疾患概要
定義
帯状疱疹(herpes zoster)は、水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)の再活性化により生じる疾患です。小児期に水痘に罹患した後、ウイルスが知覚神経節に潜伏感染し、免疫力低下時に再活性化して発症します。一側性の神経支配領域(皮膚分節:デルマトーム)に沿って疼痛を伴う小水疱が帯状に出現することが特徴で、「帯状疱疹」の名前の由来となっています。高齢者や免疫不全患者に多く、激しい神経痛と長期間持続する後遺症が問題となる疾患です。
疫学
日本では年間約60万人が帯状疱疹を発症し、生涯発症率は約30%とされています。50歳以降で急激に発症率が上昇し、80歳以上では年間発症率が1%を超えます。男女比はほぼ同等ですが、高齢者では女性にやや多い傾向があります。免疫不全状態(HIV感染、悪性腫瘍、免疫抑制薬使用、ステロイド長期使用)では若年でも発症しやすく、重症化のリスクが高くなります。近年、ストレス社会の影響で若年発症例も増加傾向にあります。再発率は免疫正常者で約1-3%、免疫不全者では約10%とされています。
原因
帯状疱疹の直接的原因は水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)の再活性化です。小児期の水痘感染後、ウイルスは後根神経節や脳神経節に潜伏感染し、宿主の細胞性免疫が低下した際に再活性化します。誘因として加齢(最も重要)、過労・ストレス、免疫抑制状態(悪性腫瘍、HIV感染、臓器移植、免疫抑制薬使用)、放射線治療、外傷・手術、感染症などが挙げられます。VZV特異的細胞性免疫の低下が発症の鍵となり、加齢により生理的に免疫機能が低下することで高齢者での発症率が高くなります。
病態生理
潜伏していたVZVが再活性化すると、ウイルスは軸索を通って末梢神経に沿って移動し、神経支配領域の皮膚に到達します。ウイルス増殖により神経炎が生じ、激しい神経痛の原因となります。皮膚では表皮細胞内でウイルス増殖が起こり、細胞変性・壊死により水疱形成が生じます。炎症により血管透過性が亢進し、浮腫や発赤が出現します。神経の炎症と破壊により、急性期の激痛だけでなく、帯状疱疹後神経痛(PHN)として長期間疼痛が持続することがあります。免疫不全状態では播種性病変や内臓病変を合併する可能性があります。
症状・診断・治療
症状
典型的な経過は前駆期→急性期→回復期の3段階です。前駆期(1-3日)では皮疹出現前に一側性の神経痛が出現し、チクチク、ピリピリした痛みや灼熱感を自覚します。急性期(1-2週間)では神経支配領域に沿った帯状の紅斑・小水疱が出現し、激しい疼痛を伴います。水疱は2-3日で膿疱化し、1週間程度で痂皮化します。全身症状として発熱、倦怠感、頭痛を認めることがあります。合併症として角膜炎・結膜炎(眼部帯状疱疹)、顔面神経麻痺・難聴(Ramsay Hunt症候群)、運動神経麻痺などがあります。帯状疱疹後神経痛は皮疹治癒後も3ヶ月以上疼痛が持続する状態で、高齢者や重症例で発症リスクが高くなります。
診断
診断は臨床症状と皮疹の分布により行われます。一側性で神経支配領域に一致した帯状の水疱と激しい神経痛が特徴的です。ウイルス学的検査ではPCR法によるVZV DNA検出が最も感度・特異度が高く、抗原検査(免疫クロマト法)は迅速診断に有用です。Tzanck試験では多核巨細胞を確認できますが、単純ヘルペスとの鑑別はできません。血清抗体価は急性期と回復期のペア血清で診断可能ですが、実際の診療ではあまり用いられません。鑑別診断として単純ヘルペス、接触皮膚炎、虫刺症などがあります。
治療
治療は抗ウイルス薬、疼痛管理、合併症予防が3本柱となります。抗ウイルス薬は発症72時間以内の投与が効果的で、アシクロビル、バラシクロビル、ファムシクロビルが使用されます。内服が困難な場合や重症例ではアシクロビル点滴を行います。疼痛管理ではNSAIDs、アセトアミノフェンに加え、神経障害性疼痛治療薬(プレガバリン、ガバペンチン)、三環系抗うつ薬を使用します。局所治療としてリドカインゲルやカプサイシンクリームも有効です。重症例では神経ブロックも考慮されます。予防としてワクチン接種(50歳以上で推奨)により発症率や重症度を低下させることができます。
看護アセスメント・介入
よくある看護診断・問題
- 急性疼痛:神経炎症に関連した激しい神経痛
- 皮膚統合性障害:ウイルス感染による皮膚の水疱・びらん形成
- 感染拡大リスク:水疱内容物による水痘感染の危険性
ゴードン機能的健康パターン
認知・知覚パターンでは疼痛の程度、性質、部位を詳細にアセスメントし、日常生活への影響を評価します。疼痛はペインスケールを用いて客観的に評価し、神経障害性疼痛の特徴(電撃痛、アロディニア、ハイパーアルジア)を把握します。活動・運動パターンでは疼痛による活動制限、睡眠障害の程度を評価し、ADLへの影響を確認します。対処・ストレス耐性パターンでは慢性疼痛への不安、将来への心配、疼痛に対する対処能力を評価し、心理的サポートの必要性を判断します。
ヘンダーソン14基本的ニード
清潔で健康な皮膚を維持し、衣服で身体を守るでは患部の適切なケア方法と二次感染予防、健側皮膚の保護について指導します。水疱の取り扱い、清拭方法、衣類の選択が重要です。眠る・休むでは疼痛による睡眠障害の程度を評価し、良質な睡眠確保のための環境整備と疼痛管理を支援します。安全で健康的な環境を維持し、他者に危険が及ばないようにするでは水痘未罹患者や免疫不全者への感染拡散防止について指導します。
看護計画・介入の内容
- 疼痛管理・症状緩和:多角的疼痛管理(薬物療法と非薬物療法の併用)、疼痛の客観的評価と記録、冷却療法による局所疼痛緩和、衣類による刺激回避(ゆったりした綿製品の着用)
- 皮膚ケア・感染予防:患部の清潔保持と適切な被覆、水疱の破裂予防と処置、二次感染予防のための抗菌薬軟膏塗布、患部の保護と安静保持
- 感染管理・患者教育:接触予防策の実施、水痘未罹患者への感染リスク説明、手指衛生の徹底指導、患部からの分泌物の適切な処理、家族・面会者への感染予防教育
よくある疑問・Q&A
Q: 帯状疱疹はうつりますか?家族や周囲の人への感染対策はどうすればよいですか?
A: 帯状疱疹自体は直接うつりませんが、水疱の内容物に含まれるウイルスにより水痘として感染する可能性があります。特に水痘未罹患者(主に小児)、妊婦、免疫不全者は感染リスクが高いため注意が必要です。水疱が痂皮化するまで(約1週間)は感染性があります。対策として患部の適切な被覆、手指衛生の徹底、タオルや衣類の共用回避が重要です。水疱が乾燥して痂皮化すれば感染性はなくなります。
Q: 痛みはいつまで続きますか?帯状疱疹後神経痛になる可能性はありますか?
A: 急性期の痛みは皮疹の改善とともに軽減し、通常1-2ヶ月で改善します。しかし、50歳以上、重症例、治療開始が遅れた場合では帯状疱疹後神経痛(PHN)に移行するリスクが高くなります。PHNは皮疹治癒後3ヶ月以上疼痛が持続する状態で、発症率は全体の約10-20%、70歳以上では約50%とされています。早期の抗ウイルス薬治療と適切な疼痛管理によりPHNのリスクを減少させることができます。
Q: 仕事や学校はいつから復帰できますか?
A: 水疱が痂皮化し、新しい水疱の出現がなくなれば復帰可能です。通常発症から1-2週間程度が目安となります。ただし、職場や学校に水痘未罹患の小児や免疫不全者がいる場合は、より慎重な判断が必要です。学校保健安全法では帯状疱疹は出席停止の対象疾患ではありませんが、水疱が存在する間は感染リスクがあるため、医師と相談して復帰時期を決定してください。疼痛が強い場合は症状に応じて段階的復帰を検討します。
Q: 予防方法はありますか?再発することはありますか?
A: 50歳以上では帯状疱疹ワクチンの接種が推奨されます。現在使用可能なワクチンには乾燥弱毒生水痘ワクチンとサブユニットワクチンがあり、いずれも発症率や重症度の低下効果が認められています。再発率は免疫正常者で約1-3%と低いですが、免疫不全者では約10%と高くなります。予防には免疫力の維持が重要で、規則正しい生活、適度な運動、バランスの取れた食事、ストレス管理、十分な睡眠を心がけてください。基礎疾患の適切な管理も重要です。
まとめ
帯状疱疹はVZVの再活性化による感染症として、特に高齢者において深刻な影響を与える疾患です。激しい急性期疼痛と長期間持続する可能性のある帯状疱疹後神経痛により、患者さんのQOLに大きな影響を与えることが特徴です。
看護の要点は包括的な疼痛管理と感染拡散防止です。帯状疱疹の疼痛は神経障害性疼痛の特徴を持ち、従来の鎮痛薬だけでは十分な効果が得られないことが多いため、多角的なアプローチが必要となります。薬物療法と非薬物療法を組み合わせ、患者さんの症状に応じた個別的な疼痛管理を提供することが重要です。
感染管理では、帯状疱疹自体は感染しないものの、水疱内容物による水痘感染のリスクがあることを患者・家族に説明し、適切な予防策を指導することが大切です。特に高リスク者(小児、妊婦、免疫不全者)への配慮が必要です。
早期治療の重要性を患者・家族に説明し、72時間以内の抗ウイルス薬開始が症状軽減と合併症予防に効果的であることを伝えます。また、帯状疱疹後神経痛の予防という観点から、急性期の適切な治療の重要性を強調することが必要です。
心理的支援では、激しい疼痛による苦痛、長期化への不安、外見の変化への心配などに共感的に対応し、患者さんが治療に前向きに取り組めるよう支援することが大切です。ワクチンによる予防が可能であることも希望的な情報として提供できます。
実習では患者さんの疼痛体験を丁寧にアセスメントし、個別性のある疼痛管理計画を立案することが重要です。また、年齢や基礎疾患により重症化リスクや合併症の可能性が異なるため、包括的な評価を行い、患者さんが安心して治療を受けられるよう支援していきましょう。帯状疱疹は多くの場合適切な治療により改善する疾患であることを忘れずに、希望を持った看護を提供することが重要です。
この記事の執筆者

・看護師と保健師
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
コメント