1. はじめに
経管栄養法は、経口摂取が困難な患者さんの生命を支える重要な栄養管理技術です。「チューブから栄養を入れるだけ」と思われがちですが、実は患者さんの尊厳を守りながら、安全で効果的な栄養管理を行う高度な看護技術なのです。
実習現場では、「食事ができなくて辛い」「お腹が張って苦しい」「いつまでチューブが必要なのか」といった患者さんや家族の切実な訴えに出会うことがあります。このような時、看護師は単に栄養を投与するだけでなく、患者さんの心理的ケアや家族への支援も含めた包括的なケアを提供する必要があります。
経管栄養法には主に胃管(経鼻胃管)と胃瘻(PEG:経皮内視鏡的胃瘻造設術)があり、それぞれに適応と特徴があります。適切な栄養管理は患者さんの免疫力向上、褥瘡治癒促進、感染症予防など、全身状態の改善に直結します。
また、経管栄養中の患者さんでも、将来的な経口摂取再開を見据えた口腔機能の維持や嚥下訓練の継続が重要であり、多職種との連携が欠かせません。看護師は患者さんの生活の質を可能な限り維持・向上させる役割を担っているのです。
この記事で学べること
- 胃管と胃瘻の特徴と適応の違い
- 安全な栄養剤投与方法と合併症の予防策
- 経管栄養中の患者の全身管理とアセスメント
- チューブ管理と感染予防対策
- 患者・家族への指導と心理的支援の方法
2. 経管栄養法の基本情報
定義
経管栄養法とは、経口摂取が困難な患者に対して、管(チューブ)を用いて胃や腸に直接栄養剤を投与する栄養管理方法である
経管栄養法は、消化管機能が保たれている患者において、経口摂取ができない場合や不十分な場合に選択される栄養療法です。胃管(経鼻胃管)と胃瘻(PEG)が代表的な方法で、患者の状態や予後、QOLを総合的に考慮して選択されます。
技術の意義と目的
経管栄養法の最大の意義は、生理的な消化・吸収過程を利用して適切な栄養管理を行うことです。静脈栄養と比較して、腸管粘膜の萎縮予防、感染リスクの軽減、コスト削減などの利点があります。
患者さんにとっては、適切な栄養状態の維持により体力回復が期待でき、「少しずつでも良くなっている」という希望を持つことができます。家族にとっても、「きちんと栄養が取れている」という安心感は大きな支えとなります。
看護師にとって経管栄養法は、患者さんの栄養状態を直接的にサポートし、回復を促進する重要な治療的援助です。また、日常的なケアを通じて患者さんの細やかな変化を観察し、早期に問題を発見する機会でもあります。
実施頻度・タイミング
基本的な投与回数は1日3-4回で、生理的な食事パターンに近づけることが推奨されています。投与方法は間欠投与(ボーラス投与)と持続投与があり、患者の状態に応じて選択します。
投与時間帯は、患者の生活リズムを考慮して朝・昼・夕・就寝前に設定することが多く、投与前の体位確認と投与後2時間の体位保持が重要なポイントです。夜間の持続投与を行う場合は、誤嚥リスクを最小限にするため30度以上の頭部挙上位を維持します。
3. 必要物品と準備
基本的な経管栄養用品
栄養剤・薬剤類
- 栄養剤(医師指示に基づく種類・量):患者の病態に応じた適切な製剤
- 白湯または微温湯(36-37℃):チューブ洗浄用
- 薬剤(粉砕薬または液剤):医師の指示に基づく
- 消化酵素剤:必要に応じて
投与器具類
- カテーテルチップシリンジ(50ml):栄養剤吸引・注入用
- イリゲーター(栄養バッグ):持続投与用
- 三方活栓:投与経路の切り替え用
- 延長チューブ:必要に応じて
- クランプ:流量調整用
- 輸液ポンプ:正確な投与速度制御用
観察・測定器具
- 聴診器:胃内容物確認用
- pH試験紙:胃液酸性度確認用
- 体温計、血圧計:バイタルサイン測定用
- 体重計:栄養状態評価用
胃管特有用品
挿入・交換用品
- 胃管(適切なサイズ:通常14-18Fr):患者の体格に応じて選択
- 潤滑ゼリー:挿入時の摩擦軽減用
- 固定用テープ(アレルギー対応):鼻部・頬部固定用
- ガーゼ:鼻孔保護用
- ペンライト:咽頭部観察用
管理用品
- 胃管キャップまたはクランプ:不使用時の閉鎖用
- マーキングペン:挿入長確認用
- 鼻腔ケア用品:鼻孔周囲の清潔保持用
胃瘻特有用品
日常管理用品
- 胃瘻チューブ(PEGチューブ):交換時期に応じた適切なタイプ
- 胃瘻パッド:瘻孔周囲保護用
- 滅菌ガーゼ:瘻孔周囲清拭用
- 生理食塩水:洗浄用
- 皮膚保護剤:瘻孔周囲皮膚保護用
特殊管理用品
- バンパー型チューブ:内的固定用
- バルーン型チューブ:一時的固定用
- チューブ交換セット:定期交換用
状況別対応用品
感染対策用品
- 使い捨て手袋:必須感染予防用品
- マスク・ゴーグル:飛沫感染予防用
- 手指消毒剤:ケア前後の衛生管理用
- 滅菌器具:瘻孔周囲ケア用
緊急時対応用品
- 吸引器:誤嚥時の気道確保用
- 酸素吸入器具:呼吸困難時対応用
- 救急カート:緊急事態対応用
合併症対応用品
- 制酸剤:胃食道逆流症対応用
- 整腸剤:下痢・便秘対応用
- 皮膚保護剤:瘻孔周囲皮膚トラブル用
物品準備のポイント
物品選択では患者の個別性と安全性を最優先に考えます。例えば、認知症で自己抜去リスクが高い患者さんには、固定力の強い胃瘻を選択し、抑制具を使わない工夫を検討します。
また、家族の介護力も重要な考慮事項です。在宅移行を予定している場合は、家族が管理しやすいシンプルな器具を選択し、段階的に指導を行います。「家でも同じようにできるだろうか」という家族の不安に寄り添い、実際に使用する物品で練習してもらうことが大切です。
栄養剤の選択では、患者の消化吸収能力、代謝状態、食物アレルギーの有無を詳細に評価します。下痢が続く患者さんには半消化態栄養剤を、腎機能が低下している患者さんには低タンパク質製剤を選択するなど、病態に応じた適切な選択が必要です。
4. 経管栄養法の実施手順
事前準備とアセスメント
まず、患者さんの全身状態を詳しく評価します。意識レベル、呼吸状態、循環動態、消化器症状の有無を確認し、経管栄養実施の適応と安全性を判断します。特に嚥下機能の評価は重要で、唾液の誤嚥リスクがある場合は吸引器を準備します。
栄養剤の準備では、医師の指示を正確に確認し、投与量、投与速度、投与時間を把握します。栄養剤は室温に戻してから使用し、開封後は4時間以内に使用することが原則です。「冷たい栄養剤は胃を刺激して不快感を与える」ため、特に冬季は注意が必要です。
患者さんには「お食事の時間ですね。今日の調子はいかがですか」と声をかけ、体調の変化を確認します。腹部膨満感、嘔気、下痢などの症状がある場合は、投与を一時中止し医師に報告します。
胃管による投与手順
1. チューブ位置の確認 これは最も重要な安全確認です。胃内容物の吸引により、胃液のpH(通常pH4以下)を確認します。吸引できない場合は、20-30mlの空気を注入し、心窩部でゴボゴボという音を聴診器で確認します。ただし、この方法だけでは確実性に欠けるため、複数の方法を組み合わせて確認します。
2. 残量確認と前投与の評価 前回投与分の胃内残量を確認します。150ml以上残存している場合は投与を見合わせ、消化不良の原因を検討します。残量が多い場合は「胃の動きが少し弱くなっているようですね」と患者さんに説明し、医師に報告します。
3. 体位の調整 セミファーラー位(30-45度)を基本とし、右側臥位を併用すると胃内容物の十二指腸への流出が促進されます。意識レベルが低い患者さんでは、45度以上の頭部挙上を維持します。
4. 栄養剤の投与 投与速度は100-200ml/時間を目安とし、初回投与や体調不良時はより緩徐に行います。シリンジを用いた間欠投与では、自然滴下の速度で投与し、無理な圧力をかけないよう注意します。患者さんの表情や腹部の状態を観察しながら、「ゆっくり入れていきますね」と声をかけ続けます。
5. 投与後の管理 投与終了後は30-50mlの白湯でチューブ内を洗浄し、栄養剤の残存を防ぎます。投与後2時間は体位を維持し、胃食道逆流を防止します。この間、患者さんの腹部症状や呼吸状態を定期的に観察します。
胃瘻による投与手順
1. 瘻孔周囲の観察 瘻孔周囲の発赤、腫脹、膿性分泌物、肉芽形成の有無を確認します。異常がある場合は投与前に医師に報告し、適切な処置を受けてから投与を行います。
2. チューブの開通確認 10-20mlの生理食塩水を用いてチューブの開通性を確認します。抵抗がある場合は無理に押し込まず、チューブの屈曲や閉塞を疑い、医師に相談します。
3. 投与方法 胃瘻では重力による自然滴下が基本です。イリゲーターを用いて、投与速度200-400ml/時間程度で調整します。患者さんが「お腹が張る」「気持ち悪い」と訴える場合は、速度を調整したり一時中断したりします。
実施中の観察ポイント
投与中は患者の表情、腹部の膨満感、呼吸パターンを継続的に観察します。特に咳込み、チアノーゼ、呼吸困難の出現は誤嚥を示唆するため、直ちに投与を中止し、吸引や酸素投与の準備を行います。
腹部の聴診も重要で、正常な腸蠕動音が聴取されることを確認します。腸蠕動音が減弱または消失している場合は、消化管機能の低下を疑い、投与速度の調整や一時中止を検討します。
患者さんの主観的症状も大切な観察項目です。「お腹が重い」「ムカムカする」「のどがヒリヒリする」などの訴えは、合併症の早期発見につながることがあります。
5. 特殊な状況での経管栄養法
意識レベルが低下している患者への対応
意識レベルが低下している患者では、誤嚥リスクが最も高いため、より慎重な管理が必要です。体位は45度以上の頭部挙上位を基本とし、投与速度は50-100ml/時間とゆっくり設定します。
咽頭・気管内吸引の準備を必ず行い、定期的に口腔内分泌物の吸引を実施します。また、胃内残量の確認をより頻回に行い、消化不良による逆流を防止します。家族には「意識がなくても栄養はしっかり摂れています」と説明し、安心感を提供します。
小児患者への対応
小児では体重あたりの必要カロリーが成人より高く、体重1kgあたり100-120kcal/日が目安となります。また、水分バランスにより敏感で、体重の5%以上の体重減少は脱水を示唆します。
投与速度は体重1kgあたり5-10ml/時間から開始し、耐性を見ながら調整します。小児は嘔吐しやすいため、投与後の観察をより頻回に行い、家族にも異常時の対応方法を指導します。
糖尿病患者への対応
糖尿病患者では血糖管理が重要で、栄養剤の投与により血糖値が大きく変動することがあります。糖尿病用栄養剤の使用や、インスリンの調整が必要な場合があります。
投与前後の血糖測定を実施し、250mg/dl以上の場合は医師に報告します。また、低血糖症状(冷汗、動悸、意識混濁)にも注意深く観察し、早期対応できるよう準備します。
術後患者への対応
術後患者では消化管機能の回復を慎重に評価します。腸蠕動音の確認、排ガスの有無、腹部膨満の程度を総合的に判断し、投与開始時期を決定します。
初回投与は少量から開始し、25-50ml/時間程度で様子を見ます。術後2-3日目頃から本格的な投与を開始することが多く、「少しずつ胃腸の動きが戻ってきていますね」と患者さんを励まします。
在宅移行予定患者への対応
在宅移行を予定している患者では、家族への指導が重要な看護介入となります。手技の習得だけでなく、緊急時の対応、合併症の早期発見について段階的に指導します。
実際に家族にデモンストレーションをしてもらい、不安な点や疑問を一つずつ解決します。「最初は心配でしょうが、慣れれば大丈夫ですよ」と励まし、24時間対応可能な連絡先を提供して安心感を与えます。
6. 経管栄養法中の観察とアセスメント
経管栄養法中の観察は、合併症の予防と早期発見において極めて重要です。
消化器症状の観察では、腹部膨満、嘔気・嘔吐、下痢、便秘が主要な観察項目となります。正常な場合、投与後に軽度の腹部膨満感はありますが、持続的な膨満感や腹痛は消化不良や胃食道逆流を示唆します。
嘔気・嘔吐は誤嚥リスクを高めるため、特に注意深く観察します。投与速度の調整や制吐剤の使用を検討し、必要に応じて一時投与中止を行います。患者さんが「ムカムカする」「吐きそう」と訴える場合は、軽微な症状でも真剣に受け止め、適切な対応を取ります。
便通の観察も重要で、3日以上の排便なしは便秘、1日3回以上の軟便は下痢と判断します。栄養剤の浸透圧や食物繊維含量、投与速度などが影響するため、症状に応じて栄養剤の変更や整腸剤の使用を検討します。
栄養状態の評価では、体重変化、血清アルブミン値、総タンパク質値を定期的にモニタリングします。週1回の体重測定により栄養効果を評価し、月1回の血液検査で客観的な栄養指標を確認します。
体重が週に0.5kg以上減少している場合は、投与カロリー不足や消化吸収不良を疑います。逆に急激な体重増加は浮腫や水分貯留を示唆し、心不全や腎機能障害の可能性を考慮します。
感染徴候の観察では、特に胃瘻周囲の感染に注意します。瘻孔周囲の発赤、腫脹、熱感、膿性分泌物の出現は感染を示唆し、早期の抗生剤治療が必要となる場合があります。
全身の感染徴候として、発熱、白血球数増多、CRP上昇も重要な指標です。特に免疫力が低下している患者では、軽微な感染でも重篤化するリスクがあるため、早期発見・早期治療が重要です。
チューブトラブルの観察では、胃管の位置異常や胃瘻チューブの逸脱に注意します。胃管では挿入長のマーキング確認を毎回行い、10cm以上の位置変化がある場合は医師に報告します。
胃瘻チューブでは外部ストッパーの位置やチューブの長さを確認し、皮膚レベルからの突出長に変化がないかチェックします。患者さんが「チューブが動いている気がする」「いつもと感じが違う」と訴える場合は、重要なサインとして受け止めます。
7. 看護のポイント
主な看護診断
- 栄養摂取消費バランス異常:必要量以下
- 誤嚥リスク状態
- 皮膚統合性障害リスク状態
- 感染リスク状態
ゴードンの機能的健康パターン別観察項目
栄養・代謝パターンでは、経管栄養法の最も中核となる部分として、患者の栄養需要と実際の摂取量のバランスを継続的に評価します。基礎代謝量、活動量、病態による代謝亢進などを考慮し、個々の患者に適した栄養処方を医師や栄養士と検討します。特に褥瘡のある患者さんでは創傷治癒に必要なタンパク質やビタミンC、亜鉛などの微量元素の充足状況を詳しく評価し、必要に応じて栄養剤の変更や補助的な栄養素の追加を検討します。
また、水分バランスの管理も重要で、経管栄養剤に含まれる水分量と患者の水分需要を照らし合わせ、脱水や浮腫の予防に努めます。高齢患者では腎機能の低下により水分貯留が起こりやすく、心不全患者では水分制限が必要な場合があるため、個別性を重視した管理を行います。
排泄パターンでは、経管栄養法が消化管機能に与える影響を詳細に観察します。栄養剤の種類や投与方法により、便性状や排便回数が大きく変化することがあります。下痢が続く場合は投与速度の調整や半消化態栄養剤への変更を検討し、便秘の場合は食物繊維含有量の多い栄養剤や整腸剤の使用を検討します。
活動・運動パターンでは、経管栄養中の患者の身体活動レベルと栄養需要の関係を評価します。長期臥床により筋肉量が減少している患者では、十分なタンパク質摂取と可能な範囲でのリハビリテーションの併用が重要です。また、チューブの存在により活動が制限されることがないよう、安全で効果的な固定方法を検討します。
ヘンダーソンの基本的欲求からみた看護
食べる・飲む欲求への援助では、経管栄養中の患者であっても、可能な限り食事の楽しみや満足感を提供できるよう工夫します。味覚や嗅覚を刺激する環境作りとして、食事時間に合わせた栄養剤投与や、家族の食事風景を見せるなどの配慮を行います。将来的な経口摂取再開を目指している患者では、口腔機能訓練や段階的な嚥下訓練を継続し、希望を失わないよう励まし続けます。
正常な排泄をする欲求では、経管栄養による消化管への影響を最小限に抑え、生理的な排便パターンの維持に努めます。プロバイオティクス含有の栄養剤の選択や、腹部マッサージ、適度な水分補給などにより、腸内環境の改善を図ります。
清潔に関する欲求では、胃管の場合は鼻腔周囲、胃瘻の場合は瘻孔周囲の清潔保持が重要です。単に感染予防だけでなく、患者の快適性や尊厳の維持も考慮し、丁寧なケアを提供します。
安全な環境で生活する欲求では、経管栄養に伴うリスク(誤嚥、感染、チューブトラブルなど)を最小限に抑え、患者が安心してケアを受けられる環境を整えます。家族にも安全管理の重要性を説明し、協力を得ながら事故防止に努めます。
具体的な看護介入
最優先の介入は誤嚥予防です。適切な体位保持、投与速度の調整、胃内残量の確認を確実に実施し、万が一誤嚥が発生した場合の対応手順を全スタッフが理解しておきます。特に夜勤帯では観察者が少なくなるため、より慎重な管理が必要です。
感染予防対策では、無菌的操作の徹底、チューブの適切な管理、瘻孔周囲の清潔保持を継続的に実施します。栄養剤の取り扱いでは、開封後の時間管理や温度管理を徹底し、細菌増殖のリスクを最小限に抑えます。
患者・家族への教育と支援では、経管栄養法の意義と安全管理について段階的に指導します。在宅移行を予定している場合は、実際の手技練習だけでなく、緊急時の対応方法、合併症の早期発見方法についても詳しく指導します。また、患者本人には現在の治療の意味と将来への希望について説明し、精神的な支援を継続します。
多職種連携では、医師、栄養士、薬剤師、理学療法士、言語聴覚士などとの密接な連携により、患者にとって最適な栄養管理と機能訓練を提供します。特に嚥下機能評価や経口摂取再開に向けた取り組みでは、言語聴覚士との連携が不可欠です。
8. よくある質問・Q&A
Q:胃内残量が多い場合、どのような対応を取るべきでしょうか?
A: 150ml以上の残量がある場合は、まず投与を一時中止します。残量の性状(色調、混濁度)を観察し、記録に残します。体位を右側臥位に変更して胃内容物の排出を促進し、腹部マッサージも効果的です。1-2時間後に再度残量確認を行い、改善されない場合は医師に報告します。消化管機能低下の原因として、便秘、薬剤の副作用、電解質異常などを検討し、根本的な治療が必要です。
Q:経管栄養中に下痢が続く場合の対応方法を教えてください
A: まず感染性の下痢でないかを確認します。発熱や血便がある場合は検便検査を実施し、必要に応じて感染予防対策を強化します。非感染性の場合、投与速度を50-100ml/時間に減速したり、半消化態栄養剤への変更を検討します。また、栄養剤の温度が低すぎないか、抗生剤による腸内細菌叢の乱れがないかも確認します。脱水予防のため水分・電解質バランスを注意深く観察し、必要に応じて補液を行います。
Q:胃瘻周囲に肉芽が形成された場合の対処法は?
A: 軽度の肉芽形成は正常な治癒過程ですが、過剰な肉芽は感染や機械的刺激が原因です。まず瘻孔周囲の清潔を徹底し、チューブが皮膚を過度に圧迫していないか確認します。外部ストッパーの位置を調整し、適切な緩みを保ちます。肉芽が5mm以上盛り上がっている場合や出血を伴う場合は医師に報告し、硝酸銀による焼灼や外科的切除が必要になることもあります。日常的には皮膚保護剤の使用や、刺激の少ないガーゼでの保護が効果的です。
Q:家族から「いつまで管から栄養を入れなければならないのか」と質問された場合、どう答えればよいでしょうか?
A: まず家族の気持ちに共感し、「ご心配ですよね」と受け止めます。その上で、現在の治療目標と患者さんの状態について説明します。「今は体力をつけて回復を図ることが最優先です」「嚥下機能が改善すれば、段階的に口から食事を摂れるよう練習していきます」など、具体的な見通しを示します。ただし、不確実な予測は避け、「医師と相談しながら、患者さんにとって最善の方法を一緒に考えていきましょう」と伝え、定期的にカンファレンスを開いて方針を共有することが大切です。
9. まとめ
経管栄養法は、患者さんの生命を支える重要な栄養管理技術です。単に栄養を投与するだけでなく、患者さんの尊厳と生活の質を維持しながら、安全で効果的なケアを提供することが看護師の重要な役割です。
胃管と胃瘻それぞれの特徴を理解し、患者さんの状態や予後、QOLを総合的に考慮して適切な管理を行うことが求められます。また、合併症の予防と早期発見、患者・家族への教育と支援、多職種との連携など、包括的なアプローチが必要です。
実習現場では、技術的な習得だけでなく、患者さんや家族の心理的ケアにも配慮し、希望を失わないよう支援することが大切です。経管栄養中の患者さんでも、将来の経口摂取再開に向けた取り組みを継続し、その人らしい生活の実現を支援していきましょう。
覚えるべき重要数値・基準
- 基本投与回数:1日3-4回
- 投与速度:間欠投与100-200ml/時間、持続投与200-400ml/時間
- 体位:セミファーラー位30-45度以上
- 投与後体位保持:2時間以上
- 栄養剤温度:36-37℃(室温)
- 胃内残量基準:150ml以上で投与中止検討
- チューブ洗浄:投与後30-50mlの白湯
- 栄養剤使用期限:開封後4時間以内
- pH確認:胃液pH4以下
- 体重変化の注意点:週0.5kg以上の減少
実習・現場で活用できるポイント
安全確認を最優先とし、特にチューブの位置確認は複数の方法を組み合わせて確実に実施しましょう。患者さんの個別性を重視し、体調や消化機能に応じて柔軟に調整する姿勢が大切です。
観察項目は多岐にわたりますが、患者さんの表情や訴えにも注意を払い、数値だけでない全人的なアセスメントを心がけてください。また、家族への説明や指導では、専門用語を避けて分かりやすい言葉で伝え、不安を軽減できるよう配慮しましょう。
多職種との連携を積極的に図り、栄養管理だけでなく機能訓練や心理的支援も含めた包括的なケアプランを立案することで、患者さんにとって最適な治療とケアを提供できます。ましょう。
免責事項
本記事は教育・学習目的の情報提供です。
・一般的な医学知識の解説であり、個別の患者への診断・治療の根拠ではありません
・実際の看護実践は、患者の個別性を考慮し、指導者の指導のもと行ってください
・記事の情報は公開時点のものであり、最新の医学的知見と異なる場合があります
・本記事を課題としてそのまま提出しないでください
正確な情報提供に努めていますが、内容の完全性・正確性を保証するものではありません。


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