンに最も支障の少ない部位を選択し、採血後の日常生活への影響を最小限に抑えることを心がけます。

ヘンダーソンの基本的欲求からみた看護

正常に呼吸する欲求に関しては、採血中の患者の呼吸状態を観察し、緊張や不安による呼吸の変化に注意を払います。深呼吸を促すことで緊張の緩和を図り、血管迷走神経反射の予防にも効果があります。また、リラックスした呼吸により血管拡張が促進され、採血がスムーズに行える場合があります。

安全を守り、他者を傷つけず、また傷つけられることのない環境で生活する欲求では、感染予防策の徹底と針刺し事故の防止が最優先事項となります。患者に対しては採血の安全性について説明し、不安を軽減することで心理的安全性を確保します。

人とコミュニケーションをとり、自分の感情や欲求、恐怖や意見を表現する欲求に対しては、採血前後の丁寧な説明と患者の訴えに対する傾聴が重要です。患者が自分の不安や疑問を自由に表現できる環境を整え、それに対して適切に応答することで信頼関係を構築し、より安全で快適な採血を実現できます。

具体的な看護介入

最優先の看護介入は患者の安全確保です。血管迷走神経反射の予防と早期発見のため、採血前の十分な説明と不安軽減、採血中の継続的な観察、採血後の十分な安静確保を行います。特に初回採血や過去に反応があった患者では、ベッド上での採血を検討し、意識消失時の転倒を予防します。

疼痛管理では、最小限の針刺しで確実な採血を行うことが基本となります。穿刺部位の適切な選択、正確な穿刺技術の実施、採血後の適切な止血により、患者の身体的苦痛を最小限に抑えます。また、患者とのコミュニケーションを通じて注意をそらし、心理的な疼痛軽減も図ります。

感染予防は医療従事者と患者双方にとって重要な課題です。標準予防策の厳格な遵守、無菌操作の徹底、使用後物品の適切な廃棄を確実に実施します。また、患者に対しても採血後の創部管理について説明し、感染予防への協力を求めます。

患者教育では、採血の目的と必要性、検査結果の意味、今後の治療方針への影響について、患者の理解度に応じて分かりやすく説明します。これにより患者の医療への参加意識を高め、治療への協力を促進することができます。


8. よくある質問・Q&A

Q:血管が見つからない時はどうすればよいですか?

A: 焦らずに複数のアプローチを試してみましょう。まず駆血帯の位置と強さを調整し、採血部位を心臓より低い位置に保持します。温かいタオルで5-10分間温めることで血管拡張を促進できます。手を軽くグーパーする運動も血流促進に効果的です。それでも困難な場合は、手背静脈や前腕の他の血管も検討しますが、無理な穿刺は避け、経験豊富な先輩や医師に相談することも大切です。

Q:採血中に患者さんが「気分が悪い」と言った時の対応は?

A: これは血管迷走神経反射の初期症状の可能性が高いため、速やかに対応が必要です。まず採血を一旦中止し、患者を安全な体位(仰臥位、下肢挙上位)に保持します。衣服を緩め、換気を良くして新鮮な空気を吸わせます。意識レベル、血圧、脈拍を確認し、必要に応じて医師に報告します。患者には「大丈夫です、よくあることです」と安心させる声かけを行い、回復を待って採血を再開するか検討します。

Q:採血管の順番を間違えてしまいました。どう対処すべきですか?

A: 採血管の順番は検査結果の正確性に大きく影響するため、速やかに適切な対応が必要です。まず間違いの内容を正確に把握し、指導者や医師に報告します。検査項目によっては再採血が必要になる場合もありますが、患者の負担を考慮して最小限の再採血で済むよう相談します。今後の予防策として、採血前の検査依頼書の確認、採血管の準備時の順序確認を徹底し、複数人でのダブルチェックを心がけます。

Q:採血後に血腫ができてしまった場合の対応は?

A: 血腫は採血の合併症の一つですが、適切な対応により症状を軽減できます。まず血腫の大きさと硬さ、疼痛の程度を評価し、記録します。初期24時間は冷罨法を行い血管収縮を促進し、その後は温罨法により血液の吸収を促進します。患者には血腫の経過と改善の見込みについて説明し、疼痛が強い場合は医師に相談して鎮痛剤の使用を検討します。患者には重いものを持つなどの負荷をかけないよう指導し、血腫の拡大防止に努めます。


9. まとめ

静脈血採血は看護技術の中でも特に高い精度と安全性が求められる技術です。患者の個別性を考慮した血管選択、正確な穿刺技術、合併症の予防と早期対応が成功の鍵となります。

技術的側面だけでなく、患者の不安軽減、疼痛管理、感染予防など多角的な看護介入が必要であり、ゴードンの機能的健康パターンやヘンダーソンの基本的欲求の視点から患者を全人的に理解することが重要です。

覚えるべき重要数値・基準

  • 駆血帯の圧力:収縮期血圧より10-20mmHg低く
  • 駆血時間:2分以内
  • 穿刺角度:15-30度
  • 消毒後の乾燥時間:30秒以上
  • 採血管の転倒混和:5-10回
  • 一般的な採血針:21-23ゲージ
  • 小児用採血針:23-25ゲージ

実習・現場で活用できるポイント

実習では指導者との密な連携を保ち、不安な点は遠慮なく相談することが大切です。患者との信頼関係構築のため、採血前の丁寧な説明と採血後の経過観察を怠らず実施しましょう。失敗を恐れすぎず、一つ一つの経験から学びを得て技術向上に努めることが重要です。

将来的には独立して実施する技術となるため、解剖学的知識の深化、無菌操作の習慣化、緊急時対応能力の向上を継続的に図ることが求められます。患者中心の看護を実践し、技術と共に人間性豊かな看護師を目指していきましょう。患者中心の創傷ケアを実践する看護師を目指しましょう。継続的な学習により最新の創傷ケア技術を習得し、患者の早期回復と生活の質向上に貢献してください。。害事象であることを常に意識し、質の高い看護の提供に努めてください。さい。

免責事項

本記事は教育・学習目的の情報提供です。

・一般的な医学知識の解説であり、個別の患者への診断・治療の根拠ではありません

・実際の看護実践は、患者の個別性を考慮し、指導者の指導のもと行ってください

・記事の情報は公開時点のものであり、最新の医学的知見と異なる場合があります

・本記事を課題としてそのまま提出しないでください

正確な情報提供に努めていますが、内容の完全性・正確性を保証するものではありません。

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