疾患概要
定義
気胸とは、胸腔内に空気が貯留し、肺が虚脱した状態のことです。胸膜腔(壁側胸膜と臓側胸膜の間の陰圧に保たれた腔)に何らかの原因で空気が入ることにより、肺の膨張が妨げられます。自然気胸(特発性気胸と続発性気胸)と外傷性気胸に分類され、さらに緊急性の観点から緊張性気胸という重篤な病態もあります。
疫学
自然気胸の発症率は10万人あたり年間7~18人程度で、若い痩せ型の男性に最も多く発症します。特に15~35歳の男性で多く、男女比は約6:1となっています。身長が高く痩せ型の体型(BMI 18.5未満)の人に多い傾向があります。再発率は保存的治療で約30%、手術治療で約5%程度とされています。
原因
特発性自然気胸は明らかな基礎疾患がなく発症し、肺尖部の小さな嚢胞(ブラ・ブレブ)の破綻が原因とされています。続発性自然気胸は既存の肺疾患(慢性閉塞性肺疾患、間質性肺疾患、肺がんなど)に合併して起こります。外傷性気胸は胸部外傷、医療処置(中心静脈カテーテル挿入、肺生検など)により発症します。緊張性気胸は一方弁機構により胸腔内圧が上昇し続ける状態です。
病態生理
正常な胸膜腔は陰圧(約-5mmHg)に保たれており、この陰圧により肺は胸壁に密着して膨張しています。胸膜に穴があくと大気圧の空気が胸腔内に流入し、胸腔内圧が上昇します。これにより肺は弾性収縮力によって虚脱し、換気量が減少します。緊張性気胸では胸腔内圧が大気圧を超えて上昇し、縦隔を対側に偏位させ、静脈還流を妨げるため循環動態に重篤な影響を与えます。
症状・診断・治療
症状
典型的な症状は突然発症する胸痛と呼吸困難です。胸痛は鋭く刺すような痛みで、患側の胸部に限局します。呼吸困難の程度は気胸の大きさに比例し、軽度では安静時には症状がないこともあります。身体所見では患側の胸部の膨隆、呼吸音の減弱または消失、打診での鼓音を認めます。緊張性気胸では頻脈、血圧低下、頸静脈怒張、チアノーゼなどの循環不全の症状が急速に進行します。
診断
胸部X線検査が基本的な診断法で、胸腔内の透亮度上昇と肺の虚脱像を認めます。軽度の気胸では立位での撮影が重要です。胸部CT検査はX線で診断困難な症例や、ブラ・ブレブの評価、治療方針決定に有用です。緊張性気胸が疑われる場合は、画像検査よりも臨床症状を重視し、緊急処置を優先します。気胸の大きさは虚脱率で評価し、治療方針の決定に用いられます。
治療
治療方針は気胸の大きさ、症状の程度、基礎疾患の有無により決定されます。軽度の気胸(虚脱率20%未満)では安静・酸素投与による保存的治療を選択することがあります。中等度以上の気胸や症状が強い場合は胸腔ドレナージ(胸腔穿刺・胸腔ドレーン挿入)を行います。緊張性気胸では緊急的に太い注射針での胸腔穿刺を行います。再発予防のためには胸腔鏡手術(VATS:Video-Assisted Thoracoscopic Surgery)によるブラ切除術や胸膜癒着術が行われます。
看護アセスメント・介入
よくある看護診断・問題
- 非効果的呼吸パターン(肺虚脱による換気障害)
- 急性疼痛(胸痛、処置に伴う痛み)
- 活動耐性低下(呼吸困難による)
- 不安・恐怖(突然の発症、呼吸困難への恐怖)
- 知識不足(疾患・治療・再発予防に関する)
ゴードン機能的健康パターン
健康知覚・健康管理パターンでは、気胸の発症要因(喫煙、激しい運動、気圧の変化など)の聴取と再発予防のための生活指導が重要です。活動・運動パターンでは、呼吸困難の程度と活動制限の必要性を評価し、段階的な活動拡大を支援します。睡眠・休息パターンでは、胸痛や不安による睡眠障害への対応が必要です。認知・知覚パターンでは、胸痛の詳細な評価(部位、性質、強度、持続時間)と適切な疼痛管理が重要になります。
ヘンダーソン14基本的ニード
呼吸の基本的ニードが最優先となり、呼吸状態の継続的な観察、適切な体位の保持、酸素療法の管理が必要です。胸腔ドレーン管理では、排液量・性状の観察、エアリークの確認、ドレーンの開通性維持が重要です。身体の清潔と衣服の着脱のニードでは、胸腔ドレーン挿入中の安全な清拭方法や衣服着脱の指導が必要です。学習のニードでは、疾患の理解促進と退院後の生活指導、再発予防策の教育が重要になります。
看護計画・介入の内容
- 呼吸状態の継続的観察(呼吸回数、呼吸音、酸素飽和度、チアノーゼの有無)
- 胸腔ドレーンシステムの適切な管理(排液量・性状観察、エアリーク確認、固定確認)
- 疼痛アセスメントと適切な疼痛管理(薬物療法、体位調整、リラクゼーション)
- 段階的活動拡大と呼吸リハビリテーションの実施
- 患者・家族への疾患教育と退院指導(再発徴候、受診タイミング、生活注意点)
- 心理的支援と不安軽減への取り組み
よくある疑問・Q&A
Q: 胸腔ドレーンのエアリークはなぜ起こるのですか?観察のポイントは?
A: エアリークは肺の穴が完全に塞がっていない状態で、患者が呼吸するたびに空気が胸腔内に漏れることで起こります。水封式ドレナージでは、患者の呼気時に水封瓶内で泡が出現するのが特徴的な所見です。エアリークの程度や持続時間は治癒の指標となるため、継続的な観察が重要です。
Q: 気胸患者が「息苦しい」と訴えた時の対応方法は?
A: まず呼吸状態を詳細に観察し(呼吸回数、呼吸音、酸素飽和度、皮膚色)、気胸の悪化や緊張性気胸への移行がないかを評価します。半坐位などの楽な体位をとらせ、必要に応じて酸素投与を行います。症状が急激に悪化する場合は、緊急性を考慮して医師に速やかに報告することが重要です。
Q: 気胸の再発を防ぐために、患者にどのような生活指導をすべきですか?
A: 禁煙指導が最も重要で、喫煙は再発リスクを高めます。激しい運動や重いものを持つことは避け、段階的に活動を拡大するよう指導します。飛行機搭乗や登山など気圧変化のある活動は医師と相談するよう伝えます。再発徴候(胸痛、呼吸困難)が現れた場合の受診タイミングも明確に説明する必要があります。
Q: 緊張性気胸と通常の気胸の見分け方と緊急度の違いは?
A: 緊張性気胸では呼吸困難が急速に進行し、頻脈・血圧低下・頸静脈怒張・チアノーゼなどの循環不全症状が出現します。患側への気管偏位も特徴的です。通常の気胸と比較して症状の進行が急速で、循環動態への影響が大きいため、緊急処置(胸腔穿刺)が必要な救命救急疾患として対応する必要があります。
まとめ
気胸は突然発症する疾患であり、特に若い痩せ型男性に多く見られます。看護の要点として、呼吸状態の継続的な観察と症状の変化を見逃さない観察力が最も重要です。特に緊張性気胸への移行は生命に関わるため、呼吸困難の急激な悪化や循環動態の変化に敏感になる必要があります。
胸腔ドレーン管理ではエアリークの観察とドレーンシステムの適切な管理が治療成功の鍵となります。また、疼痛管理も患者の苦痛軽減と早期回復のために重要な要素です。
患者教育では再発予防の重要性を強調し、生活習慣の見直し(特に禁煙)と再発徴候の早期発見について具体的に指導することが必要です。
実習では患者の微細な症状変化に注意を払い、緊急性の判断ができる観察力を身につけることが重要です。気胸は比較的若い患者に多い疾患のため、患者の心理的不安にも配慮し、丁寧な説明と精神的支援を提供することで、質の高い看護実践につながります。
この記事の執筆者

・看護師と保健師
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
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