疾患概要
定義
間質性肺炎は、肺胞壁(間質)に炎症と線維化が生じる疾患群の総称です。通常の肺炎が肺胞内に炎症を起こすのに対し、間質性肺炎は肺胞を取り囲む壁の部分に炎症が起こります。進行性の呼吸不全を来し、線維化が進行すると不可逆的な変化となる重篤な疾患ですね。特発性肺線維症(IPF)が最も代表的で予後不良とされています。
疫学
日本では推定患者数約20万人とされ、50歳以上の男性に多く発症します。特発性肺線維症の5年生存率は約50%と予後が厳しく、肺癌に次ぐ致命的な肺疾患です。近年、高齢化とともに患者数は増加傾向にあり、膠原病や薬剤性による間質性肺炎も注目されています。診断から死亡までの平均期間は2-5年程度とされています。
原因
原因により特発性、続発性、急性に分類されます。特発性(原因不明)が約半数を占め、続発性では膠原病(関節リウマチ、強皮症など)、薬剤(抗癌剤、漢方薬、健康食品など)、職業性(石綿、シリカなど)、感染症が原因となります。遺伝的素因も関与し、家族性発症例も報告されています。喫煙は発症リスクを高める重要な因子です。
病態生理
何らかの原因により肺胞上皮細胞が傷害されると、炎症細胞が集積し炎症性サイトカインが放出されます。この過程で線維芽細胞が活性化され、過剰なコラーゲンが産生・蓄積します。肺胞壁が肥厚し、ガス交換膜が厚くなることで酸素の拡散が障害されます。進行すると肺の線維化が進み、肺のコンプライアンス(伸展性)が低下し、拘束性換気障害を呈します。最終的には蜂窩肺となり、呼吸不全に至ります。
症状・診断・治療
症状
主症状は乾性咳嗽と労作時呼吸困難です。初期は階段昇降時の息切れから始まり、進行すると軽い動作でも呼吸困難が出現します。特徴的な身体所見としてばち指(太鼓ばち指)と両側下肺野の捻髪音(fine crackles)があります。急性増悪時には安静時呼吸困難、発熱、咳嗽の増強がみられ、数日から数週間で急激に呼吸状態が悪化することもあります。
診断
診断は胸部HRCT、肺機能検査、気管支鏡検査を組み合わせて行います。胸部HRCTでは蜂窩肺、牽引性気管支拡張、すりガラス影などの特徴的所見を認めます。肺機能検査では拘束性換気障害(%VC低下、FEV1%正常)と拡散能低下(%DLco低下)を確認します。血液検査ではKL-6、SP-A、SP-Dなどの間質性肺炎マーカーが上昇し、病勢の評価に有用です。
治療
特発性肺線維症に対しては抗線維化薬(ピルフェニドン、ニンテダニブ)が第一選択となり、線維化の進行を抑制します。ステロイド薬は急性増悪時や炎症優位の病型に使用しますが、IPFには推奨されません。対症療法として酸素療法、咳止め、肺炎予防が重要です。進行例では肺移植も検討されます。呼吸リハビリテーションは症状改善とQOL向上に有効です。
看護アセスメント・介入
よくある看護診断・問題
- ガス交換障害(肺胞壁の肥厚と線維化に関連した)
- 非効果的呼吸パターン(拘束性換気障害に関連した)
- 活動耐性低下(進行性の呼吸困難に関連した)
ゴードン機能的健康パターン
活動・運動パターンでは呼吸困難の程度と活動制限の詳細な評価が必要です。階段昇降、平地歩行、日常生活動作での息切れの程度を段階的に評価し、酸素飽和度の変動も継続的に観察しましょう。対処・ストレス耐性パターンでは予後不良な疾患に対する患者・家族の心理的反応と適応状況を評価します。価値・信念パターンでは終末期ケアや治療方針決定における患者の価値観の理解が重要です。
ヘンダーソン14基本的ニード
正常な呼吸では効率的な呼吸法の習得と酸素療法の適切な管理が最優先となります。適切な活動と休息では活動と休息のバランス調整により呼吸困難を最小限に抑えることが重要です。学習への欲求では疾患の理解、服薬管理、在宅酸素療法の習得、感染予防などの患者教育が必要です。死への対応では進行性疾患であることを踏まえた心理的支援と意思決定支援が含まれます。
看護計画・介入の内容
- 呼吸状態の継続的モニタリング(SpO2、呼吸困難スケール、聴診による捻髪音の評価)
- 活動制限と酸素療法の適切な管理(労作時酸素投与、パルスオキシメータ監視)
- 感染予防対策と心理的支援、患者・家族への疾患教育と意思決定支援
よくある疑問・Q&A
Q: 間質性肺炎で聞こえる捻髪音の特徴は?
A: 吸気終末に聞こえる細かい断続音で、髪の毛をこすり合わせたような「パリパリ」という音が特徴的です。主に両側下肺野で聴取され、体位変換や深呼吸をしても消失しません。通常の肺炎で聞かれる湿性ラ音とは性質が異なり、乾燥した感じの音として聞こえますね。
Q: 酸素療法の適応基準と看護師の役割は?
A: 安静時SpO2が90%以下、または労作時に85%以下になる場合に酸素療法を検討します。看護師の役割は、活動時の酸素飽和度変動の観察、適切な酸素流量調整の支援、鼻カニューレの管理、患者・家族への在宅酸素療法指導などです。特に活動前後のSpO2測定と記録が重要な観察ポイントになります。
Q: 急性増悪の兆候と対応で注意すべき点は?
A: 咳嗽の増強、呼吸困難の急激な悪化、発熱が主な兆候です。通常より息切れが強い、安静時でも呼吸が苦しい、SpO2の低下などがみられたら緊急対応が必要です。速やかに医師に報告し、酸素投与量の調整、感染症の有無確認、ステロイド治療の準備などを行います。急性増悪は生命に関わるため、早期発見と迅速な対応が重要ですね。
まとめ
間質性肺炎は肺胞壁の炎症と線維化により進行性の呼吸不全を来す疾患群で、予後不良な疾患です。看護の重点は、呼吸困難の軽減、活動耐性の維持、急性増悪の早期発見にあります。
看護のポイント:
- 捻髪音の聴診技術習得により病状変化を早期発見
- 活動時SpO2測定による適切な活動制限の指導
- 感染予防対策の徹底(急性増悪予防のため)
- 予後を踏まえた心理的支援と意思決定支援
進行性疾患のため、患者・家族の心理的負担が大きく、疾患受容と療養生活への適応支援が重要です。看護師は継続的な症状観察と患者教育を通じて、限られた時間の中でのQOL向上と尊厳ある療養生活の実現に貢献する役割を担っています。
この記事の執筆者

・看護師と保健師
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
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