疾患概要
定義
胆石症は、胆嚢や胆管内に胆石が形成される疾患です。胆石の存在部位により胆嚢結石症、総胆管結石症、肝内結石症に分類されます。胆石があっても症状がない場合を無症状胆石、症状がある場合を症状性胆石と呼びます。胆石による炎症が起こると胆嚢炎や胆管炎を併発し、重篤な合併症を引き起こすことがありますね。
疫学
日本人の胆石保有率は約10%で、年齢とともに増加し、70歳代では20%以上に達します。男女比は1:2で女性に多く、特に40歳以降の女性に好発します。欧米ではコレステロール結石が多いのに対し、日本では従来ビリルビン結石が多かったのですが、近年の食生活の変化によりコレステロール結石が増加傾向にあるでしょう。
原因
胆石は成分によりコレステロール結石、ビリルビン結石(黒色石・褐色石)、混合石に分類されます。
コレステロール結石の危険因子として、4F(Female:女性、Fatty:肥満、Forty:40歳代、Fertile:多産)が有名です。その他、急激な体重減少、長期間の絶食、経口避妊薬の使用、遺伝的要因なども関与します。
ビリルビン結石は、溶血性疾患、肝硬変、胆道感染、胆汁うっ滞などが原因となります。特に褐色石は胆道感染により形成されることが多いですね。
病態生理
コレステロール結石は、胆汁中のコレステロールが過飽和状態となり、コレステロール結晶が析出して形成されます。胆嚢の収縮機能低下により胆汁のうっ滞が生じると、結石形成が促進されるのです。
ビリルビン結石は、ビリルビンの代謝異常や細菌感染により、非抱合型ビリルビンが増加して形成されます。
胆石が胆嚢頸部や胆管に嵌頓すると、胆汁の流出が阻害され、胆嚢炎や胆管炎、膵炎などの合併症を引き起こします。特に総胆管結石ではCharcot三徴(発熱、黄疸、右季肋部痛)が出現することがありますね。
症状・診断・治療
症状
無症状胆石では全く症状がなく、健診の腹部超音波検査で偶然発見されることが多いです。
症状性胆石では、胆石発作(胆仙痛)が特徴的な症状です。右季肋部から心窩部にかけての激痛が突然出現し、右肩や背部に放散することもあります。痛みは30分〜数時間持続し、脂肪食摂取後に起こりやすい傾向があるでしょう。
胆嚢炎を併発すると、持続する右季肋部痛、発熱、悪心・嘔吐が現れます。Murphy徴候(右季肋部の圧痛と深呼吸時の疼痛増強)が陽性となります。
総胆管結石では、黄疸、濃染尿、白色便、皮膚掻痒感などが出現し、胆管炎を併発すると高熱と意識障害を伴うことがありますね。
診断
腹部超音波検査が最も有用で、胆嚢結石の診断率は95%以上です。結石は音響陰影を伴う高エコー像として描出されます。
CT検査はコレステロール結石では描出されにくいですが、合併症の評価や総胆管結石の診断に有用です。
MRCP(MR胆管膵管撮影)は非侵襲的に胆管の描出が可能で、総胆管結石の診断に優れています。
ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管撮影)は診断と同時に治療(結石除去)も可能ですが、侵襲的な検査のため適応を慎重に判断します。
血液検査では、胆管炎時にビリルビン、ALP、γ-GTPの上昇、炎症反応(CRP、白血球数)の上昇が見られるでしょう。
治療
無症状胆石は基本的に経過観察となりますが、胆嚢癌のリスクが高い場合(陶器様胆嚢、胆嚢ポリープ合併など)は予防的手術が検討されることもあります。
症状性胆石では腹腔鏡下胆嚢摘出術が第一選択となります。低侵襲で術後回復が早く、現在では胆石症手術の標準術式となっています。
溶解療法(ウルソデオキシコール酸)はコレステロール結石に対して行われますが、効果が限定的で再発率も高いため、手術困難例に限定されます。
ESWL(体外衝撃波結石破砕術)も選択肢の一つですが、適応は限定的ですね。
総胆管結石ではERCP下結石除去術が第一選択で、内視鏡的乳頭括約筋切開術(EST)後に結石を除去します。
看護アセスメント・介入
よくある看護診断・問題
- 急性疼痛:胆石嵌頓、胆嚢炎に関連した右季肋部痛
- 感染リスク状態:胆道系の炎症、手術創に関連した
- 栄養摂取消費バランス異常:疼痛、悪心・嘔吐による食事摂取困難に関連した
- 不安:手術への恐怖、疼痛の再発への心配に関連した
- 知識不足:疾患の理解、食事療法、術後管理に関連した
ゴードン機能的健康パターン
栄養・代謝パターンでは、脂肪食摂取と症状の関連、食事内容と胆石発作の誘発要因を詳細に評価する必要があります。術後は消化機能の変化による下痢や腹部膨満感が問題となることもありますね。
認知・知覚パターンでは、疼痛の性状、部位、持続時間、誘発・軽減因子を詳しく聴取します。胆石発作の痛みは激烈で、患者のQOLに大きく影響するため、適切な疼痛アセスメントが重要です。
活動・運動パターンでは、疼痛が日常生活動作に与える影響、術後の活動制限と段階的な活動拡大を評価しましょう。
ヘンダーソン14基本的ニード
正常に飲食するでは、脂肪制限食の理解と実践、術後の消化機能の変化への対応が重要な課題となります。胆嚢摘出後は脂肪の消化吸収能力が一時的に低下するため、段階的な食事内容の調整が必要ですね。
苦痛を避ける、あるいは苦痛に対処するでは、胆石発作時の激痛に対する適切な疼痛管理と、発作を予防するための生活指導が含まれます。
身体を清潔に保ち、身だしなみを整えるでは、手術創の管理、ドレーン管理(必要時)、感染予防などが重要になります。
看護計画・介入の内容
- 疼痛管理:疼痛スケールを用いた評価、鎮痛薬の適切な投与、体位の工夫、リラクゼーション法の指導
- バイタルサイン監視:発熱・頻脈・血圧変動の観察、胆管炎・敗血症の早期発見
- 食事指導:脂肪制限食の説明、食事内容の調整、術後の段階的食事療法
- 術前準備:手術説明の理解確認、術前処置、不安軽減への支援
- 術後管理:創部の観察、ドレーン管理、早期離床の促進、合併症の予防
- 退院指導:食事療法の継続、症状出現時の対応、定期受診の重要性説明
よくある疑問・Q&A
Q: 胆石があると必ず手術が必要ですか? A: 症状がない胆石(無症状胆石)は基本的に経過観察となります。ただし、症状が出現した場合や、胆嚢癌のリスクが高い場合は手術が推奨されます。年間1〜2%の方に症状が出現するとされているため、定期的な検査で経過を見ていくことが重要ですね。
Q: 腹腔鏡手術と開腹手術の違いは何ですか? A: 腹腔鏡手術は小さな傷で行う低侵襲手術で、現在の標準術式です。傷が小さく、術後の痛みが少なく、回復が早いのが特徴です。通常2〜3日で退院できます。開腹手術は癒着が強い場合や炎症が高度な場合に選択され、傷は大きくなりますが確実な手術が可能です。
Q: 胆嚢を取っても大丈夫ですか?日常生活に影響はありませんか? A: 胆嚢は必須の臓器ではないため、摘出しても生活に大きな支障はありません。胆嚢の機能(胆汁の濃縮・貯蔵)は肝臓が代償するため、時間の経過とともに体が適応します。ただし、術後しばらくは脂肪の多い食事で下痢をすることがあるため、徐々に食事内容を調整していくことが大切ですね。
Q: 胆石症の食事で気をつけることは何ですか? A: 脂肪の多い食事を避けることが最も重要です。揚げ物、バター、生クリーム、脂身の多い肉などは胆石発作を誘発しやすいため控えましょう。また、規則正しい食事を心がけ、暴飲暴食を避けることも大切です。野菜や魚中心の和食が理想的でしょう。
Q: 胆石は薬で溶かすことはできませんか? A: コレステロール結石であれば、ウルソデオキシコール酸という薬で溶解できる可能性があります。ただし、効果が現れるまで数年かかることがあり、成功率は30〜50%程度です。また、薬を中止すると再発することも多いため、現在では手術困難な方に限定して使用されています。
Q: 胆石症は再発しますか? A: 胆嚢摘出術を受けた場合は再発しません。胆嚢がなくなるため、胆嚢結石ができることはありません。ただし、総胆管結石は別の問題として発生する可能性があります。溶解療法や結石破砕術の場合は再発率が高い(50〜70%)ため、定期的な検査が必要になりますね。
まとめ
胆石症は胆汁成分の異常により胆嚢や胆管内に結石が形成される疾患で、女性の中年以降に多く見られる消化器疾患です。
病態の理解では、コレステロール結石とビリルビン結石の成因の違い、胆石嵌頓による合併症の発症メカニズムを把握することが重要ですね。特に4F(Female、Fatty、Forty、Fertile)は覚えやすいリスクファクターです。
看護の要点として、激烈な疼痛に対する適切な疼痛管理、合併症の早期発見、術前後の全身管理が中核となります。特に胆石発作時の疼痛アセスメントと術後の段階的な食事療法は、患者のQOL向上に直結する重要な看護介入です。
患者教育では、脂肪制限食の指導、症状出現時の対応方法、術後の生活指導が重要でしょう。胆嚢摘出術は安全性の高い手術であることを説明し、患者の不安軽減に努めることも大切です。
実習では、患者さんの疼痛の訴えを丁寧に聴取し、バイタルサインや症状の変化を注意深く観察しましょう。胆石症は適切な治療により根治可能な疾患であり、患者さんが安心して治療に臨めるよう、温かい支援を心がけることが重要です。
この記事の執筆者

・看護師と保健師
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
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