【疾患解説】誤嚥性肺炎

疾患解説

疾患概要

定義

誤嚥性肺炎とは、口腔内や胃内容物が気道に入り込むことで引き起こされる肺炎のことですね。通常の細菌性肺炎とは異なり、異物や細菌を含む分泌物の誤嚥が原因となって発症します。高齢者に多く見られる疾患で、重篤な合併症を引き起こす可能性があるため、早期発見と適切な看護介入が重要でしょう。

疫学

日本では年間約13万人が誤嚥性肺炎で入院しており、特に65歳以上の高齢者で発症率が急激に上昇します。男性の方が女性よりも発症率が高く、要介護高齢者では約30%が誤嚥性肺炎を経験するとされています。また、死亡率も高く、高齢者の死因の上位を占めているのが現状です。

原因

誤嚥性肺炎の原因は大きく分けて2つあります。まず、嚥下機能の低下が主な要因で、これには加齢による嚥下反射の減弱、脳血管疾患による嚥下障害、認知症による意識レベルの低下などが含まれます。次に、口腔内細菌の増加も重要な要因で、口腔ケア不足や唾液分泌の減少により、病原性の高い細菌が繁殖しやすくなります。その他、胃食道逆流症や薬剤性の意識障害なども誤嚥のリスクを高めますね。

病態生理

正常な嚥下では、食物が口から胃に運ばれる間に5つの段階を経ます。最も重要なのは咽頭期で、このとき喉頭蓋が気管にフタをして食物が肺に入らないよう守っています。まさに精密な連携プレーですね。

ところが、嚥下機能が低下するとこの仕組みが崩れ、食物や唾液が気道に入ってしまいます。これが「誤嚥」です。誤嚥にはむせる場合(顕性誤嚥)とむせない場合(不顕性誤嚥)があり、高齢者では気づかないうちに誤嚥を繰り返していることが多く問題となります。

本来なら咳で異物を出せるはずですが、高齢者では咳をする力も弱くなっているため、異物が肺の奥まで入り込んでしまうのです。特に右の肺は構造上、異物が入りやすいため、誤嚥性肺炎では右下肺に病変ができやすいという特徴があります。

問題は、気道に入った食物などに口の中の細菌がびっしりと付いていることです。口の中には数百種類もの細菌がおり、口腔ケアが不十分だとさらに病原性の強い細菌が増えてしまいます。

肺に到達した細菌は、37℃で湿度の高い肺という絶好の環境で急激に増殖します。特に酸素の少ない環境を好む嫌気性菌が主な悪者で、これらが毒素を出して肺を傷つけ、激しい炎症を引き起こします。

この炎症により肺の血管から液体が漏れ出し、肺胞(酸素交換を行う小さな袋)に水が溜まってしまいます。その結果、酸素がうまく取り込めなくなり、息苦しさや酸素不足が生じるのです。炎症が全身に広がると発熱や倦怠感も現れ、重症例では命に関わる状態となることもあるでしょう。

症状・診断・治療

症状

誤嚥性肺炎の症状は、典型的な肺炎症状に加えて特徴的な所見があります。発熱、咳嗽、痰の増加は基本的な症状ですが、高齢者では発熱が軽微または無熱の場合も多く、注意が必要です。呼吸困難や胸痛も見られますが、最も特徴的なのは食事中や食後の咳嗽でしょう。また、意識レベルの低下、食欲不振、全身倦怠感なども重要な症状です。痰の性状では、悪臭を伴う膿性痰が特徴的で、これは嫌気性菌の関与を示唆します。

診断

診断は臨床症状、画像検査、検査所見を総合的に評価して行います。胸部X線では下葉優位の浸潤影が特徴的で、特に右下葉に病変が生じやすいのは、右気管支が左気管支より垂直に近く、誤嚥物が流入しやすいためです。胸部CTではより詳細な病変の範囲や性状を把握できます。血液検査では白血球数の増加、CRP上昇などの炎症反応を認め、動脈血ガス分析では低酸素血症を呈することが多いでしょう。嚥下機能評価として、嚥下造影検査や内視鏡的嚥下機能検査を実施し、誤嚥の有無や程度を確認することも重要です。

治療

治療は抗菌薬療法と支持療法が中心となります。抗菌薬は嫌気性菌をカバーできる薬剤を選択し、クリンダマイシンやアンピシリン・サルバクタムなどがよく使用されます。重症例では広域スペクトラムの抗菌薬を使用することもあります。支持療法では、酸素療法による呼吸管理、水分・電解質バランスの維持、栄養管理が重要です。根本的な治療として誤嚥の予防が最も大切で、嚥下訓練、口腔ケア、食事形態の調整、体位の工夫などを行います。重度の嚥下障害がある場合は、胃瘻造設や経鼻胃管による栄養管理を検討することもあるでしょう。

看護アセスメント・介入

よくある看護診断・問題

・ガス交換障害:肺炎による換気血流比の不均衡に関連した
・非効果的気道クリアランス:嚥下機能低下による分泌物の気道内貯留に関連した
・誤嚥リスク状態:嚥下機能低下に関連した
・栄養摂取消費バランス異常:嚥下困難による摂食不良に関連した
・口腔粘膜障害:口腔ケア不足による細菌繁殖に関連した
・感染リスク状態:免疫機能低下と口腔内細菌増加に関連した
・活動耐性低下:呼吸困難と全身状態悪化に関連した

ゴードンのポイント

健康知覚・健康管理パターンでは、患者の疾患に対する理解度や治療への協力度を評価します。誤嚥性肺炎の患者は高齢者が多く、認知機能の低下により病識が不十分な場合があるため、家族を含めた説明と協力体制の構築が重要でしょう。栄養・代謝パターンでは、嚥下機能の詳細な評価が不可欠です。水分摂取時のむせ、食事時間の延長、食事量の減少などを観察し、適切な食事形態や摂取方法を検討します。また、体重変化や栄養状態の評価も継続的に行う必要があります。

排泄パターンでは、呼吸器疾患による全身状態の悪化が排泄機能に与える影響を評価します。活動・運動パターンでは、呼吸困難による活動制限の程度を把握し、適切な活動レベルを設定します。睡眠・休息パターンでは、呼吸困難や咳嗽による睡眠の質への影響を評価し、必要に応じて体位の工夫や環境調整を行います。認知・知覚パターンでは、意識レベルの変化や認知機能の評価を行い、誤嚥リスクとの関連性を常に意識することが大切です。

ヘンダーソンのポイント

正常な呼吸のニードでは、酸素化状態の継続的な観察と呼吸パターンの評価が重要です。SpO2モニタリング、呼吸数・呼吸様式の観察、胸郭の動きや副呼吸筋の使用などを詳細に評価します。適切な飲食のニードでは、嚥下機能の詳細な評価と安全な摂食方法の確立が最も重要でしょう。食事前の口腔ケア、適切な体位の保持、食事形態の調整、摂食ペースの管理などを継続的に行います。

身体の清潔と衣服の整頓のニードでは、特に口腔ケアの徹底が誤嚥性肺炎の予防と治療において極めて重要です。口腔内の細菌数を減少させることで、誤嚥時のリスクを軽減できます。適切な体位の保持のニードでは、誤嚥を予防するための体位の工夫が必要です。食事時は30度以上の半座位を基本とし、食後も一定時間この体位を維持します。睡眠と休息のニードでは、呼吸困難による睡眠障害の改善に向けた環境調整や体位の工夫を行います。学習のニードでは、患者・家族に対する嚥下機能維持のための指導や誤嚥予防方法の教育を継続的に実施することが大切でしょう。

看護計画・介入の内容

・呼吸状態の継続的観察:SpO2、呼吸数、呼吸様式、胸郭の動きを2-4時間毎に評価
・気道クリアランスの促進:体位ドレナージ、咳嗽介助、必要に応じた吸引の実施
・誤嚥予防対策:食事前後の口腔ケア徹底、適切な食事体位の保持、摂食ペースの調整
・嚥下機能評価:水飲みテスト、食事場面での嚥下機能観察、必要に応じた専門職への相談
・栄養状態の管理:摂食量の記録、体重測定、必要に応じた栄養補助食品の検討
・口腔ケアの徹底:食前・食後・就寝前の口腔ケア、義歯の清潔保持、口腔内細菌の減少対策
・感染予防対策:手指衛生の徹底、適切な環境管理、必要に応じた隔離予防策の実施
・活動性の維持:呼吸状態に応じた活動レベルの調整、廃用症候群予防のための運動療法
・患者・家族教育:誤嚥予防方法の指導、嚥下訓練の方法、緊急時の対応方法の説明
・多職種連携:医師、栄養士、言語聴覚士、理学療法士との連携による包括的ケアの提供

よくある疑問・Q&A

Q:誤嚥性肺炎と通常の肺炎の違いは何ですか?

A:原因と病原菌に大きな違いがあります。通常の肺炎は主に肺炎球菌などの細菌が直接感染して起こりますが、誤嚥性肺炎は口腔内容物の誤嚥が原因となり、嫌気性菌が関与することが多いのです。また、誤嚥性肺炎では下葉優位の病変が特徴的で、悪臭のある痰が見られることも多いでしょう。

Q:高齢者で熱が出ないのに誤嚥性肺炎と診断されることがあるのはなぜですか?

A:高齢者では免疫機能の低下により典型的な症状が現れにくいことがあります。発熱反応が弱く、代わりに食欲不振、意識レベルの低下、全身倦怠感などの非特異的症状が主体となることが多いのです。そのため、これらの症状と画像所見、検査データを総合的に評価して診断する必要があります。

Q:誤嚥を完全に防ぐことは可能ですか?

A:完全に防ぐことは困難ですが、適切な予防策により大幅にリスクを減らすことは可能です。口腔ケアの徹底、適切な食事形態の選択、正しい体位での摂食、嚥下訓練の実施などを組み合わせることで、誤嚥のリスクを最小限に抑えることができるでしょう。

Q:胃瘻を造設しても誤嚥性肺炎は起こりますか?

A:はい、胃瘻造設後も誤嚥性肺炎のリスクは残ります。これは唾液や胃内容物の逆流による誤嚥が原因です。そのため、胃瘻造設後も口腔ケアの継続、適切な体位管理、注入速度の調整などが重要になります。

Q:看護師が嚥下機能を評価する際の注意点は?

A:安全性を最優先に考えることが重要です。水飲みテストなどの簡易評価は可能ですが、詳細な評価は言語聴覚士などの専門職に依頼すべきでしょう。また、評価中は誤嚥のリスクがあるため、吸引の準備を行い、患者の状態を注意深く観察することが大切です。

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この記事の執筆者

なっちゃん
なっちゃん

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり

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