【更年期障害】疾患解説と看護の要点

産婦人科

疾患概要

定義

更年期障害は、閉経前後の期間(更年期)に卵巣機能の低下によりエストロゲンが急激に減少することで生じる様々な身体的・精神的症状の総称です。更年期とは閉経前後の約10年間を指し、日本人女性の平均閉経年齢は約50歳であるため、一般的に45〜55歳頃が更年期に該当します。更年期に何らかの症状を感じる女性は多いですが、日常生活に支障をきたすほど症状が強い場合を更年期障害と呼びます。

疫学

日本人女性の約50〜70%が更年期に何らかの症状を経験し、そのうち約20〜30%が日常生活に支障をきたす更年期障害に該当すると言われています。症状の重症度には個人差が大きく、ほとんど症状を感じない人から、仕事や家事ができなくなるほど重症な人まで様々です。近年は女性の社会進出により、働く世代での更年期障害が仕事のパフォーマンスに影響を与えることが社会的問題となっています。また、男性でも加齢に伴うテストステロン低下による更年期障害が認識されつつあります。

原因

更年期障害の主な原因は卵巣機能の低下によるエストロゲンの急激な減少です。エストロゲンは全身の様々な臓器や組織に作用しているため、その減少により多彩な症状が出現します。しかし、症状の重症度には心理社会的要因も大きく関与します。性格(完璧主義、神経質など)、ストレス(仕事、家庭、介護など)、環境の変化(子どもの独立、親の介護など)、家族関係、夫婦関係などが複雑に絡み合い、症状を増強させます。このため、更年期障害は生物学的・心理的・社会的要因が相互に影響する疾患として理解する必要があります。

病態生理

卵巣機能の低下により、エストロゲン分泌が減少すると、脳の視床下部からのフィードバック機構により卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体化ホルモン(LH)が過剰に分泌されます。この急激なホルモン環境の変化が視床下部の自律神経中枢に影響を与え、自律神経失調症状を引き起こします。また、エストロゲンは脳内のセロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質の調節にも関与しているため、その減少により精神神経症状も出現します。さらに、エストロゲン減少は骨代謝、脂質代謝、血管機能など全身に影響を及ぼし、長期的には骨粗鬆症や動脈硬化のリスクを高めます。


症状・診断・治療

症状

更年期障害の症状は非常に多彩で、大きく血管運動神経症状精神神経症状その他の身体症状に分けられます。血管運動神経症状としては、ホットフラッシュ(のぼせ、ほてり)と発汗が最も特徴的で、突然顔や上半身が熱くなり大量の汗をかきます。精神神経症状としては、イライラ、不安、抑うつ、不眠、集中力低下、記憶力低下などが見られます。その他の身体症状として、動悸、めまい、頭痛、肩こり、腰痛、関節痛、倦怠感、頻尿、性交痛、腟乾燥感など様々な症状が出現します。これらの症状は日によって変動し、複数の症状が重なって現れることが多いです。

診断

更年期障害の診断は主に問診により行われます。年齢(45〜55歳頃)、月経の状態(不規則、無月経)、特徴的な症状の有無を確認します。症状の重症度評価には簡略更年期指数(SMI)やKupperman指数などが用いられます。血液検査ではFSHとLHの上昇エストラジオール(E2)の低下を確認します。ただし、ホルモン値は変動が大きいため、診断は臨床症状を重視します。重要なのは、他の疾患(甲状腺機能異常、うつ病、貧血、高血圧など)との鑑別であり、必要に応じて追加検査を行います。

治療

治療の基本はホルモン補充療法(HRT)漢方薬向精神薬生活習慣の改善です。HRTはエストロゲンを補充する治療で、血管運動神経症状に対して最も効果的です。子宮がある場合は子宮体がん予防のため黄体ホルモンを併用します。飲み薬、貼り薬、塗り薬など様々な製剤があります。ただし、乳がんの既往や血栓症のリスクがある場合は使用できません。漢方薬(加味逍遥散、当帰芍薬散、桂枝茯苓丸など)は比較的軽症例や精神神経症状に有効です。不安や抑うつが強い場合は抗不安薬や抗うつ薬を使用することもあります。非薬物療法として、運動習慣、バランスの良い食事、十分な睡眠、ストレス管理が重要です。


看護アセスメント・介入

よくある看護診断・問題

  • 活動耐性低下:倦怠感や自律神経症状による日常生活動作の低下
  • 不安:症状や閉経に対する不安、将来への不安
  • 睡眠パターン混乱:ホットフラッシュや不安による不眠

ゴードン機能的健康パターン

健康知覚-健康管理パターンでは、患者が更年期を正常な生理的変化として理解しているか、「病気」として捉えすぎていないかを評価します。多くの患者は症状を我慢し、受診をためらう傾向があるため、適切な治療により症状が改善することを理解してもらうことが重要です。コーピング-ストレス耐性パターンでは、仕事、家庭、介護などの複合的ストレスの評価と、現在の対処方法の有効性を確認します。完璧主義の傾向が強い場合は、症状が重症化しやすいため注意が必要です。役割-関係パターンでは、家庭内での役割、職場での立場、夫婦関係、友人関係などを評価し、孤立していないか、サポートシステムがあるかを確認します。

ヘンダーソン14基本的ニード

正常に呼吸するニードでは、動悸やホットフラッシュ時の呼吸の乱れに対して、深呼吸法やリラクセーション法を指導します。食べる・飲むニードでは、エストロゲン減少により骨粗鬆症や脂質異常症のリスクが高まるため、カルシウムやビタミンDの摂取、バランスの良い食事について指導します。睡眠と休息のニードでは、夜間のホットフラッシュや不安による不眠に対して、睡眠環境の整備(室温調整、吸湿性の良いパジャマなど)や就寝前のリラクセーション法を提案します。

看護計画・介入の内容

  • 症状マネジメント支援:症状日記の活用による症状パターンの把握、ホットフラッシュへの対処法(扇子や冷たい飲み物の携帯、重ね着など)の指導
  • 心理的支援:更年期は正常な生理的変化であることの説明、症状への不安の軽減、カウンセリングや同じ悩みを持つ人との交流の場の紹介
  • 生活習慣改善支援:適度な運動(ウォーキング、ヨガなど)の推奨、ストレス管理法の指導、趣味やリラクセーションの時間を持つことの重要性の説明

よくある疑問・Q&A

Q: 更年期障害はいつまで続きますか?

A: 個人差がありますが、一般的には閉経前後の5〜10年程度です。多くの場合、閉経後2〜3年で症状は軽快していきます。ただし、症状の種類や程度は人それぞれで、数ヶ月で治まる人もいれば、長期間症状が続く人もいます。適切な治療により症状を緩和することができます。

Q: ホルモン補充療法は乳がんのリスクが高くなると聞いて心配です

A: HRTと乳がんの関係については様々な研究がありますが、5年未満の使用では乳がんリスクの上昇はほとんどないとされています。長期使用(5年以上)では若干のリスク上昇が報告されていますが、適切な管理下で使用すれば安全性は高いです。定期的な乳がん検診を受けながら使用することが重要です。医師とよく相談して、メリットとリスクを理解した上で選択しましょう。

Q: 更年期障害は我慢しなければいけませんか?

A: いいえ、我慢する必要はありません。更年期障害は適切な治療により症状を改善できる疾患です。日常生活に支障をきたしている場合は、ぜひ婦人科や更年期外来を受診してください。症状を我慢し続けると、うつ状態になったり、生活の質が著しく低下したりすることもあります。

Q: 若い年齢でも更年期障害になりますか?

A: 40歳未満で閉経する早発閉経(早発卵巣不全)の場合、若年でも更年期障害の症状が出現します。また、卵巣の手術や化学療法、放射線療法により卵巣機能が低下した場合も同様の症状が現れることがあります。若年の場合は特に骨粗鬆症や心血管疾患のリスクが高まるため、積極的な治療が推奨されます。

Q: 男性にも更年期障害はありますか?

A: はい、男性にも加齢に伴うテストステロン低下により更年期障害が起こります。疲労感、意欲低下、抑うつ、性機能低下などの症状が見られます。女性ほど急激なホルモン変化ではないため症状は緩やかですが、生活の質に影響を与えることがあります。

Q: 更年期障害を予防する方法はありますか?

A: 完全に予防することは難しいですが、日頃から規則正しい生活適度な運動バランスの良い食事ストレス管理を心がけることで症状を軽減できる可能性があります。また、趣味や社会参加を通じて充実した生活を送ることも重要です。


まとめ

更年期障害は閉経前後のホルモン変化により生じる様々な症状で、日本人女性の約50〜70%が経験します。症状は非常に多彩で、特にホットフラッシュ精神神経症状が日常生活に大きな影響を与えます。

重要なのは、更年期障害は「我慢すべきもの」ではなく、適切な治療により改善可能な疾患であることを患者に理解してもらうことです。看護師は症状を正確に評価し、必要に応じて受診を勧め、治療へとつなげる役割を担います。

また、更年期障害は生物学的要因だけでなく、心理社会的要因も大きく関与するため、患者の生活背景、ストレス状況、サポートシステムなどを包括的にアセスメントすることが重要です。仕事、家庭、介護などの複合的ストレスを抱える患者に対しては、社会的サポートの調整も看護の重要な役割となります。

実習では、患者が抱える症状や悩みを共感的に傾聴し、「つらさを理解してもらえた」と感じられる関わりを心がけましょう。更年期は女性の人生における重要な転換期であり、この時期を前向きに乗り越えられるよう、心理的支援セルフケア能力の向上を目指した看護が求められます。


この記事の執筆者

なっちゃん
なっちゃん

・看護師と保健師
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり


コメント

タイトルとURLをコピーしました