【膀胱がん】疾患解説と看護の要点

疾患解説

疾患概要

定義

膀胱がんとは、膀胱の内腔を覆う尿路上皮(移行上皮)から発生する悪性腫瘍で、泌尿器科領域では最も頻度の高いがんです。組織型により尿路上皮がん(約90%)、扁平上皮がん、腺がんなどに分類されます。浸潤度により、筋層非浸潤性膀胱がん(NMIBC:Non-Muscle Invasive Bladder Cancer)と筋層浸潤性膀胱がん(MIBC:Muscle Invasive Bladder Cancer)に大別され、治療方針と予後が大きく異なります。早期発見により根治的治療が可能ですが、再発率が高いことが特徴的な疾患です。

疫学

日本では年間約2万人が新規に膀胱がんと診断され、男性は女性の約3-4倍多く発症します。高齢男性に多く、発症のピークは70歳代です。5年生存率は全体で約80%ですが、病期により大きく異なり、表在性では95%以上、浸潤性では60-70%、転移性では30%程度となります。膀胱がんによる死亡者数は年間約5,000人で、泌尿器科がんの中では前立腺がん、腎がんに次いで第3位を占めます。欧米に比べて日本での発症率は低いものの、高齢化の進行とともに患者数は増加傾向にあります。

原因

最も重要な危険因子は喫煙で、膀胱がん患者の約50%が喫煙者です。喫煙により発症リスクは2-4倍増加し、禁煙により徐々にリスクが低下します。職業性曝露として、染料、ゴム、皮革、印刷業などで使用される芳香族アミン(ベンジジン、2-ナフチルアミンなど)への曝露が知られています。薬剤性では、鎮痛剤のフェナセチン長期服用、抗がん剤のシクロホスファミド使用が関連します。慢性膀胱炎膀胱結石による慢性刺激、放射線照射の既往も危険因子となります。遺伝的要因は比較的少ないとされています。

病態生理

膀胱がんの多くは多中心性発生の特徴を持ち、複数の部位に同時または異時性に発生します。初期には膀胱粘膜表面に乳頭状に増殖し、進行すると膀胱壁深部へ浸潤します。TNM分類では、T(原発腫瘍の浸潤度)、N(リンパ節転移)、M(遠隔転移)により病期が決定されます。Ta(粘膜内)、T1(粘膜下層)は筋層非浸潤性、T2以上(筋層以深)は筋層浸潤性に分類されます。悪性度(Grade)も重要で、低悪性度(Low Grade)と高悪性度(High Grade)に分けられ、治療方針決定に影響します。リンパ行性転移は骨盤内リンパ節から大動脈周囲リンパ節へ、血行性転移は肺、肝、骨に多く認められます。


症状・診断・治療

症状

最も重要な症状は無症候性肉眼的血尿で、患者の約80-90%に認められます。血尿は痛みを伴わないことが特徴で、間欠的に出現することが多いため見逃されやすい症状です。進行すると膀胱刺激症状(頻尿、尿意切迫感、排尿時痛)が出現し、特に上皮内がん(CIS)では血尿を伴わずに刺激症状のみの場合があります。さらに進行すると下腹部痛腰背部痛排尿困難尿閉などが生じます。転移による症状として、リンパ節転移では下肢浮腫、肺転移では咳嗽・呼吸困難、骨転移では骨痛が認められることがあります。

診断

診断の第一歩は尿検査で、血尿の確認と尿細胞診により悪性細胞の検出を行います。膀胱鏡検査は最も重要な検査で、腫瘍の部位、大きさ、形態、数を直接観察できます。CTウログラフィーMRIにより腫瘍の浸潤度や転移の評価を行います。確定診断には経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)による病理組織学的検査が必要です。尿中腫瘍マーカー(BTA、NMP22、UroVysionなど)は補助診断として有用です。筋層浸潤性が疑われる場合は、胸腹部CT骨シンチグラフィーにより遠隔転移の評価を行い、病期診断を確定します。

治療

治療方針は浸潤度と悪性度により決定されます。筋層非浸潤性膀胱がんでは、TURBTによる完全切除が基本で、中・高リスク例では術後に膀胱内注入療法(BCG、抗がん剤)を追加します。筋層浸潤性膀胱がんの標準治療は根治的膀胱全摘除術で、男性では前立腺・精嚢、女性では子宮・卵巣・膣前壁も同時に摘出します。膀胱全摘後の尿路変向として、回腸導管造設術、尿管皮膚瘻造設術、新膀胱造設術などがあります。手術適応外の場合は放射線療法化学療法が選択されます。転移性膀胱がんでは全身化学療法(シスプラチン系レジメン)が中心となり、近年は免疫チェックポイント阻害剤も使用されています。


看護アセスメント・介入

よくある看護診断・問題

  • 排尿パターン変化
  • 感染リスク状態
  • 身体像混乱
  • 性機能障害
  • 不安
  • 疼痛

ゴードン機能的健康パターン

排泄パターンは最も重要で、血尿の程度、排尿回数・量、膀胱刺激症状の有無を詳細に評価します。術後は尿路変向の種類に応じた排尿・排液状況の観察が必要でしょう。sexuality-生殖パターンでは、手術による性機能への影響、妊孕性の変化について患者・パートナーの理解度と心理的影響を評価します。自己知覚-自己概念パターンでは、ストーマ造設や新膀胱による身体像の変化、自尊感情への影響をアセスメントします。役割-関係パターンでは、治療による社会復帰への不安、家族関係の変化を評価することが重要です。健康知覚-健康管理パターンでは、再発の可能性に対する理解と定期的な検査への意欲を確認します。

ヘンダーソン14基本的ニード

正常な排泄では、尿路変向後の新しい排泄方法の習得が最も重要となります。回腸導管では装具管理、新膀胱では自己導尿や排尿訓練の習得が必要でしょう。身体の清潔保持と衣服の着脱では、ストーマ周囲皮膚のケア方法、装具の選択と交換方法を段階的に指導します。安全で害のない環境の保持では、膀胱内注入療法による副作用(膀胱炎症状、発熱)の観察と対応が重要です。学習の側面では、複雑なストーマケアや自己導尿の手技習得、再発チェックのための定期受診の重要性を理解できるよう支援します。sexualityでは、手術による性機能への影響について患者・パートナーとの相談に応じ、必要に応じて専門医への紹介を行います。

看護計画・介入の内容

  • 血尿の観察と管理:血尿の程度、血塊の有無、尿流の状況を継続的に観察し、膀胱タンポナーデの予防・早期発見を行う
  • 尿路変向の管理:ストーマケア技術の指導、装具選択の支援、皮膚トラブルの予防と対応を段階的に実施する
  • 感染予防:膀胱内注入療法時の無菌操作、尿路感染症の予防教育、発熱時の対応指導を行う
  • 心理的支援:がん告知後の心理的反応への対応、身体像変化への適応支援、性機能に関する相談対応
  • 退院指導と継続支援:ストーマケア技術の完全習得、社会復帰に向けた支援、定期受診の重要性についての教育

よくある疑問・Q&A

Q: 膀胱がん患者の血尿観察で注意すべきポイントは何ですか?

A: 血尿の程度と持続時間を詳細に観察することが重要です。肉眼的血尿の色調(鮮紅色、暗赤色、茶色)、血塊の有無と大きさ、排尿の勢いや量を記録します。特に膀胱タンポナーデ(血塊による膀胱内圧上昇)の兆候として、下腹部痛、排尿困難、尿意があるのに排尿できない状態に注意しましょう。術後は膀胱洗浄により血塊を除去し、持続的な出血がある場合は圧迫止血やカテーテル交換が必要となります。血尿の改善傾向も重要な評価項目です。

Q: 回腸導管のストーマケアで患者指導のポイントは?

A: 段階的な指導が最も重要です。まずストーマの観察方法(色調、大きさ、浮腫の有無)から始め、装具の種類と選択について説明します。皮膚保護剤の使用方法装具交換の手技(清拭、計測、貼付)を実演を交えて指導し、患者が自信を持てるまで繰り返し練習します。皮膚トラブルの予防(適切なサイズ選択、定期交換、皮膚保護)とトラブル時の対応についても具体的に説明しましょう。退院前には一人で完全にできるレベルまで習得することが目標です。

Q: 膀胱内注入療法を受ける患者への看護で注意すべきことは?

A: 無菌操作の徹底が最も重要で、カテーテル挿入時の感染予防に細心の注意を払います。BCG注入では生ワクチンのため、注入後6時間は排尿を我慢し、その後は次亜塩素酸ナトリウムで尿器を消毒します。副作用の観察として、膀胱炎症状(頻尿、排尿時痛)、発熱、血尿の出現に注意し、重篤な副作用(BCG症、膀胱収縮)の早期発見に努めます。患者には水分摂取により薬剤を希釈すること、異常時の受診基準を明確に説明することが大切でしょう。

Q: 膀胱全摘術後の患者の性機能に関する支援はどうすべきですか?

A: まず患者・パートナーの関心度を確認し、無理に話題にしないよう配慮します。希望がある場合は、医学的事実を正確に説明し、男性では勃起機能の変化、女性では膣の形態変化について伝えます。神経温存手術の有無や補助的治療法(薬物療法、器具使用)についても情報提供します。夫婦関係全体への影響を考慮し、必要に応じて専門医やカウンセラーへの紹介を行います。性機能以外の親密性の表現方法についても一緒に考え、夫婦関係の維持を総合的に支援することが重要でしょう。


まとめ

膀胱がんは早期発見により根治可能な疾患である一方、再発率が高いという特徴があるため、継続的な観察と患者教育が重要です。特に無症候性血尿は見逃されやすい症状であり、看護師は患者に対して血尿の重要性と早期受診の必要性を啓発する役割を担います。

治療選択肢が多様で、特に尿路変向により患者の生活は大きく変化します。ストーマケアの技術習得は患者の社会復帰に直結するため、個別性を重視した丁寧な指導が求められます。また、身体像の変化や性機能への影響は患者・パートナーの心理的負担となるため、医学的な情報提供と心理的支援を両輪として継続的にサポートすることが重要でしょう。

膀胱内注入療法では感染管理が極めて重要で、無菌操作の徹底と副作用の早期発見により安全な治療環境を提供する必要があります。患者は長期間にわたり定期的な検査を受けるため、治療継続への動機づけ再発への不安軽減についても継続的に支援することが求められます。

実習では、患者一人ひとりの病期と治療選択を理解し、その時々の看護の優先順位を考えながら実践してください。泌尿器科特有のプライバシーへの配慮尊厳を保持したケアを心がけ、患者が安心して治療を受けられる環境づくりを学んでいただければと思います。


この記事の執筆者

なっちゃん
なっちゃん

・看護師と保健師
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり


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