疾患概要
定義
肝硬変は、慢性的な肝臓の炎症により肝細胞が破壊され、線維化と再生結節の形成により肝臓が硬くなった状態です。正常な肝臓の構造が失われ、肝機能が著しく低下します。代償性肝硬変(症状がない状態)から非代償性肝硬変(合併症が出現した状態)へと進行し、最終的には肝不全に至る不可逆的な疾患ですね。
疫学
日本における肝硬変の患者数は約40万人と推定されています。男女比は2:1で男性に多く、50〜70歳代に好発します。死因別統計では、肝硬変による死亡は年間約1万5千人で、がん、心疾患、脳血管疾患に次いで多い死因となっています。近年、C型肝炎の治療法の進歩により、C型肝炎ウイルスによる肝硬変は減少傾向にありますが、アルコール性や非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)による肝硬変は増加傾向にあるでしょう。
原因
C型肝炎ウイルス感染が最も多い原因で、肝硬変の約60%を占めています。B型肝炎ウイルス感染も重要な原因の一つです。
アルコール性肝障害は男性の肝硬変の主要な原因で、長期間の大量飲酒(日本酒換算で3合/日以上を10年以上)により発症します。
その他の原因として、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、自己免疫性肝炎、原発性胆汁性胆管炎、薬物性肝障害、ウィルソン病、ヘモクロマトーシスなどがありますね。
病態生理
肝硬変の病態は、慢性炎症→肝細胞壊死→線維化→再生結節形成という過程を経て進行します。
線維化により肝血流が障害され、門脈圧亢進症が生じます。これにより食道静脈瘤、脾腫、腹水などの合併症が出現するのです。
肝機能低下により、蛋白合成能の低下(アルブミン減少)、解毒機能の低下(アンモニア蓄積)、糖代謝異常、凝固機能異常などが起こります。肝性脳症は血中アンモニア濃度の上昇が主な原因となるでしょう。
症状・診断・治療
症状
代償性肝硬変では無症状のことが多く、健診で肝機能異常を指摘されて発見されることがよくあります。
非代償性肝硬変では様々な症状が出現します。全身症状として、易疲労感、食欲不振、体重減少、微熱などがみられます。
門脈圧亢進症による症状として、腹水(腹部膨満感)、下肢浮腫、食道静脈瘤破裂(吐血、下血)、脾腫(左季肋部腫瘤)などが現れますね。
肝機能低下による症状として、黄疸(皮膚・眼球結膜の黄染)、肝性脳症(意識障害、羽ばたき振戦)、出血傾向(皮下出血、鼻出血)、女性化乳房(男性)、手掌紅斑、クモ状血管腫などが特徴的です。
診断
血液検査では、肝機能検査(AST、ALT、γ-GTP)、肝合成能検査(アルブミン、プロトロンビン時間)、ビリルビン値などを評価します。血小板減少やγ-グロブリン上昇も重要な所見ですね。
画像検査として、腹部超音波検査、CT検査、MRI検査により、肝表面の凹凸不整、脾腫、腹水、門脈の拡張などを確認します。
肝生検は確定診断に最も有用ですが、侵襲的な検査のため適応を慎重に判断します。肝弾性度測定(FibroScan)は非侵襲的に線維化の程度を評価できる検査として注目されているでしょう。
治療
原因疾患の治療が最優先されます。C型肝炎ではDAA(直接作用型抗ウイルス薬)、B型肝炎では核酸アナログ製剤、アルコール性では断酒が基本となります。
合併症の治療として、腹水に対しては利尿薬(スピロノラクトン、フロセミド)や腹水穿刺、食道静脈瘤に対しては内視鏡的結紮術や硬化療法、肝性脳症に対してはラクツロースやリファキシミンが用いられます。
栄養療法も重要で、蛋白質制限は原則として行わず、むしろ適切な蛋白質摂取(1.2-1.5g/kg/日)を維持します。BCAA(分岐鎖アミノ酸)の補充も有効ですね。
肝移植は根治的治療として検討され、生体肝移植や脳死肝移植が選択肢となります。
看護アセスメント・介入
よくある看護診断・問題
- 体液量過多:門脈圧亢進、低アルブミン血症に関連した腹水・浮腫
- 栄養摂取消費バランス異常:肝機能低下、食欲不振に関連した
- 出血リスク状態:凝固機能異常、血小板減少、食道静脈瘤に関連した
- 思考過程障害:肝性脳症、高アンモニア血症に関連した
- 感染リスク状態:免疫機能低下、侵襲的処置に関連した
ゴードン機能的健康パターン
栄養・代謝パターンでは、食欲不振、悪心・嘔吐、体重変化、浮腫・腹水の程度を詳細に評価する必要があります。蛋白質・エネルギー不足症候群(PEM)の予防が重要で、栄養士との連携による個別的な栄養管理が求められますね。
活動・運動パターンでは、易疲労感や呼吸困難(腹水による)が日常生活動作に与える影響を評価します。過度な安静は筋力低下を招くため、適度な活動の維持も大切です。
認知・知覚パターンでは、肝性脳症の早期徴候(軽度の見当識障害、計算力低下、書字の乱れ)を注意深く観察しましょう。
ヘンダーソン14基本的ニード
正常に呼吸するでは、腹水による横隔膜挙上で呼吸困難が生じることがあります。体位の工夫や腹水穿刺のタイミングを適切に判断することが重要ですね。
正常に飲食するでは、食欲不振、早期満腹感、悪心に対する対策が必要です。少量頻回摂取、嗜好に合わせた食事内容の調整、BCAA製剤の活用などを行います。
身体を清潔に保ち、身だしなみを整えるでは、黄疸による皮膚の痒み、腹水による清拭の困難さ、易疲労感による清潔行動の制限などに配慮したケアが必要です。
看護計画・介入の内容
- 水分・電解質管理:体重測定、腹囲測定、尿量測定、血液検査値のモニタリング、利尿薬の効果判定
- 栄養管理:栄養摂取量の評価、体重管理、蛋白質・カロリー摂取の適正化、BCAA製剤の投与
- 出血予防:血小板数・PT-INRの監視、外傷予防、歯肉出血・鼻出血の観察、便潜血の確認
- 意識レベル観察:肝性脳症の早期発見、見当識・計算力の評価、羽ばたき振戦の確認
- 感染予防:清潔ケア、創部管理、バイタルサイン監視、白血球数の確認
- 心理的支援:病気受容の支援、将来への不安軽減、家族関係の調整、社会復帰支援
よくある疑問・Q&A
Q: お酒を完全にやめれば肝硬変は治りますか? A: 肝硬変そのものは不可逆的な変化のため、完全に元に戻ることはありません。しかし、断酒により肝機能の改善や進行の抑制は期待できます。特に代償性肝硬変の段階であれば、長期予後の改善が見込まれるため、断酒は極めて重要ですね。
Q: 腹水が溜まっているときの食事で気をつけることは? A: 塩分制限(1日6g未満)が最も重要です。水分制限は腹水が高度な場合に限定的に行います。蛋白質は制限せず、むしろ良質な蛋白質を適量摂取することが大切です。カリウムの多い食品(果物、野菜)も利尿薬使用時は適度に摂取しましょう。
Q: 肝性脳症になったら意識がなくなってしまうのですか? A: 肝性脳症は段階的に進行します。初期では軽度の性格変化や計算ミス程度で、この段階での適切な治療により改善が期待できます。進行すると見当識障害、昏睡状態に至ることもありますが、原因となるアンモニアを下げる治療により回復する可能性があります。
Q: 食道静脈瘤があると言われましたが、どんなことに注意すればよいですか? A: 腹圧のかかる動作(力んでの排便、重い物を持つ、激しい咳など)を避けることが重要です。また、硬い食べ物(せんべい、フランスパンなど)は静脈瘤を傷つける可能性があるため注意が必要ですね。定期的な内視鏡検査で静脈瘤の状態を確認し、必要に応じて予防的治療を受けることも大切です。
Q: 肝硬変でも仕事は続けられますか? A: 代償性肝硬変であれば多くの場合、仕事の継続が可能です。ただし、過労やストレスは肝機能悪化の要因となるため、働き方の調整が必要な場合があります。非代償性肝硬変では、合併症の程度により就労制限が必要になることもあるでしょう。
Q: 家族にうつる心配はありませんか? A: 肝硬変そのものは感染しませんが、原因によって異なります。B型・C型肝炎ウイルスが原因の場合は、血液を介した感染の可能性があるため、剃刀や歯ブラシの共用は避けましょう。アルコール性や自己免疫性の場合は感染の心配はありません。家族にはウイルス検査を勧めることも重要ですね。
まとめ
肝硬変は慢性肝炎の終末像として、線維化と再生結節により肝臓の構造と機能が著しく障害される疾患です。
病態の理解では、門脈圧亢進症と肝機能低下による多彩な合併症の発症メカニズムを把握することが重要ですね。代償性から非代償性への移行を遅らせることが治療の主眼となります。
看護の要点として、水分・電解質管理、栄養管理、出血予防、意識レベル観察が中核となります。特に腹水・浮腫の管理と肝性脳症の早期発見は、患者の予後に直結する重要な看護介入です。
患者教育では、原因疾患に応じた生活指導(断酒、服薬遵守、感染予防)、栄養指導、定期受診の重要性を伝えることが大切でしょう。
実習では、患者さんの全身状態の変化を敏感に捉え、特に意識レベルや出血徴候、呼吸状態の観察を丁寧に行いましょう。肝硬変は進行性の疾患ですが、適切な管理により長期間安定した状態を保つことが可能です。患者さんが希望を持って治療に取り組めるよう、継続的な支援を心がけることが重要です。
この記事の執筆者

・看護師と保健師
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
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