【悪性リンパ腫】疾患解説と看護の要点

疾患解説

疾患概要

定義

悪性リンパ腫とは、リンパ系組織(リンパ節、胸腺、脾臓、扁桃腺、骨髄など)から発生する造血器悪性腫瘍です。ホジキンリンパ腫(HL)と非ホジキンリンパ腫(NHL)に大別され、日本ではNHLが約90%を占めます。B細胞系、T細胞系、NK細胞系に分類され、さらに臨床経過により低悪性度(indolent)中悪性度(aggressive)高悪性度(highly aggressive)に分けられます。白血病と異なり、主にリンパ節で腫瘤を形成し、隣接リンパ節や他臓器に拡がっていく特徴があります。

疫学

日本の悪性リンパ腫年間発症者数は約35,000人で、血液悪性腫瘍の中で最も頻度が高い疾患です。年齢とともに発症率が上昇し、60-70歳代にピークがありますが、若年者にも発症します。男女比は約1.2:1とやや男性に多く、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)が最も多く(約30%)、次いで濾胞性リンパ腫(FL)MALT(粘膜関連リンパ組織)リンパ腫の順となります。5年生存率は病型により大きく異なり、低悪性度で約80-90%、高悪性度で約30-50%です。

原因

悪性リンパ腫の原因は多因子性で完全には解明されていませんが、免疫不全状態感染症自己免疫疾患環境因子などが関与します。

感染症では、EBウイルス(バーキットリンパ腫、ホジキンリンパ腫)、HTLV-1(成人T細胞白血病・リンパ腫)、ヘリコバクター・ピロリ(胃MALTリンパ腫)、C型肝炎ウイルス(原発性肝リンパ腫)などが関与します。

免疫不全では、HIV感染、臓器移植後の免疫抑制療法、先天性免疫不全症候群で発症リスクが高まります。自己免疫疾患のシェーグレン症候群、関節リウマチ、橋本病なども発症要因となります。

環境因子として、放射線被曝、化学物質(農薬、有機溶剤)、化学療法歴(アルキル化剤)があります。遺伝的因子では、家族集積例や特定の遺伝子変異(p53、bcl-2など)が報告されています。

病態生理

悪性リンパ腫は、リンパ球の分化・成熟過程のいずれかの段階で遺伝子異常が生じ、異常なリンパ球が無制限に増殖することで発症します。

ホジキンリンパ腫では、特徴的なリード・シュテルンベルグ細胞(Reed-Sternberg cell)が出現し、隣接するリンパ節に連続性に進展する傾向があります。炎症性サイトカインの産生により、B症状(発熱、寝汗、体重減少)が高頻度で見られます。

非ホジキンリンパ腫では、多様な病理組織像を示し、非連続性に進展することが多く、消化管、肝臓、骨髄、中枢神経系などの節外臓器にも高頻度で浸潤します。

低悪性度リンパ腫(濾胞性リンパ腫など)は進行が緩徐で、長期間無症状のことが多いですが、高悪性度への転化(transformation)のリスクがあります。高悪性度リンパ腫(バーキットリンパ腫など)は急速に進行し、早期治療が必要です。

腫瘍細胞はアポトーシス抵抗性無制限増殖能血管新生促進転移能獲得などの特徴を有し、これらが病勢進行と治療抵抗性の原因となります。


症状・診断・治療

症状

悪性リンパ腫の症状は、リンパ節腫脹B症状腫瘤による圧迫症状節外病変による症状に分けられます。

リンパ節腫脹は最も特徴的な症状で、無痛性弾性硬の腫脹が多発性に見られます。頸部、腋窩、鼠径部などの表在リンパ節の腫脹は比較的発見しやすいですが、縦隔、後腹膜、骨盤内などの深部リンパ節腫脹は症状が出るまで気づかれないことが多いです。

B症状は全身症状で、①発熱(38℃以上の原因不明の発熱)、②寝汗(夜間の大量発汗)、③体重減少(6ヶ月間で10%以上の体重減少)が定義されています。B症状の有無は病期分類や予後に影響するため重要です。

圧迫症状では、縦隔リンパ節腫大による呼吸困難、咳嗽、上大静脈症候群、後腹膜リンパ節腫大による腰痛、下肢浮腫、水腎症などが見られます。

節外病変では、消化管浸潤による腹痛、下痢、消化管出血、肝浸潤による黄疸、脾腫による左季肋部痛、骨髄浸潤による貧血・血小板減少、中枢神経系浸潤による頭痛、麻痺、意識障害などが現れます。

診断

リンパ節生検による病理組織診断が確定診断に必須です。針生検では診断困難なことが多く、外科的摘出生検が推奨されます。病理診断では、HE染色に加えて免疫組織化学染色により細胞表面マーカーを検索し、病型を決定します。

病期診断(staging)にはAnn Arbor分類が用いられ、CT、PET-CT、MRIにより全身の病変分布を評価します。PET-CTは病期診断、治療効果判定、再発診断に極めて有用です。

血液検査では、LDH(lactate dehydrogenase)、β2ミクログロブリン、可溶性IL-2受容体が腫瘍量や予後と相関します。肝機能、腎機能、電解質異常(腫瘍崩壊症候群)の評価も重要です。

骨髄検査により骨髄浸潤の有無を確認し、腰椎穿刺により中枢神経系浸潤を評価します(高悪性度リンパ腫で必須)。

予後因子の評価として、国際予後指標(IPI)により年齢、PS(performance status)、病期、節外病変数、LDH値から予後を層別化します。

治療

治療方針は病型病期年齢全身状態予後因子を総合的に考慮して決定されます。

低悪性度リンパ腫では、無症状の限局期では経過観察(watch and wait)が選択されることもあります。治療適応となる進行期では、リツキシマブ単独療法またはR-CVP療法(リツキシマブ+シクロホスファミド+ビンクリスチン+プレドニゾロン)が標準治療です。

中悪性度リンパ腫(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫)では、R-CHOP療法(リツキシマブ+シクロホスファミド+ドキソルビシン+ビンクリスチン+プレドニゾロン)が標準治療で、3週間毎に6-8コース施行します。放射線治療を併用することもあります。

高悪性度リンパ腫では、R-hyper-CVAD療法R-CODOX-M/IVAC療法などの強力な多剤併用化学療法を行います。中枢神経系への髄腔内化学療法も併用します。

再発・難治例では、救援化学療法(R-ICE、R-DHAP、R-ESHAPなど)により寛解導入を図り、自家造血幹細胞移植を施行します。

新規治療薬として、CAR-T細胞療法(キメラ抗原受容体T細胞療法)、免疫チェックポイント阻害薬分子標的治療薬(BTK阻害薬、BCL-2阻害薬)などが導入されています。


看護アセスメント・介入

よくある看護診断・問題

  • 感染リスク状態(化学療法による骨髄抑制、免疫機能低下)
  • 栄養摂取消費バランス異常(化学療法副作用による食欲不振、悪心・嘔吐)
  • 不安(診断・予後・治療に対する不安、社会復帰への懸念)

ゴードン機能的健康パターン

健康知覚・健康管理パターンが最も重要で、患者・家族の疾患理解度、治療に対する認識、セルフケア能力を評価します。悪性リンパ腫は治癒可能な疾患であることを理解し、治療継続への動機を維持することが重要です。

栄養代謝パターンでは、腫瘍による代謝亢進、B症状による体重減少、化学療法による食欲不振・悪心嘔吐を評価します。特に高悪性度リンパ腫では急速な栄養状態悪化のリスクがあるため、積極的な栄養サポートが必要です。

認知知覚パターンでは、リンパ節腫脹による疼痛、圧迫症状による不快感、化学療法による末梢神経障害を評価します。中枢神経系浸潤例では神経学的症状の継続的観察が重要です。

ヘンダーソン14基本的ニード

感染を避け、他者を傷つけないニードでは、化学療法による好中球減少期の感染管理が重要です。手指衛生、マスク着用、人混みの回避、生食品の制限などの指導を行います。

正常に呼吸するニードでは、縦隔リンパ節腫大による上気道圧迫、肺浸潤による呼吸困難、化学療法による肺毒性(ブレオマイシン)を評価します。体位の工夫、酸素療法の適応を判断します。

適切に食べ、飲むニードでは、口内炎による摂食困難、味覚障害、食欲不振に対する食事の工夫が必要です。高カロリー・高蛋白食品の活用、少量頻回摂取の指導を行います。

看護計画・介入の内容

  • 化学療法管理:レジメンに応じた適切な投与管理、副作用観察(骨髄抑制、消化器症状、アレルギー反応)、前投薬の管理、投与後の観察
  • 症状管理:B症状の観察と対処、リンパ節腫脹による圧迫症状の評価、疼痛管理、腫瘍崩壊症候群の予防と早期発見
  • 心理的支援:診断受容への支援、治療継続への動機づけ、家族への情報提供とサポート、社会復帰に向けた準備

よくある疑問・Q&A

Q: 悪性リンパ腫と白血病の違いは何ですか?

A: 最も大きな違いは病変の主座です。悪性リンパ腫は主にリンパ節で腫瘤を形成し、隣接部位や他臓器に拡がっていきます。一方、白血病は骨髄で異常細胞が増殖し、血液中に異常な白血球が出現します。ただし、病気が進行すると悪性リンパ腫でも血液中に異常細胞が現れたり、白血病でもリンパ節腫脹が見られることがあるため、正確な診断には病理検査が必要です。

Q: リンパ節が腫れているとすべて悪性リンパ腫ですか?

A: いいえ、リンパ節腫脹の多くは感染症などの良性疾患が原因です。風邪、扁桃炎、虫歯などでも一時的にリンパ節は腫れます。悪性リンパ腫を疑う特徴として、無痛性硬い2-3週間以上持続徐々に増大複数箇所の腫脹B症状の併発があります。これらの特徴がある場合は早期の医療機関受診が重要です。

Q: 化学療法中の生活で気をつけることは?

A: 感染予防が最も重要です。手洗い・うがいの徹底、マスク着用、人混みの回避、生野菜・刺身などの生食品制限を行います。体調変化の早期発見のため、毎日の体温測定、異常時の早期受診も大切です。また、適度な運動十分な栄養摂取により体力維持に努め、口腔ケアにより口内炎の予防・軽減を図ります。

Q: 治療後の再発の可能性はありますか?

A: 悪性リンパ腫の再発リスクは病型により大きく異なります。低悪性度リンパ腫では再発率が高いものの、再治療により長期間の病気コントロールが可能です。中・高悪性度リンパ腫では初回治療で完全寛解に到達できれば、治癒の可能性が高くなります。再発の早期発見のため、定期的なフォローアップ(CT、PET-CT、血液検査)が重要で、患者自身もセルフチェック(リンパ節触診、B症状の確認)を継続することが大切です。

Q: 仕事復帰はできますか?

A: 多くの患者さんが治療終了後に職場復帰されています。復帰時期は治療内容、副作用の程度、職種により個別に判断されます。外来化学療法が可能な場合は、治療を継続しながら働くことも可能です。産業医との面談、勤務時間の調整、配置転換などの職場の理解と協力を得ることが重要で、必要に応じてがん相談支援センターでの就労相談も活用できます。


まとめ

悪性リンパ腫は多様な病型を持つ血液がんで、病型により治療法や予後が大きく異なるため、個別性を重視した看護が重要です。多くの悪性リンパ腫は治癒可能な疾患であり、患者・家族に希望を持てる情報提供治療継続への支援が看護の要点となります。

化学療法が治療の中心となるため、副作用管理感染予防は必須の看護技術です。特に骨髄抑制期の感染管理は生命予後に直結するため、専門的な知識と技術が求められます。

心理社会的支援も重要な看護介入で、診断時の衝撃から治療期間中の不安、社会復帰への懸念まで、各段階に応じた支援が必要です。多職種連携により包括的なケアを提供し、患者のQOL維持と社会復帰を支援することが大切です。

実習では、リンパ節の触診技術化学療法の安全管理副作用の早期発見患者教育技術などの専門的スキルを身につけ、根拠に基づいた個別性のある看護を実践しましょう。悪性リンパ腫看護は高い専門性が求められる分野ですが、多くの患者さんの治癒に貢献できる、非常にやりがいのある領域です。


この記事の執筆者

なっちゃん
なっちゃん

・看護師と保健師
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり


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