【疾患解説】慢性閉塞性肺疾患(COPD)

疾患解説

疾患概要

定義

慢性閉塞性肺疾患(COPD:Chronic Obstructive Pulmonary Disease)は、完全には可逆的ではない気流制限を特徴とする疾患ですね。気管支や肺胞の慢性的な炎症により、呼吸困難や咳、痰などの症状が持続的に現れます。主に慢性気管支炎と肺気腫の病態が混在して起こることが多いでしょう。

疫学

日本では40歳以上の約8.6%がCOPDに罹患しており、男性に多く見られます。世界的には死因の第3位を占める重要な疾患です。しかし、実際には診断されていない潜在患者が多数存在すると考えられています。高齢化に伴い、今後さらに患者数の増加が予想される疾患ですね。

原因

最も重要な原因は長期間の喫煙です。喫煙者の15-20%がCOPDを発症するとされています。その他の原因として、職業性粉塵(炭塵、シリカなど)への長期暴露、大気汚染、室内空気汚染(薪や炭の燃焼による煙など)があります。また、α₁-アンチトリプシン欠損症などの遺伝的要因も関与することがあるでしょう。

病態生理

COPDの病態は主に慢性気管支炎肺気腫の2つの要素から構成されます。

慢性気管支炎では、気管支の粘膜に慢性的な炎症が起こり、粘液分泌腺の肥大と杯細胞の増加により痰の産生が増加します。気管支壁の肥厚により気道が狭くなり、気流制限が生じるのです。

肺気腫では、肺胞壁の破壊により肺胞が拡大し、肺の弾性収縮力が低下します。これにより呼気時に気道が虚脱しやすくなり、エアトラッピング(空気の閉じ込め)が起こります。結果として機能的残気量が増加し、呼吸効率が著しく低下するでしょう。

症状・診断・治療

症状

初期症状として、朝の咳や痰から始まることが多いですね。病状が進行すると、労作時呼吸困難が主要な症状となります。階段昇降や坂道歩行時に息切れを感じ、徐々に平地歩行でも症状が現れるようになります。

慢性的な咳と痰の産生も特徴的で、特に朝方に症状が強くなる傾向があります。病状が進行すると、安静時にも呼吸困難を感じるようになり、日常生活動作(ADL)に大きな影響を与えるでしょう。

急性増悪時には、呼吸困難の増強、痰の増加や膿性化、発熱などが見られます。重症例では、チアノーゼや意識レベルの低下を呈することもあります。

診断

診断にはスパイロメトリー(肺機能検査)が必須です。気管支拡張薬使用後の1秒率(FEV₁/FVC)が70%未満であることがCOPDの診断基準となります。

胸部X線検査では、肺の過膨張、横隔膜の平低化、肺血管陰影の減少などが見られます。胸部CT検査では、より詳細な肺気腫の評価が可能で、気腫性変化の分布や程度を把握できるでしょう。

血液ガス分析では、進行例でⅡ型呼吸不全(CO₂貯留を伴う低酸素血症)を呈することがあります。喀痰検査により細菌感染の有無を確認することも重要ですね。

治療

治療の基本は禁煙です。これが最も重要で効果的な治療法であり、病状の進行を遅らせることができます。

薬物療法では、気管支拡張薬が中心となります。長時間作用型β₂刺激薬(LABA)や長時間作用型抗コリン薬(LAMA)を使用し、症状に応じて吸入ステロイド薬(ICS)を併用します。急性増悪時には、全身性ステロイド薬や抗菌薬を使用することもあるでしょう。

酸素療法は、安静時の動脈血酸素分圧が55mmHg以下、または60mmHg以下で心不全や多血症などの合併症がある場合に適応となります。在宅酸素療法(HOT)により、生活の質の向上と生存率の改善が期待できます。

看護アセスメント・介入

よくある看護診断・問題

・ガス交換障害
・非効果的気道クリアランス
・活動耐性低下
・不安
・栄養摂取不足
・睡眠パターン障害
・社会的孤立
・セルフケア不足
・家族の介護負担

ゴードンのポイント

健康知覚・健康管理パターンでは、患者の喫煙歴や禁煙への意識、薬物療法への理解度と服薬アドヒアランスを詳細に評価する必要があります。多くの患者は長年の喫煙習慣があり、禁煙の重要性を理解していても実行が困難な場合があるでしょう。吸入薬の手技習得状況や定期受診の継続性も重要な評価ポイントですね。

活動・運動パターンでは、日常生活動作における呼吸困難の程度を具体的に把握することが大切です。階段昇降、入浴、更衣などの具体的な場面での症状出現を評価し、患者の活動範囲や運動耐容能を正確に把握する必要があります。呼吸困難による活動制限が社会参加や就労にも影響を与えていることが多いでしょう。

栄養・代謝パターンでは、呼吸仕事量の増加により消費エネルギーが増大する一方で、呼吸困難により食事摂取量が減少しがちな点に注意が必要です。体重減少や筋肉量の低下は病状悪化の要因となるため、栄養状態の詳細な評価が重要ですね。

ヘンダーソンのポイント

正常な呼吸では、安静時および労作時の呼吸状態を詳細に観察し、呼吸困難の程度やパターンを評価します。呼吸補助筋の使用、起座呼吸の有無、口すぼめ呼吸などの代償機転も重要な観察ポイントでしょう。酸素飽和度の変動や血液ガス所見から、ガス交換の状態を把握することも必要ですね。

適切な飲食に関しては、呼吸困難により食事摂取が困難になることが多く、特に食事中の酸素化の悪化に注意が必要です。少量頻回の食事や、エネルギー密度の高い食品の選択など、具体的な栄養摂取方法の指導が重要でしょう。

身体の清潔と身だしなみでは、入浴や更衣時の呼吸困難の増強に配慮し、患者の体力や呼吸状態に応じたケア方法を検討する必要があります。シャワー浴への変更や、座位での更衣方法の指導なども有効ですね。

看護計画・介入の内容

・呼吸状態の継続的な観察とバイタルサインの監視
・効果的な咳嗽法や痰の喀出方法の指導
・口すぼめ呼吸や腹式呼吸などの呼吸法の指導と練習
・活動耐性に応じた日常生活動作の調整と指導
・吸入薬の正しい使用方法の指導と手技の確認
・禁煙指導とサポート体制の提供
・栄養状態の評価と食事摂取方法の工夫
・酸素療法の適切な管理と安全な使用方法の指導
・感染予防対策の指導(手洗い、うがい、人混みを避けるなど)
・急性増悪の徴候と対応方法の指導
・家族への疾患理解と介護方法の指導
・社会資源の活用に関する情報提供

よくある疑問・Q&A

Q:COPDの患者さんに高濃度酸素を投与してはいけないのはなぜですか? A:COPD患者の中には、慢性的なCO₂貯留により呼吸中枢の感受性が低下し、低酸素刺激に依存して呼吸を維持している方がいます。このような患者に高濃度酸素を投与すると、低酸素刺激が取り除かれて呼吸抑制が起こり、CO₂ナルコーシスに陥る危険性があるのです。ただし、すべてのCOPD患者に当てはまるわけではないので、個々の患者の状態を十分に評価することが大切ですね。

Q:なぜCOPD患者さんは痩せている人が多いのでしょうか? A:COPD患者さんが痩せやすい理由はいくつかあります。まず、呼吸仕事量が増加するため消費エネルギーが健康な人の約1.5倍になります。また、呼吸困難により食事摂取量が減少し、特に食事中の酸素化悪化を恐れて食べる量を制限してしまうことがあります。さらに、慢性的な炎症により代謝が亢進し、筋肉量の減少も起こりやすくなるのです。

Q:口すぼめ呼吸はなぜ効果的なのですか? A:口すぼめ呼吸により呼気時の気道内圧が上昇し、気道の虚脱を防ぐことができます。これにより肺に閉じ込められた空気(エアトラッピング)を効率的に排出でき、次の吸気がしやすくなるのです。また、呼気を意識的にゆっくり行うことで、呼吸パターンが整い、呼吸困難感の軽減にもつながりますね。

Q:COPD患者さんの急性増悪の見分け方を教えてください A:急性増悪の主な兆候は「呼吸困難の増強」「痰の量の増加や膿性化」「咳の増強」の3つです。これらに加えて、発熱、倦怠感、食欲不振、睡眠障害なども見られることがあります。普段の症状と比較して明らかな悪化が見られた場合は、早急に医師に報告し、適切な治療を開始することが重要でしょう。

Q:在宅酸素療法の患者さんが外出する際の注意点は? A:携帯用酸素ボンベの残量確認と予備の準備が最も重要です。外出時間に応じた酸素量の計算と、予備を含めた準備が必要ですね。また、酸素ボンベの取り扱い方法、火気との距離の確保、転倒防止などの安全管理も欠かせません。階段や坂道では酸素流量の調整が必要な場合もあるため、事前の準備と計画が大切でしょう。

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この記事の執筆者

なっちゃん
なっちゃん

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり

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