【子宮筋腫】疾患解説と看護の要点

産婦人科

疾患概要

定義

子宮筋腫は、子宮平滑筋から発生する良性腫瘍です。エストロゲン依存性の腫瘍で、生殖年齢の女性に多く発症します。発生部位により漿膜下筋腫(子宮外側)、筋層内筋腫(子宮壁内)、粘膜下筋腫(子宮内腔側)に分類されます。大きさや発生部位により月経異常圧迫症状不妊などの症状を呈しますが、約半数は無症状で経過します。悪性化は極めて稀(0.1-0.5%)で、多くは良性経過をたどる疾患です。

疫学

子宮筋腫は生殖年齢女性の約20-30%に認められ、30歳代後半から40歳代に最も多く発症します。日本人女性では欧米女性より発症率が高いとされています。閉経後は縮小傾向を示し、新たな発症は稀です。遺伝的素因があり、家族歴のある女性では発症リスクが高くなります。未産婦初経年齢が早い肥満高血圧アルコール摂取などが危険因子とされています。近年、晩婚化・少子化により筋腫を有する女性の妊娠希望例が増加しており、妊孕性温存を考慮した治療選択が重要となっています。

原因

子宮筋腫の発生機序は完全には解明されていませんが、エストロゲンプロゲステロン長期暴露が発症・増大に関与します。単一の平滑筋細胞のクローナル増殖により発生し、遺伝子変異の蓄積が関与するとされています。危険因子として初経年齢が早い(12歳以前)、未産肥満家族歴人種(アフリカ系女性で高頻度)、高血圧ビタミンD欠乏などが挙げられます。保護因子として妊娠・出産長期授乳喫煙(エストロゲン低下作用)、運動緑色野菜摂取などがあります。

病態生理

子宮筋腫はエストロゲン受容体プロゲステロン受容体を高発現し、これらのホルモンにより増殖が促進されます。エストロゲンは筋腫細胞のDNA合成細胞分裂を促進し、プロゲステロンアポトーシス抑制細胞外基質産生を促進します。筋腫周囲には豊富な血管新生が認められ、血流増加により増大します。月経過多は筋腫による子宮内膜面積拡大子宮収縮力低下血管構築異常により生じます。圧迫症状は筋腫の機械的圧迫により周囲臓器(膀胱、直腸、尿管)の機能障害を引き起こします。不妊着床障害精子輸送障害胚発育障害などの機序で生じます。


症状・診断・治療

症状

約50%は無症状で健診や他疾患の検査で偶然発見されます。有症状例では月経異常(過多月経、過長月経、不正出血)が最多で、貧血の原因となります。圧迫症状として頻尿尿閉便秘腰痛下肢浮腫を認めます。腹部膨満感腹部腫瘤感も認められます。疼痛は通常軽微ですが、茎捻転変性感染により急性腹痛を生じることがあります。不妊症習慣流産の原因となることもあります。粘膜下筋腫では不正出血不妊を、漿膜下筋腫では圧迫症状を、筋層内筋腫では月経過多をきたしやすい特徴があります。妊娠中流産早産胎位異常分娩異常のリスクが高まります。

診断

診断は内診経腟超音波検査MRIにより行われます。経腟超音波検査第一選択で、筋腫の大きさ部位を評価できます。MRI鑑別診断(腺筋症、悪性腫瘍)、手術計画治療効果判定に有用です。子宮鏡検査粘膜下筋腫の診断と治療に重要です。血液検査では貧血の評価(Hb、Hct、フェリチン)、腫瘍マーカー(CA125、LDH)を測定します。組織診断は通常不要ですが、急速増大閉経後発症MRIで悪性が疑われる場合は生検を考慮します。子宮内膜細胞診で内膜病変を除外します。

治療

治療は症状年齢妊娠希望筋腫の特徴を考慮して決定されます。無症状例経過観察が基本です。薬物療法ではGnRHアゴニスト(リュープロレリン)により一時的縮小が可能ですが、6ヶ月以内の使用制限があります。LEP配合剤(低用量エストロゲン・プロゲスチン)は月経過多の改善に有効です。手術療法では子宮摘出術(根治的)と筋腫核出術(妊孕性温存)があります。低侵襲治療として子宮動脈塞栓術(UAE)、MRガイド下集束超音波治療(MRgFUS)、マイクロ波子宮内膜アブレーションがあります。妊娠希望例では筋腫核出術が第一選択となります。


看護アセスメント・介入

よくある看護診断・問題

  • 月経機能障害:筋腫による月経過多と月経周期異常
  • 慢性疼痛:筋腫による圧迫症状と月経困難症
  • 不安:不妊・悪性化への恐怖と治療選択への迷い

ゴードン機能的健康パターン

健康知覚・健康管理パターンでは患者の筋腫に対する理解度、症状の認識、治療への取り組み姿勢を評価します。栄養・代謝パターンでは月経過多による貧血の程度、食事摂取状況、体重変化を把握します。排泄パターンでは圧迫症状による排尿・排便障害の有無と程度を評価します。性・生殖パターンでは月経異常の詳細、性生活への影響、妊娠希望の有無、不妊の悩みを詳細にアセスメントします。自己概念・自己認識パターンでは女性性への影響、妊孕性への不安、手術に対する恐怖を把握します。

ヘンダーソン14基本的ニード

正常に排泄するでは圧迫症状による排尿困難・頻尿、便秘の程度を評価し、適切な対処法を指導します。身体の位置を動かし、望ましい肢位を保持するでは腹部膨満感や腰痛に配慮した体位、日常生活動作の工夫を支援します。働くこと、達成感を得るでは月経過多や貧血による仕事への影響、職場での配慮事項について相談に応じます。性的欲求を表現し、満足させるでは性生活への影響、パートナーとの関係、妊娠計画について支援します。

看護計画・介入の内容

  • 症状管理・生活指導:月経量・周期の記録指導、貧血予防のための栄養指導、圧迫症状緩和のための生活の工夫、疼痛管理と対処法指導
  • 治療選択支援・意思決定援助:各治療法のメリット・デメリット説明、年齢・妊娠希望に応じた選択肢の整理、セカンドオピニオンの必要性説明、インフォームドコンセントの支援
  • 心理的支援・情報提供:不妊への不安に対する共感的対応、良性疾患であることの説明、治療後の妊娠可能性について正確な情報提供、パートナー・家族への説明支援

よくある疑問・Q&A

Q: 子宮筋腫はがんになることがありますか?手術は必要でしょうか?

A: 子宮筋腫は良性腫瘍で、がん化する可能性は極めて低い(0.1-0.5%)とされています。悪性化の心配はほとんど不要です。手術の必要性は症状の有無により決まり、無症状であれば経過観察が基本です。手術適応となるのは、①月経過多による貧血、②圧迫症状(頻尿、便秘、腰痛)、③不妊の原因、④急速増大(年間1.5倍以上)、⑤悪性の疑いがある場合です。症状がなく、サイズが安定していれば、定期的な検査(6-12ヶ月ごと)で様子を見ることができます。閉経後は自然に縮小するため、閉経が近い場合は手術を避けることも多いです。

Q: 妊娠に影響はありますか?不妊の原因になるのでしょうか?

A: 子宮筋腫が必ず不妊の原因になるわけではありません妊娠への影響は筋腫の部位・大きさ・数により異なります。粘膜下筋腫(子宮内腔を変形)は着床障害の原因となりやすく、妊娠率低下流産率上昇のリスクがあります。筋層内筋腫でも5cm以上では影響する可能性があります。漿膜下筋腫一般的に妊娠に影響しないとされています。妊娠中の筋腫エストロゲン増加により増大することがありますが、多くは問題なく経過します。妊娠希望がある場合は、筋腫の状況を詳しく評価し、必要に応じて治療(筋腫核出術)を行うことで妊娠率の改善が期待できます。

Q: 薬での治療はできますか?手術以外の選択肢はありますか?

A: 薬物療法にはいくつかの選択肢があります。GnRHアゴニスト(リュープロレリン)は一時的に筋腫を縮小させる効果がありますが、使用期間は6ヶ月以内に制限され、中止後に再増大します。主に手術前の準備閉経までのつなぎ治療として使用されます。低用量ピル(LEP配合剤)は月経過多の改善に効果的で、長期使用も可能です。低侵襲治療として子宮動脈塞栓術(UAE)があり、筋腫への血流を遮断して縮小を図ります。MRガイド下集束超音波治療(MRgFUS)は切らずに治療できる新しい選択肢です。治療選択は年齢、症状、妊娠希望、筋腫の特徴を総合的に考慮して決定されます。

Q: 生活習慣で気をつけることはありますか?予防法はありますか?

A: 確実な予防法はありませんが、ライフスタイルの改善により発症リスクを下げる可能性があります。食事面では緑色野菜果物魚類の摂取を増やし、赤肉加工食品アルコールの摂取を控えることが推奨されます。ビタミンDの充足も重要です。運動習慣は筋腫のリスクを下げる効果があります。体重管理も重要で、肥満は筋腫のリスクを高めます。ストレス管理十分な睡眠禁煙も一般的な健康管理として重要です。症状がある場合の対処法として、月経過多には鉄分補給圧迫症状には便秘予防(食物繊維摂取、水分摂取)、頻尿には骨盤底筋訓練が有効です。定期的な婦人科検診により早期発見・適切な管理が可能になります。


まとめ

子宮筋腫は生殖年齢女性の約20-30%に認められる最も頻度の高い良性腫瘍として、多くの女性の健康と生活の質に影響を与える疾患です。しかし、良性疾患であり、適切な管理により症状のコントロールとその人らしい生活の維持が可能な疾患でもあります。

看護の要点は個別性を重視したアセスメント包括的な支援です。子宮筋腫は症状部位大きさにより影響が大きく異なるため、患者さん一人ひとりの状況を詳細に評価し、その人のライフステージ価値観に応じた支援を提供することが重要です。

症状管理では、月経過多による貧血圧迫症状疼痛など、患者さんの日常生活に与える影響を軽減するための具体的な対処法を指導します。月経日記の記録貧血予防のための栄養指導により、患者さんが主体的に症状管理できるよう支援することが大切です。

治療選択支援では、多様な治療選択肢について正確で分かりやすい情報を提供し、患者さんが十分な理解のもとで自己決定できるよう支援します。特に妊娠希望の有無年齢症状の程度により最適な治療法が異なるため、個別的な相談意思決定支援が重要となります。

心理的支援では、不妊への不安女性性への影響手術への恐怖悪性化への心配など、患者さんが抱える多様な不安に共感的に対応し、正確な情報提供により不安の軽減を図ります。良性疾患であることを強調し、希望を持って治療に取り組めるよう支援することが重要です。

妊孕性に関する支援では、筋腫が妊娠に与える影響について正確な情報を提供し、妊娠計画がある場合の適切なタイミングでの治療について相談に応じます。パートナーとの話し合い専門医との相談を促進し、最適な妊活計画の立案を支援することが大切です。

生活指導では、症状緩和のための日常生活の工夫栄養管理運動習慣について指導し、患者さんの生活の質向上を図ります。職場での配慮事項パートナーシップについても相談に応じ、包括的な生活支援を提供することが重要です。

実習では患者さんの個別性ライフステージを重視し、その人の価値観や希望を尊重した看護を心がけましょう。子宮筋腫は多くの治療選択肢があり、個々の状況に応じた最適な管理により、患者さんが充実した人生を送ることができる疾患です。希望を持って治療に取り組めるよう、患者さんとその家族を支援し、女性の健康と幸福の実現に向けて包括的なケアを提供していきましょう。


この記事の執筆者

なっちゃん
なっちゃん

・看護師と保健師
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり


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