【白血病】疾患解説と看護の要点

疾患解説

疾患概要

定義

白血病とは、造血幹細胞または造血前駆細胞に遺伝子異常が生じ、異常な白血球(白血病細胞)が無制限に増殖する造血器悪性腫瘍です。正常な造血が阻害されるため、正常な白血球、赤血球、血小板が減少し、感染症、貧血、出血傾向を来します。病型により急性と慢性に、細胞系列により骨髄性とリンパ性に分類され、急性骨髄性白血病(AML)急性リンパ性白血病(ALL)慢性骨髄性白血病(CML)慢性リンパ性白血病(CLL)の4つが主要な病型です。

疫学

日本の白血病年間発症者数は約13,000人で、血液悪性腫瘍の約40%を占めます。急性白血病は小児から成人まで全年齢に発症し、ALLは小児に多く(小児白血病の約75%)、AMLは成人に多い傾向があります。慢性白血病は中高年に多く、CMLは40-50歳代、CLLは60歳以上に好発します。全体として男性にやや多く、5年生存率は急性白血病で約60-70%、慢性白血病で約85-95%と、治療成績は向上しています。

原因

白血病の原因は多因子性で、遺伝的素因環境因子の相互作用により発症すると考えられています。

遺伝的因子として、染色体異常(フィラデルフィア染色体、ダウン症候群)、遺伝子変異(p53、FLT3、NPM1など)、家族歴があります。環境因子では、放射線被曝(原爆、医療被曝)、化学物質(ベンゼン、アルキル化剤)、ウイルス感染(HTLV-1、EBウイルス)、喫煙などが関与します。

二次性白血病では、がん化学療法後(alkylating agent、topoisomerase II阻害薬)、骨髄異形成症候群の進展、先天性疾患(Fanconi貧血)からの発症があります。

病態生理

正常な造血過程では、骨髄の造血幹細胞から段階的に分化・成熟して各血球が産生されます。白血病では、この過程のいずれかの段階で遺伝子異常が生じ、分化・成熟が阻害されます。異常な白血病細胞が骨髄で無制限に増殖し、正常な造血を圧迫・阻害します。

急性白血病では、未熟な芽球が骨髄の80%以上を占め、正常血球の産生が著しく阻害されます。白血病細胞は血液中にも出現し、肝脾腫、リンパ節腫脹、中枢神経系浸潤などの髄外病変を形成することがあります。

慢性白血病では、比較的分化した白血病細胞が増殖するため、初期は正常血球機能がある程度保たれますが、進行とともに機能が低下し、最終的には急性転化(blast crisis)を来すことがあります。

白血病細胞の特徴として、アポトーシス(細胞死)の回避、無制限増殖、分化停止、薬剤耐性獲得などがあり、これらが治療抵抗性の原因となります。


症状・診断・治療

症状

白血病の症状は、正常血球の減少(骨髄不全症候群)と白血病細胞の浸潤により現れます。

骨髄不全症候群では、①貧血症状(易疲労感、息切れ、動悸、顔面蒼白)、②血小板減少症状(紫斑、点状出血、鼻出血、歯肉出血、消化管出血)、③好中球減少症状(発熱、感染症の易罹患性、肺炎、敗血症)が三大症状となります。

白血病細胞浸潤症状では、肝脾腫による腹部膨満感、リンパ節腫脹、骨痛(特に小児のALL)、歯肉腫脹、皮膚浸潤(白血病性皮疹)が見られます。中枢神経系浸潤では頭痛、嘔吐、意識障害、脳神経麻痺が現れ、特にALLで頻度が高いです。

急性白血病では症状の進行が急速で、診断時にはすでに重篤な症状を呈していることが多いです。慢性白血病では無症状で健康診断により発見されることも多く、症状があっても軽微なことが特徴です。

特殊病型の症状として、急性前骨髄球性白血病(APL)では播種性血管内凝固症候群(DIC)による重篤な出血症状、慢性骨髄性白血病では高白血球血症による白血球うっ滞症候群(意識障害、呼吸困難)が見られることがあります。

診断

血液検査が診断の第一歩で、血球数異常(白血球数の増加または減少、貧血、血小板減少)と末梢血塗抹標本での芽球の確認が重要です。白血球数は正常から数十万/μLまで様々で、白血病の種類により異なります。

骨髄検査が確定診断に必須で、骨髄穿刺により芽球の比率、細胞形態、染色体検査、遺伝子検査を行います。急性白血病では芽球が20%以上(WHO分類)を占めます。フローサイトメトリーにより白血病細胞の表面マーカーを解析し、病型分類を行います。

画像検査では、CT・MRIによりリンパ節腫脹、肝脾腫、髄外病変の評価を行います。腰椎穿刺により中枢神経系浸潤の有無を確認し、特にALLでは必須検査です。

予後因子の評価として、年齢、白血球数、染色体・遺伝子異常、治療反応性により予後を層別化し、治療強度を決定します。

治療

急性白血病の治療は多剤併用化学療法が基本で、寛解導入療法地固め療法維持療法の段階的治療を行います。

急性骨髄性白血病(AML)では、アントラサイクリン系薬剤(ダウノルビシン、イダルビシン)とシタラビンを中心とした化学療法を行います。高リスク例では同種造血幹細胞移植が検討されます。

急性リンパ性白血病(ALL)では、多剤併用による強化療法を2-3年間継続します。中枢神経系予防のため髄腔内化学療法や頭蓋照射を併用します。フィラデルフィア染色体陽性ALLではチロシンキナーゼ阻害薬(イマチニブ、ダサチニブ)を併用します。

慢性骨髄性白血病(CML)では、チロシンキナーゼ阻害薬(イマチニブ、ニロチニブ、ダサチニブ)による分子標的治療が第一選択となり、多くの患者で長期生存が可能です。

造血幹細胞移植は、同種移植(血縁者間、非血縁者間)、自家移植があり、高リスク例や再発例で適応となります。移植前処置として大量化学療法±全身放射線照射を行います。

支持療法として、感染症対策(無菌室管理、抗菌薬予防投与)、輸血療法(赤血球、血小板輸血)、吐気・嘔吐対策、口内炎ケアなどが重要です。


看護アセスメント・介入

よくある看護診断・問題

  • 感染リスク状態(好中球減少による易感染性)
  • 出血リスク状態(血小板減少による出血傾向)
  • 活動耐性低下(貧血による組織酸素化障害)

ゴードン機能的健康パターン

健康知覚・健康管理パターンが最も重要で、患者・家族の疾患理解、治療への取り組み姿勢、感染予防行動の実践状況を評価します。無菌室での長期療養や侵襲的治療に対する心理的準備状況も重要なアセスメント項目です。

栄養代謝パターンでは、化学療法による食欲不振、悪心・嘔吐、口内炎による摂食困難を評価します。高カロリー・高蛋白の栄養管理が必要で、経口摂取困難時は経管栄養や中心静脈栄養を検討します。体重変化、血清アルブミン値、総蛋白値の継続的監視が必要です。

活動・運動パターンでは、貧血や全身状態により活動制限が必要となります。しかし、長期臥床による廃用症候群や血栓症のリスクもあるため、安全範囲での活動維持が重要です。

ヘンダーソン14基本的ニード

感染を避け、他者を傷つけないニードが最も重要で、好中球減少期の厳重な感染管理が必要です。無菌室での隔離、手指衛生の徹底、面会制限、食事制限(生もの禁止)などの感染対策を実施します。

安全な環境で生活するニードでは、血小板減少による出血リスクに対して、転倒・外傷予防、注射部位の圧迫止血、内服薬の調整(抗凝固薬中止)などの対策が必要です。

正常に呼吸するニードでは、貧血による呼吸困難や肺感染症のリスクを評価し、酸素療法の適応を判断します。また、化学療法による肺毒性(ブレオマイシン肺炎)にも注意が必要です。

看護計画・介入の内容

  • 感染予防対策:無菌室管理、手指衛生指導、バイタルサイン監視(特に体温)、好中球数のモニタリング、予防的抗菌薬の管理、口腔ケアによる感染源除去
  • 出血予防・対策:血小板数モニタリング、外傷予防対策、出血症状の観察(紫斑、鼻出血、消化管出血)、血小板輸血の管理、止血処置
  • 化学療法管理:抗がん薬の安全な投与管理、副作用観察(骨髄抑制、消化器症状、脱毛)、支持療法の実施、患者・家族への教育

よくある疑問・Q&A

Q: なぜ白血球が増えているのに感染しやすいのですか?

A: 白血病では量的には白血球が増加していても、質的には正常に機能しない異常な白血球(白血病細胞)が大部分を占めているためです。感染と戦う正常な好中球は実際には減少しており、白血病細胞は細菌やウイルスを攻撃する能力がありません。また、化学療法により正常な白血球もさらに減少するため、重篤な感染症のリスクが高くなります。

Q: 無菌室での生活で注意することは何ですか?

A: 手指衛生が最も重要です。入室前の手洗い、アルコール消毒を徹底し、面会者も同様に行います。食事は加熱調理されたもののみ摂取し、生野菜、果物、刺身、乳製品などは感染リスクがあるため制限されます。生花や観葉植物も細菌の温床となるため持ち込み禁止です。室内の清潔保持、適切な換気、マスクの着用も重要な感染対策です。

Q: 化学療法の副作用にはどのようなものがありますか?

A: 急性期の副作用として、骨髄抑制(感染・出血・貧血)、消化器症状(悪心・嘔吐・下痢・口内炎)、脱毛、全身倦怠感があります。慢性期・晩期の副作用では、心毒性(アントラサイクリン系)、肺毒性(ブレオマイシン)、腎毒性、不妊、二次がんのリスクがあります。これらの副作用を最小限に抑えるため、適切な支持療法と長期的なフォローアップが重要です。

Q: 造血幹細胞移植とはどのような治療ですか?

A: 患者の骨髄を大量化学療法や放射線治療で破壊した後、健康なドナーの造血幹細胞を移植して造血機能を再建する治療です。移植された造血幹細胞が患者の骨髄に生着し、正常な血液細胞を産生するようになります。しかし、移植片対宿主病(GVHD)や重篤な感染症などの合併症リスクがあるため、厳重な管理が必要な治療です。

Q: 白血病は完治する病気ですか?

A: 白血病の完治の可能性は病型や年齢により大きく異なります。小児のALLでは約90%が治癒しますが、成人のAMLでは約40-60%の治癒率です。慢性白血病は完治は困難ですが、分子標的治療の進歩により長期間の病気コントロールが可能になっています。早期診断・治療開始、適切な治療選択、患者の全身状態などが予後を左右する重要な因子です。


まとめ

白血病は生命に直結する血液悪性腫瘍で、診断から治療、回復期まで長期間にわたる包括的な看護が必要です。看護の要点は感染・出血・貧血の三大合併症の予防と管理であり、特に感染管理は患者の生命予後を直接左右する重要な看護介入です。

治療は侵襲的で副作用も強く、患者・家族の身体的・精神的負担は計り知れません。疾患受容への支援治療継続への動機づけ希望を支える看護が重要となります。また、長期間の入院により社会復帰への不安も大きいため、多職種連携による包括的支援が不可欠です。

実習では、微細な症状変化を見逃さない観察力根拠に基づいた感染管理の実践患者の尊厳を保持した看護を心がけましょう。白血病患者への看護は専門性が高く、最新の治療知識と熟練した技術が求められますが、患者の回復への希望を支え、最良の治療環境を整えることで治癒の可能性を最大化できる、非常にやりがいのある分野です。


この記事の執筆者

なっちゃん
なっちゃん

・看護師と保健師
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり


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