疾患概要
定義
子宮内膜症は、本来子宮内腔にのみ存在するべき子宮内膜組織が、子宮以外の場所に発生し増殖する疾患です。この異所性の内膜組織は正常な子宮内膜と同様にホルモンの影響を受けて増殖・剥離を繰り返し、慢性的な炎症や癒着を引き起こします。良性疾患ですが、生活の質に大きな影響を与え、不妊の原因にもなる重要な疾患です。
疫学
子宮内膜症は生殖年齢女性の約10%に発症し、日本では約200万人の患者がいると推定されています。特に20〜40代の女性に多く、不妊症患者では25〜50%に子宮内膜症が認められます。近年、初経年齢の低下や出産回数の減少により、患者数は増加傾向にあります。閉経後は自然に縮小することが多いですが、ホルモン補充療法により症状が再燃することもあります。
原因
子宮内膜症の原因は完全には解明されていませんが、いくつかの仮説があります。最も有力なのが月経血逆流説で、月経時に剥離した子宮内膜組織が卵管を通じて腹腔内に逆流し、そこで生着するという考え方です。その他、体腔上皮化生説(腹膜などが子宮内膜組織に変化する)、血行性・リンパ行性転移説、免疫学的要因なども関与すると考えられています。
病態生理
子宮以外の場所に生着した子宮内膜組織は、エストロゲンの影響を受けて月経周期に応じて増殖し、月経時には出血します。しかし、この血液は体外に排出されず、腹腔内に貯留して炎症を引き起こします。この慢性的な炎症により、周囲組織との癒着や線維化が進行します。卵巣に発生した場合は古い血液が貯留してチョコレート嚢胞を形成します。また、炎症性サイトカインの産生により、慢性疼痛や不妊を引き起こすメカニズムが働きます。
症状・診断・治療
症状
子宮内膜症の三大症状は月経痛、慢性骨盤痛、不妊です。月経痛は進行性で、毎回悪化する傾向があり、日常生活に支障をきたすほど強い痛みとなることが特徴です。月経時以外にも下腹部痛や腰痛が持続することがあります。性交痛も重要な症状で、パートナーシップにも影響を与えます。排便痛や血便がある場合は腸管子宮内膜症、血尿や排尿痛がある場合は膀胱子宮内膜症を疑います。無症状の場合もあり、不妊検査で初めて診断されることもあります。
診断
診断には内診と画像検査が重要です。内診では子宮の可動性制限やダグラス窩の圧痛、硬結を触知します。経腟超音波検査ではチョコレート嚢胞の有無を評価し、MRI検査では病変の広がりや深さをより詳細に把握できます。血液検査ではCA125が上昇することが多く、特に月経時に高値を示します。確定診断には腹腔鏡検査が最も有用で、病変の直接観察と組織診断が可能です。また、rASRM分類により病期分類を行い、治療方針の決定に役立てます。
治療
治療は症状の程度、妊娠希望の有無、年齢により選択されます。薬物療法では、低用量ピルや黄体ホルモン製剤により月経をコントロールし、病巣の縮小と症状緩和を図ります。より強力な効果を期待する場合はGnRHアゴニストを使用し、偽閉経状態を作りますが、副作用として更年期様症状が出現します。手術療法では腹腔鏡下手術により病巣を切除または焼灼し、癒着を剥離します。妊娠希望がなく症状が重篤な場合は、子宮・卵巣の全摘出も選択肢となります。
看護アセスメント・介入
よくある看護診断・問題
- 慢性疼痛:子宮内膜症による炎症と癒着に関連した慢性疼痛
- 不安:不妊への不安、慢性疾患としての長期管理への不安
- セクシュアリティパターン変調:性交痛によるパートナーシップへの影響
ゴードン機能的健康パターン
健康知覚-健康管理パターンでは、患者が疾患を慢性疾患として理解し、長期的な管理の必要性を認識しているか評価します。多くの患者は「月経痛は我慢するもの」という認識から受診が遅れるため、適切な治療の重要性を理解してもらうことが大切です。認知-知覚パターンでは、疼痛の程度、頻度、日常生活への影響を詳細に評価します。VASやフェイススケールを用いた客観的評価も有用です。役割-関係パターンでは、仕事や学業への影響、パートナーとの関係性について評価し、必要に応じて社会的サポートの調整を行います。
ヘンダーソン14基本的ニード
正常に呼吸するニードは、強い疼痛により呼吸が浅くなることがあるため、深呼吸法やリラクセーション法の指導が有効です。安全なニードでは、薬物療法の副作用管理が重要となります。特にGnRHアゴニスト使用時は骨密度低下のリスクがあるため、転倒予防や骨粗鬆症予防の指導が必要です。性的ニードに関しては、性交痛や不妊の問題が患者の自尊心やパートナーシップに大きく影響するため、プライバシーに配慮した丁寧なアセスメントと支援が求められます。
看護計画・介入の内容
- 疼痛コントロール:鎮痛薬の定時使用と効果判定、温罨法や体位の工夫、ストレスマネジメント法の指導
- 薬物療法の支援:服薬アドヒアランスの向上、副作用の早期発見と対処法の指導、定期的なフォローアップ
- 心理社会的支援:不妊への不安に対する傾聴、ピアサポートグループの紹介、必要に応じて不妊カウンセリングへの橋渡し
よくある疑問・Q&A
Q: 子宮内膜症があると必ず不妊になりますか? A: 子宮内膜症があっても多くの方は自然妊娠が可能です。ただし、進行した子宮内膜症では卵管周囲の癒着や卵巣機能の低下により妊娠しにくくなることがあります。早期発見と適切な治療により妊孕性を保つことができますので、妊娠を希望される場合は専門医に相談しましょう。
Q: 月経痛がひどいのですが、これは我慢しなければいけませんか? A: いいえ、我慢する必要はありません。日常生活に支障をきたすほどの月経痛は異常であり、子宮内膜症などの疾患が隠れている可能性があります。適切な診断と治療により症状は改善できますので、ためらわずに婦人科を受診してください。
Q: 治療はどのくらいの期間続けるのですか? A: 子宮内膜症は慢性疾患のため、長期的な管理が必要です。薬物療法は数ヶ月から数年続けることが多く、手術後も再発予防のために薬物療法を継続することがあります。妊娠を希望する場合は治療を中断することもありますが、個々の状況に応じて治療計画を立てていきます。
Q: 閉経すれば治りますか? A: 閉経によりエストロゲンの分泌が低下すると、子宮内膜症の病巣は縮小し症状も軽快することが多いです。ただし、ホルモン補充療法を受けると症状が再燃する可能性があるため、既往のある方は注意が必要です。
Q: 生活で気をつけることはありますか? A: ストレスや冷えは症状を悪化させる可能性があるため、規則正しい生活とリラックスできる時間の確保、身体を温める工夫が大切です。また、鎮痛薬は痛みが強くなる前に早めに服用する方が効果的です。無理をせず、症状に合わせて休息をとることも重要です。
まとめ
子宮内膜症は生殖年齢女性の約10%に発症する慢性疾患であり、進行性の月経痛と不妊が主な問題となります。患者の多くは「月経痛は我慢するもの」という認識から受診が遅れがちなため、看護師は症状の正確な評価と早期受診の重要性を伝える役割を担います。
この疾患は長期的な管理が必要であり、薬物療法の継続や定期的な経過観察が欠かせません。患者が治療を継続できるよう、服薬アドヒアランスの向上や副作用への対処を支援することが重要です。
また、不妊や性交痛などデリケートな問題を抱える患者が多いため、プライバシーに配慮した心理社会的支援が不可欠です。患者のQOL向上を目指し、疼痛管理だけでなく、仕事や学業、パートナーシップとのバランスを保てるよう包括的にサポートしましょう。
実習では、患者の個別性を重視したアセスメントを心がけ、特に疼痛の程度や日常生活への影響を丁寧に評価することが大切です。共感的な態度で接し、患者が安心して相談できる関係性を築くことが、効果的な看護につながります。
この記事の執筆者

・看護師と保健師
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
コメント