事例の要約
本事例は、悪性リンパ腫(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫)と診断され、R-CHOP療法による化学療法を受けるため入院している60歳代の男性患者の事例である。2月15日より入院し、現在3月19日(入院33日目)の3クール目の化学療法開始前の介入である。患者は治療による副作用症状(骨髄抑制、口内炎、倦怠感)との闘いを経験しながらも、治療を継続する意欲を持っている。今回の介入では、3クール目の化学療法に向けた身体的・精神的準備と副作用への対応、さらに自宅退院に向けた支援を行う必要がある。
基本情報
A氏は65歳の男性である。身長173cm、体重は入院前72kg(BMI:24.1)だったが、現在は68kg(BMI:22.7)と4kg減少している。家族構成は妻(62歳)と二人暮らしで、キーパーソンは妻である。娘(38歳)は隣市に在住し、月に1~2回程度の訪問がある。A氏は建設会社の営業職として勤務していたが、発症を機に休職中である。性格は温厚で几帳面な一面があり、家族からは「頑固」と言われることもある。感染症は特になく、アレルギーはスギ花粉症がある。認知機能は正常で日常会話に問題なく、MMSE、HDSRの検査は行っていない。
病名
悪性リンパ腫(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫)Stage III。頸部、腋窩、縦隔、腹部リンパ節に多発性腫大を認める。骨髄浸潤は認めず。手術は行わず、R-CHOP療法による化学療法を治療方針としている。
既往歴と治療状況
高血圧症(10年前から):降圧剤服用中 糖尿病(5年前から):内服薬で血糖コントロール 前立腺肥大症(3年前から):内服治療中 現在の治療状況:R-CHOP療法を3週間ごとに実施し、現在までに2クール終了。3クール目を予定している。
入院から現在までの情報
【入院から現在までの情報】 A氏は頸部リンパ節腫大を主訴に近医を受診し、精査にて悪性リンパ腫と診断された。2月15日に化学療法目的で入院となった。入院後、第3病日に1クール目のR-CHOP療法を開始。治療後、7~10日目に白血球減少(Nadir期)となり、38.3℃の発熱を認めた。G-CSF製剤の投与と抗生剤治療により回復した。その後、2クール目を3月1日に実施。同様に好中球減少がみられたが、発熱はなかった。また、口内炎(Grade 2)と倦怠感が出現したため、対症療法を行い徐々に軽快。現在は3クール目(3月19日予定)の準備段階である。化学療法の効果判定のため、2クール終了後にCT検査を実施し、リンパ節の縮小を確認している。
バイタルサイン
来院時:血圧142/88mmHg、脈拍78回/分・整、体温36.8℃、呼吸数16回/分、SpO2 98%(室内気)であった。
現在:血圧128/76mmHg、脈拍84回/分・整、体温37.0℃、呼吸数18回/分、SpO2 97%(室内気)と安定している。体温は日内変動があり、夕方に37.5℃前後になることがある。
食事と嚥下状態
入院前は3食規則正しく摂取していた。妻の手料理が中心で、外食は月に2~3回程度であった。嚥下機能に問題はない。喫煙歴は20本/日×40年あるが、診断後から禁煙している。飲酒は機会飲酒程度で週2回ほどビールを1~2缶飲む程度であった。
現在は治療による食欲低下と口内炎のため、摂取量が7割程度に減少している。特に2クール目の化学療法後、口内炎により一時的に流動食となっていたが、現在は軟菜食に戻している。嚥下状態は問題ないが、口腔内の痛みがある場合は摂取量が減少する。入院中は禁酒・禁煙を遵守している。
排泄
入院前は1日1回の排便習慣があり、便秘や下痢の問題はなかった。排尿は夜間1回程度あるが、日中は問題なかった。
現在は化学療法の影響で便秘傾向にある。3~4日排便がないことがあり、酸化マグネシウムを適宜使用している。排尿は問題ないが、前立腺肥大のため夜間2~3回のトイレ通いがある。
睡眠
入院前は22時就寝、6時起床の規則正しい生活を送っていた。眠剤の使用はなかった。
現在は入院環境への適応や治療への不安から、入眠困難を訴えることがある。また、夜間の排尿やバイタルサイン測定による睡眠中断があり、日中の倦怠感につながっている。医師の指示により、ベンゾジアゼピン系睡眠薬を頓用で使用している日がある。
視力・聴力・知覚・コミュニケーション・信仰
視力は老眼のため近距離用眼鏡を使用している。聴力は問題なし。知覚に異常はないが、化学療法後に手足のしびれ感を一時的に訴えることがある(Grade 1)。コミュニケーションは良好で、医療者や家族との会話にも積極的である。特定の信仰はないが、神社仏閣を訪れることが趣味の一つである。
動作状況
入院前は日常生活動作に制限なく自立していた。入院後も基本的な動作は自立しているが、化学療法後の倦怠感が強い時期(投与後3~5日間)は、歩行時にふらつきがみられることがある。移乗動作は問題なく行えている。排泄は自立しているが、夜間のトイレ歩行時にふらつきがみられることがある。入浴はシャワー浴を隔日で行っており、介助は不要。衣類の着脱も自立している。今のところ転倒歴はないが、化学療法後の体力低下時には看護師が見守りを行っている。
内服中の薬
【内服中の薬】
- アムロジピン 5mg 1錠 1日1回 朝食後(高血圧症)
- メトホルミン 500mg 1錠 1日2回 朝・夕食後(糖尿病)
- タムスロシン 0.2mg 1カプセル 1日1回 夕食後(前立腺肥大症)
- デキサメタゾン 4mg 4錠 1日1回 化学療法前日・当日・翌日(制吐薬)
- オンダンセトロン 4mg 1錠 1日2回 化学療法当日から3日間(制吐薬)
- アプレピタント 125mg 1カプセル 1日1回 化学療法初日 80mg 1カプセル 1日1回 化学療法2-3日目(制吐薬)
- レバミピド 100mg 1錠 1日3回 毎食後(胃粘膜保護)
- 酸化マグネシウム 330mg 1錠 1日2回 朝・夕食後(便秘時)
- ブロチゾラム 0.25mg 1錠 不眠時(頓用)
- アズレンスルホン酸ナトリウム含嗽液 1回 5ml 1日4回(口内炎)
【服薬状況】 A氏の服薬状況は、入院当初は自己管理を希望していたが、化学療法開始後の副作用症状出現時に内服忘れがあったため、現在は看護師管理となっている。特に化学療法直後の制吐薬やステロイドは治療効果に直結するため、確実な服薬が必要である。A氏は薬の内容と効果について理解しており、指示された時間に内服できている。口内炎が悪化した時期には内服困難な状況もあったが、現在は改善している。今後の自宅療養に向けて、徐々に自己管理へ移行する予定である。その際、妻の協力を得て管理方法を確認している。A氏からは「飲み忘れのないように一覧表があると助かる」との希望があり、服薬カレンダーを準備中である。
検査データ
検査項目 | 基準値 | 入院時(2/15) | 最近(3/17) |
---|---|---|---|
血液学的検査 | |||
WBC | 3,500-9,500/μL | 9,200 | 2,800 |
Neut | 44-72% | 68% | 40% |
Lymph | 18-59% | 12% | 45% |
Hb | 13.0-17.0g/dL | 13.2 | 11.2 |
Plt | 15.0-35.0万/μL | 18.5 | 12.8 |
生化学的検査 | |||
TP | 6.5-8.2g/dL | 6.8 | 6.6 |
Alb | 3.8-5.2g/dL | 3.9 | 3.5 |
T-Bil | 0.2-1.2mg/dL | 0.8 | 0.9 |
AST | 8-38U/L | 32 | 45 |
ALT | 4-44U/L | 36 | 52 |
LDH | 121-245U/L | 320 | 290 |
BUN | 8-20mg/dL | 18 | 16 |
Cre | 0.6-1.1mg/dL | 0.9 | 0.8 |
Na | 135-145mEq/L | 140 | 138 |
K | 3.5-5.0mEq/L | 4.2 | 4.0 |
Cl | 98-108mEq/L | 102 | 100 |
CRP | 0-0.3mg/dL | 2.8 | 0.8 |
血糖関連 | |||
空腹時血糖 | 70-109mg/dL | 132 | 126 |
HbA1c | 4.6-6.2% | 7.2 | 7.0 |
腫瘍マーカー | |||
sIL-2R | 122-496U/mL | 2,850 | 1,320 |
凝固系 | |||
PT-INR | 0.85-1.15 | 1.08 | 1.10 |
APTT | 24-38秒 | 32 | 34 |
尿検査 | |||
尿蛋白 | (-) | (-) | (-) |
尿糖 | (-) | 1+ | 1+ |
※ 太字は基準値から外れている値を示す
今後の治療方針と医師の指示
医師からは、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫に対して、R-CHOP療法を計6クール実施する治療方針が示されている。現在までに2クールを終了し、3月19日から3クール目を開始予定である。2クール終了後のCT評価では、リンパ節サイズの縮小(部分奏効:PR)が確認されており、治療効果が認められている。今後は予定通り残りの治療を継続し、6クール終了後にPET-CTによる効果判定を行う計画である。医師からは「骨髄抑制の管理が最も重要」との指示があり、特に好中球減少期(Nadir期)の感染予防に注意するよう指示されている。現在の血液検査値は3クール目の実施基準を満たしているため、予定通り治療を行う。また、口内炎の悪化予防として、含嗽の継続と保湿剤の使用、食事形態の調整も指示されている。糖尿病については、ステロイド使用に伴う血糖値の変動に注意し、化学療法日から3日間はインスリンスライディングスケールを使用する指示がある。現在の治療は入院で行われているが、4クール目以降は外来治療への移行を検討しており、自宅での生活調整と副作用対策について指導を行うよう指示されている。
本人と家族の想いと言動
A氏は診断当初、「なぜ自分が」という気持ちを抱いていたが、現在は「治療を最後まで頑張りたい」と前向きな姿勢に変化している。特に2クール終了後の効果判定で腫瘍縮小が確認されてからは、「治療の効果が出ていて安心した」と話している。一方で、「仕事に復帰できるか心配」という発言も見られ、社会復帰への不安を抱えている。また、化学療法による副作用、特に「口内炎の痛みが辛い」「倦怠感で何もする気になれない」と訴えることがある。最近は「髪の毛が抜けてきた」ことに対するショックも大きく、「外出するのが億劫」と話している。
妻は毎日面会に訪れ、「夫の体調が一番心配」と話し、積極的に治療や看護に協力的である。「自宅で療養する際にも適切なケアができるか不安」と看護師に相談することがあり、特に「感染予防の方法」や「食事の工夫」について具体的な指導を求めている。また、「夫が元気になって趣味の釣りに行けるようになってほしい」という希望を持っている。娘も「父には元気になってもらいたい」と話し、仕事の調整をして月に数回訪問している。家族全体として「治療を乗り越えて、元の生活に戻りたい」という強い想いを持っており、家族の結束が治療継続の大きな支えとなっている。
アセスメント
A氏は65歳の男性で、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫 Stage IIIと診断されている。この疾患は非ホジキンリンパ腫の一種で、B細胞由来の悪性リンパ腫であり、複数のリンパ節領域に病変が及んでいる状態である。悪性リンパ腫は免疫細胞の一つであるリンパ球ががん化した疾患であり、化学療法による治療が標準的である。
A氏の現在の健康状態は、R-CHOP療法による化学療法の副作用と闘っている状態である。これまでに2クールの化学療法を終え、一定の効果(リンパ節の縮小)が確認されているが、好中球減少、貧血、血小板減少などの骨髄抑制と口内炎、倦怠感などの副作用症状が出現している。また治療に伴うステロイド使用により血糖コントロールが不安定な状態にある。体重は入院前の72kgから現在68kgへと4kg減少しており、これは食欲低下や口内炎による摂取量減少が原因と考えられる。
受診行動については、頸部リンパ節腫大という症状に自ら気づき近医を受診しており、健康への関心と自己管理能力を有していると考えられる。疾患や治療への理解も比較的良好であり、「治療を最後まで頑張りたい」という発言からも治療への前向きな姿勢がうかがえる。しかし、服薬状況は化学療法直後の副作用出現時に内服忘れがあったため現在は看護師管理となっている。治療の継続と効果を確保するためには、服薬自己管理能力の向上が必要であり、自宅療養に向けて服薬カレンダーの活用や家族の協力体制の構築が重要である。
身体計測値については、身長173cm、入院前体重72kg(BMI:24.1)、現在の体重68kg(BMI:22.7)である。入院前のBMIは適正範囲内であるが、治療による体重減少が見られるため、栄養状態の維持が課題となる。運動習慣に関する詳細な情報は不足しているが、入院前は日常生活動作に制限はなかったと考えられる。しかし、現在は化学療法後の倦怠感により活動性が低下している状態である。65歳という年齢を考慮すると、長期的な治療による廃用症候群の予防も視野に入れる必要がある。
呼吸に関するアレルギーはないものの、スギ花粉症があり季節によっては症状が出現する可能性がある。喫煙歴は20本/日×40年と重喫煙者であるが、診断後から禁煙を継続している。長期の喫煙歴は呼吸機能や循環器系への影響が懸念されるため、禁煙の継続支援と呼吸器症状の観察が必要である。飲酒は機会飲酒程度であり、現在は入院中のため禁酒している。
既往歴として、高血圧症、糖尿病、前立腺肥大症があり、いずれも内服治療中である。特に糖尿病については入院時のHbA1c値が7.2%と血糖コントロールが不十分な状態であり、化学療法で使用するステロイドの影響で血糖値が上昇するリスクがある。空腹時血糖値も126mg/dLと高値であり、インスリンスライディングスケールを併用しながらの慎重な血糖管理が必要である。また、高血圧に関しても治療中であるが、化学療法の副作用による食欲不振や嘔気により内服薬の効果が十分に得られない可能性があるため、血圧の定期的な測定と評価が重要である。
今後の看護介入としては、**化学療法の副作用管理(特に骨髄抑制時の感染予防)**を最優先にしながら、疾患理解の促進と自己管理能力の向上を図ることが重要である。また、化学療法後の口内炎予防と対策、適切な栄養摂取の支援、禁煙継続の支援、既往疾患(特に糖尿病)の管理、そして自宅療養に向けた指導(感染予防、副作用対策、症状悪化時の対応など)を計画的に実施する必要がある。さらに、化学療法による倦怠感に配慮しつつも、日常生活動作の維持と廃用症候群予防のための適切な活動を促進することも重要である。
なお、A氏は65歳と高齢者の範疇に入るため、加齢に伴う免疫機能の低下が骨髄抑制時の感染リスクを高める可能性があること、また複数の慢性疾患を有することから薬物相互作用や副作用の出現にも注意が必要である。今後も継続的に全身状態の観察と評価を行い、状態変化に応じた看護介入の調整を行うことが求められる。
A氏は入院前、妻の手料理を中心に3食規則正しく摂取し、水分も十分に摂取していた。しかし現在は、R-CHOP療法による口内炎(Grade 2)と食欲低下のため、食事摂取量が通常の7割程度に減少している。特に2クール目の化学療法後に口内炎が悪化した際には一時的に流動食となり、この時期の摂取量は5割程度まで低下していた。現在は軟菜食に戻っているが、口腔内の痛みがある場合は摂取量が減少する傾向にある。水分摂取は1日1000~1200ml程度であり、やや不足気味である。
好きな食べ物や食事に関するアレルギーについての具体的な情報は不足しているが、A氏は「酸味のあるものや辛いものが口内炎で痛む」と訴えており、これらを避ける傾向にある。今後の栄養状態改善のためには、A氏の食の嗜好や好みの食事形態についてさらに詳細に情報収集する必要がある。
身体計測値については、身長173cm、入院前体重72kg(BMI:24.1)、現在の体重68kg(BMI:22.7)であり、入院から約1か月で4kg(5.6%)の体重減少が認められる。65歳男性の標準体重は65.9kg(BMI 22)であり、現在の体重はほぼ標準的であるが、急速な減少傾向は栄養状態悪化のリスクを示している。1日の必要栄養量は、入院中の身体活動レベルを「低い(1.3)」と仮定すると、基礎代謝量約1400kcal×1.3≒1800kcalと推定される。しかし、悪性腫瘍患者であることと化学療法の影響を考慮すると、実際にはより多くのエネルギーが必要と考えられる。
食欲は化学療法の影響で低下しており、特に治療後3~5日間は著しく低下する。嚥下機能自体には問題がないが、口腔内の状態は口内炎により疼痛があり、食事摂取の障壁となっている。口腔内の乾燥も認められ、アズレンスルホン酸ナトリウム含嗽液で1日4回のケアを実施しているが、十分な改善には至っていない。
嘔気・嘔吐については、化学療法当日から数日間は制吐剤(オンダンセトロン、アプレピタント)を使用しているため、強い症状は抑えられているが、「食後に胃がもたれる感じがある」との訴えがあり、軽度の嘔気が持続していると考えられる。
皮膚の状態は、全身的に乾燥傾向にあるが、発赤や発疹、褥瘡は認められない。しかし、血液検査でアルブミン値が入院時3.9g/dLから現在3.5g/dLへと低下しており、低栄養による皮膚統合性の低下リスクが懸念される。また、化学療法による脱毛が始まっており、頭皮の観察と保護が必要である。
血液データを分析すると、栄養状態に関連する検査値は以下のように変化している。アルブミン値は入院時3.9g/dLから現在3.5g/dLと軽度の低下を示している。総蛋白も入院時6.8g/dLから現在6.6g/dLとわずかに減少している。赤血球系では、ヘモグロビン値が入院時13.2g/dLから現在11.2g/dLへと明らかに低下しており、貧血の進行が認められる。これは化学療法による骨髄抑制の影響と考えられるが、栄養状態の悪化も一因となっている可能性がある。電解質は比較的安定しており、ナトリウム140mEq/Lから138mEq/L、カリウム4.2mEq/Lから4.0mEq/Lと正常範囲内である。糖代謝に関しては、空腹時血糖値が入院時132mg/dLから最近126mg/dLと高値を維持しており、HbA1cも7.2%から7.0%と血糖コントロールが不十分な状態が続いている。これは元々の糖尿病に加え、R-CHOP療法で使用するステロイド(デキサメタゾン)の影響も考えられる。
以上の情報から、A氏は化学療法による副作用(特に口内炎と食欲低下)により栄養摂取量が減少し、体重減少と低アルブミン血症をきたしており、栄養状態の悪化が進行していると判断される。また、糖尿病の既往もあり、血糖コントロールも不十分である。65歳という年齢を考慮すると、加齢による基礎代謝の低下や消化機能の変化も栄養状態に影響していると考えられる。
必要な看護介入としては、まず口内炎のケア強化が重要である。含嗽の継続と保湿剤の使用に加え、疼痛評価を定期的に行い、必要に応じて局所麻酔薬含有の含嗽液の検討も必要である。食事については、少量頻回摂取の促進や、栄養価の高い食品の選択支援、必要に応じて栄養補助食品の活用も検討する。また、口内炎による痛みを考慮した食事の温度や硬さの調整も重要である。水分摂取を増やすための工夫として、好みの飲料や時間帯の特定も必要である。
同時に、血糖値の定期的なモニタリングと、ステロイド使用期間中の厳密な血糖コントロールも重要な介入である。体重測定は週2回程度行い、減少傾向が続く場合は栄養サポートチーム(NST)への相談も検討する。皮膚の乾燥対策として保湿剤の使用を促進し、脱毛部位の頭皮保護も指導する。
今後も継続的に食事摂取量や口腔内状態の観察を行い、特に化学療法後の嘔気・嘔吐や口内炎の悪化に注意する必要がある。また、3クール目の化学療法後にも血液データの変化を評価し、貧血の進行や電解質異常の出現に注意する。外来治療への移行を見据え、A氏と妻に対して栄養管理の自己管理能力の向上を目指した指導も計画的に実施することが求められる。
A氏の排便状況は、入院前は1日1回の規則的な排便習慣があり、便秘や下痢の問題はなかった。しかし現在は、化学療法の影響により便秘傾向となっており、3~4日排便がないことがある。排便時の性状は硬めで量は少なめである。そのため、酸化マグネシウム330mg(1日2回)を服用しているが、効果は十分とは言えない状況である。最終排便は前日であり、量は少なめで硬い性状であった。腹部不快感の訴えもあるが、腹痛は認められていない。
排尿については、入院前は日中問題なく、夜間に1回程度であったが、現在は前立腺肥大症の影響もあり、夜間2~3回のトイレ通いがある。排尿量は1回あたり約200~300mlで、1日の総排尿量は約1500~1800ml程度である。尿の性状は淡黄色透明で異常は認められていない。バルーンカテーテルは留置しておらず、自力での排尿が可能である。しかし、化学療法後の倦怠感が強い時期には、トイレまでの移動がやや困難になることがある。
体液バランスについては、1日の水分摂取量が1000~1200ml程度であるのに対し、排尿量は1500~1800ml程度とやや過剰であり、不感蒸泄も考慮すると軽度の水分不足状態である可能性がある。また、便秘傾向も水分摂取不足が一因と考えられる。化学療法時には補液(500~1000ml/日)が行われるため、その時期は一時的に水分バランスが改善するが、終了後は再び摂取量が減少する傾向にある。
排泄に関連した食事・水分摂取状況としては、口内炎による摂食障害から食物繊維の摂取量が減少していること、また水分摂取量も不足気味であることが、便秘傾向の要因となっている。通常7割程度の食事摂取量であるが、特に化学療法後は5割程度まで低下することがあり、この時期に便秘が悪化する傾向にある。
安静度については、基本的には病棟内フリーの状態であるが、化学療法後の倦怠感が強い時期(投与後3~5日間)は、自室内での活動が中心となり、運動量の低下も便秘を助長していると考えられる。また、65歳という年齢を考慮すると、加齢に伴う腸蠕動の低下や腹筋力の減弱も便秘の一因となっている可能性がある。
腹部の状態については、軽度の膨満感があり、腸蠕動音はやや減弱している。腹部の張りに関する訴えもあるが、圧痛や反跳痛は認められていない。腹部単純X線検査は実施されていないが、便秘による腸管内ガス貯留が疑われる。
腎機能に関連する血液データとしては、BUN値は入院時18mg/dLから現在16mg/dLと正常範囲内で安定している。クレアチニン値も入院時0.9mg/dLから現在0.8mg/dLと正常である。GFR値の具体的な数値は記載されていないが、クレアチニン値から推測すると、年齢相応の範囲内と考えられる。これらの値から、現時点での腎機能障害は認められないが、化学療法による潜在的な腎機能への影響を考慮し、継続的な観察が必要である。
以上のアセスメントから、A氏は化学療法による便秘傾向と、前立腺肥大症による夜間頻尿という排泄上の問題を抱えている。便秘に対しては、現在の酸化マグネシウムに加え、食物繊維の摂取増加や水分摂取量の増加(目標1500~2000ml/日)を促進する必要がある。また、可能な範囲での運動促進も重要である。腹部マッサージや温罨法の適用も便秘改善に有効と考えられる。下剤の種類や用量についても、現状の効果を評価したうえで、医師との相談により調整を検討する必要がある。
夜間頻尿に対しては、夜間の水分摂取を控えめにすることや、就寝前の排尿を徹底すること、また夜間のトイレ環境の安全確保(足元灯の設置など)が重要である。倦怠感が強い時期の排泄支援として、ポータブルトイレの活用も検討する余地がある。
今後も排便・排尿の回数、量、性状の観察を継続し、腹部状態の定期的な評価も必要である。特に化学療法後の便秘悪化に注意し、早期の介入を心がける。また、水分出納のより詳細な記録を行い、脱水や過剰水分負荷の早期発見に努める。3クール目の化学療法実施後も腎機能値の推移を注意深く観察し、異常の早期発見に努めることが重要である。さらに、自宅療養への移行を見据え、A氏と妻に対して便秘予防や排泄管理についての指導も計画的に行う必要がある。
A氏は入院前、日常生活動作(ADL)に制限なく自立しており、建設会社の営業職として活動的な生活を送っていた。しかし現在は、悪性リンパ腫に対するR-CHOP療法の影響により、特に化学療法後の倦怠感が強い時期(投与後3~5日間)に活動性の低下がみられる。基本的な身の回りの動作は自立しているものの、化学療法の影響で筋力低下や疲労感が生じている。歩行は自立しているが、化学療法後にはふらつきが見られることがあり、特に夜間のトイレ移動時には注意が必要である。移乗動作は問題なく行えている。入浴はシャワー浴を隔日で行っており、介助は不要である。排泄や衣類の着脱も自立しているが、化学療法後の体力低下時には活動に時間を要する。
A氏の運動機能は、入院前は特に問題なかったが、入院後の活動量減少と化学療法の副作用により、筋力と持久力の低下が認められる。特に下肢筋力の低下傾向にあり、長時間の立位や歩行で疲労感を訴えることが多くなっている。入院前の運動習慣に関する詳細な情報は不足しているが、営業職として比較的活動的な生活を送っていたと考えられる。現在の安静度は病棟内フリーであるが、白血球や血小板の減少が著しい時期(Nadir期)には感染予防と出血予防の観点から活動制限が必要となる場合がある。
バイタルサインは現在、血圧128/76mmHg、脈拍84回/分(整)、体温37.0℃、呼吸数18回/分、SpO2 97%(室内気)と安定している。ただし、体温は日内変動があり、夕方に37.5℃前後になることがあるため、活動時の体温上昇に注意が必要である。呼吸機能については、喫煙歴(20本/日×40年)があるものの、現時点で呼吸困難や息切れの訴えはない。しかし、長期喫煙による潜在的な呼吸機能低下の可能性があるため、活動時の呼吸状態の観察が重要である。
A氏は建設会社の営業職として勤務していたが、現在は診断を機に休職中である。住居環境については、妻と二人暮らしで、具体的な住居形態(一戸建てやマンションなど)や段差の有無などの詳細情報が不足している。今後の外来治療への移行や自宅療養を見据え、住環境のアセスメントが必要である。
血液データにおいては、赤血球系の数値に変化が見られる。ヘモグロビン値は入院時13.2g/dLから現在11.2g/dLへと低下しており、ヘマトクリット値の記載はないが同様に低下していると推測される。これは化学療法による骨髄抑制の影響と考えられるが、貧血による活動時の倦怠感や息切れを引き起こす可能性がある。CRP値は入院時2.8mg/dLから現在0.8mg/dLへと改善傾向にあるものの、依然軽度上昇しており、炎症反応が完全には消失していないことを示している。
転倒転落のリスクとしては、化学療法後の倦怠感とふらつき、夜間頻尿(前立腺肥大症による)、軽度の貧血が挙げられる。特に夜間のトイレ移動時にリスクが高まるため注意が必要である。また、65歳という年齢を考慮すると、加齢に伴う筋力低下や平衡感覚の減弱も転倒リスクを高める要因である。現時点での転倒歴はないが、化学療法の継続に伴う体力低下が進行する可能性があるため、予防的介入が重要である。
以上のアセスメントから、A氏の活動-運動に関する問題として、化学療法による倦怠感と筋力低下、及び貧血進行による活動耐性の低下が挙げられる。これらの問題に対する看護介入としては、まず倦怠感のある時期の活動と休息のバランスを調整することが重要である。具体的には、日中の短時間の活動と十分な休息時間の確保、エネルギー温存のための動作指導などが有効である。また、過度な安静による廃用症候群予防のため、体調に合わせた適切な運動プログラム(例:ベッド上でのストレッチ、座位での上下肢運動、短距離歩行など)を提案し、実施を促す必要がある。
転倒予防については、夜間の照明確保、ナースコール使用の励行、ベッド周囲の環境整備、必要時にはポータブルトイレの活用も検討する。特に化学療法後の白血球・血小板減少期には、転倒による外傷や出血のリスクが高まるため、より慎重な対応が求められる。
また、貧血に対しては、急激な体位変換を避けることや、めまいなどの症状出現時の対応について指導することも重要である。活動時のバイタルサイン(特に脈拍、呼吸数、SpO2)の変化を観察し、過度な負担がかからないよう配慮する。
今後も継続的にA氏の活動状態を観察し、特に3クール目の化学療法後の倦怠感や貧血の程度に注意する必要がある。同時に、自宅療養に向けた準備として、住環境の詳細な情報収集と必要な環境調整の検討、日常生活動作の維持・向上のための具体的な支援計画の立案も重要である。妻に対しても、A氏の活動支援と転倒予防に関する指導を行い、家族による適切なサポート体制の構築を促進することが求められる。
A氏は入院前、22時就寝、6時起床という規則正しい睡眠パターンを維持しており、約8時間の睡眠時間を確保していた。熟眠感も得られており、眠剤の使用もなかった。しかし入院後は、入院環境への適応や治療への不安から入眠困難を訴えることが増えており、現在の睡眠時間は22時30分から5時30分頃と若干短縮し、中途覚醒が増加している。特に、前立腺肥大症による夜間頻尿(2~3回)や、夜間のバイタルサイン測定による中断が睡眠の質の低下を招いている。これにより、朝の目覚めの悪さや日中の倦怠感へとつながっている。
A氏の睡眠障害に対しては、医師の指示によりベンゾジアゼピン系睡眠薬を頓用で使用しており、使用時は比較的スムーズに入眠できるものの、翌朝にふらつきを感じることがあると訴えている。また、化学療法直後(特に投与後1~3日間)にはステロイド(デキサメタゾン)使用による興奮状態や不眠が生じることもある。睡眠薬の使用頻度は週に2~3回程度であるが、化学療法の前後には使用頻度が増加する傾向にある。
日中の過ごし方は、比較的落ち着いた活動が中心であり、病室でテレビを見たり、新聞や雑誌を読んだりして過ごしている。体調の良い時には病棟内を歩いたり、デイルームで他の患者と談話したりすることもあるが、化学療法後の倦怠感が強い時期には臥床している時間が増加する。また、午後には30分~1時間程度の仮眠をとることが多く、この習慣が夜間の入眠を遅らせている可能性もある。休日には妻や娘の面会があり、会話を楽しむことがストレス発散になっているが、特に休日特有の過ごし方はなく、平日と大きな違いはない。
A氏の睡眠は、65歳という年齢も考慮する必要がある。加齢に伴い、睡眠の質は生理的に低下し、入眠困難や中途覚醒の増加、深い睡眠(徐波睡眠)の減少が起こりやすくなる。また、前立腺肥大症による夜間頻尿も高齢男性に多く見られる症状であり、A氏の場合はこれによる睡眠中断が睡眠の質をさらに低下させている。
化学療法による影響も大きく、特に治療に伴うステロイド使用による中枢神経興奮作用、制吐剤の影響、また治療への不安や身体的不快感(口内炎による痛みなど)も睡眠を阻害する要因となっている。これらの複合的な影響により、A氏の睡眠は質・量ともに低下している状態であると判断される。
睡眠に関する情報として不足している点は、入院前の睡眠習慣(入眠儀式や寝具の好み、睡眠環境など)についての詳細や、睡眠に対する本人の満足度、睡眠の質を自己評価するための指標などである。また、日中の活動量と睡眠の質の関連性についてもさらに詳細に評価する必要がある。
A氏の睡眠問題に対する看護介入としては、まず睡眠環境の調整が重要である。病室の照明や音、温度、寝具の快適さなどを確認し改善を図る。また、睡眠前のルーティンを確立することも有効であり、寝る前の温かい飲み物や、リラックスできる音楽、軽いストレッチなどを取り入れることを提案する。
夜間頻尿による中断に対しては、就寝前の排尿を促すとともに、夜間の水分摂取を控えめにすることを指導する。また、夜間のバイタルサイン測定についても、睡眠を妨げないような時間帯や方法を検討する必要がある。
日中の活動については、適度な身体活動を促進し、特に午後の長時間の仮眠を避けるよう指導することで、夜間の睡眠の質向上を図る。化学療法後の倦怠感の強い時期には、短時間の休息と活動のバランスを考慮したスケジュールを一緒に考える。
薬物療法に関しては、現在使用しているベンゾジアゼピン系睡眠薬の効果と副作用(翌朝のふらつきなど)を評価し、医師と相談しながら最適な使用方法を検討する。特にステロイド使用時の不眠対策として、投与時間の調整(可能であれば朝に投与)なども提案する。
今後も継続的にA氏の睡眠状態を観察し、睡眠日誌などを活用して睡眠パターンの変化を評価していくことが重要である。また、3クール目の化学療法後の睡眠状態を特に注意深く観察し、新たな問題が生じた場合には迅速に対応する必要がある。外来治療への移行を見据え、自宅での良質な睡眠確保のための具体的な方法についても、A氏と妻に対して指導していくことが求められる。
A氏の意識レベルは清明であり、Japan Coma Scale(JCS)は0である。入院中も常に周囲の状況を適切に把握し、医療者の説明を理解することができている。認知機能は正常で、見当識障害や記憶障害は認められず、日常会話や治療に関する説明の理解も良好である。認知機能検査(MMSE、HDSR)は実施されていないが、日常の言動から認知機能低下は認められていない。
A氏の聴力に関しては問題なく、通常の会話音量で十分に聞き取ることができる。しかし、視力については老眼のため近距離用眼鏡を使用している。眼鏡使用時の視力は良好であり、新聞や雑誌を読むことも問題なくできている。ただし、化学療法の影響もあり、長時間の読書や細かい文字を読むことによる眼精疲労を訴えることがある。また、65歳という年齢を考慮すると、加齢に伴う視力・聴力の生理的変化が進行している可能性があるため、定期的な評価が必要である。
知覚面では、化学療法後に手足のしびれ感を一時的に訴えることがある(Grade 1程度)。これはR-CHOP療法に含まれるビンクリスチンによる末梢神経障害の初期症状と考えられる。現時点では日常生活に支障をきたすほどの症状ではないが、化学療法が進むにつれて症状が悪化する可能性があるため、注意深い観察が必要である。また、口内炎による痛みも知覚に関連する問題であり、特に食事時や会話時に不快感を訴えることがある。
A氏の心理面に関しては、診断当初は「なぜ自分が」という気持ちを抱いていたが、現在は「治療を最後まで頑張りたい」と前向きな姿勢に変化している。しかし、化学療法の副作用や仕事復帰への不安を抱えており、表情が暗くなることもある。特に副作用症状が強い時期や、新たな治療が始まる前には不安が高まる傾向にある。また、「髪の毛が抜けてきた」ことに対するショックも大きく、「外出するのが億劫」と話すなど、ボディイメージの変化に伴う心理的動揺も認められる。
表情については、体調が良い時や家族の面会時には笑顔も見られるが、疲労感が強い時や治療の副作用が出現している時には表情が硬くなり、会話も少なくなる傾向にある。特に、口内炎の痛みがある時には顔をしかめる様子も観察される。
A氏と医療者とのコミュニケーションは基本的に良好であり、質問にも適切に応答することができている。しかし、治療や副作用に関する不安を自発的に表出することは少なく、看護師からの声かけに応じて初めて表出することが多い。このことから、A氏は自分の不安や心配を溜め込む傾向があると考えられる。
以上のアセスメントから、A氏の認知-知覚に関する問題としては、化学療法に伴う末梢神経障害(しびれ感)と治療への不安・ボディイメージの変化が挙げられる。これらの問題に対する看護介入としては、まず末梢神経障害に対しては、症状の程度を定期的に評価し記録することが重要である。具体的には、しびれの部位、程度、持続時間、日常生活への影響などを詳細に把握し、悪化傾向にある場合には早期に医師に報告する。また、安全な日常生活を送るための注意点(熱いものに触れる際の注意、転倒予防など)についても指導する必要がある。
不安やボディイメージの変化に対しては、A氏が自分の気持ちを表出できる機会を意図的に設けることが重要である。治療前後の声かけを増やし、A氏の表情や言動の変化に注意を払いながら、不安や心配事を引き出すよう努める。また、脱毛に対してはウィッグや帽子の活用を提案し、外見の変化に対する心理的サポートを行う。同時に、治療効果が認められていることを伝え、治療への前向きな姿勢を強化することも大切である。
視力については、眼鏡の適切な使用を促進し、眼精疲労を予防するための休息時間の確保や、照明環境の調整などを行う。また、治療に関する説明や薬剤情報などは、文字サイズを大きくした資料を用意するなどの工夫も必要である。
今後も継続的にA氏の認知・知覚機能の変化を観察し、特に化学療法の進行に伴う末梢神経障害の悪化に注意する必要がある。また、治療の長期化に伴う心理的負担の増大も予測されるため、精神面のサポートも継続的に行うことが重要である。自宅療養に向けては、末梢神経障害に対する自己管理方法や、心理的ストレスへの対処法についても指導していくことが求められる。
A氏は65歳の男性で、周囲からは温厚で几帳面な性格であると評価されている。家族からは「頑固」と言われることもあり、自分の考えや生活習慣を大切にする傾向がある。建設会社の営業職として長年勤務してきた経歴から、責任感が強く、社会的役割を重視する価値観を持っていると考えられる。治療に対しても几帳面な性格が表れており、医療者の指示を守ろうとする意識が強い。しかし同時に、治療による生活の変化や制限に対してはストレスを感じている様子も窺える。
ボディイメージについては、化学療法による脱毛の開始に伴い、大きな変化を経験している。「髪の毛が抜けてきた」ことに対するショックを表現し、「外出するのが億劫」と話すなど、外見の変化に伴う心理的動揺が認められる。また、体重減少(入院前72kgから現在68kg)も自己像の変化に影響を与えていると考えられる。入院前は活動的で自立した生活を送っていた自己像から、治療に伴う倦怠感や活動制限により、身体機能の低下を自覚し、自己概念の揺らぎを経験していると推察される。特に男性としての社会的役割(仕事、家族を支える存在)の一時的喪失感は、自己概念に大きな影響を与えていると考えられる。
疾患に対する認識については、診断当初は「なぜ自分が」という否認的な気持ちを抱いていたが、現在は「治療を最後まで頑張りたい」と疾患と向き合う前向きな姿勢に変化している。特に2クール終了後の効果判定で腫瘍縮小が確認されてからは、「治療の効果が出ていて安心した」と、治療効果を実感し、病気を受容しつつある段階と考えられる。しかし同時に、「仕事に復帰できるか心配」という発言も見られ、疾患が今後の生活に与える影響に対する不安も持ち合わせている。悪性リンパ腫という病名に対する理解や、治療による副作用についての知識は徐々に深まっているが、長期的な予後や生活への影響についての認識は十分ではない可能性がある。
自尊感情については、職業人としての自己価値観が強かったA氏にとって、休職状態にあることは自尊感情の低下要因となっている可能性がある。また、脱毛などの外見の変化や、治療による身体機能の低下も自尊感情に影響を与えていると考えられる。一方で、治療に前向きに取り組む姿勢や、家族のサポートを受けながら治療を続ける自分自身に対して、新たな自己価値を見出している面もある。「治療を頑張ることで家族に安心してもらいたい」という発言からは、家族内での役割や存在意義を大切にする価値観が窺える。
A氏の育った文化的背景や周囲の期待に関する情報は限られているが、65歳という年齢から、戦後の経済成長期に青年期を過ごした世代であり、勤勉さや忍耐強さを美徳とする価値観の影響を受けている可能性がある。また、「男性は家族を支える存在であるべき」という伝統的な性役割観を内在化している可能性も考えられる。このような価値観が、病気による社会的役割の喪失や依存状態に対する葛藤を強めている可能性がある。家族からの期待としては、妻が「夫の体調が一番心配」と話し、娘も「父には元気になってもらいたい」と述べているように、A氏の回復を強く望んでいることが窺える。このような期待に応えたいという気持ちが、A氏の治療への前向きな姿勢につながっている一方で、期待に沿えない場合の心理的負担にもなり得る。
以上のアセスメントから、A氏の自己知覚-自己概念に関する問題として、化学療法に伴う外見の変化(脱毛)によるボディイメージの混乱と、職業的役割の喪失による自己概念の揺らぎが挙げられる。これらの問題に対する看護介入としては、まずA氏が自己の感情や思いを表出できる環境を整えることが重要である。治療の進行に伴う身体的・心理的変化について、定期的な対話の機会を設け、A氏の思いを傾聴することで、自己概念の再構築を支援する。
ボディイメージの変化に対しては、脱毛に対するウィッグや帽子の活用を提案するとともに、外見の変化は一時的なものであることを伝え、心理的サポートを行う。また、同じ治療を経験している患者との交流の機会を提供することも有効である。
自己概念の揺らぎに対しては、A氏の強みや資源(几帳面さ、責任感の強さなど)を認識し、それらを治療過程に活かす方法を一緒に考える。例えば、治療スケジュールの自己管理や、副作用対策の工夫など、A氏が主体的に取り組める課題を設定することで、コントロール感と自己効力感を高める支援を行う。
また、家族とのコミュニケーションを促進し、A氏の気持ちや考えを家族と共有する機会を設けることも重要である。特に、家族の期待に応えなければならないというプレッシャーが強い場合には、家族も含めた対話の場を設け、互いの思いや期待を適切に表現し調整できるよう支援する。
今後も継続的にA氏の自己概念の変化を観察し、特に治療の長期化や外来治療への移行に伴う変化に注意する必要がある。自宅療養への移行期には、社会的役割の再獲得や、新たな自己像の構築を支援するためのアプローチも検討していくことが求められる。
A氏は建設会社の営業職として長年勤務してきたが、悪性リンパ腫の診断を受けて現在は休職中である。職場での役割や立場に関する詳細な情報は不足しているが、65歳という年齢から定年間近であることが推測される。A氏は「仕事に復帰できるか心配」と発言しており、職業人としての役割に強い価値を置いていることが窺える。営業職としての対人関係能力や責任感の強さは、入院生活においても医療者とのコミュニケーションが良好であることに影響していると考えられる。一方で、休職によって社会的つながりが減少し、役割喪失感を抱えている可能性がある。治療の終了時期や予後の見通しが不明確な中で、職場復帰への不安が心理的負担となっていると考えられる。
家族関係については、A氏は妻(62歳)と二人暮らしであり、娘(38歳)は隣市に在住している。キーパーソンは妻であり、妻は毎日面会に訪れている。妻は「夫の体調が一番心配」と話し、積極的に治療や看護に協力的である。また、「自宅で療養する際にも適切なケアができるか不安」と看護師に相談するなど、介護者としての役割を意識し、知識や技術の獲得に前向きである。娘も「父には元気になってもらいたい」と話し、仕事の調整をして月に1~2回程度訪問しており、家族の結束が治療継続の大きな支えとなっている。A氏にとって、家族内での役割は「夫」「父親」としての役割だけでなく、これまで「家族の経済的支持者」「家庭の中心的存在」としての役割も担ってきたと推測される。疾患によりこれらの役割の一部が果たせなくなっていることが、A氏のアイデンティティに影響を与えている可能性がある。
経済状況については具体的な情報が不足しているが、建設会社の営業職としての勤務歴から、一定の収入があったと推測される。現在は休職中であり、傷病手当金や健康保険、高額療養費制度などの社会保障制度を利用していると考えられるが、詳細は不明である。経済的な心配について直接的な発言は記録されていないが、長期治療による経済的負担が家族に及ぼす影響を懸念している可能性がある。特に、外来治療への移行を検討している時期であり、通院や在宅療養に伴う経済的負担の増加が予測されるため、経済面での評価と支援が必要である。
A氏の年齢を考慮すると、定年退職を控えた時期であり、社会的役割の移行期にあると考えられる。この時期に重篤な疾患を経験することによる役割変化や将来への不安が増強しやすい。また、65歳という年齢は老年期への移行期でもあり、身体機能の変化と疾患による制限が重なることで、役割遂行能力の低下に対する不安を抱えやすい時期でもある。
以上のアセスメントから、A氏の役割-関係に関する問題として、休職による職業的役割の喪失と、疾患による家族内役割の変化、そして外来治療移行に伴う経済的懸念が挙げられる。これらの問題に対する看護介入としては、まず職業的役割の喪失に対しては、A氏の職場復帰への思いを傾聴し、現実的な見通しについて医師と連携して情報提供を行うことが重要である。また、治療中でも可能な社会的活動や趣味活動を支援することで、新たな役割や生きがいの発見を促す。
家族内役割の変化に対しては、A氏と家族の間で役割調整が円滑に行われるよう支援する。具体的には、家族面談の機会を設け、A氏の治療状況や今後の見通し、自宅療養時に家族が担う役割などについて話し合いの場を提供する。特に妻に対しては、介護者としての役割を担う上での不安や疑問に対応し、具体的なケア方法の指導や情報提供を行う。また、必要に応じて地域の介護サービスなどの社会資源の活用についても情報提供を行う。
経済的懸念に対しては、医療ソーシャルワーカーと連携し、A氏と家族の経済状況を詳細に評価する必要がある。高額療養費制度や傷病手当金など、利用可能な社会保障制度の情報提供や申請支援を行う。また、外来治療への移行に伴う経済的負担(交通費、薬剤費など)についても評価し、必要に応じて経済的支援の方法を検討する。
今後も継続的にA氏と家族の役割関係の変化を観察し、特に外来治療への移行期には、自宅での役割調整がどのように行われているかを評価する必要がある。また、治療の進行に伴う身体機能の変化や症状の出現によって、役割遂行能力が変化する可能性もあるため、定期的な再評価と支援の調整が求められる。家族の介護負担が過度に増大しないよう、家族全体をサポートする視点も重要である。
A氏は65歳の男性であり、妻(62歳)との二人暮らしである。38歳の娘が隣市に在住し、月に1~2回程度訪問している。性に関する具体的な情報は現在のところ収集されていないが、前立腺肥大症の既往があり、タムスロシン0.2mgを服用中である。この疾患は男性の加齢に伴って発症率が高まる疾患であり、排尿障害(夜間頻尿2~3回)の原因となっている。A氏の年齢を考慮すると、加齢に伴う男性ホルモンの減少(男性更年期)による症状を経験している可能性もあるが、それに関する具体的な情報は得られていない。
また、A氏は現在、悪性リンパ腫に対するR-CHOP療法による化学療法を受けており、この治療は生殖機能や性機能に影響を与える可能性がある。特に、化学療法による疲労感や倦怠感、脱毛などの外見の変化は、性的自己概念やボディイメージに影響を与え、性生活にも間接的に影響する可能性がある。A氏からは「髪の毛が抜けてきた」ことに対するショックや「外出するのが億劫」との発言があり、ボディイメージの変化による心理的影響が窺える。
さらに、入院生活という環境的制約や、治療に伴う身体的苦痛(口内炎、倦怠感など)も、性生活を含む夫婦関係に影響を与える可能性がある。妻は毎日面会に訪れ、A氏の治療に協力的であるが、二人の関係性や性に関する考え方、悩みなどについての情報は不足している。
性と生殖に関する情報収集は、プライバシーに関わる繊細な領域であり、患者が話しやすい環境や信頼関係の構築が前提となる。現時点では具体的な情報が不足しているため、適切な時期と方法で、A氏の性に関する懸念や問題について情報収集を行う必要がある。特に、治療が性機能に与える影響についての認識や、夫婦関係の変化に対する思いなどを把握することが重要である。
65歳という年齢を考慮すると、加齢に伴う生理的変化として、性機能の緩やかな低下が起こっている可能性がある。これに加えて、糖尿病や高血圧といった既往疾患、および使用している薬剤(降圧剤など)も性機能に影響を与える可能性がある。さらに、悪性リンパ腫という生命を脅かす疾患に罹患したことによる心理的影響や、治療による身体的変化も、性的自己概念や性行動に大きな影響を与えると考えられる。
看護介入としては、まず信頼関係の構築を基盤とし、A氏が性に関する懸念や問題を表出しやすい環境を整えることが重要である。具体的には、プライバシーが確保された場所での会話の機会を設け、必要に応じて性に関する情報提供や相談に応じることができることを伝える。特に、化学療法が性機能に与える可能性のある影響(性欲減退、勃起障害など)や、それに対する対処法について、適切な時期に情報提供を行うことも重要である。
また、A氏と妻の関係性に配慮し、必要に応じて夫婦での面談の機会を設けることも検討する。疾患や治療に伴う身体的・心理的変化が夫婦関係に与える影響について話し合い、互いの理解と支援を促進する。特に、親密さや絆の維持には性行為だけでなく、触れ合いやコミュニケーションなど多様な方法があることを伝え、二人の関係性を支援する。
さらに、前立腺肥大症による排尿症状が日常生活や性生活に与える影響についても評価し、症状管理のための支援を行う。症状が悪化している場合には、泌尿器科との連携も検討する。
今後も継続的に、A氏の治療の進行に伴う身体的・心理的変化を観察し、必要に応じて性に関する懸念や問題について話し合う機会を設ける。特に外来治療への移行時には、自宅での生活や夫婦関係の変化についても評価し、適切な支援を提供することが重要である。しかし、あくまでもA氏のプライバシーと意思を尊重し、A氏が話したくない場合には無理に介入しないよう配慮する必要がある。
A氏は2月15日から悪性リンパ腫の化学療法のため入院している。入院環境については、プライバシーが保たれる個室または少人数部屋での療養と推測されるが、入院期間が1か月を超える長期化により、環境への適応と同時に不自由さやストレスも感じ始めていると考えられる。特に夜間の頻尿やバイタルサイン測定による睡眠中断、他患者の音や病院特有の臭い、限られた空間での生活など、入院環境特有のストレス要因が存在している。A氏は几帳面な性格であることから、病院という管理された環境の中で自分のペースが保てないことにストレスを感じている可能性がある。
仕事や生活面でのストレス状況については、A氏は建設会社の営業職として勤務していたが、現在は病気のため休職中であり、「仕事に復帰できるか心配」という発言からは、職業的アイデンティティの喪失や将来への不安を抱えていることが窺える。営業職という対人関係を重視する職種であったことから、入院による社会的交流の減少もストレス要因となっている可能性がある。また、化学療法による副作用(脱毛、口内炎、倦怠感)も大きな身体的・心理的ストレスとなっている。特に「髪の毛が抜けてきた」ことに対するショックや「外出するのが億劫」という発言からは、外見の変化によるボディイメージの混乱がストレスとなっていることが分かる。
A氏のストレス対処(コーピング)方法としては、入院前は神社仏閣を訪れることが趣味の一つであったことが分かっている。しかし現在の入院中のストレス発散方法に関する具体的な情報は限られている。病室でテレビを見たり、新聞や雑誌を読んだりして過ごしていることが分かっているが、これらが効果的なストレス発散になっているかは不明である。また、妻や娘との面会時には笑顔も見られることから、家族との交流がストレス軽減に役立っていると考えられる。身体的なストレス発散方法(運動など)については情報が不足しており、化学療法による倦怠感が強い時期には身体活動も制限されていると推測される。
家族のサポート状況については、妻が毎日面会に訪れ、積極的に治療や看護に協力的である点から、強力なサポート体制が構築されていることが分かる。妻は「夫の体調が一番心配」と話し、自宅療養に向けてケア方法について看護師に相談するなど、介護者としての役割を前向きに受け入れている。また、娘も月に1~2回訪問するなど、可能な範囲でサポートを提供している。このような家族の結束がA氏の治療継続の大きな支えとなっており、心理的安定をもたらしている。一方で、A氏は自分が家族に負担をかけることへの罪悪感や申し訳なさを感じている可能性もあり、これが新たなストレス要因となっている可能性も考慮する必要がある。
A氏の生活の支えとなるものとしては、上記の家族の存在に加え、治療の効果が確認されたことによる回復への希望が重要な心理的支柱となっている。「治療の効果が出ていて安心した」という発言からは、治療効果の実感が精神的な支えとなっていることが分かる。また、医療者との信頼関係も重要な支えとなっており、A氏は医療者の説明をよく理解し、治療に協力的である。しかし、趣味や生きがい、信仰など、より広範な精神的支柱に関する情報は不足しており、これらに関する詳細な情報収集が必要である。
65歳という年齢を考慮すると、加齢に伴いストレス対処能力にも変化が生じている可能性がある。一般的に高齢者は若年者と比較して、ストレスフルな状況に対する心理的適応能力が高いとされる一方で、新たな対処戦略の獲得や環境変化への適応には時間を要する傾向がある。また、A氏の場合、これまでの人生経験や培ってきた価値観が、疾患や治療に対する意味づけやストレス対処に影響を与えていると考えられる。
以上のアセスメントから、A氏のコーピング-ストレス耐性に関する問題として、長期入院と化学療法による心身の苦痛、仕事の中断と将来への不安、そして効果的なストレス発散手段の制限が挙げられる。これらの問題に対する看護介入としては、まずA氏のストレスを引き起こしている要因を特定し、可能な限り軽減することが重要である。具体的には、化学療法の副作用管理(口内炎の緩和、倦怠感対策など)を徹底し、身体的苦痛を最小限に抑える。
また、A氏のストレス対処能力を強化するための支援も重要である。入院中でも実施可能なストレス発散方法(音楽鑑賞、読書、軽い運動など)を一緒に検討し、導入を促す。特に、A氏の趣味であった神社仏閣巡りに替わる、スピリチュアルな充足感が得られる活動(写真集や旅行記の閲覧、瞑想など)を提案することも有効かもしれない。
家族とのコミュニケーションを促進し、面会時間を有意義に過ごすための環境調整も重要である。また、同じ疾患や治療を経験している患者同士の交流の機会を提供することで、情報共有や情緒的サポートを得られる場を設けることも検討する。
さらに、A氏の強みや資源(几帳面さ、家族のサポート、治療効果の実感など)を認識し、それらを活かしたストレス対処を支援する。具体的には、治療スケジュールの見える化や、回復過程の記録など、A氏の几帳面さを活かした取り組みを提案する。
今後も継続的にA氏のストレス状態と対処方法を観察し、特に治療の進行や外来治療への移行に伴う変化に注目する必要がある。また、自宅療養に向けては、職場復帰の可能性や社会的役割の再構築についても考慮し、A氏と家族が適切にストレスに対処できるよう支援することが求められる。
A氏は特定の宗教的信仰を持っているという明確な情報はないが、神社仏閣を訪れることが趣味の一つであることから、日本の伝統的な宗教観や文化に親しみを持っていることが推察される。日本人の多くがそうであるように、特定の宗教に深く帰依しているというよりは、神社仏閣での祈りや参拝を通じて心の安寧や生活の節目を感じる習慣を持っている可能性がある。この習慣は、A氏にとって精神的な支えやストレス発散の手段となっていると考えられるが、入院によりその機会が失われていることで、精神的な充足感が得られにくくなっている可能性がある。
A氏の意思決定を左右する価値観や信念については、いくつかの発言や行動から推測することができる。「治療を最後まで頑張りたい」「仕事に復帰できるか心配」という発言からは、責任感や勤勉さを重んじる価値観が窺える。また、建設会社の営業職として長年勤務してきた経歴や、「頑固」と家族から言われる性格からは、仕事や社会的役割を重視し、自分の信念を持って行動する傾向があると推測される。65歳という年齢を考慮すると、日本の高度経済成長期に青年期を過ごした世代であり、勤勉さや忍耐強さ、集団への貢献を美徳とする価値観の影響を受けていると考えられる。
また、家族との関係性においても重要な価値観が見られる。妻が毎日面会に訪れ、娘も月に1~2回訪問するなど家族の結束が強く、A氏にとって家族は重要な価値であると推測される。「治療の効果が出ていて安心した」という発言からは、家族を心配させまいとする気持ちや、家族のために回復したいという思いが背景にあると考えられる。
目標については、短期的には「治療を完遂する」ことが明確な目標となっている。特に2クール終了後の効果判定で腫瘍縮小が確認されたことで、治療の継続に対する意欲が強化されている。中長期的には「仕事に復帰する」ことや、妻の発言にある「夫が元気になって趣味の釣りに行けるようになる」ことが目標として挙げられる。これらの目標は、A氏にとって「通常の生活に戻る」という大きな願いの表れであると理解できる。
しかし、悪性リンパ腫という生命を脅かす疾患に直面していることで、A氏の価値観や人生観に変化が生じている可能性もある。診断当初は「なぜ自分が」という否認的な気持ちを抱いていたが、治療の中で徐々に受容し、前向きな姿勢へと変化している過程は、人生や健康に対する価値観の再評価が行われている可能性を示唆している。しかし、このような深い内面の変化に関する情報は不足しており、A氏の人生観や死生観、病気の経験を通じて変化した価値観などについて、さらに詳細な情報収集が必要である。
加齢に伴い、価値観や信念にも変化が生じうることを考慮する必要がある。高齢期には、これまでの人生経験の統合や意味づけが行われ、次世代への継承や自己超越的な価値観が形成されるとされる。A氏の場合、65歳という年齢は高齢期への移行期であり、疾患の経験を通じて、生きる意味や目的、残された時間の使い方などについて再考する機会となっている可能性がある。
以上のアセスメントから、A氏の価値-信念に関する問題として、疾患による生活や人生目標の中断と、入院による精神的支えとなる習慣(神社仏閣訪問など)の喪失が挙げられる。これらの問題に対する看護介入としては、まずA氏の価値観や信念、人生目標について理解を深めるための対話の機会を設けることが重要である。特に、病気の経験を通じて変化した価値観や、今後の人生において大切にしたいことなどについて、A氏が表現できる場を提供する。
精神的な支えとなる習慣の代替手段として、病室での祈りや瞑想、心の安らぎを得られる音楽や読書など、入院中でも実践可能な方法を提案する。また、可能であれば病院の礼拝堂や庭園など、静かに思索できる空間の利用を勧めることも有効である。
A氏の目標達成を支援するためには、治療の進捗状況や効果を定期的に共有し、見通しを持って治療に取り組めるよう支援する。また、仕事復帰や日常生活の再開に向けた具体的な準備や計画を一緒に考えることで、将来への希望を維持できるよう支援する。
さらに、家族との価値観の共有や意思決定のプロセスを支援することも重要である。特に、治療の選択や今後の生活について家族間で話し合いが持てるよう、適切な場と情報を提供する。
今後も継続的にA氏の価値観や信念、目標の変化を観察し、特に治療の進行や外来治療への移行に伴う変化に注目する必要がある。A氏が自分の価値観や信念に基づいた意思決定ができるよう支援し、病気の経験を通じた人生の意味や目的の再構築を促進することが求められる。
看護計画
看護問題
疾患(悪性リンパ腫)の治療(R-CHOP療法)に伴う骨髄抑制に関連した感染リスク状態
長期目標
患者は6クール目の化学療法終了時まで、重篤な感染症を発症することなく治療を完遂できる
短期目標
患者は3クール目の化学療法後(Nadir期)に、発熱や感染徴候なく経過できる
≪O-P≫観察計画
・バイタルサインの変化(特に体温37.5℃以上、血圧低下、脈拍・呼吸数増加)を1日3回確認する
・白血球数と好中球数の推移を確認する
・化学療法後7~14日目の骨髄抑制期(Nadir期)の症状を重点的に観察する
・口腔内の状態(発赤、潰瘍、白苔の有無)を毎日観察する
・皮膚の発赤、腫脹、熱感、痛みの有無を確認する
・咳嗽、痰、呼吸音の変化の有無を観察する
・排尿時の痛み、頻尿、混濁の有無を確認する
・下痢、腹痛などの消化器症状の有無を観察する
・面会者の健康状態を確認する
・血液検査データ(特にCRP値の上昇)を確認する
≪T-P≫援助計画
・訪室時や処置前後には手指消毒を徹底する
・環境整備を1日2回行い、病室内の清潔を保持する
・好中球減少時(1000/μL未満)は必要に応じて防護環境を整える
・口腔ケアを毎食後と就寝前に実施するよう促す
・シャワー浴や清拭を通して皮膚の清潔を保持する
・リネン交換を週2回以上実施し、寝具の清潔を保持する
・排泄後の手洗いを徹底するよう声かけする
・感染兆候出現時には速やかに医師に報告する
・好中球減少時には生花や植木鉢を病室から遠ざける
・室温20~24℃、湿度50~60%の快適な療養環境を維持する
≪E-P≫教育・指導計画
・化学療法後の骨髄抑制について(時期、症状、期間)説明する
・手洗い・うがいの重要性と正しい方法を指導する
・発熱や感染症状(咳、痰、排尿痛など)出現時の報告方法を説明する
・外来治療移行時の生活上の注意点(人混みを避ける、マスク着用など)を説明する
・清潔保持の方法(口腔ケア、シャワー、下着交換など)を指導する
・栄養バランスの良い食事と十分な水分摂取の重要性を説明する
看護問題
疾患の治療に伴う口内炎・食欲低下に関連した栄養摂取不足
長期目標
患者は治療完遂までに体重減少を最小限(現在の体重の5%以内)に抑え、必要栄養量を摂取できる
短期目標
患者は3クール目の化学療法後1週間以内に、1日の食事摂取量を8割以上確保できる
≪O-P≫観察計画
・食事摂取量(割合)と内容を毎食確認する
・口内炎の程度(部位、大きさ、痛みの程度)を毎日評価する
・体重の変化を週2回測定する
・嘔気・嘔吐の頻度と程度を確認する
・患者の食事に対する嗜好や希望を把握する
・水分摂取量を記録する
・味覚の変化の有無を確認する
・血液データ(アルブミン、総蛋白、ヘモグロビン値)を確認する
・口腔内の乾燥状態を観察する
・排便状況(回数、性状)を確認する
≪T-P≫援助計画
・食事前に含嗽を促し、口腔内を清潔に保つ
・食事環境を整え、臭いや音などの不快刺激を減らす
・口内炎の痛みがある時には、冷たい食事や柔らかい食事を提供する
・少量頻回の食事摂取ができるよう、間食を準備する
・患者の嗜好に合わせた食事内容の調整を栄養科に依頼する
・食事摂取が困難な時は医師と相談し、栄養補助食品を検討する
・食前30分に制吐剤の内服を確認する
・食事の時間帯を体調の良い時間に合わせて調整する
・疲労感がある時には食事介助を行う
・良好な姿勢(ベッド上30~45度)で食事ができるよう支援する
≪E-P≫教育・指導計画
・口内炎の予防と対処法(適切な口腔ケア、柔らかい歯ブラシの使用)を説明する
・栄養価の高い食品の選択方法を説明する
・少量頻回食の有効性について説明する
・口内炎がある時に食べやすい食品と避けるべき食品について説明する
・栄養補助食品の適切な使用方法を指導する
・自宅療養時の食事の工夫について家族を含めて指導する
看護問題
疾患の治療(化学療法)に伴う倦怠感と治療の長期化に関連した不安・心理的ストレス
長期目標
患者は治療完遂までに、治療の見通しを理解し、精神的安定を保ちながら治療に取り組むことができる
短期目標
患者は3クール目の化学療法終了後1週間以内に、自分の気持ちや不安を表出し、ストレス対処法を1つ以上実践できる
≪O-P≫観察計画
・表情や言動から不安やストレスの程度を観察する
・睡眠状態(入眠困難、中途覚醒の有無)を確認する
・治療や予後に関する質問内容から患者の関心や不安を把握する
・家族との関わり方や面会時の様子を観察する
・脱毛など外見の変化に対する反応を確認する
・倦怠感の程度とその変動を観察する
・日中の活動状況や休息のとり方を観察する
・趣味や興味のある活動への参加状況を確認する
・気分の変動(特に落ち込みや焦り)を観察する
・コミュニケーションの積極性の変化を観察する
≪T-P≫援助計画
・定期的に患者の話を傾聴する時間を確保する
・患者が質問しやすい環境を作り、疑問に丁寧に応える
・治療の経過や効果について分かりやすく説明する
・脱毛に対してはウィッグや帽子の選択肢を提案し準備する
・倦怠感の強い時期には日常生活援助を積極的に行う
・適度な休息と活動のバランスが取れるよう日課を調整する
・家族との面会時間を確保し、プライバシーに配慮する
・同じ治療を受けている患者との交流の機会を提案する
・リラクセーション法(深呼吸、音楽鑑賞など)を紹介する
・患者の趣味(神社仏閣訪問など)に代わる院内でできる活動を提案する
≪E-P≫教育・指導計画
・化学療法の副作用(特に脱毛、倦怠感)の一時的性質について説明する
・ストレス対処法(深呼吸法、気分転換方法など)を指導する
・適切な活動と休息のバランスの取り方を説明する
・睡眠の質を高める方法(就寝前のルーティン確立など)を説明する
・家族に患者の心理状態への理解と支援方法を説明する
・治療に関する情報を得るための信頼できる資源を紹介する
この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
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