【肝硬変】疾患解説と看護のポイント

消化器

疾患概要

定義

肝硬変とは、慢性的な肝障害により肝細胞が破壊と再生を繰り返した結果、肝臓全体が線維化し、正常な肝組織が失われて硬く変化した状態です。肝臓の構造が破壊されることで、肝機能が低下し、さらに門脈圧亢進症という特徴的な病態が生じます。肝硬変は不可逆的な変化で、一度進行すると元に戻ることはありません。進行すると肝不全に至り、また肝細胞癌の発生リスクも著しく高まります。

疫学

日本における肝硬変の患者数は約40〜50万人と推定されています。死因としては、がん、心疾患、脳血管疾患に次いで多く、年間約1万5千人が肝硬変で亡くなっています。男女比は約2:1で男性に多く、発症年齢のピークは60〜70歳代です。

原因別では、C型肝炎ウイルスによるものが最も多く約60%、B型肝炎ウイルスが約15%、アルコール性が約15%、その他(自己免疫性、原発性胆汁性胆管炎、非アルコール性脂肪性肝疾患など)が約10%を占めます。近年、C型肝炎の治療薬の進歩により、C型肝硬変は減少傾向にありますが、高齢化やメタボリックシンドロームの増加に伴い、非アルコール性脂肪性肝疾患からの肝硬変が増加しています。

原因

肝硬変の原因は、長期にわたる慢性肝障害です。

ウイルス性肝炎

B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスによる慢性肝炎が、10〜20年以上かけて肝硬変へ進行します。日本では、C型肝炎ウイルスが肝硬変の最大の原因となっています。

アルコール性肝障害

長期間の大量飲酒により、アルコール性肝炎から肝硬変へ進行します。目安として、日本酒換算で1日3合以上を10年以上継続すると、肝硬変のリスクが高まります。

非アルコール性脂肪性肝疾患

肥満、糖尿病、脂質異常症などのメタボリックシンドロームに関連した脂肪肝が進行し、肝硬変に至ることがあります。アルコールを飲まなくても肝硬変になる可能性があるため、注目されています。

その他

自己免疫性肝炎、原発性胆汁性胆管炎、原発性硬化性胆管炎、ウィルソン病、ヘモクロマトーシスなどの稀な疾患も肝硬変の原因となります。


病態生理

肝硬変の病態は、肝細胞の破壊と再生の繰り返しから始まります。

慢性的な肝障害により肝細胞が破壊されると、その部分を修復しようとして線維組織(コラーゲン)が増加します。これを線維化といいます。正常な肝臓では、肝細胞が規則正しく並んでいますが、線維化が進むと、肝細胞は正常な配列を失い、再生しながら不規則な塊(再生結節)を形成します。この再生結節が線維組織に囲まれた状態が肝硬変です。

線維化により、肝臓の正常な構造が破壊されると、2つの重要な問題が生じます。

肝機能の低下

肝細胞が減少し、残った肝細胞も正常に機能できなくなるため、肝臓のさまざまな働きが低下します。肝臓は、タンパク質の合成、糖代謝、アンモニアの解毒、ビリルビンの処理、凝固因子の産生など、500以上の機能を持つ臓器です。これらの機能が低下すると、以下のような症状が出現します。

アルブミンなどのタンパク質合成が低下すると、血液の浸透圧が低下し、腹水浮腫が生じます。凝固因子の産生低下により出血傾向が出現します。アンモニアを解毒する能力が低下すると、アンモニアが脳に蓄積し、肝性脳症を引き起こします。ビリルビンの処理能力が低下すると黄疸が現れます。

門脈圧亢進症

肝臓は、消化管からの血液が門脈を通って流入し、処理された後、肝静脈を通って心臓へ戻るという特殊な血液循環を持っています。肝硬変では、線維化により肝臓内の血管が圧迫され、血液が流れにくくなります。その結果、門脈内の圧力が上昇する門脈圧亢進症が生じます。

門脈圧が上昇すると、血液は抵抗の少ない別のルートを探して流れようとします。これを側副血行路といいます。主な側副血行路は、食道静脈、胃静脈、腹壁の静脈、直腸静脈などです。

食道や胃の静脈に血液が迂回すると、静脈が拡張して瘤状になります。これが食道静脈瘤胃静脈瘤です。この静脈瘤が破裂すると、大量の吐血や下血を起こし、生命に関わる危険な状態となります。

また、門脈圧亢進により、腸管からの水分やリンパ液が腹腔内に漏れ出し、腹水が貯留します。さらに、脾臓への血流がうっ滞し、脾臓が腫大する脾腫が生じ、血小板や白血球、赤血球が脾臓に捕捉されて減少します。これを脾機能亢進症といいます。

肝硬変は、代償期と非代償期に分けられます。代償期は、肝臓の機能がまだ保たれており、自覚症状がほとんどない時期です。非代償期は、肝機能が著しく低下し、腹水、黄疸、肝性脳症などの症状が出現する時期で、生命予後が悪化します。


症状・診断・治療

症状

代償期の症状

代償期の肝硬変では、自覚症状はほとんどありません。健康診断で肝機能異常を指摘されたり、画像検査で偶然発見されたりすることが多いです。軽度の全身倦怠感や易疲労感を感じる程度です。この時期の身体所見としては、手掌紅斑(手のひらが赤くなる)、くも状血管腫(胸や肩に赤い斑点が現れる)、女性化乳房(男性で乳房が膨らむ)などがみられることがあります。これらは、肝臓でのホルモン代謝異常によるものです。

非代償期の症状

肝機能が著しく低下する非代償期になると、さまざまな症状が出現します。

腹水・浮腫: 最も多い症状です。腹部膨満感、体重増加、下肢の浮腫がみられます。腹水が大量に貯留すると、横隔膜が押し上げられ、呼吸困難を訴えることもあります。

黄疸: 皮膚や眼球結膜が黄色くなります。ビリルビンの処理能力が低下するためです。黄疸に伴い、皮膚の掻痒感も出現します。

出血傾向: 凝固因子の産生低下により、歯肉出血、鼻出血、皮下出血(あざができやすい)などがみられます。

肝性脳症: アンモニアなどの有害物質が脳に蓄積し、意識障害を起こします。初期には、昼夜逆転、軽度の意識混濁、異常行動がみられ、進行すると傾眠、昏睡に至ります。特徴的な症状として、羽ばたき振戦(アステリクシス)があります。これは、両手を前に伸ばして手首を背屈させると、手がバタバタと不規則に動く現象です。

食道静脈瘤破裂: 突然の大量吐血や下血で発症します。ショック状態となり、緊急処置が必要です。

その他: 食欲不振、悪心、嘔吐、筋肉の萎縮(四肢が細くなる)、性機能低下、易感染性などもみられます。

診断

血液検査

肝機能検査では、AST、ALT、γ-GTP、ALP、ビリルビンなどを測定します。代償期では軽度上昇にとどまりますが、非代償期では著明に上昇します。

肝臓の合成能を反映する検査として、アルブミンプロトロンビン時間血小板数が重要です。これらが低下すると、肝機能が低下していることを示します。

また、原因診断のため、B型肝炎ウイルスマーカー、C型肝炎ウイルスマーカー、自己抗体などを測定します。

肝硬変の重症度評価には、Child-Pugh分類がよく用いられます。これは、ビリルビン、アルブミン、プロトロンビン時間、腹水、肝性脳症の5項目をスコア化し、A、B、Cの3段階に分類するものです。Child-Pugh Aは予後良好、Cは予後不良を示します。

画像検査

腹部超音波検査やCTスキャンでは、肝臓の表面が凹凸不整になり、辺縁が鈍化した所見がみられます。また、肝臓の萎縮(特に右葉)、脾腫、腹水、門脈の拡張なども評価できます。

上部消化管内視鏡検査により、食道静脈瘤や胃静脈瘤の有無と程度を評価します。静脈瘤の形態により、破裂リスクを予測し、治療方針を決定します。

肝生検

確定診断のため、針を刺して肝組織を採取し、顕微鏡で観察する肝生検が行われることもあります。線維化の程度、再生結節の有無、炎症の活動性などを直接評価できます。

治療

肝硬変の治療目標は、病態の進行を抑制する合併症を予防・治療する肝細胞癌の早期発見の3つです。

原因治療

C型肝硬変では、直接作用型抗ウイルス薬によりウイルスを排除することで、線維化の進行を抑制できます。B型肝硬変では、核酸アナログ製剤によりウイルスの増殖を抑えます。アルコール性肝硬変では、断酒が絶対的に必要です。

生活管理

安静と栄養管理が重要です。過労を避け、適度な休息を取ります。栄養は、高カロリー・高タンパク質が基本ですが、肝性脳症がある場合はタンパク制限が必要です。また、塩分制限により腹水と浮腫をコントロールします。

合併症の治療

腹水: 塩分制限(1日5〜7g以下)と利尿薬により治療します。難治性腹水では、腹腔穿刺により腹水を排液します。大量の腹水を排液する場合は、アルブミン製剤を補充して循環動態を安定させます。

肝性脳症: タンパク制限、便秘の改善、アンモニアを減らす薬剤(ラクツロース、リファキシミンなど)を使用します。

食道静脈瘤: 破裂予防のため、内視鏡的静脈瘤結紮術や内視鏡的硬化療法を行います。破裂した場合は、緊急内視鏡による止血処置、バルーンタンポナーデ(特殊なバルーンで圧迫止血)、輸血などを行います。

出血傾向: ビタミンKの投与、必要に応じて新鮮凍結血漿や血小板輸血を行います。

感染症: 肝硬変患者は易感染状態にあるため、感染の早期発見と適切な抗菌薬治療が重要です。

肝移植

非代償期肝硬変で、内科的治療に反応しない場合、肝移植が唯一の根治的治療となります。日本では、脳死肝移植と生体肝移植が行われています。


看護アセスメント・介入

よくある看護診断・問題

  • 体液量過剰
  • 栄養摂取消費バランス異常
  • 活動耐性低下
  • 急性混乱リスク状態(肝性脳症)
  • 出血リスク状態
  • 感染リスク状態
  • ボディイメージ混乱

ゴードン機能的健康パターン

栄養・代謝パターン

肝硬変患者さんの栄養管理は非常に重要です。肝臓での糖新生やエネルギー代謝が障害されるため、頻回の食事や夜食(late evening snack)が推奨されます。高カロリー・高タンパク質を基本としますが、肝性脳症がある場合はタンパク質を制限し、分岐鎖アミノ酸製剤を使用します。

腹水コントロールのため、塩分制限が必要です。1日5〜7g以下が目標ですが、厳しい制限は食事の楽しみを奪い、QOLを低下させるため、患者さんと相談しながら実行可能な範囲で調整します。食事摂取量、体重、腹囲を毎日測定し、栄養状態と水分バランスを評価します。

黄疸による掻痒感は、患者さんにとって非常に苦痛です。皮膚の保湿、爪の管理、制痒薬の使用により症状を軽減します。

排泄パターン

腹水や浮腫の評価のため、尿量測定と水分出納の記録が重要です。利尿薬の効果を判定し、脱水や電解質異常に注意します。

便秘は肝性脳症の誘因となるため、排便コントロールが重要です。緩下剤を使用し、毎日の排便を確保します。また、便の色(黒色便は消化管出血を示唆)や性状を観察します。

活動・運動パターン

肝硬変患者さんは、倦怠感や筋力低下により活動耐性が低下しています。過労は肝臓に負担をかけるため、適度な休息が必要です。しかし、過度の安静は筋肉量の減少(サルコペニア)を招き、予後を悪化させます。患者さんの状態に合わせた適度な活動を促します。

腹水が大量に貯留すると、横隔膜が挙上し、呼吸困難や体位変換が困難になります。安楽な体位の工夫や、必要に応じた酸素投与を検討します。

認知・知覚パターン

肝性脳症は、肝硬変の重大な合併症です。意識レベル、見当識、計算能力、異常行動の有無を継続的に評価します。羽ばたき振戦(アステリクシス)の有無も確認します。初期には、昼夜逆転や軽度の性格変化から始まるため、家族からの情報も重要です。

肝性脳症の誘因として、タンパク質の過剰摂取、便秘、消化管出血、感染、利尿薬の過剰使用、鎮静薬の使用などがあります。これらを避けるよう管理します。

ヘンダーソン14基本的ニード

正常に飲食する

食欲不振、悪心、腹水による腹部膨満感により、食事摂取が困難になることがあります。少量頻回の食事、嗜好に合わせた食事内容の調整、食事時間の工夫により、必要な栄養を確保します。塩分制限食は味が薄く感じられるため、レモンや酢、香辛料などを使って風味を工夫すると、食べやすくなります。

アルコール性肝硬変では、断酒継続の支援が重要です。患者さんの飲酒歴や背景を理解し、心理的サポートを提供します。

正常に排泄する

便秘は肝性脳症の誘因となるため、排便状況を毎日確認し、必要に応じて緩下剤を使用します。患者さんに、排便の重要性を説明し、セルフモニタリングを促します。

尿量と水分出納のバランスを評価し、利尿薬の効果を判定します。尿量が少ない場合は、脱水や腎機能障害の可能性も考慮します。

身体の清潔を保ち、身だしなみを整え、皮膚を保護する

黄疸による掻痒感の軽減のため、皮膚の清潔と保湿が重要です。また、浮腫により皮膚が脆弱になっているため、圧迫や摩擦による皮膚損傷に注意します。腹水穿刺の穿刺部位は、感染予防のため清潔に保ちます。

身体を動かし、望ましい肢位を保持する

腹水が大量に貯留すると、仰臥位では呼吸が苦しくなります。ファウラー位(上半身を起こした体位)やセミファウラー位が楽なことが多いです。クッションを使って安楽な体位を工夫します。

自分の感情、欲求、恐怖、あるいは気分を表現してコミュニケーションをとる

肝硬変は不可逆的な疾患であり、患者さんは将来への不安、死への恐怖、家族への申し訳なさなど、さまざまな感情を抱えています。これらの感情を表出できる環境を整え、傾聴する姿勢が大切です。また、腹水や黄疸により身体イメージが変化し、自尊感情が低下することもあります。患者さんの尊厳を守り、肯定的な言葉かけを心がけます。

看護計画・介入の内容

  • 体重・腹囲の測定: 毎日同じ時間に、同じ条件で測定し、腹水の増減を評価する
  • 水分出納の管理: 飲水量、尿量、排液量を正確に記録し、バランスを評価する。利尿薬の効果を判定する
  • バイタルサインの監視: 体温、血圧、脈拍、呼吸数を定期的に測定し、感染や循環動態の変化を早期発見する
  • 意識レベルの観察: 肝性脳症の早期発見のため、意識レベル、見当識、計算能力、羽ばたき振戦の有無を継続的に評価する
  • 出血徴候の観察: 歯肉出血、鼻出血、皮下出血、吐血、下血、血尿などの出血傾向を観察する。便の色(黒色便)にも注意する
  • 感染徴候の観察: 発熱、白血球増多、腹水の混濁、腹痛などの感染徴候を早期に発見する
  • 検査データの確認: アルブミン、ビリルビン、プロトロンビン時間、血小板数、アンモニア値、電解質などを定期的に確認し、病態を評価する
  • 栄養管理: 食事摂取量の記録、体重変化の評価、必要に応じて栄養士と連携した食事指導
  • 塩分・水分制限の指導: 実行可能な範囲での制限を患者さんと相談し、工夫を提案する
  • 排便コントロール: 毎日の排便を確保し、便秘を予防する。緩下剤の適切な使用
  • スキンケア: 黄疸による掻痒感の軽減、浮腫部位の皮膚保護、褥瘡予防
  • 腹腔穿刺の介助: 穿刺時の体位保持、バイタルサイン監視、排液量の記録、穿刺部位の管理
  • 安楽な体位の工夫: 腹水による呼吸困難の軽減のため、上半身を起こした体位を提供する
  • 内視鏡検査・治療の介助: 食道静脈瘤の評価や治療時の介助、検査後の観察
  • 患者・家族教育: 疾患の理解促進、食事管理、服薬管理、症状出現時の対応、定期受診の重要性、肝癌スクリーニングについて説明する
  • 心理的サポート: 不安や恐怖を傾聴し、患者さんの尊厳を守る。家族へのサポートも重要
  • 禁酒・断酒支援: アルコール性肝硬変では、断酒継続の支援、必要に応じて専門機関への紹介

よくある疑問・Q&A

Q: 肝硬変はどのくらいの期間で進行するのですか? 元に戻ることはありませんか?

A: 肝硬変への進行期間は、原因により異なります。B型・C型肝炎ウイルスによる慢性肝炎では、感染から10〜30年かけて肝硬変へ進行します。アルコール性では、大量飲酒を10〜20年続けると肝硬変に至ることが多いです。残念ながら、肝硬変は不可逆的な変化で、一度進行した線維化を完全に元に戻すことはできません。ただし、C型肝炎ウイルスを抗ウイルス薬で排除したり、アルコール性肝硬変で完全に断酒したりすると、肝機能がある程度改善し、線維化の進行を止めることができます。早期発見と原因治療が非常に重要です。

Q: 肝性脳症とはどのような状態ですか? なぜ意識障害が起こるのですか?

A: 肝性脳症とは、肝機能が低下することで、本来肝臓で解毒されるべきアンモニアなどの有害物質が脳に蓄積し、意識障害を起こす状態です。アンモニアは、腸内でタンパク質が分解される際に産生されます。正常では、門脈を通って肝臓に運ばれ、尿素に変換されて腎臓から排泄されます。しかし、肝硬変では肝機能が低下し、さらに門脈圧亢進により血液が肝臓を迂回して直接全身に流れるため、アンモニアが脳に到達してしまいます。脳内でアンモニアが神経伝達物質の働きを妨げ、意識障害を引き起こすのです。初期症状は、昼夜逆転、軽度の意識混濁、異常行動などで、進行すると傾眠、昏睡に至ります。特徴的な身体所見として羽ばたき振戦があります。

Q: 食道静脈瘤が破裂すると、なぜそんなに危険なのですか?

A: 食道静脈瘤は、門脈圧亢進により食道の静脈が拡張し、瘤状になったものです。食道の粘膜はとても薄く、拡張した静脈は非常に破れやすい状態です。一度破裂すると、大量の出血が起こります。食道静脈瘤からの出血は、動脈性ではなく静脈性ですが、門脈圧が高いため、勢いよく出血します。患者さんは突然、大量の吐血や下血を起こし、ショック状態となります。さらに、肝硬変患者さんは凝固因子の産生が低下しているため、血が止まりにくく、出血がコントロールしにくいのです。食道静脈瘤破裂は、肝硬変の最も重大な合併症の一つで、死亡率が高いため、予防的治療が重要です。

Q: 腹水がたくさん溜まっている患者さんに、看護師としてどのようなケアが必要ですか?

A: 腹水が大量に貯留すると、患者さんは腹部膨満感、呼吸困難、食欲不振、体位変換困難など、さまざまな苦痛を感じます。看護では、まず安楽な体位の工夫が重要です。仰臥位では横隔膜が挙上し呼吸が苦しくなるため、上半身を起こしたファウラー位やセミファウラー位が楽なことが多いです。クッションを使って安楽な姿勢を保てるよう支援します。また、水分出納の管理として、飲水量と尿量を正確に記録し、利尿薬の効果を評価します。毎日同じ時間に体重と腹囲を測定し、腹水の増減を客観的に評価することも重要です。腹水穿刺が行われる場合は、処置の介助、バイタルサインの監視、急速な循環血液量減少によるショックの予防に注意します。さらに、腹水により腹部の皮膚が伸展し脆弱になっているため、スキンケアも大切です。圧迫や摩擦を避け、皮膚の清潔と保湿を保ちます。

Q: 肝硬変の患者さんに、なぜ塩分制限が必要なのですか?

A: 肝硬変では、肝臓でのアルブミンなどのタンパク質合成が低下します。アルブミンは血液の浸透圧を保つ働きがあり、アルブミンが減少すると、血管内の水分が血管外(腹腔内や組織内)に漏れ出してしまいます。これが腹水や浮腫の原因です。さらに、門脈圧亢進により腹腔内の圧力が高まることも腹水の原因となります。塩分(ナトリウム)には水分を保持する性質があります。塩分を摂りすぎると、体内に水分が貯留し、腹水や浮腫が悪化します。そのため、塩分を制限することで、体内の余分な水分を減らし、腹水や浮腫をコントロールするのです。通常、1日5〜7g以下の塩分制限が推奨されます。ただし、厳しすぎる制限は食事の楽しみを奪い、かえって栄養状態を悪化させることもあるため、患者さんと相談しながら、実行可能な範囲で調整することが大切です。


まとめ

肝硬変は、慢性的な肝障害により肝臓全体が線維化し、正常な肝組織が失われた不可逆的な状態です。日本では、C型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス、アルコールが主な原因となっています。

病態の本質は、肝機能の低下門脈圧亢進症です。肝機能の低下により、アルブミン低下による腹水・浮腫、凝固因子低下による出血傾向、アンモニア解毒障害による肝性脳症、ビリルビン処理障害による黄疸などが生じます。門脈圧亢進により、食道静脈瘤、胃静脈瘤、脾腫、腹水などが出現します。

代償期では自覚症状がほとんどありませんが、非代償期になると、腹水、黄疸、肝性脳症などの症状が出現し、生命予後が悪化します。診断には血液検査と画像検査が重要で、Child-Pugh分類により重症度を評価します。

治療の目標は、病態の進行抑制、合併症の予防・治療、肝細胞癌の早期発見です。C型肝炎では抗ウイルス薬、アルコール性では断酒が重要です。腹水には塩分制限と利尿薬、肝性脳症にはタンパク制限とアンモニア低下薬、食道静脈瘤には内視鏡的治療を行います。

看護のポイントは、水分出納管理意識レベルの継続的観察出血徴候の早期発見感染予防栄養管理です。毎日の体重・腹囲測定、水分出納の記録、バイタルサイン測定を確実に行い、病態の変化を早期に捉えることが重要です。

肝性脳症の早期発見のため、意識レベル、見当識、羽ばたき振戦の有無を継続的に評価します。食道静脈瘤破裂の危険性を理解し、吐血・下血の徴候に注意します。また、患者さんは将来への不安や死への恐怖を抱えているため、心理的サポートも重要な役割です。

実習では、腹水や黄疸などの身体的変化が患者さんのボディイメージや自尊感情に与える影響を理解し、尊厳を守るケアを心がけてください。また、検査データの推移を継続的に確認し、病態の変化を的確に捉える力を養いましょう。肝硬変は不可逆的な疾患ですが、適切な管理により病態の進行を抑え、QOLを維持することができます。患者さんとその家族に寄り添い、根拠に基づいた看護を実践していきましょう。


免責事項

本記事は教育・学習目的の情報提供です。

・一般的な医学知識の解説であり、個別の患者への診断・治療の根拠ではありません

・実際の看護実践は、患者の個別性を考慮し、指導者の指導のもと行ってください

・記事の情報は公開時点のものであり、最新の医学的知見と異なる場合があります

・本記事を課題としてそのまま提出しないでください

・正確な情報提供に努めていますが、内容の完全性・正確性を保証するものではありません

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