【疾患解説】心筋梗塞

疾患解説

疾患概要

定義

心筋梗塞とは、冠動脈の閉塞により心筋組織への血流が途絶え、心筋細胞が壊死に陥る疾患ですね。急性心筋梗塞(AMI:Acute Myocardial Infarction)とも呼ばれ、生命に直結する緊急疾患として位置づけられています。冠動脈疾患の中でも最も重篤な病態で、迅速な診断と治療が患者の予後を大きく左右します。

疫学

日本では年間約15万人が心筋梗塞を発症しており、男性は50代から、女性は60代から発症率が急増する傾向にあります。男性の発症率は女性の約2〜3倍と高く、これは女性ホルモンによる血管保護作用が関係していると考えられています。近年、食生活の欧米化やストレス社会の影響で、比較的若い世代での発症も増加傾向にあるのが現状です。

原因

心筋梗塞の主な原因は動脈硬化による冠動脈の狭窄・閉塞です。動脈硬化を促進する危険因子として、高血圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙が「4大危険因子」と呼ばれています。その他にも肥満、運動不足、過度のストレス、家族歴なども重要な要因となります。また、動脈硬化巣(プラーク)の破綻により血栓が形成され、冠動脈を完全に閉塞することで心筋梗塞が発症するメカニズムが解明されています。

病態生理

冠動脈の閉塞により、その血管が供給していた心筋領域への酸素と栄養の供給が停止します。心筋細胞は約20分間の虚血で不可逆的な壊死が始まり、時間の経過とともに壊死範囲が拡大していきます。この過程を「時間は心筋」と表現し、迅速な再灌流治療の重要性を示しています。壊死した心筋は収縮能を失い、心機能低下や不整脈、心破裂などの重篤な合併症を引き起こす可能性があります。

症状・診断・治療

症状

典型的な症状は胸部の激しい圧迫感や締めつけ感で、「胸の上に重い石を乗せられたような感じ」と表現されることが多いですね。疼痛は30分以上持続し、安静にしても軽減しないのが特徴です。放散痛として左肩、左腕、顎、背中への痛みを伴うこともあります。その他、冷汗、悪心・嘔吐、呼吸困難、意識障害などの症状も現れます。ただし、糖尿病患者や高齢者では無痛性心筋梗塞もあり、倦怠感や呼吸困難のみで発症する場合もあるため注意が必要です。

診断

診断は主に心電図、血液検査、心エコー検査を組み合わせて行います。心電図ではST上昇や異常Q波の出現が特徴的で、梗塞部位により特定の誘導で変化が現れます。血液検査では心筋逸脱酵素(CK-MB、トロポニンI・T)の上昇を確認し、特にトロポニンは高感度で特異性が高い指標として重要視されています。心エコー検査では壁運動異常を評価し、冠動脈造影検査で確定診断と治療方針を決定します。

治療

治療の基本方針は可能な限り迅速な再灌流療法です。発症から12時間以内であれば、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)が第一選択となります。PCIが実施できない場合は血栓溶解療法を行います。同時に抗血小板薬、抗凝固薬、β遮断薬、ACE阻害薬などの薬物療法を併用し、心筋保護と再梗塞予防を図ります。急性期を脱した後は、心臓リハビリテーションと生活習慣の改善による二次予防が重要になります。

看護アセスメント・介入

よくある看護診断・問題

・急性疼痛(胸痛)
・心拍出量減少
・活動耐性低下
・不安
・知識不足(疾患・治療に関する)
・セルフケア不足
・感染リスク状態
・皮膚統合性障害リスク状態(安静臥床による)
・便秘
・睡眠パターン混乱

ゴードンのポイント

健康知覚・健康管理パターンでは、患者の疾患に対する理解度と治療への協力度を評価することが重要です。多くの患者は突然の発症により混乱状態にあり、病状や治療に関する十分な理解ができていない状況にあります。また、今後の生活への不安や再発への恐怖を抱いているため、段階的で適切な情報提供と心理的支援が必要になります。

活動・運動パターンでは、急性期の安静度制限から段階的な活動拡大への移行を慎重に評価する必要があります。心機能の状態に応じて活動レベルを調整し、過度の負荷による症状悪化や再梗塞を予防しながら、廃用症候群の発生も防がなければなりません。

栄養・代謝パターンでは、心筋梗塞後の代謝需要の変化と食事制限の必要性を考慮した栄養管理が求められます。塩分制限、脂質制限を含む心疾患食への理解と実践能力の評価も重要な要素となります。

ヘンダーソンのポイント

呼吸のニードについては、心機能低下により呼吸困難が生じやすい状態にあるため、呼吸状態の継続的な観察と適切な体位保持が必要です。酸素療法が実施されている場合は、酸素濃度と患者の反応を細かく評価し、離脱に向けた段階的な調整を行います。

循環のニードでは、心電図モニタリングによる不整脈の早期発見と、血圧・脈拍の変動を通じた循環動態の評価が中心となります。特に心原性ショックや不整脈による突然死のリスクが高い急性期には、24時間体制での厳重な監視が不可欠です。

活動と休息のニードでは、心機能に応じた適切な活動レベルの設定と、十分な休息の確保のバランスを取ることが重要です。段階的な活動拡大により心機能の改善を図りながら、過労による症状悪化を防ぐ必要があります。

看護計画・介入の内容

・継続的心電図モニタリングと不整脈の早期発見・対応
・バイタルサイン測定と循環動態の評価(血圧、脈拍、呼吸、体温、尿量)
・胸痛の評価とスケールを用いた疼痛管理
・医師指示による段階的活動拡大の実施と患者反応の観察
・心疾患食の提供と栄養指導の実施
・便秘予防のための腹部マッサージと下剤使用の検討
・深部静脈血栓症予防のための下肢マッサージと弾性ストッキング着用
・患者・家族への疾患説明と退院指導の実施
・心理的支援とコーピング能力の向上支援
・感染予防対策の徹底(中心静脈カテーテル管理等)
・薬物療法の効果と副作用の観察
・心臓リハビリテーションへの参加促進と指導

よくある疑問・Q&A

Q: 心筋梗塞の患者さんが「胸が痛い」と訴えた時、どのような情報を聞き取ればよいでしょうか?

A: 疼痛の評価では「PQRST」の枠組みを使用します。P(誘発・軽減因子):何をした時に痛くなるか、安静で軽減するか。Q(性質):締めつけられるような痛みか、刺すような痛みか。R(放散):肩や腕、顎への痛みはあるか。S(強度):10段階スケールでの評価。T(時間):いつから始まったか、持続時間はどのくらいか。これらの情報を系統的に収集することで、狭心症との鑑別や治療効果の判定に役立ちます。

Q: 心筋梗塞後の患者さんの活動制限はなぜ必要なのでしょうか?

A: 心筋梗塞により心筋の一部が壊死すると、残存する健常な心筋への負担が増加します。急性期に過度の活動を行うと、心筋酸素消費量が増加し、残存心筋への負荷が過大となって心機能のさらなる悪化や不整脈を誘発する可能性があります。段階的な活動拡大により心筋の修復過程を妨げることなく、徐々に心機能の改善を図ることができるのです。

Q: 心筋梗塞の患者さんから「もう普通の生活はできないのか」と質問された場合、どのように答えればよいでしょうか?

A: 「心筋梗塞後も適切な治療と生活管理により、多くの方が社会復帰を果たしています」と希望を持てるような情報提供から始めましょう。具体的には、薬物療法の継続、定期的な検査、心臓リハビリテーションへの参加、生活習慣の改善により、心機能の改善と再発予防が可能であることを説明します。ただし、個人差があるため、主治医と相談しながら段階的に活動を拡大していく必要があることも併せて伝えることが大切です。

Q: 心筋梗塞の予防について患者さんや家族に指導する際のポイントは何でしょうか?

A: 危険因子の管理が最も重要です。禁煙、血圧・血糖・コレステロール値の適正化、適度な運動習慣、ストレス管理、適正体重の維持を具体的に説明します。特に「一次予防」(初回発症予防)と「二次予防」(再発予防)では重要度が異なることを強調し、心筋梗塞既往者では薬物療法の継続と生活習慣管理がより厳格に必要であることを説明します。また、胸痛などの前兆症状が現れた際の対応方法についても指導することが重要です。

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この記事の執筆者

なっちゃん
なっちゃん

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり

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