疾患概要
定義
気管支喘息は、気道の慢性的な炎症性疾患で、可逆性の気道狭窄を特徴とします。アレルゲンや刺激物質に対する過敏反応により、気管支平滑筋の収縮、粘膜の浮腫、気道分泌物の増加が生じ、発作性の呼吸困難や喘鳴を引き起こす疾患ですね。
疫学
日本では成人の約3-5%、小児の約6-13%が罹患しており、小児期に発症することが多い疾患です。男女比は小児期では男児に多く(2:1)、成人期では女性にやや多い傾向があります。近年、大気汚染や住環境の変化、アレルギー体質の増加により患者数は増加傾向にあります。
原因
気管支喘息の発症には遺伝的要因と環境要因の両方が関与しています。遺伝的素因として家族歴があり、環境要因としてはダニ、花粉、カビ、動物の毛などのアレルゲン、大気汚染、喫煙、ウイルス感染、ストレス、運動、気候変化などがあります。これらの要因が複合的に作用して発症に至ります。
病態生理
アレルゲンが気道に侵入すると、IgE抗体を介したⅠ型アレルギー反応が起こります。肥満細胞からヒスタミンやロイコトリエンなどの化学伝達物質が放出され、気管支平滑筋の収縮、血管透過性の亢進による粘膜浮腫、杯細胞からの粘液分泌増加が生じます。これにより気道が狭窄し、空気の流れが阻害されて呼吸困難が出現します。慢性的な炎症により気道のリモデリング(構造変化)も進行します。
症状・診断・治療
症状
主症状は発作性の呼吸困難、喘鳴(ヒューヒュー、ゼーゼーという音)、咳嗽、胸部圧迫感です。症状は夜間から早朝にかけて悪化することが多く、これは副交感神経の優位性やコルチゾール分泌の日内変動が関与しています。軽症では運動時のみ症状が出現しますが、重症になると安静時でも症状が持続し、日常生活に大きな支障をきたします。
診断
診断は臨床症状、肺機能検査、アレルギー検査を総合的に評価して行います。肺機能検査では1秒量(FEV1)の低下と気管支拡張薬吸入後の改善(可逆性)を確認します。ピークフローメーターによる最大呼気流量(PEF)の測定も有用で、日内変動が20%以上あれば喘息を疑います。血液検査ではIgE値の上昇、好酸球増多を認めることがあり、特異的IgE抗体検査でアレルゲンの特定を行います。
治療
治療の基本は長期管理薬による炎症の抑制と発作治療薬による症状の緩和です。長期管理薬として吸入ステロイド薬(ICS)を第一選択とし、必要に応じて長時間作用性β2刺激薬(LABA)やロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)を併用します。発作時には短時間作用性β2刺激薬(SABA)を使用し、重症発作では全身ステロイド薬や酸素投与を行います。日常的にはアレルゲンの除去や回避も重要な治療の一環となります。
看護アセスメント・介入
よくある看護診断・問題
- 非効果的呼吸パターン(気道狭窄に関連した)
- 活動耐性低下(呼吸困難に関連した)
- 不安(呼吸困難や発作への恐怖に関連した)
ゴードン機能的健康パターン
活動・運動パターンでは呼吸状態の詳細な観察が最も重要になります。呼吸数、呼吸音の聴診、酸素飽和度の測定、胸郭の動きや補助筋の使用状況を継続的にアセスメントしましょう。ストレス・コーピングパターンでは発作に対する不安や恐怖、疾患受容の程度を把握し、患者の心理的支援が必要です。睡眠・休息パターンでは夜間の症状悪化により睡眠が妨げられることが多いため、睡眠の質と量を評価します。
ヘンダーソン14基本的ニード
正常な呼吸が最優先のニードとなり、呼吸状態の観察と適切な体位の保持、環境整備が重要です。身体の清潔と衣服の調整では、アレルゲンとなりうるダニやハウスダストを除去するための環境管理が含まれます。学習への欲求では疾患理解と自己管理能力の向上を支援し、正常な体温の維持では感染予防への取り組みが必要になります。
看護計画・介入の内容
- 呼吸状態の継続的モニタリングと異常の早期発見(SpO2、呼吸数、呼吸音の聴診)
- 適切な体位保持(ファーラー位やオルソプニア位)と環境調整(温湿度管理、アレルゲン除去)
- 薬物療法の支援と吸入指導、患者・家族への疾患教育と自己管理指導
よくある疑問・Q&A
Q: なぜ喘息の症状は夜間に悪化しやすいのですか?
A: 夜間から早朝にかけては副交感神経が優位になり気管支が収縮しやすくなります。また、抗炎症作用のあるコルチゾールの分泌が最低値となることや、気道温度の低下、アレルゲンへの長時間曝露なども関与しています。
Q: 吸入薬の指導で特に注意すべき点は何ですか?
A: 正しい吸入手技の習得が最も重要です。息を完全に吐いてから薬剤を吸入し、吸入後は10秒程度息止めをすること、吸入後のうがいでステロイド薬による口腔カンジダ症を予防することなどを指導しましょう。定期的な手技の確認も大切です。
Q: 喘息発作が起きた時の対応で最も大切なことは?
A: 冷静に患者を安心させることと適切な体位の保持が重要です。座位やファーラー位で呼吸を楽にし、ゆっくりとした深呼吸を促します。速効性気管支拡張薬の使用や、必要に応じて医師への報告・酸素投与の準備を行います。パニックを起こさないよう声かけも大切ですね。
この記事の執筆者

・看護師と保健師
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
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