疾患概要
定義
腎結石とは、腎臓内で形成される固形の結晶性沈着物です。尿中の溶質(カルシウム、シュウ酸、リン酸、尿酸、シスチンなど)が過飽和状態となり結晶化して形成されます。結石は腎臓内に留まることもあれば、尿管、膀胱、尿道へと移動することもあり、移動部位により腎結石、尿管結石、膀胱結石、尿道結石と呼び分けられます。これらを総称して尿路結石症と呼びます。
疫学
腎結石は非常に頻度の高い疾患で、日本人の生涯罹患率は男性で約15%、女性で約7%とされています。男性に多く、男女比は約3:1です。発症年齢のピークは30-50歳代ですが、近年は高齢者や小児での発症も増加傾向にあります。
再発率が高いのが特徴で、治療後5年以内に約50%、10年以内に約80%が再発するとされています。地域差もあり、西日本、特に九州・沖縄地方で発症率が高い傾向があります。近年は食生活の欧米化、水分摂取不足、運動不足などにより患者数が増加しています。
原因
腎結石の原因は多因子性で、内因性要因と外因性要因に分けられます。内因性要因として、遺伝的素因、代謝異常(高カルシウム尿症、高シュウ酸尿症、高尿酸尿症、低クエン酸尿症)、解剖学的異常、尿路感染、内分泌疾患(副甲状腺機能亢進症)などがあります。
外因性要因として、食事内容(動物性蛋白質過剰摂取、塩分過剰、カルシウム不足)、水分摂取不足、高温環境での脱水、薬剤(利尿薬、抗てんかん薬、ビタミンC・D過剰摂取)、運動不足、肥満などがあります。
結石の成分により分類され、カルシウム結石(シュウ酸カルシウム、リン酸カルシウム)が約80%と最も多く、次いで尿酸結石(約10%)、感染結石(リン酸マグネシウムアンモニウム、約7%)、シスチン結石(約3%)の順となっています。
病態生理
腎結石の形成には核形成、成長、凝集の過程があります。尿中の溶質濃度が飽和点を超えると過飽和状態となり、結晶核が形成されます。この結晶核を中心として同種または異種の結晶が付着・成長し、徐々に結石が大きくなります。
尿の停滞は結石形成を促進する重要な因子で、腎盂腎杯の形態異常、尿管狭窄、前立腺肥大症などにより尿流が障害されると結石が形成されやすくなります。また、尿のpHも重要で、酸性尿では尿酸結石が、アルカリ性尿では感染結石が形成されやすくなります。
結石が尿路を閉塞すると水腎症が生じ、腎機能低下を来たします。また、尿流障害により尿路感染を併発しやすくなり、感染が結石形成をさらに促進する悪循環が形成されることがあります。
症状・診断・治療
症状
腎結石の症状は結石の大きさ、位置、移動の有無により大きく異なります。腎臓内に留まっている結石では無症状のことが多く、健康診断で偶然発見されることがあります。大きな結石では鈍い腰背部痛や血尿が見られることもあります。
結石が尿管に移動すると、典型的な疝痛発作が出現します。側腹部から下腹部にかけての激烈な痛みで、「人生最大の痛み」と表現されることもあります。痛みは波状に現れ、悪心・嘔吐を伴うことが多いです。結石の位置により関連痛が生じ、尿管上部では側腹部、中部では下腹部、下部では鼠径部・外陰部に痛みが放散します。
血尿は約90%の症例で認められ、肉眼的血尿から顕微鏡的血尿まで様々です。排尿時症状として頻尿、尿意切迫感、排尿困難が見られることもあります。発熱がある場合は尿路感染の合併を示唆し、緊急対応が必要です。
診断
診断は症状、画像診断、尿検査を組み合わせて行います。腹部単純X線検査では約90%の結石が描出されますが、尿酸結石は透過性のため写りません。超音波検査は非侵襲的で繰り返し施行でき、結石の検出と水腎症の評価に有用です。
CT検査は最も優れた診断法で、造影剤を使用しない単純CTでほぼ全ての結石を検出できます。結石の大きさ、位置、密度(CT値)を正確に評価でき、治療方針決定に重要です。造影CT(CTウログラフィー)では尿路の詳細な解剖と機能を評価できます。
尿検査では血尿、結晶成分、細菌の有無を確認し、尿培養検査で感染の有無を評価します。血液検査では腎機能(クレアチニン、BUN)、電解質、カルシウム、リン、尿酸値を測定し、原因検索と治療効果判定に用います。
結石成分分析は再発予防のため重要で、自然排出された結石や体外衝撃波砕石術で回収された結石片を赤外分光法などで分析します。
治療
治療は結石の大きさ、位置、症状、合併症により決定されます。保存的治療では、小さな結石(直径5mm以下)に対して十分な水分摂取、鎮痛薬、α遮断薬(尿管平滑筋弛緩)による自然排出促進を行います。
体外衝撃波砕石術(ESWL)は最も広く行われる治療法で、体外から衝撃波を照射して結石を破砕し、小片として自然排出させます。直径20mm以下の結石が適応となります。
内視鏡的治療として、経尿道的尿管砕石術(TUL)では内視鏡を尿管に挿入してレーザーで結石を破砕します。経皮的腎砕石術(PNL)では背部から腎臓に直接アプローチして大きな結石を摘出します。
開腹手術は現在では稀ですが、内視鏡的治療が困難な場合や解剖学的異常を伴う場合に実施されます。薬物療法では結石成分に応じて、クエン酸製剤、アロプリノール、利尿薬などが使用されます。
看護アセスメント・介入
よくある看護診断・問題
- 急性疼痛(結石による尿路閉塞・痙攣に関連した)
- 排尿パターン異常(結石による尿路通過障害に関連した)
- 感染リスク(尿路閉塞による尿流停滞に関連した)
- 知識不足(疾患管理と再発予防に関連した)
- 不安(突然の激痛と再発への恐怖に関連した)
ゴードン機能的健康パターン
健康知覚・健康管理パターンでは結石形成の危険因子を詳細に評価します。水分摂取量、食事内容(動物性蛋白質、塩分、カルシウムの摂取量)、運動習慣、職業環境(高温作業の有無)、既往歴、家族歴、服薬状況を系統的に聴取しましょう。
栄養・代謝パターンでは食事内容と水分摂取の詳細な評価が重要です。1日の水分摂取量、食事の内容と量、間食の内容、アルコール摂取量、体重変化などを把握し、結石予防のための食事指導を検討します。
排泄パターンでは排尿状況の詳細な評価を行います。排尿回数、尿量、排尿時症状、血尿の有無、尿の性状(色調、混濁)を観察し、結石の移動や排出、感染の兆候を早期に発見します。
ヘンダーソン14基本的ニード
正常に排泄するニードでは排尿機能の詳細な評価が最重要です。尿量測定、排尿パターンの観察、尿性状の変化、血尿の程度、排尿時症状(疼痛、灼熱感)を継続的に監視し、結石の動きや合併症の早期発見に努めます。
痛みを避けるニードでは疼痛の詳細な評価と効果的な疼痛管理が重要です。疼痛の部位、強度、性状、持続時間、増悪・軽快因子を詳しく聴取し、適切な鎮痛方法を選択します。体位や温罨法による非薬物的疼痛緩和も重要です。
水分・電解質バランスのニードでは適切な水分摂取と電解質バランスの維持が必要です。水分摂取量の監視、尿量の測定、電解質バランスの評価を行い、結石予防と腎機能保護を両立させます。
看護計画・介入の内容
- 疼痛管理:疼痛アセスメント、鎮痛薬の投与、体位調整、温罨法、リラクゼーション技法
- 排尿管理:排尿状況の観察、尿量測定、血尿の程度評価、結石排出の確認
- 水分管理:十分な水分摂取の促進、摂取量・排出量の記録、脱水予防
- 感染予防:尿路感染の早期発見、清潔保持、発熱・膿尿の監視
- 結石回収:排尿時の結石捕獲、結石の保存・提出、成分分析への協力
- 患者教育:生活習慣改善指導、食事療法、水分摂取指導、再発予防策
よくある疑問・Q&A
Q: 腎結石の痛みはどのくらい続きますか?
A: 結石の移動により痛みの程度は変化します。典型的な疝痛発作は数分から数時間続き、波状に強弱を繰り返します。結石が尿管に嵌頓している間は断続的な痛みが続きますが、結石が膀胱に落ちるか排出されると急に痛みが軽減します。大きな結石では数日から数週間痛みが続くこともあります。我慢せずに適切な鎮痛薬を使用しましょう。
Q: 水をたくさん飲めば結石は予防できますか?
A: 水分摂取は最も重要な予防法です。1日2-3リットル以上の水分摂取により尿を希釈し、結石形成を防ぐことができます。特に夏季や運動時は脱水になりやすいため注意が必要です。ただし、水分だけでなく食事内容の改善も重要で、動物性蛋白質や塩分の制限、適度なカルシウム摂取も必要です。
Q: カルシウムを控えた方が良いですか?
A: 過度なカルシウム制限は逆効果です。カルシウム摂取不足により腸管でのシュウ酸吸収が増加し、かえって結石形成を促進することがあります。1日600-800mg程度の適度なカルシウム摂取が推奨されます。むしろシュウ酸を多く含む食品(ほうれん草、チョコレート、ナッツ類)の摂取を控え、動物性蛋白質と塩分を制限することが重要です。
Q: 結石が小さければ治療は不要ですか?
A: 症状がなく小さな結石でも経過観察は必要です。5mm以下の結石は自然排出の可能性が高いですが、定期的な画像検査で大きさや位置の変化を確認します。症状が出現したり、結石が大きくなったり、腎機能に影響を与える場合は積極的治療を検討します。無症状でも水分摂取などの予防策は継続しましょう。
Q: 一度結石ができると繰り返しやすいのですか?
A: 再発率は非常に高い疾患です。治療後5年以内に約50%が再発します。再発予防には結石成分の分析に基づいた個別的な対策が重要です。生活習慣の改善(水分摂取増加、食事療法、適度な運動)、必要に応じた薬物療法、定期的な検査による早期発見が再発予防の鍵となります。
まとめ
腎結石は尿中溶質の過飽和により形成される結晶性疾患であり、激烈な疼痛を特徴とし、再発率の高い疾患です。看護師として重要なのは、急性期の適切な疼痛管理と観察、結石排出の確認と回収、再発予防のための生活指導です。
特に疼痛の詳細なアセスメントと効果的な疼痛緩和、排尿状況の継続的な観察、水分摂取と食事療法の指導、感染徴候の早期発見が看護の要点となります。結石は再発しやすい疾患であるため、患者の生活習慣全体を包括的に評価し、実現可能な予防策を継続的に支援することが重要です。
実習では疼痛アセスメント技術と排尿観察の技術を身につけ、患者の症状変化を的確に把握できるようになりましょう。また、患者の痛みに共感的に寄り添いながら、根拠に基づいた説明と指導を行う能力を養ってください。
腎結石は比較的頻度の高い疾患で、救急外来での受診も多いため、迅速で適切な初期対応ができる知識と技術を身につけることが大切です。また、多職種との連携により、急性期治療から慢性期の再発予防まで一貫した患者支援を提供し、患者のQOL向上と健康維持に貢献していきましょう。
この記事の執筆者

・看護師と保健師
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
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