【血小板減少症】疾患解説と看護の要点

疾患解説

疾患概要

定義

血小板減少症とは、血中の血小板数が正常値(15-40万/μL)を下回る状態です。一般的に血小板数10万/μL未満を血小板減少症と定義し、5万/μL未満では出血傾向が明らかとなり、1万/μL未満では重篤な自然出血のリスクが高くなります。血小板は止血機能において重要な役割を果たすため、血小板減少により様々な程度の出血症状が出現します。

疫学

血小板減少症の頻度は原因により大きく異なります。最も頻度の高い特発性血小板減少性紫斑病(ITP)の発症率は年間10万人あたり約3-4人で、小児と成人女性に多く見られます。小児では感染後に急性発症することが多く、成人では慢性経過を辿ることが一般的です。

薬剤性血小板減少症も比較的頻度が高く、ヘパリン、キニン、サルファ剤、抗けいれん薬などが原因となります。血液疾患に伴う血小板減少症では、白血病、再生不良性貧血、骨髄異形成症候群などで認められます。高齢化により薬剤性続発性の血小板減少症が増加傾向にあります。

原因

血小板減少症の原因は産生低下、破壊亢進、分布異常、希釈に分類されます。産生低下では、骨髄での血小板産生が障害され、原因として骨髄不全(再生不良性貧血、急性白血病)、抗がん剤・放射線治療、ビタミンB12・葉酸欠乏、アルコール性骨髄抑制などがあります。

破壊亢進では血小板の寿命が短縮し、免疫性(ITP、薬剤性、輸血後紫斑病)と非免疫性(DIC、TTP、HUS、脾機能亢進症)に分けられます。分布異常では脾腫により血小板が脾臓に捕捉されることで循環血中の血小板が減少します。

希釈性血小板減少症は大量輸血や体外循環により血小板が希釈されることで生じます。偽性血小板減少症では、EDTA依存性血小板凝集により見かけ上血小板が減少して見えますが、実際の出血傾向はありません。

病態生理

血小板は骨髄の巨核球から産生され、正常では8-10日間循環した後、主に脾臓で破壊されます。血小板の主要な機能は一次止血で、血管内皮の損傷部位に粘着・凝集して血小板血栓を形成し、出血を止めます。

血小板減少により一次止血機能が障害されると、皮膚・粘膜出血が主体となる出血症状が現れます。これは凝固因子異常による出血(関節内出血、筋肉内血腫など)とは異なる特徴的な出血パターンです。

血小板数と出血リスクには相関があり、5-10万/μLでは外傷時出血が遷延し、2-5万/μLでは軽微な外傷でも出血しやすく、1万/μL未満では自然出血(特に脳出血)のリスクが高くなります。ただし、慢性の血小板減少では代償機序により、同じ血小板数でも急性減少より出血傾向は軽度となることがあります。


症状・診断・治療

症状

血小板減少症の症状は出血症状が中心となります。皮膚症状として、点状出血(petechiae)、紫斑(purpura)、皮下出血が見られ、特に下肢に多発する点状出血は血小板減少の特徴的な所見です。外傷部位での出血が止まりにくく、軽微な打撲でも大きな皮下血腫を形成することがあります。

粘膜出血として、鼻出血、歯肉出血、口腔内出血が頻繁に見られます。消化管出血では吐血、下血、黒色便が、泌尿器出血では血尿が出現します。女性では月経過多が重要な症状となります。

重篤な出血として、脳出血は最も危険な合併症で、頭痛、意識障害、神経症状で発症します。網膜出血では視野欠損や視力低下を、肺出血では呼吸困難や血痰を呈します。血小板数が1万/μL未満では、これらの重篤な自然出血のリスクが急激に高まります。

原因疾患の症状として、発熱(血液疾患、感染症)、リンパ節腫脹(白血病、リンパ腫)、脾腫(肝硬変、血液疾患)なども重要な所見です。

診断

診断は血液検査が中心となります。血小板数の測定では自動血球計数器を用いますが、偽性血小板減少症を除外するため、血液塗抹標本での確認も重要です。血小板のサイズも診断の手がかりとなり、大型血小板の増加は破壊亢進を、小型血小板の増加は産生低下を示唆します。

骨髄検査では巨核球数を評価し、産生低下型(巨核球減少)と破壊亢進型(巨核球正常・増加)を鑑別します。血小板関連抗体(PAIgG、特異的抗血小板抗体)の測定はITPの診断に有用ですが、偽陽性もあるため臨床症状と合わせて判断します。

凝固検査(PT、APTT)は正常であることが血小板減少症の特徴で、異常がある場合はDICなどの合併を疑います。LDH、間接ビリルビンの上昇は血小板破壊亢進を示唆し、網状赤血球の増加は溶血性貧血の合併を疑わせます。

画像検査では、脾腫の評価、リンパ節腫脹の確認、出血部位の特定などを行います。薬剤歴の詳細な聴取も重要で、血小板減少を起こしうる薬剤の使用歴を確認します。

治療

治療は原因と重症度により決定されます。ITPでは、副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン)が第一選択となり、重篤な出血では免疫グロブリン大量療法血小板輸血を併用します。ステロイド抵抗性例では脾摘術免疫抑制薬(アザチオプリン、シクロスポリン)、トロンボポエチン受容体作動薬を検討します。

薬剤性血小板減少症では原因薬剤の中止が最も重要で、多くの場合数日から数週間で回復します。ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)では、ヘパリンの即座の中止と代替抗凝固薬への変更が必要です。

血液疾患に伴う血小板減少症では原疾患の治療が基本となり、化学療法、造血幹細胞移植などが検討されます。支持療法として血小板輸血を行いますが、同種免疫により効果が減弱することがあります。

緊急時の血小板輸血適応は、活動性出血がある場合、血小板数1万/μL未満、侵襲的処置前(血小板数5万/μL未満)などです。血小板数の目標値は、止血のため2-5万/μL、侵襲的処置前5-10万/μL、脳神経外科手術前10万/μL以上とされています。


看護アセスメント・介入

よくある看護診断・問題

  • 出血リスク(血小板減少による止血機能低下に関連した)
  • 感染リスク(免疫抑制療法に関連した)
  • 活動耐性低下(出血リスクによる活動制限に関連した)
  • 不安(突然の出血や予後への恐怖に関連した)
  • 知識不足(疾患管理と出血予防に関連した)

ゴードン機能的健康パターン

健康知覚・健康管理パターンでは出血リスクの認識と安全管理への取り組み状況を評価します。患者が血小板減少の意味を理解し、出血予防のための注意事項を実践できているか、薬物療法の必要性を理解しているかを詳しく聴取しましょう。

活動・運動パターンでは安全な活動レベルの設定と評価が重要です。血小板数に応じた活動制限の程度、転倒・外傷リスクの評価、日常生活動作への影響を把握し、患者の安全を確保しながら可能な限り正常な生活を維持できるよう支援します。

認知・知覚パターンでは出血症状の早期発見が重要です。皮膚・粘膜の出血徴候、頭痛やめまいなどの脳出血の前兆症状、視覚症状、消化器症状などを詳細に評価し、重篤な出血の早期発見に努めます。

ヘンダーソン14基本的ニード

安全のニードでは出血予防と早期発見が最重要です。転倒・外傷防止、鋭利な物の取り扱い注意、激しい運動の制限、便秘予防(怒責による出血予防)など、日常生活での安全対策を系統的に評価・指導します。

身体の清潔と身だしなみのニードでは、出血リスクを考慮したケア方法が必要です。歯磨きは軟毛ブラシを使用し、鼻かみは優しく行う、剃刀の使用を避けるなど、日常的なケアでの出血予防策を指導します。

学習のニードでは疾患理解と自己管理能力の向上を図ります。血小板減少の病態、出血症状の見分け方、緊急時の対応、薬物療法の重要性について継続的な教育を行い、患者の自己管理能力を向上させます。

看護計画・介入の内容

  • 出血症状の観察:皮膚・粘膜の出血徴候、バイタルサイン測定、血小板数の推移監視
  • 出血予防策:環境整備(角の保護、床の清掃)、転倒防止、鋭利な物の管理、活動制限
  • 薬物療法の管理:ステロイド等の投与、副作用の観察、服薬指導、血液検査値の監視
  • 日常生活指導:歯磨き方法、鼻かみ方法、便秘予防、外傷予防の具体策
  • 心理的支援:不安軽減のための傾聴、疾患教育、家族への説明と協力体制構築
  • 緊急時対応:重篤な出血時の迅速な対応、医師への適切な報告、輸血準備

よくある疑問・Q&A

Q: 血小板が少ないとどのような出血が起こりやすいですか?

A: 皮膚・粘膜の出血が特徴的です。足や腕に現れる赤い点々(点状出血)、青あざ(紫斑)、鼻血、歯茎からの出血、生理が重くなるなどの症状が見られます。血小板数が非常に少ない(1万/μL未満)場合は、脳出血や消化管出血などの重篤な内出血のリスクも高まります。関節内出血は血小板減少では起こりにくく、これは凝固因子異常との違いです。

Q: 血小板減少症では日常生活で何に注意すればよいですか?

A: 外傷や出血を防ぐことが最も重要です。転倒防止のため段差に注意し、鋭利な物(包丁、剃刀)の取り扱いは慎重に行いましょう。歯磨きは軟毛ブラシを使用し、鼻は強くかまないよう注意します。激しい運動や接触スポーツは避け、便秘予防も大切です。また、頭痛や急な体調変化があれば速やかに受診することが重要です。

Q: 血小板輸血はいつ必要になりますか?

A: 活動性の出血がある場合血小板数が1万/μL未満の場合、手術や処置前に血小板輸血が検討されます。ただし、血小板輸血は一時的な効果しかなく(数日程度)、繰り返し行うと効果が減弱することがあります。そのため、本当に必要な時にのみ実施され、根本的な治療(ステロイド療法など)と併用されることが一般的です。

Q: 薬をやめると血小板は元に戻りますか?

A: 原因により異なります。薬剤性血小板減少症では原因薬剤を中止すると、通常数日から数週間で血小板数は回復します。ITPの場合は慢性疾患のため、ステロイドなどの治療薬を急に中止すると再び血小板が減少する可能性があります。薬の中止や減量は必ず医師と相談して、血小板数を確認しながら慎重に行う必要があります。

Q: 血小板減少症は完治しますか?

A: 原因により予後は大きく異なります。薬剤性や感染後の血小板減少症は原因除去により完治することが多いです。小児のITPは約80%が自然寛解しますが、成人のITPは慢性経過を辿ることが多く、長期間の治療が必要になることがあります。血液疾患に伴う場合は原疾患の治療成績に依存します。定期的な検査で病状を把握し、適切な治療を継続することが重要です。


まとめ

血小板減少症は血小板数の減少により出血傾向を呈する疾患群で、原因は多岐にわたり、重篤な出血合併症のリスクを伴います。看護師として重要なのは、出血症状の早期発見と予防安全な環境の整備患者・家族への適切な教育です。

特に系統的な出血症状の観察血小板数に応じた安全管理緊急時の迅速な対応日常生活における出血予防指導が看護の要点となります。血小板減少症は見た目には分からない疾患でありながら、生命に関わる出血リスクを内包しているため、患者の安全確保が最優先となります。

実習では出血症状の観察技術を身につけ、正常と異常を見分ける能力を養いましょう。また、患者の不安に寄り添いながら、根拠に基づいた安全管理指導を行う技術を学んでください。血小板減少症では予防的ケアが治療的ケアより重要であることを理解し、先を見越した看護計画を立案することが大切です。

慢性疾患として長期管理が必要な場合は、患者の自己管理能力の向上QOLの維持が重要な目標となります。多職種と連携し、医学的管理と日常生活支援を統合した包括的なケアを提供することで、患者が疾患と共に安全で充実した生活を送れるよう支援していきましょう。


この記事の執筆者

なっちゃん
なっちゃん

・看護師と保健師
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり


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