【睡眠時無呼吸症候群】疾患解説と看護のポイント

呼吸器科

疾患概要

定義

睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome: SAS)は、睡眠中に呼吸が繰り返し停止または浅くなる状態が続く疾患です。医学的には、10秒以上の無呼吸や低呼吸が1時間に5回以上、または7時間の睡眠中に30回以上発生する状態と定義されています。

この疾患の重要なポイントは、単なる「いびき」や「眠りが浅い」という問題ではなく、酸素不足による全身への影響心血管系の合併症リスクを高める重大な疾患であるということです。

疫学

日本国内では、潜在患者を含めると約200〜300万人の患者がいると推定されています。しかし、実際に診断・治療を受けているのはそのうちの約2割程度にすぎません。

男性に多い疾患で、男女比は約3〜4:1です。発症年齢のピークは40〜60歳代ですが、近年では肥満の増加に伴い、若年層での発症も増えています。また、閉経後の女性では発症率が上昇する傾向があります。

職業ドライバーや交通事故との関連も注目されており、重症のSAS患者は健常者と比べて交通事故のリスクが約2〜7倍高いとされています。

原因

睡眠時無呼吸症候群は大きく3つのタイプに分類されます。

閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)が最も多く、全体の約90%を占めます。これは上気道が物理的に閉塞することで起こります。主な原因として、肥満による首周りの脂肪沈着、扁桃肥大、舌根沈下、下顎の後退、鼻中隔湾曲症などがあります。

中枢性睡眠時無呼吸症候群(CSAS)は、脳の呼吸中枢からの指令が出なくなることで起こります。心不全や脳血管障害、特定の薬剤(オピオイド系鎮痛薬など)が原因となることがあります。

混合性は、上記2つが混在するタイプです。

危険因子としては、肥満(BMI 25以上)、加齢、男性、飲酒習慣、喫煙、家族歴などが挙げられます。


病態生理

睡眠時無呼吸症候群の病態を理解するには、正常な睡眠時の呼吸メカニズムから考える必要があります。

通常、睡眠に入ると全身の筋緊張が低下します。これは上気道を支える筋肉も例外ではありません。健常者では、この筋緊張の低下があっても気道は十分な広さを保っていますが、解剖学的に気道が狭い人や肥満で首周りに脂肪が沈着している人では、睡眠中に気道が閉塞してしまいます。

気道が閉塞すると、呼吸努力は続いているのに空気が肺に入らない状態になります。この状態が続くと低酸素血症が生じ、血中酸素飽和度(SpO2)が低下します。同時に、二酸化炭素が体内に蓄積し、高二酸化炭素血症も起こります。

この酸素不足を感知した脳は、覚醒反応を起こして気道を開こうとします。この時、多くの場合は完全に目が覚めるわけではなく、「中途覚醒」という浅い覚醒が起こります。気道が再び開通すると呼吸が再開し、大きないびきとともに酸素が取り込まれます。

この「無呼吸→低酸素→覚醒→呼吸再開」のサイクルが一晩に何十回、重症例では何百回も繰り返されることで、様々な影響が生じます。

睡眠の質の低下により、深い眠り(ノンレム睡眠)に入れず、日中の強い眠気、集中力低下、記憶力低下などが現れます。

繰り返す低酸素血症は、交感神経系を持続的に刺激します。これにより血圧が上昇し、心拍数も増加します。長期的には高血圧症、不整脈(特に心房細動)、虚血性心疾患、心不全のリスクが高まります。

胸腔内圧の変動も重要な病態です。閉塞した気道に対して呼吸筋が強く収縮することで、胸腔内が強く陰圧になります。この圧変化が心臓への負担となり、左室後負荷を増大させます。

また、低酸素状態が繰り返されることで酸化ストレス炎症性サイトカインの産生が増加し、動脈硬化の進行、インスリン抵抗性の増大(糖尿病リスク)、メタボリックシンドロームの悪化などにつながります。


症状・診断・治療

症状

睡眠時無呼吸症候群の症状は、睡眠中の症状日中の症状に大別されます。

睡眠中の症状としては、大きないびき(特に周期的ないびき)、呼吸停止、あえぎ呼吸、頻繁な寝返り、中途覚醒、夜間頻尿(2回以上)などがあります。これらの症状は本人が自覚していないことも多く、同居者からの情報が診断の重要な手がかりとなります。

日中の症状には、起床時の頭痛やだるさ、日中の強い眠気(特に単調な作業中)、集中力・記憶力の低下、倦怠感、抑うつ気分、性欲減退、勃起不全などがあります。特に居眠り運転や会議中の居眠りといった社会生活への影響は、患者のQOLを大きく低下させます。

診断

診断は問診、身体診察、睡眠検査を組み合わせて行います。

問診では、エプワース眠気尺度(ESS)という質問票がよく使われます。これは日常のさまざまな場面での眠気を点数化するもので、11点以上で日中の眠気が強いと判断されます。また、同居者からいびきや無呼吸の有無を聴取することも重要です。

身体診察では、BMI測定、頸囲測定(男性43cm以上、女性38cm以上でリスク高い)、口腔内の観察(扁桃肥大、舌の大きさ、軟口蓋の状態)、鼻腔の観察などを行います。

確定診断には睡眠ポリグラフ検査(PSG)が必要です。これは入院または睡眠検査室で一晩行う検査で、脳波、眼球運動、筋電図、心電図、呼吸運動、気流、酸素飽和度などを同時に測定します。この検査により、無呼吸低呼吸指数(AHI)が算出されます。AHIは1時間あたりの無呼吸・低呼吸の回数で、5〜15回を軽症、15〜30回を中等症、30回以上を重症と判定します。

簡易検査として、自宅で行える簡易モニター検査もあります。これは呼吸運動、気流、酸素飽和度などを測定するもので、スクリーニング検査として有用です。

治療

治療の基本は、症状の改善と合併症の予防です。

軽症例では、まず生活習慣の改善から始めます。減量(体重の10%減少でAHIが約50%改善するというデータがあります)、禁煙、節酒(特に就寝前の飲酒は避ける)、側臥位での睡眠などが推奨されます。

中等症以上、または軽症でも日中の眠気が強い場合は、持続陽圧呼吸療法(CPAP)が第一選択となります。CPAPは、鼻マスクを通じて持続的に陽圧の空気を送り込み、上気道の閉塞を防ぐ治療法です。効果は高く、ほとんどの患者で症状が劇的に改善しますが、マスクの違和感や装着の煩わしさから継続が困難な患者も少なくありません。

マウスピース(口腔内装置)は、下顎を前方に移動させることで気道を広げる治療法で、軽症から中等症の患者に適応されます。CPAPに比べて簡便ですが、効果はやや劣ります。

外科的治療としては、扁桃肥大や鼻中隔湾曲症など明らかな解剖学的異常がある場合に、扁桃摘出術、鼻中隔矯正術、軟口蓋形成術などが検討されます。重症例で他の治療が無効な場合には、上下顎骨前方移動術が行われることもあります。


看護アセスメント・介入

よくある看護診断・問題

  • ガス交換障害
  • 睡眠パターン混乱
  • 活動耐性低下
  • 疲労
  • 治療計画の不遵守リスク(特にCPAP療法)
  • 事故のリスク(居眠りによる)

ゴードン機能的健康パターン

健康知覚-健康管理パターンでは、患者が自身の疾患をどの程度理解しているか、治療の必要性を認識しているかを評価します。多くの患者は「ただのいびき」と軽視していたり、日中の眠気を「年齢のせい」と考えていたりします。疾患の重大性、特に心血管系合併症のリスクについての理解度を確認することが重要です。

栄養-代謝パターンでは、BMIや体重変化、食習慣を詳細にアセスメントします。肥満はSASの最大の危険因子であると同時に、SASによる日中の疲労感が運動不足を招き、さらなる体重増加につながるという悪循環が生じやすいため、この悪循環を断ち切る介入計画が必要です。

活動-運動パターンでは、日中の活動レベル、運動習慣、疲労感の程度を評価します。SAS患者は慢性的な疲労のため活動量が低下しがちで、それが体力低下や肥満の悪化につながります。

睡眠-休息パターンは最も重要な評価項目です。就寝時刻、起床時刻、睡眠時間、中途覚醒の回数、いびきの程度、同居者が目撃した無呼吸エピソード、起床時の状態(頭痛、口渇、倦怠感)などを詳しく聴取します。また、日中の眠気がいつ、どのような状況で生じるか(運転中、会議中、テレビ視聴中など)を具体的に把握します。

認知-知覚パターンでは、集中力や記憶力の低下、判断力への影響を評価します。これらは日常生活や仕事のパフォーマンスに直結するため、患者のQOLを考える上で重要です。

役割-関係パターンでは、いびきや無呼吸が同居者の睡眠を妨げていないか、そのことが夫婦関係や家族関係に影響を与えていないかを確認します。また、日中の眠気や疲労感が仕事や社会的役割の遂行にどう影響しているかも評価します。

ヘンダーソン14基本的ニード

正常に呼吸するは最も直接的に障害されているニードです。睡眠中の繰り返す低酸素血症により、組織への酸素供給が不十分になっています。SpO2の変動パターン、低酸素の程度と持続時間、それに伴う症状を観察します。

適切に飲食するに関しては、肥満の有無、食事内容、食事時間、特に夕食後の間食習慣などを評価します。また、CPAP装着により口渇が生じやすいことにも注意が必要です。

身体の排泄を行うでは、夜間頻尿の有無とその回数を確認します。これはSASの症状の一つであると同時に、睡眠の質をさらに低下させる要因にもなります。

身体の位置を動かし、適切な姿勢を保持するについては、睡眠時の体位が重要です。仰臥位では重力により舌根が沈下しやすく、無呼吸が悪化するため、側臥位での睡眠が推奨されます。

睡眠と休息をとるは中核的なニードです。睡眠の質と量、中途覚醒の頻度、起床時の倦怠感、日中の眠気の程度などを総合的に評価し、睡眠の回復機能が十分に果たされているかを判断します。

危険な環境因子を避け、他者を傷害しないようにするでは、特に日中の強い眠気による事故リスクを評価します。運転中の居眠りは本人だけでなく他者の生命も危険にさらすため、重要な問題です。

看護計画・介入の内容

  • 呼吸状態のモニタリング: 睡眠中のSpO2、呼吸パターン、いびきの程度を観察します。家族にも協力を依頼し、無呼吸エピソードの記録をつけてもらうことが有用です
  • CPAP療法の導入支援と継続支援: マスクのフィッティング確認、装着方法の指導、違和感への対処法の提案を行います。継続率を高めるため、初期の不快感は徐々に慣れること、効果を実感できるまで数週間かかる場合があることを説明します。また、マスクの清掃方法や機器の管理方法も丁寧に指導します
  • 生活習慣改善の支援: 具体的で実現可能な減量目標の設定、食事内容の見直し、運動習慣の確立を支援します。急激な変化ではなく、段階的な改善を目指すことが継続の鍵です
  • 睡眠環境の整備: 側臥位保持のための抱き枕の使用、適切な寝具の選択、寝室の温度・湿度管理、就寝前の飲酒や喫煙の回避などを指導します
  • 安全管理: 日中の眠気が強い間は運転を避けるか、長距離運転時は休憩を頻回にとること、機械操作など危険を伴う作業への注意を促します
  • 心理的サポート: CPAP装着に対する抵抗感や治療継続への不安、症状による生活への影響について傾聴し、患者の気持ちを受け止めます。同じ疾患を持つ患者同士の交流(患者会など)も有効な支援になります
  • 家族への教育: 疾患の理解を促し、治療への協力を依頼します。特にCPAP装着時の音や外見に対する家族の理解が、治療継続に大きく影響します
  • 合併症予防: 血圧測定、心血管系症状の観察、血糖コントロール状況の把握など、全身管理の視点を持った看護を展開します

よくある疑問・Q&A

Q: いびきをかく人は全員、睡眠時無呼吸症候群なのでしょうか?

A: いいえ、違います。いびきをかく人の中でSASに該当するのは一部です。ただし、大きないびきに無呼吸が混じるいびきが途切れた後に大きな呼吸音とともに再開する日中に強い眠気があるといった場合は、SASの可能性が高いので医療機関の受診を勧めましょう。単純ないびき(習慣性いびき)との大きな違いは、無呼吸の有無と低酸素血症の有無です。判断に迷う場合は、家族に「呼吸が止まっているように見えたことがあるか」を確認してもらうとよいでしょう。

Q: CPAP治療を始めた患者さんが「マスクが苦しくて眠れない」と訴えています。どう対応すればよいですか?

A: CPAP開始初期によくある訴えです。まず、マスクのサイズやタイプが合っているか確認しましょう。鼻マスク、鼻ピローマスク、フルフェイスマスクなど複数のタイプがあり、患者さんによって合うものが異なります。また、最初は昼間に短時間装着する練習から始め、徐々に装着時間を延ばすアプローチも有効です。圧設定が適切か、加湿機能は使用しているか(乾燥による不快感を軽減)、マスクの締め付けが強すぎないかなども確認ポイントです。それでも継続困難な場合は、医師と相談してマウスピースなど他の治療法を検討することも考えられます。患者さんの「続けられない」という気持ちを否定せず、一緒に解決策を探る姿勢が大切です。

Q: 患者さんから「治療すれば完治しますか?」と聞かれました。どう説明すればよいですか?

A: SASは多くの場合、治療による症状のコントロールは可能ですが、完治は難しい疾患です。これは糖尿病や高血圧と似た慢性疾患としての性質を持っています。ただし、肥満が原因の場合は、大幅な減量により治療が不要になることもあります。また、扁桃肥大など解剖学的異常が原因の場合は、外科的治療で治癒する可能性があります。「CPAPは使い続けなければならないのか」という質問もよくありますが、現状では治療を継続することで健康な人と変わらない生活の質が得られ、心血管系合併症のリスクも大幅に低下するという点を強調して説明するとよいでしょう。「治療をやめると症状が戻ってしまうため、継続的な管理が必要」という理解を促すことが重要です。

Q: 実習で受け持った患者さんがSASと診断されていますが、検査データで特に気をつけて見るべき項目はありますか?

A: まずSpO2の値とその変動に注目しましょう。特に夜間のSpO2モニタリングデータがあれば、低下のパターンや最低値を確認します。90%を下回る低下が頻繁にある場合は重症度が高いと判断できます。血液検査では、多血症(ヘモグロビン・ヘマトクリット値の上昇)がないか確認します。これは慢性的な低酸素状態への代償反応です。また、SASはメタボリックシンドロームとの関連が強いため、血糖値、HbA1c、脂質プロファイル(中性脂肪、コレステロール)もチェックポイントです。心血管系への影響を見るために、心電図での不整脈の有無、心エコーでの左室肥大の有無、血圧値(特に夜間高血圧)なども重要です。さらに、肝機能障害(特にγ-GTP上昇)が見られることもあり、これは低酸素や肥満との関連が考えられます。

Q: 患者さんが「お酒を飲むとよく眠れる」と言っています。SASの場合、飲酒についてどう説明すればよいですか?

A: これは非常に重要な指導ポイントです。確かにアルコールには寝つきをよくする作用がありますが、SAS患者にとって飲酒、特に就寝前の飲酒は症状を著しく悪化させます。アルコールは上気道の筋肉を弛緩させるため、気道がさらに閉塞しやすくなり、無呼吸の回数が増加し、1回の無呼吸の持続時間も長くなります。その結果、低酸素血症が重症化し、心血管系への負担も増大します。また、アルコールは覚醒反応を鈍らせるため、無呼吸からの回復が遅れる可能性もあります。「お酒で眠りやすくなるのは確かですが、睡眠の質は大幅に低下し、身体への悪影響が大きくなります」と説明し、特に就寝3〜4時間前以降の飲酒は避けるよう指導しましょう。どうしても飲む場合は、量を控えめにし、就寝までに十分な時間を空けることが重要です。


まとめ

睡眠時無呼吸症候群は、単なる「いびき」や「眠りが浅い」という問題ではなく、繰り返す低酸素血症により全身に影響を及ぼす重大な疾患です。特に心血管系への負担が大きく、高血圧、心筋梗塞、脳卒中のリスクを高めるため、早期発見と適切な治療が重要になります。

病態の核心は、睡眠中の気道閉塞→低酸素→覚醒反応→呼吸再開というサイクルが一晩に何度も繰り返されることです。このサイクルにより、深い睡眠が得られず、交感神経系が持続的に刺激され、様々な合併症が生じます。

看護の要点は、CPAP療法の継続支援が最も重要です。治療効果は高いものの、マスクの違和感や装着の煩わしさから中断してしまう患者が多いため、初期の不快感への対処、効果実感までの心理的サポート、実際的な使用方法の工夫などが必要になります。また、生活習慣改善、特に減量は根本的な改善につながるため、具体的で実現可能な目標設定と継続的な支援が欠かせません。

患者教育では、疾患の重大性と治療の必要性を理解してもらうこと、特に就寝前の飲酒が症状を悪化させること、側臥位での睡眠が有効であることなど、日常生活で実践できる具体的な情報を提供することが大切です。

実習では、夜間の呼吸状態の観察、SpO2モニタリング、日中の眠気の程度、治療への適応状況などを丁寧にアセスメントしましょう。また、この疾患は心血管系、代謝系、精神面など多方面に影響するため、全身を包括的に見る視点を持つことが重要です。患者さんの「眠れない」「疲れる」という訴えの背景にSASが隠れている可能性も常に念頭に置き、適切な医療につなげる役割を果たしましょう。


免責事項

本記事は教育・学習目的の情報提供です。

・一般的な医学知識の解説であり、個別の患者への診断・治療の根拠ではありません
・実際の看護実践は、患者の個別性を考慮し、指導者の指導のもと行ってください
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