疾患概要
定義
褥瘡とは、持続的な圧迫や摩擦、ずれによって皮膚や皮下組織、筋肉などが損傷を受けて生じる創傷のことですね。一般的には「床ずれ」とも呼ばれています。
疫学
日本では高齢化の進行に伴い、褥瘡の発生率は増加傾向にあります。急性期病院では約1.5~3%、慢性期病院では約5~10%、在宅では約1~2%の発生率とされていますね。特に65歳以上の高齢者や寝たきりの患者さんに多く見られ、医療費や介護負担の大きな要因となっています。
原因
褥瘡の発生には複数の要因が関与しています。主要な外的要因として、圧迫・摩擦・ずれの3つの力が挙げられます。圧迫は体重による持続的な圧力、摩擦は皮膚表面とベッドやシーツとの擦れ、ずれは皮膚と皮下組織の間に生じる力のことです。
内的要因としては、栄養状態の悪化(特にタンパク質不足)、水分バランスの異常、血流障害、感覚機能の低下、活動性の低下、皮膚の脆弱性などがあります。これらの要因が複合的に作用することで褥瘡のリスクが高まるのです。
病態生理
褥瘡の発生メカニズムを理解することは、予防・治療において非常に重要ですね。持続的な圧迫により毛細血管が圧迫されると、組織への酸素供給が阻害されます。健康な皮膚では毛細血管圧は約32mmHgですが、これを超える圧力が2時間以上持続すると組織の虚血が始まります。
初期段階では発赤や硬結が現れ(ステージI)、進行すると表皮の欠損(ステージII)、皮下組織までの欠損(ステージIII)、最終的には筋肉や骨まで達する深い創傷(ステージIV)へと進行していきます。一度深部まで進行した褥瘡は治癒に長期間を要し、時には生命に関わる合併症を引き起こすこともあります。
症状・診断・治療
症状
褥瘡の症状は進行度によって大きく異なります。初期段階では、圧迫部位の発赤や腫脹、熱感、疼痛が主な症状として現れますね。発赤は指で押しても白くならない「消退しない発赤」が特徴的です。
進行すると水疱形成や表皮の剥離が起こり、さらに進行すると皮下組織や筋肉の露出、壊死組織の出現、滲出液の増加などが見られます。深い褥瘡ではポケット形成(皮膚の開口部より深部の欠損が大きい状態)やトンネル形成も起こることがあります。感染を併発すると発熱や全身状態の悪化も見られます。
診断
褥瘡の診断は主に視診と触診によって行われます。DESIGN-R分類という日本褥瘡学会が推奨する評価ツールが広く使用されており、Depth(深さ)、Exudate(滲出液)、Size(大きさ)、Inflammation/Infection(炎症・感染)、Granulation(肉芽組織)、Necrosis(壊死組織)、Regenerating epithelium(上皮化)の7項目で総合的に評価します。
また、褥瘡の発生リスクを評価するブレーデンスケールやOHスケールなども診断・予防において重要な指標となります。これらのスケールでは、感覚知覚、湿潤、活動性、可動性、栄養状態、摩擦・ずれなどの項目を点数化して評価しますね。
治療
褥瘡治療の基本原則は「圧迫の除去」「創環境の整備」「全身管理」の3つです。まず最も重要なのは圧迫の除去で、体位変換や除圧マットレスの使用により患部への圧力を軽減します。
創部の治療では、TIME概念(Tissue management:壊死組織の除去、Inflammation and infection control:炎症・感染の制御、Moisture balance:湿潤環境の維持、Epithelial advancement:上皮化の促進)に基づいて行われます。外科的デブリードマン、湿潤療法、適切なドレッシング材の選択などが重要になります。
全身管理としては、栄養状態の改善(特にタンパク質やビタミンC、亜鉛の補給)、水分バランスの調整、基礎疾患の治療、疼痛管理などが必要です。
看護アセスメント・介入
よくある看護診断・問題
・皮膚統合性障害
・皮膚統合性障害リスク状態
・感染リスク状態
・急性疼痛
・慢性疼痛
・栄養摂取消費バランス異常:必要量以下
・体液量不足
・身体可動性障害
・活動耐性低下
・セルフケア不足
・知識不足
ゴードンのポイント
健康知覚・健康管理パターンでは、患者さんや家族の褥瘡に対する理解度と予防への意識を評価することが重要です。褥瘡の原因や予防方法について正しい知識を持っているか、スキンケアや体位変換の重要性を理解しているかを確認し、必要に応じて教育を行います。
栄養・代謝パターンは褥瘡の発生と治癒に直結する重要な項目ですね。体重変化、食事摂取量、血清アルブミン値、総タンパク質、プレアルブミン、トランスフェリンなどの栄養指標を評価します。また、水分摂取量や浮腫の有無、皮膚の状態(乾燥、脆弱性、弾力性)も詳細に観察する必要があります。
活動・運動パターンでは、患者さんの可動性や活動レベルを評価します。自力での体位変換能力、関節可動域、筋力、日常生活動作の自立度などを確認し、個別の体位変換計画を立案します。
ヘンダーソンのポイント
正常な呼吸をするでは、呼吸器疾患や循環器疾患により組織への酸素供給が低下していないかを評価します。酸素飽和度や呼吸状態を観察し、必要に応じて酸素療法や呼吸理学療法を実施します。
適切に飲食するニードは褥瘡予防・治癒において最も重要な要素の一つです。1日の必要カロリーは体重1kgあたり30-35kcal、タンパク質は1.2-1.5g/kgが目安とされています。褥瘡がある場合はさらに多くのタンパク質が必要になります。食事摂取量の観察、体重測定、栄養スクリーニングを定期的に行い、管理栄養士と連携して個別の栄養計画を立案することが大切ですね。
身体の動きや好ましい肢位の保持では、患者さんの身体機能に応じた体位変換スケジュールを作成します。一般的に2時間ごとの体位変換が推奨されますが、患者さんの状態に応じて調整が必要です。また、ベッド上での適切なポジショニングや除圧具の使用も重要な介入となります。
看護計画・介入の内容
・褥瘡リスクアセスメントツール(ブレーデンスケール、OHスケールなど)を用いた定期的な評価
・個別の体位変換スケジュールの作成と実施(通常2時間ごと、患者の状態に応じて調整)
・除圧マットレスやクッションの適切な選択と使用
・皮膚の日常的な観察とアセスメント(発赤、硬結、水疱、びらんの有無)
・適切なスキンケアの実施(清拭、保湿、乾燥の予防)
・栄養状態のモニタリングと栄養士との連携
・水分バランスの管理と浮腫の予防
・創部の適切な処置とドレッシング材の選択
・疼痛アセスメントと疼痛管理
・患者・家族への褥瘡予防に関する教育
・多職種チーム(医師、薬剤師、栄養士、理学療法士など)との連携
・褥瘡の記録と評価(写真撮影、サイズ測定、DESIGN-R分類による評価)
よくある疑問・Q&A
Q: 褥瘡の体位変換は本当に2時間ごとに必要なのでしょうか? A: 2時間ごとというのは一般的なガイドラインですが、患者さんの状態によって調整が必要ですね。皮膚の状態が良好で活動性が保たれている患者さんでは間隔を延ばすことも可能ですし、逆にリスクが高い患者さんでは1時間ごとなど、より頻繁な体位変換が必要な場合もあります。重要なのは個別アセスメントに基づいた判断です。
Q: エアマットレスを使用していれば体位変換は不要ですか? A: これは大きな誤解ですね。エアマットレスは褥瘡予防の補助的な手段であり、体位変換の代替にはなりません。エアマットレスは圧力を分散させる効果がありますが、完全に圧力をゼロにすることはできません。定期的な体位変換と組み合わせることで、より効果的な褥瘡予防が可能になります。
Q: 褥瘡ができてしまった部位は、どのように観察すればよいですか? A: 観察のポイントはDESIGN-R分類の各項目に沿って行うのが効果的です。創の深さ、大きさ(長径×短径×深さ)、滲出液の量と性状、周囲皮膚の炎症所見、肉芽組織の状態、壊死組織の有無、上皮化の進行具合を systematically に評価します。また、写真撮影による記録も治癒過程の評価に有用ですね。
Q: 褥瘡の予防で最も重要なことは何ですか? A: リスクアセスメントと早期発見が最も重要です。褥瘡は予防可能な疾患であり、一度発生すると治癒に長期間を要し、患者さんのQOLに大きな影響を与えます。定期的なリスク評価、皮膚観察、適切な予防的介入を継続することで、多くの褥瘡は防ぐことができるのです。
Q: 栄養状態が褥瘡に与える影響について教えてください。 A: 栄養状態は褥瘡の発生と治癒に極めて重要な要因です。特にタンパク質不足は皮膚の修復能力を低下させ、アルブミン値の低下は組織の浮腫を引き起こし、圧迫に対する抵抗力を弱めます。また、ビタミンCはコラーゲン合成に、亜鉛は創傷治癒に不可欠な栄養素です。血清アルブミン値3.0g/dL以下は褥瘡の高リスク因子とされていますね。
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この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
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