【大腸がん】疾患解説と看護の要点

消化器

疾患概要

定義

大腸がんは、大腸(結腸と直腸)の粘膜から発生する悪性腫瘍です。大腸は盲腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸、直腸に分かれており、部位により症状や治療法が異なります。大腸がんの約70%は結腸がん、約30%は直腸がんが占めています。多くの場合、腺腫性ポリープががん化することで発症するのが特徴ですね。

疫学

大腸がんは日本で最も罹患者数が多いがんで、年間約15万人が新たに診断されています。男女比はほぼ同等で、50歳代から増加し始め、高齢になるほど発症率が高くなります。食生活の欧米化に伴い、1960年代から急激に増加しており、現在でも増加傾向が続いています。

原因

食生活の要因が最も重要で、高脂肪・低繊維食赤肉や加工肉の過剰摂取野菜・果物の摂取不足などが危険因子となります。

その他の危険因子として、年齢(50歳以上)、大腸ポリープの既往炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)、家族歴喫煙過度の飲酒肥満運動不足などが挙げられますね。

遺伝性大腸がんとして、家族性大腸腺腫症(FAP)やリンチ症候群などもあり、若年発症例では遺伝的要因の検索が重要になります。

病態生理

大腸がんの多くは腺腫-がん連鎖(adenoma-carcinoma sequence)と呼ばれる段階的な過程を経て発症します。正常粘膜→小さな腺腫→大きな腺腫→早期がん→進行がんという経過をたどり、この過程には通常5〜10年かかるとされています。

腺腫性ポリープが1cm以上になると、がん化のリスクが高まります。がんが粘膜下層を超えて浸潤すると、リンパ節転移や血行性転移のリスクが増加し、特に肝転移肺転移を起こしやすいのが特徴でしょう。


症状・診断・治療

症状

早期大腸がんは無症状であることが多く、検診で発見されることがほとんどです。

進行がんの症状は部位により異なります。右側結腸がんでは、腹痛、腹部腫瘤、貧血症状(易疲労感、息切れ、めまい)が主な症状となります。左側結腸がんでは、便秘、下痢、便の性状変化、腹痛が多く見られますね。

直腸がんでは、血便粘血便便意頻回残便感便の細小化などが特徴的な症状です。

進行例では、腸閉塞症状(腹痛、嘔吐、腹部膨満、排便・排ガス停止)や穿孔による腹膜炎などの緊急事態を呈することもあります。

診断

便潜血検査がスクリーニング検査として広く用いられており、陽性の場合は精密検査が必要になります。

大腸内視鏡検査が最も重要な診断方法で、病変の直接観察と生検による確定診断が可能です。同時にポリープの切除も行えるため、治療的意義もありますね。

注腸造影検査は内視鏡検査が困難な場合に用いられますが、診断精度は内視鏡検査に劣ります。

病期診断にはCT検査MRI検査(特に直腸がん)、PET検査が行われ、腫瘍マーカー(CEA、CA19-9)も補助診断として測定されるでしょう。

治療

内視鏡的治療は早期がんに対して行われ、内視鏡的粘膜切除術(EMR)内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)があります。

外科的治療が大腸がんの根治的治療の基本となります。結腸がんでは結腸切除術、直腸がんでは前方切除術や腹会陰式直腸切断術などが選択されます。腹腔鏡手術も広く普及し、患者への負担軽減が図られています。

化学療法は術後補助化学療法や進行・再発例に対して行われ、5-FU系薬剤、オキサリプラチン、イリノテカンなどが使用されます。分子標的治療薬も併用されることが多いですね。

放射線療法は主に直腸がんに対して、術前・術後に実施されることがあります。


看護アセスメント・介入

よくある看護診断・問題

  • 不安:がんの診断、手術、人工肛門造設に関連した
  • 便失禁:直腸切除、人工肛門に関連した
  • ボディイメージ混乱:人工肛門造設、体型の変化に関連した
  • 感染リスク状態:手術創、化学療法による免疫機能低下に関連した
  • 社会的孤立:人工肛門、においへの不安に関連した

ゴードン機能的健康パターン

排泄パターンが最重要となります。術前の排便習慣、術後の排便機能の変化、人工肛門管理などを詳細にアセスメントする必要があります。特に直腸がん術後は、排便回数の増加、便意切迫感、便失禁などが問題となることが多いでしょう。

栄養・代謝パターンでは、腸閉塞による食事摂取困難、化学療法による食欲不振、人工肛門からの水分・電解質喪失などを評価します。

自己概念・自己認識パターンでは、人工肛門造設によるボディイメージの変化、自尊心の低下、社会復帰への不安などを丁寧にアセスメントしましょう。

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正常に排泄するでは、人工肛門管理技術の習得、排泄パターンの確立、皮膚トラブルの予防が最重要課題となります。患者の自立に向けた段階的な指導が必要ですね。

身体を清潔に保ち、身だしなみを整えるでは、人工肛門周囲の清潔保持、装具の適切な管理、においの対策などが含まれます。

他者とのコミュニケーションをとるでは、人工肛門に対する偏見や誤解への対処、家族や友人との関係性の変化への支援が重要になります。

看護計画・介入の内容

  • 術前指導:手術内容の説明、人工肛門の必要性と管理方法の説明、不安軽減への支援
  • 術後管理:創部の観察・管理、排便機能の評価、疼痛管理、感染予防
  • 人工肛門管理指導:装具の選択・交換方法、皮膚ケア、食事指導、日常生活の工夫
  • 心理的支援:ボディイメージの受容支援、自尊心の回復、家族関係の調整
  • 社会復帰支援:職場復帰相談、社会保障制度の説明、患者会の紹介
  • 継続看護:外来での装具管理確認、合併症の早期発見、生活指導の継続

よくある疑問・Q&A

Q: 人工肛門になったら普通の食事はできませんか? A: 基本的には普通の食事が可能です。ただし、消化の良い食品を中心とし、よく噛んで食べることが大切です。繊維の多い野菜や海藻類、種のある果物などは詰まりやすいため、調理方法を工夫したり、量を調整したりする必要があります。水分摂取も十分に行いましょうね。

Q: 人工肛門のにおいが心配です。周りの人にバレませんか? A: 現在の装具は密閉性が高く、適切に管理していればにおいが漏れることはほとんどありません。装具の定期交換、皮膚の清潔保持、消臭剤の使用などで対策できます。また、においの強い食品(にんにく、玉ねぎなど)を控えることも効果的です。

Q: 人工肛門があっても入浴や水泳はできますか? A: 入浴は全く問題ありません。装具をつけたまま入浴でき、石鹸で洗っても大丈夫です。水泳も可能ですが、装具の密着を確認し、予備の装具を持参することをお勧めします。温泉や銭湯の利用については、周囲への配慮から避ける方が多いですが、医学的には問題ありませんね。

Q: 仕事に復帰することはできますか? A: 多くの患者さんが職場復帰されています。デスクワークなら特に制限はありません。重労働の場合は、腹圧のかかる作業を避ける、装具の固定を確実にするなどの配慮が必要です。職場への説明や理解を求めることも大切でしょう。

Q: 化学療法中の副作用で気をつけることは? A: 主な副作用として、手足症候群(手のひらや足の裏の痛み・しびれ)、末梢神経障害(手足のしびれ)、下痢口内炎などがあります。特に下痢は脱水や電解質異常を起こしやすいため、水分補給を十分に行い、ひどい場合は早めに受診しましょう。また、感染リスクが高まるため、手洗いの徹底と人混みの回避も重要ですね。

Q: 定期検査ではどのようなことを調べますか? A: 腫瘍マーカー(CEA、CA19-9)の測定、CT検査による再発・転移の検索、大腸内視鏡検査による残存大腸の観察などが定期的に行われます。検査間隔は病期や術後経過により異なりますが、最初の数年間はより頻回に行われることが多いでしょう。


まとめ

大腸がんは食生活の欧米化に伴い増加している悪性腫瘍で、腺腫-がん連鎖により段階的に発症する疾患です。

病態の理解では、部位による症状の違いと、ポリープからがん化に至る過程を把握することが重要ですね。早期発見により予後は大幅に改善するため、検診の重要性を患者・家族に伝えることも大切です。

看護の要点として、術前後の全身管理、人工肛門管理指導、心理的支援が中核となります。特に人工肛門ケアは患者のQOLに直結するため、技術的指導だけでなく、患者の受容過程を支える継続的な関わりが求められます。

患者教育では、人工肛門管理の自立支援、食事指導、社会復帰への準備が重要でしょう。患者が自信を持って日常生活を送れるよう、個別性を重視した指導を行うことが大切です。

実習では、患者さんの排便状況や装具の状態を注意深く観察し、羞恥心に配慮しながら適切なケアを提供しましょう。人工肛門は「障害」ではなく、患者さんが健康に生活するための「手段」であることを理解し、前向きな支援を心がけることが重要です。


この記事の執筆者

なっちゃん
なっちゃん

・看護師と保健師
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり


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