疾患概要
定義
COVID-19(新型コロナウイルス感染症)は、SARS-CoV-2というウイルスによって引き起こされる感染症です。2019年12月に中国湖北省武漢市で初めて確認され、2020年3月にWHOによりパンデミック(世界的大流行)が宣言されました。飛沫感染や接触感染が主な感染経路で、無症状から重篤な肺炎、多臓器不全まで幅広い病状を呈します。感染力が強く、特に高齢者や基礎疾患のある方では重症化リスクが高い疾患ですね。ワクチン接種や治療薬の開発により対応が進んでいますが、変異株の出現により継続的な注意が必要な疾患です。
疫学
世界的には2024年末までに累計感染者数は約7億人、死亡者数は約700万人に達しています。日本では2024年末時点で累計感染者数約3,300万人、死亡者数約7.5万人となっています。年齢とともに重症化率・死亡率が上昇し、特に70歳以上で顕著に増加します。
感染の波は変異株の出現と密接に関連しており、アルファ株、デルタ株、オミクロン株などの流行により複数回の感染拡大が見られました。現在主流のオミクロン株は感染力が強い一方、重症化率は以前の株より低い傾向があります。ただし、免疫回避能力により再感染のリスクがあることが特徴的です。
原因
原因ウイルスのSARS-CoV-2は、コロナウイルス科に属するRNAウイルスです。ウイルス表面のスパイクタンパク質がヒトの細胞表面にあるACE2受容体に結合することで細胞内に侵入します。
感染経路として、飛沫感染(咳やくしゃみによる飛沫)、エアロゾル感染(密閉空間での微小粒子)、接触感染(汚染された物の表面)があります。特に3密(密閉・密集・密接)の環境で感染リスクが高まります。
潜伏期間は1~14日(平均5~6日)で、発症2日前から発症後7~10日頃まで感染力があります。無症状感染者からの感染も多く、これが感染拡大の大きな要因となっています。
病態生理
SARS-CoV-2は主に呼吸器系に感染しますが、ACE2受容体は全身の臓器に分布するため、多臓器にわたる障害を引き起こします。初期は上気道炎様の症状から始まり、重症例では急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、血栓症、多臓器不全に進行します。
サイトカインストームと呼ばれる過剰な炎症反応が重症化の主要なメカニズムです。IL-6、TNF-α、IL-1βなどの炎症性サイトカインが大量に放出され、血管透過性の亢進、血液凝固異常、臓器障害を引き起こします。
血栓形成傾向も特徴的で、肺血栓塞栓症、脳梗塞、心筋梗塞などの血管合併症のリスクが高まります。また、Long COVIDと呼ばれる感染後の長期間にわたる症状の持続も問題となっています。
症状・診断・治療
症状
症状は無症状から重篤な症状まで多様です。軽症では風邪様症状を呈し、発熱、咳、咽頭痛、鼻汁、頭痛、倦怠感などが見られます。嗅覚・味覚障害はCOVID-19に特徴的な症状として知られています。
中等症では呼吸困難、胸痛、持続する発熱が現れ、重症では高度の呼吸困難、チアノーゼ、意識障害を呈します。高齢者では非典型的な症状(せん妄、食欲不振、活動性低下など)のみで発症することもあります。
Long COVIDの症状として、疲労感、呼吸困難、思考力・集中力の低下(ブレインフォグ)、嗅覚・味覚障害、睡眠障害、抑うつなどが感染後数か月にわたって持続することがあります。これらの症状は日常生活に大きな影響を与えることが問題となっています。
診断
PCR検査または抗原検査によりウイルスの検出を行います。PCR検査は感度が高く確定診断に用いられ、抗原検査(定性・定量)は迅速性に優れスクリーニングに適しています。
検体採取は鼻咽頭ぬぐい液が標準ですが、唾液からの検査も可能です。症状出現から9日以内では鼻咽頭ぬぐい液、10日目以降では唾液での検査が推奨されています。
抗体検査は過去の感染歴やワクチン効果の確認に用いられますが、現在の感染診断には適しません。胸部CTでは、重症例でスリガラス様陰影、浸潤影、胸水などが認められます。
血液検査では、リンパ球減少、CRP上昇、D-ダイマー上昇、LDH上昇などが見られることがありますが、これらは診断の補助的な指標となります。
治療
軽症例では対症療法が中心となり、自宅療養または宿泊療養を行います。解熱鎮痛薬、鎮咳薬などを用いて症状の緩和を図ります。十分な休養と水分摂取、栄養管理が重要です。
中等症・重症例では入院治療を行い、酸素療法、人工呼吸管理、ECMO(体外式膜型人工肺)などの呼吸管理を実施します。
薬物療法として、重症例ではデキサメタゾンなどのステロイド薬、レムデシビルなどの抗ウイルス薬、トシリズマブなどのサイトカイン阻害薬が用いられます。軽症・中等症の重症化リスクが高い患者にはパキロビッドなどの経口抗ウイルス薬が使用されます。
血栓予防として抗凝固薬の投与も重要で、入院患者では標準的に実施されます。
看護アセスメント・介入
よくある看護診断・問題
- 非効果的気道クリアランス
- ガス交換の障害
- 感染拡大のリスク状態
- 不安
- 社会的孤立
ゴードン機能的健康パターン
呼吸-循環パターンでは、呼吸状態の継続的な観察が最重要です。酸素飽和度、呼吸数、呼吸困難の程度、チアノーゼの有無を定期的に評価し、急性増悪の早期発見に努めます。重症例では人工呼吸器管理となることもあり、適切な呼吸管理が生命に直結します。
活動-運動パターンは大きく影響を受けます。隔離により活動制限が長期間続き、廃用症候群のリスクが高まります。また、呼吸困難により活動耐性が低下し、日常生活動作に支障を来します。段階的な活動量の調整と、Long COVIDの可能性も考慮した長期的な視点でのケアが必要です。
役割-関係パターンでは、隔離による社会的孤立が重大な問題となります。面会制限により家族との分離が生じ、患者さんの精神的負担が増大します。ICTを活用した面会システムの提供や、医療者との良好な関係構築が重要です。
ヘンダーソン14基本的ニード
正常な呼吸において、酸素療法の適切な管理と、呼吸リハビリテーションの実施が重要です。体位ドレナージや腹式呼吸の指導により、効果的な換気を促進します。
コミュニケーションでは、隔離により家族や友人との接触が制限されるため、代替的なコミュニケーション手段の提供が必要です。電話、ビデオ通話、メッセージアプリなどを活用し、社会的つながりの維持を支援します。
学習の欲求では、感染対策の重要性と方法について教育し、退院後の生活における注意点を指導します。Long COVIDの可能性についても説明し、症状が持続する場合の対応についても情報提供します。
看護計画・介入の内容
- 感染対策の徹底:標準予防策に加え、飛沫・接触予防策を実施し、感染拡大を防止する
- 呼吸状態の監視:酸素飽和度、呼吸数、呼吸パターンを継続的に観察し、悪化の早期発見に努める
- 心理的支援:隔離による不安や孤独感に対し、傾聴や情報提供により精神的安定を図る
- 家族支援:面会制限下での家族とのコミュニケーション支援と、家族の不安軽減を行う
- 退院指導:感染対策の継続、体調管理、Long COVIDの可能性について包括的に指導する
よくある疑問・Q&A
Q: COVID-19患者さんのケア時の感染対策で最も重要なポイントは?
A: 適切なPPE(個人防護具)の着脱が最も重要です。N95マスクまたはサージカルマスク、フェイスシールドまたはゴーグル、長袖ガウン、手袋を正しく着用し、特に脱衣時の汚染防止に注意が必要です。手指衛生は着脱の前後に必ず実施し、汚染区域と清潔区域を明確に分けることが感染予防の基本となります。
Q: 酸素飽和度が低下している患者さんへの対応で注意すべき点は?
A: SpO2 93%以下は酸素投与の適応となります。まず体位を確認し、可能であれば腹臥位(うつ伏せ)にすることで酸素化の改善が期待できます。酸素流量の調整は医師の指示に従い、意識レベルの変化、呼吸数の増加、チアノーゼの出現などの重症化サインを見逃さないよう継続的な観察が必要です。急激な悪化もあり得るため、迅速な報告・相談体制を整えておくことが大切ですね。
Q: 隔離中の患者さんが「家族に会えない」と訴えた場合、どう対応しますか?
A: まず患者さんの気持ちを受け止め、隔離の必要性について丁寧に説明します。ビデオ通話システムの利用を提案し、家族との定期的なコミュニケーションを支援します。医療者が仲介となり、家族への病状説明の機会を設けることも重要です。また、手紙やメッセージの取り次ぎなど、可能な範囲での家族とのつながりを維持する方法を一緒に考えることが大切です。
Q: Long COVIDの症状がある患者さんへの看護で重要なことは?
A: 症状の多様性と個別性を理解し、患者さんの訴えを真摯に受け止めることが重要です。疲労感や集中力低下は外見からは分かりにくく、「気のせい」と思われがちですが、実際に生活に支障を来している症状です。段階的な活動量の調整、十分な休息の確保、症状日記の記録などを指導し、多職種連携による包括的なケアを提供します。家族の理解も重要で、症状について説明し協力を求めることも必要ですね。
Q: ワクチン接種後に感染した患者さんから「ワクチンは効かないのか」と質問された場合は?
A: ワクチンは重症化予防効果が主な目的であり、感染を完全に防ぐものではないことを説明します。「ワクチンを接種していなければ、より重篤な症状になっていた可能性が高い」ことを伝え、ワクチンの意義を理解してもらいます。また、変異株に対する効果の違いや、時間経過による免疫力の低下についても説明し、追加接種の重要性についても情報提供することが大切です。
まとめ
COVID-19はSARS-CoV-2による感染症であり、感染力が強く多様な症状を呈する疾患です。軽症から重症まで幅広い病状を示し、特に高齢者や基礎疾患のある方では重症化リスクが高いことが特徴的です。
看護の要点として、厳格な感染対策、呼吸状態の継続的な観察、隔離による心理的影響への配慮、家族支援が挙げられます。特に感染対策は患者さんの治療だけでなく、医療従事者や他の患者さんの安全にも直結する重要な要素です。
実習では、感染対策の基本を徹底し、PPEの正しい着脱方法を身につけることが最優先です。また、隔離により患者さんが感じる孤独感や不安に寄り添い、コミュニケーションを大切にした関わりを心がけましょう。Long COVIDの可能性も含め、長期的な視点でのケアと多職種連携の重要性を理解し、患者さんの回復と社会復帰を総合的に支援していくことが大切ですね。
この記事の執筆者

・看護師と保健師
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
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