疾患概要
定義
肝炎は、肝細胞の炎症により肝機能が低下する疾患の総称です。急性肝炎(6か月以内に治癒するもの)と慢性肝炎(6か月以上持続するもの)に分類されます。原因により、ウイルス性肝炎、アルコール性肝炎、薬物性肝炎、自己免疫性肝炎などに分けられ、それぞれ病態や治療法が異なりますね。
疫学
日本における慢性肝炎患者数は、B型肝炎が約110万人、C型肝炎が約190万人と推定されています。年齢分布は50〜70歳代に多く、男女比はC型肝炎で男性がやや多い傾向があります。近年、C型肝炎の治療法の劇的な進歩により治癒率が95%以上に向上し、新規感染者数も減少しています。一方、B型肝炎は慢性化率が高く、長期的な管理が必要な患者が多いのが現状でしょう。
原因
ウイルス性肝炎が最も多く、A型、B型、C型、D型、E型肝炎ウイルスがあります。A型・E型は経口感染(汚染された水や食物)、B型・C型・D型は血液感染(輸血、注射器の使い回し、性行為、母子感染)が主な感染経路です。
アルコール性肝炎は長期間の過度の飲酒により発症し、薬物性肝炎は解熱鎮痛薬、抗生物質、抗結核薬などが原因となります。
自己免疫性肝炎は自己の免疫系が肝細胞を攻撃することで発症し、中年女性に多い疾患ですね。
病態生理
急性肝炎では、ウイルス感染や薬物により肝細胞が急速に破壊され、AST・ALTが著明に上昇します。多くは自然治癒しますが、まれに劇症肝炎に進行し、肝不全により生命に危険が及ぶことがあります。
慢性肝炎では、持続的な炎症により肝細胞の破壊と再生が繰り返され、徐々に線維化が進行します。治療しないまま放置すると、肝硬変や肝がんに進展する可能性があるのです。
B型肝炎ウイルスは肝細胞内でウイルスの増殖を続け、C型肝炎ウイルスは高い変異率により免疫系から逃れながら感染を持続させるという特徴がありますね。
症状・診断・治療
症状
急性肝炎では、初期に感冒様症状(発熱、全身倦怠感、関節痛)が現れ、その後黄疸(皮膚・眼球結膜の黄染)、肝腫大、右季肋部痛などが出現します。食欲不振、悪心・嘔吐も よく見られる症状です。
慢性肝炎は多くの場合無症状で経過し、健診で肝機能異常を指摘されて発見されることが多いでしょう。症状がある場合は、全身倦怠感、易疲労感、食欲不振などの非特異的な症状がほとんどです。
劇症肝炎では、高度の意識障害、出血傾向、黄疸の急激な進行などが見られ、緊急治療が必要になります。
診断
血液検査が最も重要で、肝機能検査(AST、ALT、γ-GTP、ALP)、ビリルビン、アルブミン、プロトロンビン時間などを測定します。
ウイルスマーカーにより原因ウイルスを特定します。B型肝炎ではHBs抗原、HBc抗体、HBe抗原・抗体、C型肝炎ではHCV抗体、HCV-RNAを測定しますね。
画像検査として腹部超音波検査、CT検査により肝腫大や肝硬変の有無を確認します。
肝生検は慢性肝炎の炎症の程度や線維化の進行度を評価するのに有用で、治療方針の決定に重要な情報を提供します。
治療
A型肝炎は対症療法が中心で、安静と栄養管理により自然治癒が期待できます。
B型肝炎では、核酸アナログ製剤(エンテカビル、テノホビルなど)によりウイルス増殖を抑制します。完全治癒は困難ですが、長期投与により肝炎の沈静化が可能です。
C型肝炎では、DAA(直接作用型抗ウイルス薬)により8〜12週間の内服治療で95%以上の患者でウイルスの排除が可能になりました。
自己免疫性肝炎では副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬を使用します。
アルコール性肝炎では断酒が最も重要で、重症例ではステロイド治療が検討されることもありますね。
看護アセスメント・介入
よくある看護診断・問題
- 活動耐性低下:肝機能低下、全身倦怠感に関連した
- 感染リスク状態:ウイルス性肝炎、免疫機能低下に関連した
- 知識不足:疾患の理解、感染予防、服薬管理に関連した
- 不安:予後への心配、慢性疾患への適応に関連した
- 社会的孤立:ウイルス性肝炎への偏見、差別に関連した
ゴードン機能的健康パターン
活動・運動パターンでは、易疲労感や全身倦怠感が日常生活動作に与える影響を評価する必要があります。急性期は安静が重要ですが、慢性期は適度な運動を維持することで全身状態の改善が期待できますね。
栄養・代謝パターンでは、食欲不振、悪心・嘔吐による栄養摂取不足、肝機能低下による代謝異常を詳細にアセスメントします。特にアルコール性肝炎では栄養状態が不良なことが多いでしょう。
価値・信念パターンでは、ウイルス性肝炎に対する偏見や誤解、将来への不安、治療への意欲などを評価し、患者の価値観を尊重したケアを提供することが重要です。
ヘンダーソン14基本的ニード
正常に飲食するでは、肝機能に配慮した食事内容の選択、アルコール摂取の制限、栄養状態の改善が重要な課題となります。食欲不振に対する工夫も必要ですね。
働くことによって達成感を得るでは、慢性肝炎患者の就労継続、職場での理解促進、体調管理と仕事の両立などを支援します。
娯楽・レクリエーションを行うでは、アルコール依存がある場合の代替となる娯楽の提案、ストレス発散方法の指導などが含まれます。
看護計画・介入の内容
- 症状観察:肝機能検査値のモニタリング、黄疸・腹水の観察、意識レベルの評価、バイタルサイン測定
- 感染予防指導:手洗いの徹底、血液・体液への接触回避、性行為での注意点、家族への感染予防指導
- 服薬指導:抗ウイルス薬の正しい服用方法、副作用の説明、服薬アドヒアランスの向上
- 生活指導:禁酒指導、適度な運動、十分な休息、ストレス管理、定期受診の重要性
- 心理的支援:病気受容の支援、将来への不安軽減、家族関係の調整、偏見・差別への対処
- 退院指導:自己管理方法、感染予防策、緊急時の対応、社会復帰支援
よくある疑問・Q&A
Q: B型肝炎・C型肝炎は家族にうつりますか? A: 血液を介して感染するため、日常生活での感染リスクは極めて低いです。ただし、剃刀や歯ブラシの共用は避け、外傷時の血液には注意が必要です。性行為による感染の可能性もあるため、パートナーにはワクチン接種(B型肝炎)や検査を勧めましょう。食事を一緒にとる、入浴する、握手するなどでは感染しませんね。
Q: C型肝炎が治ったら、もう肝臓の心配はいりませんか? A: C型肝炎ウイルスが排除されても、既に進行した線維化は残存するため、定期的な検査は必要です。また、ウイルス排除後も肝がんの発生リスクは一般の方より高いとされています。年1〜2回の腹部超音波検査や血液検査を継続することが推奨されるでしょう。
Q: お酒はどの程度なら飲んでも大丈夫ですか? A: 肝炎がある場合は基本的に禁酒が推奨されます。アルコールは肝炎の進行を促進し、ウイルス性肝炎の場合は肝硬変や肝がんのリスクを高めます。どうしても飲酒したい場合は、主治医と相談の上、肝機能が安定している時期に少量に留めることが重要ですね。
Q: 仕事は普通に続けられますか? A: 多くの場合、仕事の継続は可能です。ただし、過労やストレスは肝炎の悪化要因となるため、働き方の調整が必要な場合があります。職場には感染性がないことを説明し、理解を求めることも大切です。定期的な検査のための通院時間の確保も重要でしょう。
Q: 肝炎の薬を飲み忘れたらどうすればよいですか? A: 気づいた時点ですぐに服用してください。ただし、次の服用時間が近い場合は1回分を飛ばし、2回分をまとめて服用してはいけません。特にC型肝炎のDAA治療では、服薬アドヒアランスが治療効果に大きく影響するため、飲み忘れを防ぐ工夫(服薬カレンダー、アラーム設定など)が重要ですね。
Q: 肝炎の検査はどのくらいの頻度で受ければよいですか? A: 慢性肝炎では3〜6か月ごとの検査が一般的です。肝機能検査、ウイルス量測定、腹部超音波検査などを組み合わせて行います。治療中は1〜3か月ごとにより頻回な検査が必要になります。急性肝炎の場合は回復するまで週1〜2回の検査を行うことが多いでしょう。
まとめ
肝炎はウイルス感染を主要因とする肝細胞の炎症性疾患で、急性から慢性へと移行し、最終的には肝硬変・肝がんに進展する可能性がある疾患です。
病態の理解では、各ウイルスの感染経路と病態の違い、急性肝炎から慢性肝炎への移行過程を把握することが重要ですね。特にC型肝炎の治療法の進歩により、多くの患者で根治が可能になったことは画期的な変化です。
看護の要点として、感染予防指導、服薬管理、生活指導、心理的支援が中核となります。特にウイルス性肝炎の感染予防と偏見・差別への対処は、患者のQOL向上に直結する重要な看護介入です。
患者教育では、疾患に対する正しい理解、感染予防策、治療の重要性、定期検査の必要性を分かりやすく説明することが大切でしょう。
実習では、患者さんの肝機能の変化を注意深く観察し、感染予防に配慮しながら適切なケアを提供しましょう。肝炎は「治る病気」または「コントロール可能な病気」であることを患者さんに伝え、希望を持って治療に取り組めるよう支援することが重要です。また、社会復帰への不安に寄り添い、患者さんが自信を持って日常生活を送れるよう継続的にサポートしていくことが求められます。
この記事の執筆者

・看護師と保健師
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
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