【肺がん】疾患解説と看護の要点

呼吸器科

疾患概要

定義

肺がんとは、肺の気管、気管支、肺胞などから発生する悪性腫瘍のことです。組織学的には非小細胞肺がん(腺がん、扁平上皮がん、大細胞がんなど)と小細胞肺がんに大きく分類されます。非小細胞肺がんが約85%を占め、小細胞肺がんは約15%となっています。進行が早く、転移しやすいという特徴があるため、早期発見・早期治療が重要な疾患です。

疫学

日本において肺がんはがん死因の第1位を占めており、年間約8万人が亡くなっています。罹患率は男性の方が女性より高く、特に60歳代から急激に増加します。近年、女性の肺がん患者数も増加傾向にあり、これは腺がんの増加と関連しています。地域差では都市部での発症率がやや高い傾向にあります。

原因

最も重要な原因は喫煙です。喫煙者の肺がんリスクは非喫煙者の4~5倍高くなります。受動喫煙も重要なリスク因子となります。その他の原因として、アスベスト、ラドン、大気汚染、職業性曝露(クロム、ニッケルなど)があります。また、遺伝的要因や既往歴(慢性閉塞性肺疾患、肺線維症など)も関与します。近年増加している腺がんでは、非喫煙者や女性でも発症することが知られています。

病態生理

肺がんは正常な肺上皮細胞の遺伝子変異により発生します。喫煙などの発がん因子により細胞のDNAが損傷を受け、がん抑制遺伝子の機能低下やがん遺伝子の活性化が起こります。初期は局所で増殖しますが、進行するとリンパ行性転移(肺門、縦隔リンパ節)や血行性転移(脳、肝臓、骨、副腎など)を起こします。小細胞肺がんは特に進行が早く、診断時には既に転移していることが多いのが特徴です。


症状・診断・治療

症状

初期症状は軽微で見過ごされることが多く、これが早期発見を困難にしています。最も多い症状は持続する咳で、特に2週間以上続く咳は要注意です。血痰や喀血、息切れ、胸痛も重要な症状です。進行すると体重減少、食欲不振、全身倦怠感などの全身症状が現れます。転移による症状として、脳転移では頭痛・意識障害、骨転移では疼痛、肝転移では腹部膨満感などが生じることがあります。

診断

胸部X線検査で異常陰影が発見されることから始まりますが、早期がんの発見には胸部CT検査が重要です。確定診断には組織診断が必要で、気管支鏡検査、CTガイド下針生検、胸腔鏡検査などが行われます。病期決定のためにPET-CT、脳MRI、骨シンチグラフィーなどの全身検索が実施されます。腫瘍マーカー(CEA、CYFRA、NSE等)も診断や経過観察に用いられます。

治療

治療方針は組織型、病期、患者の全身状態により決定されます。手術療法は早期非小細胞肺がんの標準治療で、肺葉切除術が基本となります。放射線療法は手術不能例や術後補助療法として用いられます。化学療法は進行例や再発例に対して行われ、プラチナ系抗がん剤を中心とした多剤併用療法が基本です。近年は分子標的治療薬免疫チェックポイント阻害薬も広く使用されており、個別化医療が進んでいます。


看護アセスメント・介入

よくある看護診断・問題

  • 非効果的気道クリアランス(痰貯留、咳嗽反射低下)
  • 活動耐性低下(呼吸困難、全身倦怠感)
  • 急性疼痛・慢性疼痛(胸痛、転移による疼痛)
  • 不安・恐怖(診断・予後への不安、治療への恐怖)
  • 栄養摂取消費バランス異常(食欲不振、体重減少)

ゴードン機能的健康パターン

健康知覚・健康管理パターンでは、喫煙歴の詳細な聴取と禁煙指導が重要です。患者の疾患に対する理解度を確認し、治療への参加意欲を高める支援が必要です。活動・運動パターンでは、呼吸困難の程度を詳細にアセスメントし、日常生活動作への影響を評価します。栄養・代謝パターンでは、食事摂取量の減少や体重変化を継続的に観察し、栄養状態の維持に努めます。認知・知覚パターンでは、疼痛の詳細な評価と適切な疼痛管理が重要になります。

ヘンダーソン14基本的ニード

呼吸の基本的ニードが最も重要で、効果的な咳嗽・喀痰法の指導、適切な体位の保持、酸素療法の管理が必要です。食事と水分摂取のニードでは、化学療法による副作用を考慮した食事指導が重要です。排泄のニードでは、便秘(オピオイド使用時)や尿閉などの副作用に注意が必要です。休息と睡眠のニードでは、不安や疼痛による睡眠障害への対応が求められます。学習のニードでは、疾患や治療に関する正しい知識の提供と、患者・家族への教育的支援が重要になります。

看護計画・介入の内容

  • 呼吸状態の継続的観察と呼吸困難時の適切な対応(体位、酸素投与、薬物療法)
  • 効果的な咳嗽・排痰指導と気道クリアランスの改善
  • 疼痛アセスメントと多角的疼痛管理(薬物療法、非薬物療法の組み合わせ)
  • 化学療法・放射線療法の副作用観察と予防的ケア
  • 栄養状態の評価と食事摂取量改善への支援
  • 心理的サポートと患者・家族への情報提供・教育
  • 社会資源の活用と退院調整・在宅療養支援

よくある疑問・Q&A

Q: 肺がん患者の呼吸困難はなぜ起こるのですか?

A: 腫瘍による気道の圧迫や閉塞、胸水貯留による肺の圧迫、肺実質の破壊による換気能力の低下、貧血による酸素運搬能力の低下などが原因です。また、不安や疼痛も呼吸困難感を増強させる要因となります。

Q: 化学療法中の患者に対する感染予防で特に注意すべき点は?

A: 好中球減少期(化学療法後7~14日頃)は特に感染リスクが高くなります。手指衛生の徹底、マスク着用、生ものの摂取制限、人混みを避ける、発熱時の迅速な対応などが重要です。また、口腔ケアによる口腔内感染の予防も大切です。

Q: 肺がん患者の疼痛管理で看護師が注意すべきポイントは?

A: 疼痛の詳細なアセスメント(部位、性質、強度、誘因・軽減因子)を行い、WHO方式がん疼痛治療法に基づいた段階的な疼痛管理を理解することが重要です。オピオイドの副作用(便秘、嘔気・嘔吐、眠気)の観察と対策も必要です。

Q: 終末期の肺がん患者への看護で最も大切なことは?

A: 患者と家族の意思を尊重し、残された時間を有意義に過ごせるよう支援することです。症状緩和(疼痛、呼吸困難、不安など)に重点を置き、患者の尊厳を保ちながら、家族も含めた心理的サポートを提供することが重要です。


まとめ

肺がんは早期発見が困難進行が早いという特徴を持つ疾患です。看護の要点として、まず呼吸状態の継続的な観察呼吸困難への適切な対応が最重要となります。化学療法や放射線療法による副作用管理では、感染予防症状の早期発見が鍵となります。

患者教育では禁煙指導を継続し、治療への参加意欲を高める支援が必要です。また、疼痛管理においては患者の訴えを丁寧に聴取し、多角的なアプローチで症状緩和に努めることが重要です。

実習では患者の全身状態の変化に敏感になり、小さな変化も見逃さない観察力を身につけることが大切です。そして何より、患者と家族の心理的負担を理解し、寄り添う姿勢で看護実践を行うことが、質の高いケアにつながります。


この記事の執筆者

なっちゃん
なっちゃん

・看護師と保健師
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり


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