【くも膜下出血】疾患解説と看護の要点

疾患解説

疾患概要

定義

くも膜下出血は、脳を覆う3層の髄膜のうち、くも膜と軟膜の間(くも膜下腔)に出血が生じる疾患です。多くの場合、脳動脈瘤の破裂により引き起こされ、生命に関わる重篤な脳血管疾患として位置づけられています。発症は突然で、激烈な頭痛を主症状とし、適切な治療を行わなければ死亡率が高く、後遺症を残すことも多い疾患ですね。

疫学

年間発症率は10万人あたり約20人で、40~60歳代に多く発症します。男女比は1:2で女性に多いのが特徴的です。特に閉経後の女性でリスクが上昇する傾向があります。日本人は欧米人と比較して脳動脈瘤の保有率が高く、くも膜下出血の発症率も高いとされています。家族歴がある場合、発症リスクは2~4倍程度上昇することも知られています。

原因

約85%が脳動脈瘤の破裂によるものです。脳動脈瘤は脳血管の分岐部に形成される風船状の膨らみで、血管壁の先天的な脆弱性に高血圧などの後天的因子が加わり形成されます。その他の原因として、脳動静脈奇形(AVM)の破裂、外傷、血液疾患、薬物使用などがありますが、頻度は低くなっています。

危険因子には、高血圧、喫煙、過度の飲酒、家族歴、多発性嚢胞腎、結合組織疾患などがあります。特に喫煙と高血圧は重要な修正可能な危険因子として注目されています。

病態生理

脳動脈瘤が破裂すると、高圧の動脈血がくも膜下腔に流入し、頭蓋内圧の急激な上昇を引き起こします。この際、脳血流量の減少、脳虚血、意識レベルの低下が生じます。出血により髄液循環が障害され、急性水頭症を併発することもあります。

出血後数日から2週間程度で脳血管攣縮が生じる可能性があり、これにより遅発性脳虚血が起こり、神経症状の悪化や予後不良の原因となります。また、再出血のリスクも高く、発症後24時間以内に約4%、2週間以内に約20%で再出血が起こるとされています。


症状・診断・治療

症状

「今まで経験したことのない激烈な頭痛」が最も特徴的な症状です。患者さんは「頭を金づちで殴られたような痛み」「人生最悪の頭痛」と表現することが多いですね。この頭痛は突然発症し、数秒から数分で最大に達します。

随伴症状として、嘔吐・嘔気、項部硬直(髄膜刺激症状)、意識障害、けいれん、片麻痺、失語などの神経症状が現れます。軽症例では頭痛のみの場合もありますが、重症例では発症時から昏睡状態となることもあります。眼底検査では硝子体下出血(Terson症候群)が認められることもあり、診断の手がかりとなります。

診断

CT検査が第一選択の検査です。発症から6時間以内であれば約95%でくも膜下出血を検出できます。CT上では、脳槽や脳溝に高吸収域(白く見える)として描出されます。特にシルビウス裂、鞍上槽、四丘体槽周囲の出血が典型的な所見です。

CTで明らかな出血が認められない場合や、発症から時間が経過している場合は腰椎穿刺を行います。髄液が血性であり、遠心分離後も黄色調(キサントクロミー)を呈することで診断されます。

出血源の同定にはCT angiography(CTA)や脳血管造影が用いられます。脳血管造影は最も詳細な情報が得られますが、侵襲的検査のため、患者さんの状態を考慮して実施されます。

治療

治療の基本方針は再出血の予防合併症の管理です。

外科的治療では、開頭クリッピング術または血管内コイル塞栓術により動脈瘤を処理します。クリッピング術は開頭して動脈瘤の頚部にクリップをかける方法で、コイル塞栓術は血管内からプラチナコイルを動脈瘤内に詰める方法です。どちらを選択するかは、動脈瘤の部位、形状、患者さんの年齢、全身状態などを総合的に判断して決定されます。

保存的治療では、安静、血圧管理、脳圧管理、脳血管攣縮の予防・治療が重要です。ニモジピンの投与により脳血管攣縮の予防を図り、必要に応じて脳室ドレナージによる脳圧管理を行います。


看護アセスメント・介入

よくある看護診断・問題

  • 脳組織灌流の変調
  • 急性疼痛
  • 活動耐性の低下
  • 誤嚥のリスク状態
  • 転倒・転落のリスク状態

ゴードン機能的健康パターン

健康知覚-健康管理パターンでは、突然の発症により患者さん・家族ともに強い不安と混乱を示します。生命への危機感から、治療への協力度や理解度を慎重にアセスメントする必要があります。

活動-運動パターンは重篤な影響を受けます。安静度制限により、廃用症候群のリスクが高まります。また、神経症状による運動機能障害がある場合は、ADL全般にわたる支援が必要となります。

認知-知覚パターンでは、意識レベルの変化、見当識障害、記憶障害などが生じる可能性があります。特に意識レベルの経時的変化は、再出血や脳血管攣縮、水頭症の発症を示唆する重要な指標となります。

ヘンダーソン14基本的ニード

正常な呼吸について、意識障害や脳圧亢進により呼吸パターンの異常が生じることがあります。気道確保と酸素化の維持が最優先となります。

適切な飲食では、嚥下機能の評価が重要です。意識障害や球麻痺により誤嚥のリスクが高く、経口摂取の可否を慎重に判断する必要があります。

身体の清潔と身だしなみを整えるでは、安静度制限により全介助となることが多く、皮膚統合性の維持と感染予防に注意が必要です。

看護計画・介入の内容

  • 神経学的観察の実施:意識レベル、瞳孔所見、運動麻痺の有無を定期的に評価し、変化を早期発見する
  • 安静度の管理:医師の指示に従い適切な安静度を保持し、血圧上昇や頭蓋内圧上昇を予防する
  • 疼痛管理:頭痛の程度を評価し、適切な鎮痛薬の使用により苦痛を軽減する
  • 合併症の予防:脳血管攣縮、再出血、感染症、廃用症候群などの予防策を講じる
  • 家族への支援:突然の発症による不安や混乱に対し、適切な情報提供と精神的支援を行う

よくある疑問・Q&A

Q: くも膜下出血の患者さんが「頭痛がない」と言った場合、診断を除外できますか? A: 除外できません。軽症例では頭痛が軽微な場合や、意識障害により頭痛を訴えられない場合があります。「warning leak」と呼ばれる軽微な出血では、軽い頭痛のみの場合もあるため、総合的な判断が必要です。

Q: 脳血管攣縮はいつ頃起こりやすく、どのような症状で気づけますか? A: 発症後4~14日目に最も起こりやすく、特に7~10日目がピークです。症状としては、意識レベルの低下、新たな神経症状(片麻痺、失語など)の出現、頭痛の増強などがあります。毎日の神経学的観察で早期発見することが重要ですね。

Q: 看護師が観察で最も注意すべきポイントは何ですか? A: 意識レベルの変化が最も重要です。GCS(Glasgow Coma Scale)やJCS(Japan Coma Scale)を用いて客観的に評価し、わずかな変化も見逃さないことが大切です。また、瞳孔所見の変化も脳圧亢進の重要なサインとなります。

Q: 家族から「なぜ突然こんなことになったのか」と聞かれた場合、どう説明すればよいですか? A: 「脳の血管にできた動脈瘤という風船のような膨らみが破れて起こった」ことを説明し、多くの場合予兆なく突然起こることを伝えます。家族の罪悪感を軽減するため、誰にでも起こりうる疾患であることも併せて説明することが大切です。


まとめ

くも膜下出血は突然発症する生命に関わる重篤な疾患であり、看護師には正確な病態理解と迅速な対応能力が求められます。激烈な頭痛という特徴的な症状を理解し、神経学的観察による早期の変化発見が患者さんの予後を左右します。

看護の要点として、意識レベルと神経症状の継続的な観察再出血や脳血管攣縮などの合併症予防適切な安静度管理が挙げられます。また、突然の発症により患者さん・家族は大きな不安を抱えているため、十分な情報提供と精神的支援も重要な看護介入となります。

実習では、緊急度の高い疾患であることを常に意識し、根拠に基づいた観察チーム医療における適切な報告・連絡・相談を心がけましょう。患者さんの生命と機能予後の改善に向けて、専門的知識と技術を活用した質の高い看護を提供することが求められます。


この記事の執筆者

なっちゃん
なっちゃん

・看護師と保健師
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり


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