【胸膜炎】疾患解説と看護の要点

呼吸器科

疾患概要

定義

胸膜炎とは、肺を覆う臓側胸膜と胸壁の内側を覆う壁側胸膜に炎症が起こる疾患です。乾性胸膜炎(胸水貯留なし)と湿性胸膜炎(胸水貯留あり)に分類されます。胸水の性状により、蛋白質濃度の低い漏出性胸水と蛋白質濃度の高い滲出性胸水に区別され、原因疾患の鑑別に重要な所見となります。炎症の原因により感染性・非感染性に分けられ、それぞれ治療方針が異なります。

疫学

胸膜炎の正確な発症率は把握困難ですが、年間10万人あたり数十人程度とされています。年齢分布は原因疾患により異なり、感染性胸膜炎は若年者から高齢者まで幅広く、悪性胸膜炎は50歳以上に多く見られます。結核性胸膜炎は若年者に多い傾向があります。性差は原因により異なり、膠原病関連では女性に多く、石綿関連では男性に多い傾向があります。

原因

感染性胸膜炎では細菌(肺炎球菌、ブドウ球菌、結核菌など)、ウイルス(インフルエンザ、EBウイルスなど)、真菌が原因となります。非感染性胸膜炎では悪性腫瘍(肺がん、胸膜中皮腫、転移性腫瘍)、膠原病(関節リウマチ、SLE)、肺塞栓症、薬剤性、石綿暴露などが原因となります。外傷性では胸部外傷や医療処置に伴うものもあります。原因の特定は適切な治療選択のために極めて重要です。

病態生理

正常な胸膜腔では少量の胸水(約15ml)が潤滑油の役割を果たしています。炎症により胸膜の透過性が亢進し、血管から胸膜腔への水分・蛋白質の漏出が増加します。同時にリンパ系による胸水の吸収も障害され、胸水が貯留します。乾性胸膜炎では炎症により胸膜面が粗造となり、呼吸時の摩擦により激しい胸痛が生じます。湿性胸膜炎では貯留した胸水により肺が圧迫され、換気障害や循環障害を引き起こします。


症状・診断・治療

症状

最も特徴的な症状は胸痛で、特に乾性胸膜炎では深呼吸や咳嗽で増強する鋭い刺すような痛みが特徴です。湿性胸膜炎では胸水貯留により呼吸困難が主体となり、大量貯留では安静時にも呼吸困難を認めます。発熱は感染性胸膜炎で顕著ですが、悪性胸膜炎でも微熱程度の発熱を認めることがあります。乾性咳嗽も多く見られる症状です。身体所見では患側の胸部拡張制限、呼吸音減弱、打診での濁音を認めます。

診断

胸部X線検査で胸水貯留の確認を行いますが、少量の胸水は検出困難な場合があります。胸部CT検査は少量の胸水や胸膜の肥厚、原因疾患の検索に有用です。確定診断には胸腔穿刺による胸水検査が必要で、細胞数、蛋白質、LDH、糖、細菌培養、細胞診などを行います。胸水のLight基準により滲出性・漏出性の鑑別を行い、原因疾患の推定に役立てます。必要に応じて胸膜生検も実施されます。

治療

治療は原因疾患により大きく異なります。感染性胸膜炎では適切な抗菌薬投与が基本で、膿胸形成例では胸腔ドレナージが必要です。結核性胸膜炎では抗結核薬による化学療法を行います。悪性胸膜炎では胸水ドレナージと胸膜癒着術(タルク、OK-432など)を検討します。症状緩和のための胸腔穿刺による胸水除去も重要な治療選択肢です。基礎疾患の治療と並行して、解熱鎮痛薬による症状緩和も行われます。


看護アセスメント・介入

よくある看護診断・問題

  • 急性疼痛(胸膜炎症による胸痛)
  • 非効果的呼吸パターン(胸水貯留による換気障害)
  • 活動耐性低下(呼吸困難、疼痛による)
  • 不安・恐怖(診断・治療への不安、呼吸困難への恐怖)
  • 感染リスク状態(感染性胸膜炎の場合)

ゴードン機能的健康パターン

健康知覚・健康管理パターンでは、症状の発症経緯や誘因の詳細な聴取が重要です。既往歴や職歴(石綿暴露歴など)、薬剤使用歴の確認も必要です。活動・運動パターンでは、呼吸困難や胸痛による活動制限の程度を評価し、安全な活動レベルの設定を行います。睡眠・休息パターンでは、胸痛や呼吸困難による睡眠障害への対応が重要です。認知・知覚パターンでは、胸痛の詳細な評価(部位、性質、強度、誘因・軽減因子)と適切な疼痛管理が必要になります。

ヘンダーソン14基本的ニード

呼吸の基本的ニードが最優先となり、呼吸状態の継続的観察、適切な体位保持、必要に応じた酸素療法の管理が重要です。胸腔穿刺や胸腔ドレナージが実施される場合は、処置前後の管理も含まれます。身体の正常な位置の保持のニードでは、呼吸を楽にする体位(半坐位、患側下側臥位など)の指導が必要です。休息と睡眠のニードでは、疼痛や呼吸困難による睡眠障害への対応が求められます。学習のニードでは、疾患の理解促進と治療への参加意欲を高める教育的支援が重要になります。

看護計画・介入の内容

  • 呼吸状態の継続的観察(呼吸回数、呼吸音、酸素飽和度、呼吸困難の程度)
  • 疼痛アセスメントと多角的疼痛管理(薬物療法、体位調整、温罨法など)
  • 胸腔穿刺・胸腔ドレナージの前後管理と合併症予防
  • 感染徴候の観察と感染予防対策(感染性胸膜炎の場合)
  • 適切な体位保持と呼吸法指導による呼吸困難の軽減
  • 活動と休息のバランス調整と段階的な活動拡大支援
  • 心理的サポートと患者・家族への情報提供・教育

よくある疑問・Q&A

Q: 胸膜炎の患者が「息を吸うと胸が痛い」と訴える理由は?どう対応すべきですか?

A: これは乾性胸膜炎に特徴的な胸膜摩擦痛です。炎症により胸膜表面が粗造になり、呼吸時に臓側胸膜と壁側胸膜が擦れ合うことで激しい痛みが生じます。対応としては、浅い呼吸でも効率的な換気ができるよう半坐位などの楽な体位をとらせ、咳止めや鎮痛薬の使用を検討し、患側を下にした側臥位で胸膜の動きを制限することも痛みの軽減に有効です。

Q: 胸水穿刺前後の看護で特に注意すべきポイントは?

A: 穿刺前は患者への十分な説明と同意確認、穿刺部位の感染予防、バイタルサインの測定が重要です。穿刺中は患者の体位保持支援と状態観察を行います。穿刺後は穿刺部位の観察、バイタルサインの継続監視、気胸や血胸などの合併症の早期発見が重要です。また、大量除去時は循環血液量減少や肺再膨張性肺水腫のリスクがあるため注意が必要です。

Q: 感染性胸膜炎と非感染性胸膜炎の見分け方と看護上の違いは?

A: 感染性胸膜炎は発熱、白血球増多、CRP高値などの炎症反応が強く、胸水は混濁し細菌培養陽性となることが多いです。非感染性胸膜炎は発熱が軽微で、胸水は比較的清明です。看護上の違いとして、感染性では標準予防策の徹底、抗菌薬の確実な投与、感染拡大防止が重要です。非感染性では原因疾患(悪性腫瘍、膠原病など)に応じた看護が中心となります。

Q: 胸膜炎患者の体位で最も呼吸が楽になるのはどのような姿勢ですか?

A: 一般的には半坐位(ファウラー位)が最も呼吸しやすい体位です。重力により横隔膜が下がり、肺の拡張が促進されます。胸水が一側性の場合は患側を下にした側臥位も有効で、健側の肺の膨張を妨げず、患側の胸膜の動きを制限することで疼痛も軽減されます。患者の症状や胸水の量・部位に応じて、最も楽な体位を見つけることが重要です。

Q: 悪性胸膜炎の患者への看護で特に配慮すべき点は?

A: 悪性胸膜炎は予後不良な疾患であることが多いため、患者・家族の心理的ケアが重要です。胸水の再貯留による症状の繰り返しがあるため、症状緩和を中心とした看護が必要です。胸膜癒着術後は発熱や疼痛が強くなることがあるため、適切な疼痛管理と発熱対応が重要です。また、患者の意思を尊重し、QOLの維持・向上に焦点を当てたケアを提供することが求められます。


まとめ

胸膜炎は原因が多様で、感染性と非感染性により治療方針が大きく異なる疾患です。看護の要点として、胸痛と呼吸困難という主要症状に対する適切な症状緩和が最重要となります。特に胸膜摩擦痛の理解と疼痛管理は、患者の苦痛軽減に直結します。

胸腔穿刺や胸腔ドレナージなどの侵襲的処置が行われることが多いため、処置前後の管理合併症の早期発見が重要な看護技術となります。また、感染性胸膜炎では感染予防策の徹底が必要です。

患者教育では症状の変化(呼吸困難の増悪、発熱、胸痛の変化)を早期に察知し、適切なタイミングで医療者に報告することの重要性を伝える必要があります。

実習では患者の微細な症状変化を見逃さない観察力を身につけ、原因疾患に応じた個別的なケアを提供できるよう心がけることが重要です。特に悪性胸膜炎の場合は、患者・家族の心理的負担を理解し、尊厳を保ちながら症状緩和に焦点を当てた看護実践が求められます。


この記事の執筆者

なっちゃん
なっちゃん

・看護師と保健師
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり


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