【肺水腫】疾患解説と看護の要点

呼吸器科

疾患概要

定義

肺水腫とは、肺の間質や肺胞内に異常に水分が貯留した病態です。心原性肺水腫(左心不全による)と非心原性肺水腫(ARDS、溺水、薬物中毒など)に大別されます。発症様式により急性肺水腫慢性肺水腫に分類され、急性肺水腫は生命に関わる救急疾患として迅速な対応が必要です。病理学的には間質性肺水腫から肺胞性肺水腫へと進行し、重篤な呼吸不全を引き起こします。

疫学

心原性肺水腫は心不全患者の急性増悪として最も多く見られ、特に高齢者に多い病態です。心不全患者の約60%が入院中に肺水腫を経験するとされています。非心原性肺水腫の発症率は原因により異なりますが、ARDSの場合は入院患者の約3%に発症します。死亡率は原因や重症度により大きく異なり、急性心原性肺水腫では適切な治療により比較的予後良好ですが、ARDSでは30-40%と高い死亡率を示します。

原因

心原性肺水腫の原因として、急性心筋梗塞、重篤な不整脈、高血圧性心疾患の急性増悪、弁膜症、心筋症などがあります。非心原性肺水腫では、ARDS(敗血症、誤嚥、外傷など)、溺水、薬物中毒(ヘロイン、サリチル酸など)、神経原性肺水腫(頭部外傷、てんかん重積など)、高地肺水腫、輸血関連急性肺障害(TRALI)などが原因となります。また、腎不全による体液過剰も重要な原因の一つです。

病態生理

正常では肺毛細血管内の静水圧と血管外の膠質浸透圧がバランスを保っています。心原性肺水腫では左心不全により肺静脈圧が上昇し、肺毛細血管圧が上昇することで血管外への水分漏出が増加します。非心原性肺水腫では肺胞毛細血管膜の透過性亢進により、蛋白質を含む水分が肺胞内に漏出します。初期は間質に水分が貯留し(間質性肺水腫)、進行すると肺胞内に直接水分が流入(肺胞性肺水腫)し、重篤なガス交換障害を引き起こします。


症状・診断・治療

症状

最も特徴的な症状は急激に進行する呼吸困難です。起坐呼吸(座位でないと呼吸困難が強い)や発作性夜間呼吸困難も心原性肺水腫に特徴的です。咳嗽(初期は乾性、進行すると湿性)、泡沫状痰(ピンク色を呈することもある)を認めます。チアノーゼ冷汗不安・不穏状態も重要な症状です。聴診では湿性ラ音(fine crackles)を両側下肺野から聴取し、進行すると全肺野に及びます。心原性では心雑音奔馬調律も聴取されます。

診断

胸部X線検査では蝶翼状陰影(バタフライパターン)やKerley B線が特徴的で、心陰影の拡大も心原性肺水腫の診断に重要です。動脈血ガス分析では低酸素血症とⅠ型呼吸不全のパターンを示します。心エコー検査は心機能評価と心原性・非心原性の鑑別に有用です。BNP・NT-proBNPは心原性肺水腫の診断マーカーとして重要です。胸部CT検査は詳細な肺病変の評価や原因検索に用いられます。

治療

急性心原性肺水腫では酸素投与、利尿薬(フロセミドなど)、血管拡張薬(ニトログリセリン)、強心薬(ドブタミンなど)による治療を行います。非侵襲的陽圧換気(NPPV)や気管内挿管・人工呼吸管理が必要な場合もあります。非心原性肺水腫では原因疾患の治療が最優先で、ARDS管理プロトコールに従った肺保護換気戦略を実施します。体液管理では適切な輸液バランスの維持が重要で、過剰輸液は避けます。


看護アセスメント・介入

よくある看護診断・問題

  • 非効果的呼吸パターン(肺水腫による重篤な呼吸障害)
  • ガス交換障害(肺胞内水分貯留による酸素化不良)
  • 体液量過多(心不全、腎不全による)
  • 活動耐性低下(重篤な呼吸困難による)
  • 不安・恐怖(窒息感、死への恐怖)

ゴードン機能的健康パターン

健康知覚・健康管理パターンでは、心疾患や腎疾患などの基礎疾患の理解と服薬アドヒアランスの確認が重要です。活動・運動パターンでは、重篤な呼吸困難により活動が著しく制限されるため、安静度の設定と段階的活動拡大計画が必要です。睡眠・休息パターンでは、起坐呼吸により睡眠が困難になるため、適切な体位と環境調整が重要です。認知・知覚パターンでは、低酸素血症による意識レベルの変化や不安・恐怖感への対応が必要になります。

ヘンダーソン14基本的ニード

呼吸の基本的ニードが最重要で、継続的な呼吸状態観察、適切な酸素療法、体位管理が必要です。人工呼吸器管理が必要な場合は、安全で効果的な管理が求められます。循環の基本的ニードでは、心機能と血行動態の評価・管理が重要です。体液・電解質バランスのニードでは、厳密な水分出納管理と利尿薬の効果観察が必要です。休息と睡眠のニードでは、呼吸困難による睡眠障害への対応が求められます。安全のニードでは、意識レベル低下時の安全確保が重要になります。

看護計画・介入の内容

  • 呼吸状態の継続的観察(呼吸回数、呼吸パターン、酸素飽和度、呼吸音、血液ガス値)
  • 適切な体位管理(半坐位・ファウラー位による呼吸改善)
  • 酸素療法の管理(鼻カニュラ、マスク、NPPV、人工呼吸器)
  • 厳密な水分出納管理と体重測定による体液バランス評価
  • 循環動態の継続監視(血圧、心拍数、心電図、中心静脈圧)
  • 薬物療法の効果・副作用観察(利尿薬、血管拡張薬、強心薬)
  • 不安軽減と心理的サポート(説明、励まし、安心感の提供)

よくある疑問・Q&A

Q: 肺水腫患者が「座っていないと息苦しい」と訴える理由は?この時どのような体位が最適ですか?

A: これは起坐呼吸と呼ばれる心不全に特徴的な症状です。臥位では静脈還流量が増加し心負荷が増大する一方、重力により肺水腫が悪化します。座位では静脈還流が減少し心負荷が軽減され、さらに横隔膜が下がることで肺の拡張が改善されます。半坐位(ファウラー位)から完全坐位が最適で、足を下垂させることでさらに静脈還流を減少させる効果があります。

Q: 急性肺水腫の患者への酸素投与で注意すべき点は?

A: 高濃度酸素の投与が基本ですが、COPD合併例ではCO2ナルコーシスのリスクがあるため注意が必要です。酸素飽和度90-95%を目標とし、動脈血ガス分析でPaCO2の上昇がないか確認します。NPPV(非侵襲的陽圧換気)は心原性肺水腫に特に有効で、CPAP(持続陽圧)により肺胞の虚脱を防ぎ、前負荷・後負荷を軽減します。効果不十分な場合は気管挿管・人工呼吸管理を躊躇せずに実施します。

Q: 肺水腫患者の水分制限はどの程度が適切ですか?観察のポイントは?

A: 心原性肺水腫では1日500-1000ml程度の厳格な水分制限が必要です。毎日の体重測定(同じ時間、同じ条件で)が最も重要な指標で、1日500g以上の体重増加は体液貯留を示唆します。水分出納表による厳密な管理、浮腫の評価(下腿、仙骨部)、頸静脈怒張の観察も重要です。利尿薬使用時は脱水にも注意し、電解質バランスの監視も必要です。

Q: 肺水腫患者が不安・恐怖を強く訴える場合の対応方法は?

A: 肺水腫による窒息感は強い死への恐怖を引き起こします。まず冷静で確実な態度で患者に接し、「大丈夫です、しっかり治療します」という安心感を与えます。呼吸法の指導(ゆっくりとした腹式呼吸)やリラクゼーション技法も有効です。家族の付き添いがあれば安心感が得られることが多いです。ただし、過度の不安は呼吸困難を悪化させるため、必要に応じて抗不安薬の使用も検討します。

Q: 心原性肺水腫と非心原性肺水腫の看護上の違いは何ですか?

A: 心原性肺水腫では心負荷の軽減(体位、水分制限、活動制限)と心機能改善のための薬物療法管理が中心となります。非心原性肺水腫では原因疾患の治療が最優先で、ARDSでは肺保護換気戦略の理解が重要です。心原性では利尿薬が著効しますが、非心原性では過度の利尿は避け、適切な輸液バランスの維持が重要です。予後も心原性の方が一般的に良好で、患者・家族への説明内容も異なります。


まとめ

肺水腫は生命に直結する救急疾患であり、迅速な評価と治療開始が患者の予後を左右します。看護の最優先事項は呼吸状態の継続的観察呼吸困難の改善であり、適切な体位管理酸素療法が基本となります。

心原性と非心原性の鑑別は治療方針が大きく異なるため重要で、それぞれに応じた看護介入が必要です。特に水分管理では、心原性では制限が、非心原性では適切なバランス維持が求められます。

患者は強い不安と恐怖を抱いているため、心理的支援も重要な看護介入の一つです。窒息感による死への恐怖を理解し、安心感を提供することが症状改善にもつながります。

実習では急性期看護の実際を学ぶ貴重な機会となるため、症状の観察ポイント緊急度の判断迅速で的確な報告の重要性を身につけることが大切です。また、生命に関わる状況での患者・家族の心理的負担を理解し、専門的な技術と人間性を兼ね備えた看護実践につなげることが重要です。


この記事の執筆者

なっちゃん
なっちゃん

・看護師と保健師
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり


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