【肺気腫】疾患解説と看護の要点

呼吸器科

疾患概要

定義

肺気腫は、終末細気管支より末梢の気腔(肺胞壁)が異常に拡大し、破壊される疾患です。慢性閉塞性肺疾患(COPD)の主要な病型の一つで、気道の炎症による慢性気管支炎としばしば合併します。肺の弾性収縮力が低下し、呼気時の気道虚脱により不可逆性の気流制限を来すのが特徴ですね。

分類上は、病変の分布により汎小葉性気腫と中心小葉性気腫に分けられます。中心小葉性気腫は喫煙に関連し、上葉優位に分布することが多く、汎小葉性気腫はα1-アンチトリプシン欠損症に関連し、下葉優位の分布を示します。

疫学

日本では40歳以上の約8.6%がCOPDに罹患しており、その多くに肺気腫の要素が含まれています。男性に圧倒的に多く、喫煙者での発症率が高い疾患です。年齢とともに有病率は増加し、70歳以上では約20%に達します。死因としては第10位を占めており、高齢化社会とともに患者数は増加傾向にあります。

興味深いことに、近年は女性の喫煙率上昇に伴い、女性患者も増加傾向にあります。また、過去の結核既往者や大気汚染の激しい地域での発症率が高いことも報告されています。経済的負担も大きく、1人当たりの年間医療費は約70万円とされています。

原因

最も重要な原因は長期間の喫煙で、全症例の85-90%を占めます。タバコ煙に含まれる有害物質が肺胞壁の炎症と破壊を引き起こします。その他の原因として大気汚染、職業性粉塵暴露、α1-アンチトリプシン欠損症などの遺伝的要因があります。受動喫煙も発症リスクを高めることが知られており、家族歴がある場合は特に注意が必要です。

病態生理

喫煙などの有害物質により肺胞壁に慢性炎症が生じ、プロテアーゼとアンチプロテアーゼのバランスが崩れます。その結果、肺胞壁のエラスチンやコラーゲンが破壊され、肺胞が拡大・融合して気腔が異常に拡張します。肺の弾性収縮力が低下すると呼気時に気道が虚脱しやすくなり、空気が肺内に残存します。これにより残気量が増加し、呼吸効率が著しく低下します。


症状・診断・治療

症状

初期は運動時の息切れ(労作時呼吸困難)から始まり、進行すると安静時にも呼吸困難が出現します。慢性的な咳嗽や痰も多くみられ、特に朝方に強い症状を示すことが特徴的です。樽状胸郭(前後径の拡大)、呼吸補助筋の使用、口すぼめ呼吸などの身体所見も重要です。進行例では体重減少、食欲不振、全身倦怠感なども認められ、日常生活動作が著しく制限されます。

診断

診断は肺機能検査、胸部CT、胸部X線検査を組み合わせて行います。肺機能検査では1秒率(FEV1/FVC)が70%未満の気流制限を確認し、気管支拡張薬投与後も改善しない不可逆性を証明します。胸部CTでは肺野の気腫性変化(低吸収域)を詳細に評価でき、病型分類や重症度判定に有用です。血液ガス分析では進行例で低酸素血症や高二酸化炭素血症を認めます。

治療

治療の基本は禁煙、薬物療法、呼吸リハビリテーションの組み合わせです。薬物療法では長時間作用性気管支拡張薬(LABA、LAMA)を中心とし、急性増悪時にはステロイド薬も使用します。呼吸リハビリテーションでは呼吸法の習得、運動療法、患者教育を行います。重症例では在宅酸素療法(HOT)や非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)を導入し、さらに進行した場合は肺容量減少術や肺移植も検討されます。


看護アセスメント・介入

よくある看護診断・問題

  • 非効果的呼吸パターン(肺の弾性収縮力低下に関連した)
  • 活動耐性低下(慢性的な呼吸困難に関連した)
  • 栄養摂取消費バランス異常:必要量以下(呼吸仕事量増大に関連した)

ゴードン機能的健康パターン

活動・運動パターンでは呼吸困難の程度と活動制限の評価が最重要です。安静時・労作時の呼吸状態、酸素飽和度の変動、呼吸補助筋の使用状況を詳細に観察しましょう。栄養・代謝パターンでは慢性的な呼吸仕事量の増加により消費エネルギーが増大し、体重減少や栄養不良を来しやすいため注意が必要です。健康知覚・健康管理パターンでは禁煙の重要性と継続的な自己管理の必要性を評価します。

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正常な呼吸では効率的な呼吸法の習得と呼吸困難の軽減が最優先となります。適切な栄養と水分の摂取では少量頻回食や高カロリー食品の活用により栄養状態の維持を図ります。身体活動と適切な体位の保持では呼吸困難を最小限にする体位(起座位、前傾側臥位など)の指導が重要です。学習への欲求では疾患の理解、禁煙継続、服薬管理、呼吸法の習得などの患者教育が必要になります。

看護計画・介入の内容

  • 呼吸状態の継続的観察(呼吸数、呼吸様式、SpO2、呼吸困難の程度評価)
  • 効果的呼吸法の指導(口すぼめ呼吸、腹式呼吸、呼吸筋ストレッチング)
  • 活動と休息のバランス調整、栄養管理、禁煙支援と患者・家族教育

よくある疑問・Q&A

Q: 口すぼめ呼吸はなぜ効果的なのですか?

A: 口すぼめ呼吸により呼気時の気道内圧が上昇し、気道虚脱を防ぐことができます。また、呼気時間が延長されることで肺内に閉じ込められた空気をより多く排出でき、次の吸気がしやすくなります。さらに呼吸のリズムが整い、呼吸困難感の軽減にもつながりますね。

Q: 肺気腫患者の栄養管理で注意すべき点は?

A: 少量頻回食が基本となります。一度に多量摂取すると横隔膜が挙上し呼吸困難が悪化するためです。高カロリー・高タンパク質の食品を選び、炭水化物の過剰摂取は避けます(CO2産生量増加のため)。水分制限は通常不要ですが、心不全合併例では注意が必要です。食事前の呼吸法実施も効果的です。

Q: 在宅酸素療法の患者指導で最も重要なことは?

A: 火気の取り扱いに関する安全管理が最優先です。酸素は燃焼を助ける性質があるため、喫煙、ストーブ、ガスコンロなどからは2m以上離れる必要があります。また、処方された流量の遵守、定期的な機器メンテナンス、外出時の携帯用酸素の適切な使用方法についても継続的な指導が重要ですね。


まとめ

肺気腫は喫煙を主原因とする不可逆性の肺疾患で、進行性の呼吸機能低下を特徴とします。看護の重点は、呼吸困難の軽減、効果的な呼吸法の習得支援、活動耐性の向上にあります。

看護のポイント:

  • 口すぼめ呼吸や腹式呼吸などの呼吸法指導が症状改善に直結する
  • 栄養管理では少量頻回食により呼吸困難を悪化させない工夫が必要
  • 禁煙支援は疾患進行防止の最重要課題
  • 在宅酸素療法では安全管理教育が生命に関わる

慢性疾患のため、患者・家族の疾患理解と自己管理能力の向上が予後を大きく左右します。看護師は継続的な患者教育と心理的支援を通じて、患者のQOL向上に貢献する重要な役割を担っています。


この記事の執筆者

なっちゃん
なっちゃん

・看護師と保健師
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり

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