【疾患解説】心臓弁膜症

疾患解説

疾患概要

定義

心臓弁膜症は、心臓の4つの弁(僧帽弁、大動脈弁、三尖弁、肺動脈弁)の構造や機能に異常が生じる疾患です。弁の開閉がうまくいかなくなることで、血液の逆流や通過障害が起こり、心臓に負担をかけてしまいます。

疫学

日本では高齢化に伴い、特に大動脈弁狭窄症と僧帽弁閉鎖不全症の患者さんが増加しています。70歳以上の約3-5%に中等度以上の弁膜症が認められ、男女差はあまりありません。リウマチ性弁膜症は抗生物質の普及により減少していますが、まだ完全にはなくなっていない状況です。

原因

心臓弁膜症の原因は多岐にわたります。先天性のものでは、生まれつき弁の形や数に異常がある場合があります。後天性のものでは、加齢による弁の変性・石灰化が最も多く、その他にリウマチ熱の後遺症、感染性心内膜炎、心筋梗塞後の乳頭筋断裂などがあります。近年は生活習慣病に関連した動脈硬化性の変化も注目されています。

病態生理

心臓弁膜症は大きく狭窄症閉鎖不全症に分けられます。狭窄症では弁の開放が不十分になり、血液が通りにくくなります。そのため心臓はより強く収縮しなければならず、心筋肥大が起こります。一方、閉鎖不全症では弁の閉鎖が不完全になり、血液が逆流します。これにより心臓の容量負荷が増加し、心拡大が生じます。どちらも最終的には心不全を引き起こす可能性があります。

症状・診断・治療

症状

軽度の弁膜症では無症状のことが多く、健診で心雑音を指摘されて発見されることもあります。症状が現れる場合、労作時の息切れが最も多く見られます。階段昇降や坂道歩行時に息苦しさを感じるようになります。進行すると胸痛、めまい、失神発作が起こることもあります。大動脈弁狭窄症では突然死のリスクもあるため注意が必要です。心不全症状として、夜間の呼吸困難、下肢浮腫、易疲労感なども現れます。

診断

診断の基本は心エコー検査です。弁の形態、開閉状況、血流速度、逆流の程度などを詳細に評価できます。聴診では特徴的な心雑音が聞かれ、疾患の推定に役立ちます。心電図では心房細動や心室肥大の所見、胸部X線では心拡大や肺うっ血の評価が可能です。重症度評価や手術適応の判断には、心臓カテーテル検査が行われることもあります。

治療

治療方針は弁膜症の種類、重症度、症状の有無によって決まります。軽度から中等度の場合は、定期的な経過観察と薬物療法が中心となります。ACE阻害薬やβ遮断薬による心不全治療、抗凝固療法による血栓予防などが行われます。重症かつ症状がある場合や、症状がなくても心機能低下が認められる場合は、外科的治療が検討されます。弁置換術や弁形成術があり、近年では経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI)も選択肢となっています。

看護アセスメント・介入

よくある看護診断・問題

・活動耐性低下(労作時の息切れ、易疲労感に関連して)
・体液過剰(心不全による水分貯留に関連して)
・不安(手術や予後への不安に関連して)
・知識不足(疾患理解や生活指導に関連して)
・感染リスク状態(感染性心内膜炎予防に関連して)
・皮膚統合性障害リスク状態(抗凝固療法による出血傾向に関連して)

ゴードンのポイント

活動・運動パターンでは、患者さんの日常生活動作能力や運動耐容能を詳細にアセスメントすることが重要です。NYHA心機能分類を用いて、どの程度の活動で症状が出現するかを把握しましょう。認知・知覚パターンでは、疾患に対する理解度や不安の程度を評価します。手術が必要な場合は、手術に対する恐怖や不安を傾聴し、適切な情報提供を行うことが大切です。自己知覚・自己概念パターンでは、慢性疾患を抱えることによる心理的影響を評価し、患者さんの気持ちに寄り添った支援を提供します。

ヘンダーソンのポイント

「正常に呼吸する」では、呼吸困難の有無や程度、酸素飽和度の変化を継続的に観察することが重要です。「循環を維持する」では、血圧、脈拍、心拍リズムの監視が必要で、不整脈の出現や血行動態の変化に注意を払いましょう。「働くことによって達成感を得る」では、活動制限による心理的影響を評価し、患者さんができる範囲での活動を一緒に考えることが大切です。「学習する」**では、疾患理解や生活指導に関する学習ニーズを把握し、個別性を考慮した指導計画を立案します。

看護計画・介入の内容

・バイタルサインの定期的な観察と記録(特に血圧、脈拍、呼吸状態)
・体重測定による水分バランスの評価
・活動時の症状出現の有無と程度の観察
・服薬管理と薬物療法の効果・副作用の観察
・感染予防対策の実施と指導
・食事療法の指導(塩分制限、水分制限など)
・適切な運動療法の指導と実施
・心理的支援と患者教育の提供
・家族への疾患理解と介護方法の指導
・定期受診の重要性の説明と継続支援

よくある疑問・Q&A

Q: 心臓弁膜症の患者さんに運動制限は必要ですか?

A: 一律に運動を禁止する必要はありません。軽度から中等度の弁膜症では、適度な有酸素運動はむしろ推奨されます。ただし、重症例や症状がある場合は医師と相談の上、個別に運動処方を決める必要があります。患者さんの症状や心機能に応じて、階段昇降や散歩などの日常的な活動レベルを調整することが大切です。

Q: 抗凝固療法を受けている患者さんの出血リスクをどう評価しますか?

A: 定期的なPT-INR値の確認が基本です。目標値は疾患や使用する人工弁の種類によって異なりますが、一般的には2.0-3.0程度です。出血兆候として、歯肉出血、鼻出血、皮下出血、血尿、血便などを観察します。また、転倒リスクの評価も重要で、特に高齢者では環境整備や転倒予防対策が必要です。

Q: 感染性心内膜炎の予防はどのように指導しますか?

A: 口腔ケアの徹底が最も重要です。毎日の歯磨きと定期的な歯科受診を勧めます。歯科治療や内視鏡検査前には、必要に応じて抗生物質の予防投与を行います。また、皮膚の小さな傷からも感染する可能性があるため、傷の清潔保持と早期治療を指導します。発熱時は早めの受診を促すことも大切です。

Q: 手術後の患者さんへの退院指導で重要なポイントは何ですか?

A: 服薬管理が最も重要です。特に抗凝固薬は定期的な血液検査と用量調整が必要であることを説明します。活動については段階的に拡大していくことを指導し、無理をしないよう伝えます。感染予防、定期受診の重要性、症状悪化時の対応方法についても具体的に説明します。また、人工弁置換術後の患者さんには、MRI検査の制限や医療機関受診時の申告について指導が必要です。

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この記事の執筆者

なっちゃん
なっちゃん

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり

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