【肺結核】疾患解説と看護の要点

呼吸器科

疾患概要

定義

肺結核とは、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)の感染により肺に起こる慢性感染症です。活動性肺結核(症状があり治療が必要)と非活動性肺結核(治癒後の瘢痕など)に分類されます。また、排菌性結核(痰から結核菌が検出される)と非排菌性結核に区別され、感染予防対策が異なります。初感染後に発症する一次結核と、いったん治癒した後に再燃・再感染する二次結核があり、成人では二次結核が多くを占めます。

疫学

日本では年間約15,000人が新規に結核を発症しており、中蔓延国に位置づけられています。高齢者での発症が多く、新規患者の約7割が60歳以上です。近年は外国出生者の占める割合が増加傾向にあります。死亡率は10万人あたり約2.4人で、依然として感染症死亡原因の上位を占めています。多剤耐性結核の発生も問題となっており、適切な治療継続の重要性が高まっています。

原因

原因菌は結核菌で、主に飛沫感染により伝播します。感染性のある患者の咳・くしゃみ・会話により飛散した結核菌を吸入することで感染が成立します。感染リスクが高いのは、免疫力の低下した人(高齢者、糖尿病患者、HIV感染者、免疫抑制薬使用者など)、栄養状態不良者、過労・ストレス状態の人などです。また、院内感染施設内感染も重要な感染経路となります。

病態生理

結核菌が肺胞に到達すると、マクロファージによる貪食が起こりますが、結核菌は細胞内で生存・増殖します。細胞性免疫(Th1細胞、マクロファージ)が主体となって肉芽腫を形成し、菌の拡散を防ごうとします。しかし、免疫力が低下すると菌が増殖し、乾酪壊死空洞形成が起こります。空洞内で増殖した菌が気管支を通じて排出されることで排菌が始まり、他者への感染源となります。血行性・リンパ行性播種により肺外結核を起こすこともあります。


症状・診断・治療

症状

初期症状は非特異的で見過ごされることが多く、これが診断の遅れにつながります。持続する咳(2週間以上)が最も多い症状で、進行すると血痰・喀血を認めます。微熱・発汗(特に夜間の寝汗)、体重減少・食欲不振全身倦怠感などの全身症状も特徴的です。進行例では呼吸困難や胸痛を伴うこともあります。高齢者では症状が軽微で、食欲不振や体重減少のみのこともあり注意が必要です。

診断

胸部X線検査で上肺野や鎖骨下野の陰影、空洞形成を認めることが多いです。胸部CT検査はより詳細な病変の評価に有用です。確定診断には細菌学的検査が必要で、痰の抗酸菌塗抹検査、培養検査、遺伝子検査(LAMP法、Xpert MTB/RIF)を行います。ツベルクリン反応やインターフェロンγ遊離試験(IGRA)は感染の診断に用いられます。組織診断では乾酪性肉芽腫の所見が特徴的です。

治療

標準的な化学療法はDOTS(直接監視下短期化学療法)により実施され、初回治療では4剤併用療法(イソニアジド、リファンピシン、エタンブトール、ピラジナミド)を2ヶ月間、その後2剤(イソニアジド、リファンピシン)を4ヶ月間継続します。服薬の確実な継続が治療成功の鍵であり、中断は薬剤耐性菌の出現につながります。副作用の監視も重要で、定期的な肝機能検査、視力検査などが必要です。排菌性結核では感染症法に基づく入院勧告が行われる場合があります。


看護アセスメント・介入

よくある看護診断・問題

  • 感染拡大リスク(排菌による他者への感染リスク)
  • 非効果的気道クリアランス(痰貯留、咳嗽)
  • 活動耐性低下(呼吸困難、全身倦怠感)
  • 非効果的治療計画管理(長期間の服薬継続困難)
  • 社会的孤立(偏見・差別による)

ゴードン機能的健康パターン

健康知覚・健康管理パターンでは、結核に対する正しい知識の提供と偏見の解消が重要です。服薬アドヒアランスの向上のための支援も必要です。活動・運動パターンでは、急性期は安静が必要ですが、排菌停止後は段階的な活動拡大を支援します。栄養・代謝パターンでは、食欲不振や体重減少に対する栄養管理が重要です。役割・関係パターンでは、家族や職場への感染拡大防止と社会復帰への支援が必要になります。

ヘンダーソン14基本的ニード

呼吸の基本的ニードでは、効果的な咳嗽・喀痰の促進と気道クリアランスの改善が重要です。食事と水分摂取のニードでは、栄養状態の改善と体重増加への支援が必要です。身体の清潔のニードでは、発汗に対するケアと感染予防のための手指衛生指導が重要です。学習のニードでは、疾患の理解、服薬の重要性、感染予防策について継続的な教育が必要になります。社会参加のニードでは、偏見・差別の解消と社会復帰への支援が重要です。

看護計画・介入の内容

  • 標準予防策に加えた空気感染予防策の実施(N95マスク着用、陰圧室管理など)
  • 効果的な咳エチケット指導と痰の安全な処理方法の教育
  • 服薬アドヒアランス向上への支援(DOTS実施、副作用説明、服薬カレンダー活用)
  • 栄養状態の改善と体重管理(高蛋白・高カロリー食事の提供)
  • 家族・接触者への感染予防教育と健康診断受診勧奨
  • 心理的サポートと偏見・差別への対応
  • 退院調整と地域連携(保健所との連携、継続看護)

よくある疑問・Q&A

Q: 肺結核患者のケア時に着用すべきマスクは?通常のサージカルマスクではダメですか?

A: 肺結核は空気感染するため、N95マスクの着用が必要です。サージカルマスクは飛沫感染予防には有効ですが、空気中に浮遊する結核菌の吸入は防げません。N95マスクは微細な粒子もブロックし、正しく装着することで95%以上の細菌・ウイルスを除去できます。装着前のフィットテストも重要で、顔との密着性を確認する必要があります。

Q: 結核患者が「薬を飲み忘れることがある」と言った場合、どう対応すべきですか?

A: 服薬中断は薬剤耐性菌出現のリスクがあるため、まず服薬の重要性を再度説明します。DOTS(直接監視下短期化学療法)の活用を検討し、保健師や家族による服薬確認体制を整えます。服薬カレンダーやお薬手帳の活用、アラーム設定など、患者に合った服薬管理方法を一緒に考えます。副作用による服薬困難がないか確認し、必要に応じて医師と連携して対処法を検討します。

Q: 結核患者の家族から「うつるのが心配」と相談された場合の対応は?

A: まず結核の正しい知識を提供し、不安軽減に努めます。排菌停止後は感染性がなくなること、適切な治療により治癒する疾患であることを説明します。家族・接触者は健康診断(胸部X線、IGRA検査)を受ける必要があることを伝え、保健所での相談を勧めます。日常生活での感染予防策(換気、マスク着用、手洗いなど)を具体的に指導し、過度な隔離は不要であることも説明します。

Q: 結核治療中の患者が「いつから普通の生活に戻れますか?」と質問した場合は?

A: 排菌停止(痰の抗酸菌検査が連続して陰性)が確認されれば、感染性はなくなり通常の社会生活が可能になります。一般的には適切な治療開始から2週間程度で排菌は停止しますが、個人差があります。職場復帰については、医師の許可保健所の判断が必要です。完全な治癒には6~9ヶ月間の服薬継続が必要で、途中での中断は絶対に避けるよう指導します。

Q: 高齢の結核患者で症状が軽微な場合、どのような点に特に注意すべきですか?

A: 高齢者は免疫力の低下により症状が非典型的で、発見が遅れがちです。軽微な食欲不振や体重減少、微熱も見逃さず、継続的な観察が重要です。薬剤の副作用(特に肝機能障害)が出やすいため、定期的な検査と症状観察が必要です。認知機能の低下による服薬管理困難がないか評価し、必要に応じて家族や介護者との連携を図ります。誤嚥のリスクもあるため、服薬時の安全確保も重要です。


まとめ

肺結核は慢性感染症として長期間の治療が必要な疾患で、感染予防治療継続支援が看護の二大要点となります。空気感染予防策の徹底は医療従事者と他患者を守るために絶対に必要で、N95マスクの正しい装着と陰圧室管理が重要です。

服薬アドヒアランスの向上は治療成功の鍵であり、DOTSの実施や患者教育を通じて支援することが重要です。薬剤耐性菌の出現防止のためにも、服薬中断は絶対に避けなければなりません。

結核に対する偏見・差別は依然として存在するため、患者の心理的支援と正しい知識の普及が重要な役割となります。家族・接触者への感染予防教育も看護師の重要な責務です。

実習では感染予防策の実際を学ぶ良い機会となるため、標準予防策と感染経路別予防策の使い分けを確実に身につけることが大切です。また、長期療養を要する患者の心理的負担を理解し、継続的な支援の重要性を学ぶことで、質の高い看護実践につながります。


この記事の執筆者

なっちゃん
なっちゃん

・看護師と保健師
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり


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