【脳梗塞】疾患解説と看護の要点

疾患解説

疾患概要

定義

脳梗塞とは、脳の血管が血栓や塞栓によって閉塞し、その先の脳組織への血流が遮断されることで、脳細胞が壊死に陥る疾患です。脳血管疾患の約75%を占める代表的な疾患で、不可逆的な脳組織の損傷を引き起こすため、迅速な対応が患者の予後を大きく左右します。

疫学

日本では年間約7万人が新規に脳梗塞を発症しており、65歳以上で発症率が急激に上昇します。男性の方がやや多く、高齢化社会の進行とともに患者数は増加傾向にあります。死亡率は減少していますが、要介護状態になる原因の第1位を占める重要な疾患です。

原因

脳梗塞の原因は大きく3つに分類されます。血栓性梗塞(動脈硬化による血管の狭窄・閉塞)、塞栓性梗塞(心房細動などによる心原性脳塞栓症)、血行力学性梗塞(血圧低下による血流不全)があります。危険因子として、高血圧、糖尿病、脂質異常症、心房細動、喫煙、加齢などが挙げられ、これらの複合的な要因が発症リスクを高めます。

病態生理

脳血流が遮断されると、まず酸素と glucose の供給が停止し、数分以内に ATP 産生が低下します。その結果、ナトリウム・カリウムポンプが機能不全となり、細胞内にナトリウムと水分が蓄積して細胞性浮腫が生じます。さらに時間が経過すると、細胞膜の破綻により細胞死が起こり、梗塞巣が形成されます。梗塞中心部(コア)は不可逆的変化を起こしますが、その周辺部(ペナンブラ)は治療により救済可能な領域として重要な意味を持ちます。


症状・診断・治療

症状

脳梗塞の症状は梗塞部位によって多様ですが、突然発症することが特徴です。主な症状として、片麻痺(運動麻痺)、感覚障害、失語症、構音障害、嚥下障害、意識障害があります。前大脳動脈領域では下肢優位の片麻痺と性格変化、中大脳動脈領域では上肢・顔面優位の片麻痺と失語症、後大脳動脈領域では同名半盲と記憶障害が特徴的です。FAST(Face-顔面麻痺、Arm-上肢麻痺、Speech-言語障害、Time-時間)による早期発見が重要でしょう。

診断

診断はCT・MRI検査が中心となります。CTは出血性脳卒中との鑑別に有用で、MRIの拡散強調画像(DWI)は超急性期の脳梗塞診断に優れています。血液検査では炎症反応、凝固機能、血糖値を確認し、心電図で心房細動の有無を評価します。NIHSSスケールによる神経学的重症度評価も重要で、治療方針決定の指標となります。画像診断では梗塞の範囲、部位、発症からの時間経過を総合的に判断します。

治療

急性期治療の中心は血栓溶解療法(t-PA静注)で、発症4.5時間以内の適応患者に実施されます。さらに重篤な症例では血管内治療(血栓回収療法)が8時間以内(場合によっては24時間以内)に行われます。抗血小板療法(アスピリン)や抗凝固療法も病型に応じて選択されます。急性期を過ぎると、再発予防が重要となり、危険因子の管理(降圧、血糖管理、脂質管理)と抗血栓療法が継続されます。リハビリテーションは発症早期から開始し、機能回復と日常生活動作の改善を図ります。


看護アセスメント・介入

よくある看護診断・問題

  • 脳組織灌流低下
  • 身体可動性障害
  • 誤嚥リスク状態
  • コミュニケーション障害
  • セルフケア不足
  • 転倒・転落リスク状態

ゴードン機能的健康パターン

健康知覚-健康管理パターンでは、患者・家族の疾患理解度と治療への協力度を評価します。活動-運動パターンは最も重要で、麻痺の程度、関節可動域、バランス機能、日常生活動作レベルを詳細にアセスメントしましょう。認知-知覚パターンでは意識レベル、失語症の有無と程度、半側空間無視、失認などの高次脳機能障害を評価します。栄養-代謝パターンでは嚥下機能の評価が不可欠で、誤嚥性肺炎予防の観点から水飲みテストや嚥下内視鏡検査の結果を確認することが重要です。

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正常な呼吸では、意識障害による気道確保困難や誤嚥リスクを評価します。適切な飲食は嚥下機能評価が中心となり、段階的な食事形態の調整が必要でしょう。身体の清潔保持と衣服の着脱では片麻痺による制限を考慮し、患側の管理方法を指導します。体位変換と良肢位の保持は拘縮予防と褥瘡予防の観点から24時間を通じた計画的な実施が求められます。睡眠と休息では環境調整と日常生活リズムの再構築、コミュニケーションでは失語症の特徴を理解した関わり方が重要となります。

看護計画・介入の内容

  • 急性期神経症状モニタリング:意識レベル、瞳孔所見、運動機能を定期的に評価し、悪化の早期発見に努める
  • 誤嚥性肺炎予防:嚥下機能評価に基づいた食事介助、口腔ケア、体位管理を実施する
  • 廃用症候群予防:早期離床、関節可動域訓練、良肢位保持により機能維持を図る
  • 再発予防教育:服薬管理、危険因子コントロール、症状観察方法について患者・家族に指導する
  • 心理的支援:機能障害への適応支援、家族の介護負担軽減に向けた相談・調整を行う

よくある疑問・Q&A

Q: 脳梗塞患者の血圧管理で注意すべきことは何ですか? A: 急性期は過度な降圧を避けることが重要です。脳血流の自動調節能が破綻しているため、急激な降圧により梗塞巣が拡大する恐れがあります。収縮期血圧220mmHg以上、または平均血圧120mmHg以上の場合に慎重に降圧を開始し、24時間で10-15%程度の緩やかな降圧を目標とします。

Q: 失語症と構音障害の違いを教えてください A: 失語症は言語中枢の障害により、話す・聞く・読む・書くといった言語機能そのものが障害される状態です。一方、構音障害は言語理解は保たれているものの、発声や発語に関わる筋肉の麻痺により明瞭な発音ができない状態を指します。失語症患者には絵カードやジェスチャーを用い、構音障害患者には時間をかけてゆっくり話を聞くことが大切でしょう。

Q: 片麻痺患者の良肢位とは具体的にどのような姿勢ですか? A: 患側上肢は肩関節外転・外旋、肘関節軽度屈曲、手関節背屈位でクッションで支持します。患側下肢は股関節・膝関節軽度屈曲、足関節背屈位を保持し、足底板を使用することもあります。これにより拘縮や変形を予防し、機能的な肢位を維持できます。体位変換時は必ず良肢位を確認しましょう。

Q: 脳梗塞患者の家族への指導で重要なポイントは? A: 再発予防が最も重要です。服薬の重要性、定期受診の必要性、血圧・血糖値の自己管理方法を指導します。また、症状悪化の兆候(突然の麻痺の悪化、意識低下、言語障害の進行など)を説明し、緊急時の対応方法を伝えます。介護方法については、患者の自立を促しながらも安全に配慮した介助技術を指導することが大切でしょう。


まとめ

脳梗塞は時間との勝負であり、急性期には迅速かつ適切な治療により予後が大きく改善されます。看護師として最も重要なのは、神経症状の変化を見逃さない観察力と、合併症予防のための継続的なケアです。特に誤嚥性肺炎や廃用症候群の予防は、患者の生活の質と予後に直結するため、多職種と連携しながら包括的なアプローチを行うことが求められます。

患者・家族への教育的関わりも看護師の重要な役割です。再発予防のための生活習慣改善、服薬管理、症状観察の方法を分かりやすく伝え、退院後の生活に向けた準備を支援します。機能障害による心理的ストレスへの配慮も忘れずに、患者の尊厳を保ちながら自立支援を行うことが、質の高い脳梗塞看護の実践につながるでしょう。

実習では、病期に応じた看護の優先順位を理解し、根拠に基づいたケアの提供を心がけてください。患者一人ひとりの個別性を大切にし、回復への希望を支える看護師としての役割を果たしていきましょう。


この記事の執筆者

なっちゃん
なっちゃん

・看護師と保健師
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり


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