【急性腎不全】疾患解説と看護の要点

疾患解説

疾患概要

定義

急性腎不全(Acute Kidney Injury:AKI)は、数時間から数日という短期間で腎機能が急激に低下する病態です。血清クレアチニンの上昇や尿量の減少を特徴とし、体内の水分・電解質バランスや酸塩基平衡が破綻します。従来の「急性腎不全」から「急性腎障害」という用語に変更されており、可逆性が期待できる疾患として位置づけられています。早期発見・早期治療により腎機能の回復が期待できる一方、重症化すると生命に関わる合併症を引き起こす重要な疾患ですね。

疫学

入院患者の約10~15%に発症し、ICU患者では約50%という高い頻度で認められます。高齢者、糖尿病患者、慢性腎疾患患者、心疾患患者でリスクが高く、特に75歳以上では発症率が著明に増加します。男女差はほぼありませんが、基礎疾患の種類により若干の差が見られます。

院内発症の急性腎不全の死亡率は約25~30%と高く、特に多臓器不全を併発した場合は50%を超えることもあります。しかし、早期診断・早期治療により予後は大幅に改善するため、予防と早期発見が極めて重要な疾患です。

原因

原因は発症機序により腎前性腎性(腎実質性)腎後性の3つに分類されます。

腎前性急性腎不全(約55%)は、腎血流量の減少が原因です。脱水、出血、心不全、ショック、血管拡張薬の過量投与などにより生じます。腎実質には器質的障害がないため、原因を除去すれば速やかに回復することが多いです。

腎性急性腎不全(約40%)は、腎実質の直接的な障害が原因です。急性尿細管壊死、急性糸球体腎炎、急性間質性腎炎、血管炎などが含まれます。薬剤性(抗菌薬、NSAIDs、造影剤など)、毒素、虚血などが主な要因となります。

腎後性急性腎不全(約5%)は、尿路の閉塞が原因です。結石、腫瘍、前立腺肥大、血塊などによる尿管や尿道の閉塞により生じます。両側性の閉塞または単腎での閉塞で発症します。

病態生理

腎前性では、有効循環血液量の減少により腎血流量が低下し、糸球体濾過率(GFR)が減少します。代償機序として、レニン-アンジオテンシン系の活性化、抗利尿ホルモンの分泌増加が起こり、ナトリウムと水の再吸収が促進されます。

腎性では、尿細管上皮細胞の壊死や炎症により、濾過機能と再吸収機能が障害されます。虚血や毒素により細胞内カルシウム濃度が上昇し、ミトコンドリア機能障害、活性酸素の産生、細胞死が起こります。

腎後性では、尿路閉塞により尿細管内圧が上昇し、糸球体濾過圧が低下します。長期間放置すると腎実質の不可逆的な障害を来すため、迅速な閉塞解除が必要です。

いずれの原因でも、水・電解質異常、酸塩基平衡異常、尿毒症性毒素の蓄積が生じ、全身に影響を及ぼします。


症状・診断・治療

症状

尿量の変化が最も重要な症状です。乏尿(400mL/日未満)や無尿(100mL/日未満)を認めることが多いですが、非乏尿性急性腎不全の場合もあります。尿の性状として、血尿、蛋白尿、円柱尿などが認められることがあります。

全身症状として、浮腫、呼吸困難、悪心・嘔吐、食欲不振、倦怠感などが現れます。進行すると、意識障害、けいれん、不整脈などの重篤な症状が生じます。

電解質異常の症状も重要で、高カリウム血症による不整脈、低ナトリウム血症による意識障害、高リン血症、低カルシウム血症による筋症状などが認められます。代謝性アシドーシスにより、呼吸促迫(Kussmaul呼吸)が生じることもあります。

診断

診断はKDIGO基準に基づいて行われます。血清クレアチニンが48時間以内に0.3mg/dL以上上昇、または7日以内にベースラインから1.5倍以上上昇、または尿量が6時間以上0.5mL/kg/時未満のいずれかを満たした場合に診断されます。

血液検査では、血清クレアチニン、BUN、電解質(Na、K、Cl、Ca、P)、血液ガス分析を行います。BUN/クレアチニン比は原因の鑑別に有用で、腎前性では20以上、腎性では10~15程度となることが多いです。

尿検査では、比重、浸透圧、ナトリウム濃度、FENa(fractional excretion of sodium)を測定します。腎前性では尿比重が高く(1.020以上)、FENaが1%未満となります。

画像検査では、腹部超音波検査により腎後性の原因である水腎症や尿路閉塞の有無を確認します。CTやMRIも必要に応じて実施されます。

治療

原因除去が治療の基本です。腎前性では輸液による循環血液量の補正、腎後性では尿路閉塞の解除を迅速に行います。腎性では原因薬剤の中止、基礎疾患の治療を行います。

保存的治療では、水・電解質バランスの管理が重要です。厳格な水分出納管理により体液過剰を防ぎ、カリウム制限食、リン制限食を実施します。高カリウム血症に対しては、カリウム吸着薬、グルコース・インスリン療法、炭酸水素ナトリウムの投与などを行います。

腎代替療法として、血液透析、持続的腎代替療法(CRRT)、腹膜透析があります。適応は、体液過剰、高カリウム血症、重篤な代謝性アシドーシス、尿毒症症状、薬物中毒などです。CRRTは循環動態が不安定な患者や多臓器不全患者に適しています。

薬物療法では、利尿薬の使用は慎重に行われ、腎毒性のある薬剤は避けるか用量調整を行います。


看護アセスメント・介入

よくある看護診断・問題

  • 体液量過多
  • 電解質異常のリスク状態
  • 感染のリスク状態
  • 活動耐性の低下
  • 不安

ゴードン機能的健康パターン

栄養-代謝パターンでは、厳格な水分・電解質管理が必要となります。1日の水分摂取量は前日の尿量+不感蒸泄(通常500mL)に制限し、ナトリウム、カリウム、リンの摂取制限も行います。体重変化は体液貯留の重要な指標となるため、毎日同条件での測定が必要です。

排泄パターンは最も重要な観察項目です。正確な尿量測定は診断と治療効果判定に不可欠であり、時間尿量の記録も重要です。尿の性状(色調、混濁、血尿の有無)の観察も欠かせません。

活動-運動パターンでは、易疲労性や呼吸困難により活動耐性が低下します。体液過剰による肺水腫のリスクもあるため、呼吸状態の継続的な観察が必要です。

ヘンダーソン14基本的ニード

適切な飲食では、腎不全食(低蛋白、低カリウム、低リン、低塩分)の理解と実践が重要です。水分制限により口渇感が強くなるため、氷片の使用や口腔ケアによる対応が必要です。

正常な排泄において、尿量の正確な測定と記録は最優先事項です。導尿カテーテルが挿入されている場合は、感染予防と適切な管理が重要になります。

正常な呼吸では、体液過剰による肺水腫や代謝性アシドーシスによる呼吸促迫に注意が必要です。酸素飽和度、呼吸音、呼吸パターンの観察を継続的に行います。

看護計画・介入の内容

  • 正確な水分出納管理:摂取量と排泄量を正確に測定・記録し、1日の収支バランスを把握する
  • 体重測定:毎日同条件で体重を測定し、体液貯留の程度を評価する
  • 電解質モニタリング:血清カリウム、ナトリウムなどの値を注意深く観察し、異常の早期発見に努める
  • バイタルサイン観察:血圧、脈拍、呼吸状態を定期的に観察し、循環動態の変化を把握する
  • 透析療法の管理:血液透析やCRRTが実施される場合は、適切な管理と合併症の予防を行う

よくある疑問・Q&A

Q: 急性腎不全の患者さんの水分制限はどの程度厳格に行うべきですか?

A: 前日の尿量+500mL(不感蒸泄分)が基本となります。ただし、発熱や発汗により不感蒸泄が増加する場合は調整が必要です。体重増加が1日500g以内になるよう管理し、浮腫の程度や呼吸状態も併せて評価することが重要ですね。

Q: 尿量が急に減少した場合、どのような対応をすべきですか?

A: まず尿道カテーテルの閉塞がないか確認し、膀胱内の残尿の有無を評価します。閉塞がない場合は、血圧、脈拍、体温を測定し、脱水や感染の兆候がないかチェックします。速やかに医師に報告し、指示を仰ぐことが大切です。

Q: 高カリウム血症の症状で注意すべき点は?

A: 心電図変化が最も重要です。T波の尖鋭化、QRS幅の拡大、徐脈などが現れ、重篤な不整脈に進行する可能性があります。筋力低下、しびれ、麻痺なども見られますが、心電図変化は生命に直結するため、継続的なモニタリングが必要です。

Q: 透析導入のタイミングはどのような基準で決まりますか?

A: 絶対的適応として、高カリウム血症(7.0mEq/L以上)、重篤な代謝性アシドーシス(HCO3- 10mEq/L未満)、体液過剰による肺水腫、尿毒症症状(意識障害、けいれんなど)があります。相対的適応として、BUN 100mg/dL以上、クレアチニン 8.0mg/dL以上なども考慮されます。

Q: 食事指導で患者さん・家族が理解しにくい点はどこですか?

A: カリウム制限が最も理解が困難です。果物や野菜に多く含まれており、「体に良い」というイメージと制限の必要性のギャップがあります。具体的な食品名と含有量を示し、茹でこぼしなどの調理法の工夫を説明することが効果的です。また、水分制限についても、食事に含まれる水分も計算に含めることの説明が重要ですね。


まとめ

急性腎不全は短期間で腎機能が急激に低下する疾患であり、早期発見・早期治療により回復が期待できる可逆性の疾患です。原因により腎前性、腎性、腎後性に分類され、それぞれ異なるアプローチが必要となります。

看護の要点として、正確な水分出納管理電解質バランスの監視合併症の早期発見が挙げられます。特に尿量の変化は病態把握の重要な指標となるため、継続的で正確な観察が不可欠です。

実習では、患者さんの全身状態の変化を敏感に捉える観察力を養い、異常の早期発見に努めましょう。水分制限や食事制限により患者さんのQOLが大きく影響を受けるため、個別性を考慮した生活指導精神的支援も重要な看護介入となります。また、透析療法が導入される場合は、専門的な知識と技術を身につけ、安全で効果的なケアを提供できるよう準備することが大切です。


この記事の執筆者

なっちゃん
なっちゃん

・看護師と保健師
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり


コメント

タイトルとURLをコピーしました