【肺炎(市中肺炎)】疾患解説と看護の要点

呼吸器科

疾患概要

定義

市中肺炎は、医療機関外で日常生活を送っていた人が罹患する急性の肺実質の炎症です。病院内で発症する院内肺炎とは区別され、細菌、ウイルス、マイコプラズマ、クラミジアなどの病原微生物が肺胞や間質に感染して炎症を起こす疾患ですね。日本では死因の第5位を占める重要な疾患です。

疫学

日本では年間約120万人が発症し、高齢者での発症率が高く、65歳以上では急激に増加します。男性の方がやや多く、冬季に発症のピークを迎えます。死亡率は軽症では1%未満ですが、重症例では20-30%に達することもあり、特に高齢者、基礎疾患のある患者では予後が悪化しやすい傾向があります。

原因

最も多い原因菌は肺炎球菌で全体の約30-40%を占めます。その他、インフルエンザ菌、マイコプラズマ、クラミジア、黄色ブドウ球菌、レジオネラなどが原因となります。ウイルス性ではインフルエンザウイルス、RSウイルス、新型コロナウイルスなども重要な原因です。危険因子として高齢、喫煙、アルコール多飲、慢性疾患(糖尿病、心疾患、腎疾患など)、免疫抑制状態があります。

病態生理

病原微生物が気道を通じて肺胞に到達すると、肺胞上皮細胞に付着・侵入し、炎症反応が開始されます。好中球やマクロファージが集積し、炎症性サイトカインが放出されて血管透過性が亢進します。この結果、肺胞内に炎症性滲出液が貯留し、ガス交換障害が生じます。炎症が広範囲に及ぶと呼吸不全や敗血症を来すこともあり、全身への影響が現れます。


症状・診断・治療

症状

典型的な症状は発熱、咳嗽、膿性痰、胸痛、呼吸困難です。高齢者では典型的な症状が現れにくく、意識レベルの低下、食欲不振、活動性の低下などの非特異的な症状のみを呈することがあります。マイコプラズマ肺炎では乾性咳嗽が持続し、レジオネラ肺炎では下痢や意識障害を伴うことが特徴的です。重症例では呼吸回数の増加、チアノーゼ、ショック症状が出現します。

診断

診断は臨床症状、身体所見、胸部X線検査、血液検査を総合して行います。胸部X線では肺野の浸潤影やconsolidationを認めます。血液検査では白血球数の増加、CRP上昇、プロカルシトニン上昇などの炎症反応を確認します。重症度評価にはA-DROPスコア(年齢、脱水、呼吸不全、見当識障害、血圧低下)が用いられ、治療方針の決定に重要です。喀痰培養や血液培養で原因菌の同定も行います。

治療

治療の基本は適切な抗菌薬の選択と支持療法です。軽症から中等症の外来治療では、肺炎球菌やマイコプラズマをカバーする薬剤を選択します。入院治療では重症度に応じてβラクタム系抗菌薬とマクロライド系の併用療法を行います。支持療法として酸素療法、輸液管理、解熱鎮痛薬の投与を行い、重症例では人工呼吸管理や昇圧薬の使用が必要になることもあります。


看護アセスメント・介入

よくある看護診断・問題

  • 非効果的気道クリアランス(気道分泌物の増加に関連した)
  • ガス交換障害(肺胞の炎症と滲出液貯留に関連した)
  • 活動耐性低下(呼吸困難と全身倦怠感に関連した)

ゴードン機能的健康パターン

活動・運動パターンでは呼吸状態の詳細な観察が最優先となります。呼吸数、呼吸様式、酸素飽和度、呼吸音の聴診を継続的に行い、呼吸困難の程度を評価しましょう。栄養・代謝パターンでは発熱による脱水や食欲不振による栄養摂取不足を評価し、適切な水分・栄養管理が必要です。睡眠・休息パターンでは咳嗽や呼吸困難により睡眠が妨げられることが多いため、安楽な体位や環境調整で良質な休息を確保することが重要です。

ヘンダーソン14基本的ニード

正常な呼吸が最も重要なニードで、効果的な換気と酸素化の維持が必要です。適切な水分・電解質の摂取では発熱や頻呼吸による不感蒸泄の増加に対応した水分補給が重要になります。身体の清潔と衣服の調整では発汗による清潔保持と適切な室温管理が含まれます。学習への欲求では疾患の理解と予防方法(ワクチン接種、手洗いなど)の指導が必要です。

看護計画・介入の内容

  • 呼吸状態の継続的モニタリング(SpO2、呼吸数、呼吸音、咳嗽・喀痰の性状観察)
  • 効果的な排痰援助(体位ドレナージ、深呼吸・咳嗽指導、適切な水分摂取)
  • 適切な薬物療法の支援(抗菌薬の確実な投与、副作用の観察)と安楽な環境調整

よくある疑問・Q&A

Q: 高齢者の肺炎で発熱しないことがあるのはなぜですか?

A: 高齢者では免疫機能の低下により炎症反応が減弱するためです。また、体温調節機能の低下や基礎代謝の低下も関与しています。そのため発熱以外の症状(意識レベルの変化、食欲不振、活動性低下)に注意深く観察することが重要ですね。

Q: 排痰を促進するための看護技術で効果的なものは?

A: 十分な水分摂取(1日1500-2000ml程度)で痰の粘稠度を下げることが基本です。体位ドレナージ、背部叩打法、深呼吸と咳嗽の組み合わせが効果的です。また、適切な室内湿度(50-60%)の維持や、温かい飲み物の摂取も排痰に有効です。

Q: A-DROPスコアの看護師としての活用方法は?

A: A-DROPスコアは重症度評価の指標として看護計画立案時の優先度決定に活用できます。スコアが高い患者ほど集中的な観察が必要で、バイタルサインの測定間隔を短くしたり、呼吸状態の変化により注意を払ったりします。また、患者・家族への説明時にも病状の理解を助ける指標として使用できますね。


この記事の執筆者

なっちゃん
なっちゃん

・看護師と保健師
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり

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