疾患概要
定義
糖尿病とは、インスリンの作用不足により慢性的に血糖値が高い状態が続く代謝疾患ですね。血糖値が正常範囲を超えて持続的に上昇し、様々な合併症を引き起こす可能性のある疾患です。
疫学
日本における糖尿病患者数は約1,000万人とされており、予備軍を含めると約2,000万人に達します。40歳以上の成人では約4人に1人が糖尿病または予備軍という状況で、まさに国民病といえる疾患でしょう。男性の方がやや多く、加齢とともに有病率が上昇する傾向があります。
原因
糖尿病の原因は大きく分けて以下のようになります。
1型糖尿病(約5%):自己免疫反応によってβ細胞が破壊され、インスリンが絶対的に不足します。遺伝的素因に何らかの環境因子が加わって発症すると考えられており、主に若年者に発症しますね。
2型糖尿病(約95%):インスリンの分泌低下やインスリン抵抗性により発症します。遺伝的素因に過食、肥満、運動不足、ストレスなどの生活習慣因子が重なって起こる生活習慣病の代表格です。
その他:妊娠糖尿病、薬剤性糖尿病、膵疾患による二次性糖尿病などがあります。
病態生理
正常な状態では、食事により血糖値が上昇すると膵臓のβ細胞からインスリンが分泌され、glucose(ブドウ糖)の細胞内取り込みを促進して血糖値を下げます。
糖尿病では以下のメカニズムで高血糖が持続します:
インスリン分泌不全:膵β細胞の機能低下により、インスリンの分泌量が不足します。特に1型では絶対的不足、2型では相対的不足が見られますね。
インスリン抵抗性:インスリンは分泌されているものの、標的臓器(筋肉、肝臓、脂肪組織)での反応性が低下している状態です。主に2型糖尿病で見られ、肥満との関連が深いとされています。
慢性的な高血糖状態は、血管内皮を傷害し、動脈硬化を促進します。また、糖化反応により様々な蛋白質が変性し、これが合併症の原因となるのです。
症状・診断・治療
症状
糖尿病の典型的な症状は「3P症状」と呼ばれます。多尿(polyuria)、多飲(polydipsia)、多食(polyphagia)ですね。これは血糖値が高くなることで浸透圧利尿が起こり、脱水から口渇を生じ、エネルギー不足から食欲が亢進するメカニズムによるものです。
その他の症状として、体重減少、易疲労感、視力低下、創傷治癒遅延、感染症にかかりやすいなどがあります。ただし、2型糖尿病では無症状のことも多く、健康診断で発見されるケースが大半を占めるでしょう。
急性合併症では、糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)や高血糖高浸透圧症候群(HHS)により意識障害を来すこともあり、これらは医療緊急事態です。
診断
糖尿病の診断基準は以下の通りです:
以下のいずれかを満たし、かつ別の日に再検査で確認されれば糖尿病と診断されます:
- 空腹時血糖値 ≧ 126mg/dL
- 75gOGTT 2時間値 ≧ 200mg/dL
- 随時血糖値 ≧ 200mg/dL
- HbA1c ≧ 6.5%
HbA1c(ヘモグロビンA1c)は過去1-2ヶ月の平均血糖値を反映する重要な指標で、糖尿病の診断や血糖コントロールの評価に使用されますね。
治療
糖尿病治療の基本は「食事療法、運動療法、薬物療法」の3本柱です。
食事療法:適正なカロリー摂取と栄養バランスの調整が基本となります。炭水化物の量と質に注意し、食事時間を規則正しくすることが重要ですね。
運動療法:インスリン感受性を改善し、血糖値を下げる効果があります。有酸素運動と筋力トレーニングの組み合わせが推奨されています。
薬物療法:
- 1型糖尿病:インスリン療法が必須
- 2型糖尿病:メトホルミンなどの経口血糖降下薬から開始し、必要に応じてインスリン療法を併用
血糖コントロール目標は一般的にHbA1c 7.0%未満とされていますが、患者の年齢、合併症の有無、低血糖リスクなどを総合的に判断して個別に設定されます。
看護アセスメント・介入
よくある看護診断・問題
・血糖値不安定リスク状態
・知識不足(疾患・治療・セルフケアに関連した)
・治療計画遵守困難
・低血糖リスク状態
・感染リスク状態
・皮膚統合性障害リスク状態
・活動耐性低下
・不安
・ボディイメージ混乱
・家族機能効果不全リスク状態
・自己健康管理効果不全
ゴードンのポイント
疾患理解度、セルフモニタリング(血糖測定、体重測定)の実施状況、定期受診の遵守状況を評価します。多くの患者が糖尿病を悲観的に捉えがちですが、適切な管理により健康な生活を送れることを理解してもらうことが重要ですね。
栄養・代謝パターン:食事摂取状況、BMI、血糖値、HbA1c値から栄養状態を評価します。口渇の有無、皮膚の状態(乾燥、創傷治癒状況)、感染徴候の観察も重要なポイントです。
活動・運動パターン:運動療法の実施状況と効果を評価します。足の状態観察(胼胝、潰瘍、感覚異常)は糖尿病足病変の早期発見のために特に重要ですね。
認知・知覚パターン:糖尿病教育の理解度、神経障害による感覚異常(しびれ、痛み)の有無を評価します。高齢患者では認知機能の低下が治療遵守に影響することがあります。
役割・関係パターン:家族の理解と協力体制、社会的支援の有無を評価します。糖尿病管理は家族全体の協力が治療成功の鍵となるでしょう。
ストレス・コーピングパターン:ストレスは血糖値に直接影響するため、効果的なストレス管理方法の習得状況を評価することが重要です。
ヘンダーソンのポイント
適切に飲食する:糖尿病管理の根幹となるニードです。適正なカロリー摂取、栄養バランス、食事時間の規則性を保つことが血糖コントロールの基本となります。患者の嗜好や生活習慣を考慮した実現可能な食事計画の立案が重要でしょう。
身体の老廃物を排泄する:高血糖による浸透圧利尿で多尿となり、脱水のリスクがあります。自律神経障害により便秘や膀胱機能障害を来すことがあるため注意が必要です。
身体の位置を動かし、適切な姿勢を保持する:運動療法は糖尿病治療の重要な柱の一つです。患者の身体機能や併存疾患を考慮した安全で継続可能な運動プログラムの提案と実施支援が必要になります。
身体を清潔に保ち、皮膚を保護する:高血糖状態では感染リスクが高まり、創傷治癒も遅延します。特に足部のケアは糖尿病足病変の予防に重要で、毎日の観察と適切な清潔保持の指導が必要です。
環境の危険を避け、他人を傷害しないようにする:低血糖発作や神経障害による感覚異常により転倒リスクが高まります。安全な環境整備と事故予防のための指導が重要になりますね。
正常な発達・発育に導く学習をする:糖尿病に関する正しい知識の習得は治療の基盤となります。患者の理解度や学習能力に応じた教育方法を選択し、継続的な学習支援を行うことが重要でしょう。
看護計画・介入の内容
・血糖値の定期的な測定と記録、異常値の早期発見
・低血糖症状の観察と対処法の指導(ブドウ糖の準備、症状出現時の対応)
・食事療法の実施支援(食事内容の確認、カロリー計算の指導)
・運動療法の実施支援(個別性を考慮した運動プログラムの提案)
・薬物療法の遵守支援(服薬指導、インスリン注射手技の指導)
・足部ケアの指導と実施(毎日の観察、適切な爪切り、靴選び)
・皮膚ケアの実施(保湿、創傷の早期発見と処置)
・感染予防策の指導(手洗い、うがい、予防接種の推奨)
・ストレス管理技法の指導(リラクゼーション法、趣味活動の推奨)
・家族への疾患理解と協力体制構築のための支援
・定期受診の重要性説明と受診継続への動機づけ
・緊急時の対応方法指導(シックデイルール、医療機関受診の目安)
よくある疑問・Q&A
Q:糖尿病になったら甘いものは絶対に食べられないのでしょうか?
A:そんなことはありませんよ。完全に禁止する必要はありませんが、量やタイミングを工夫することが大切です。血糖値への影響を考慮し、食事全体のバランスの中で適量を楽しむことは可能です。代替甘味料を使用したお菓子なども活用できますね。
Q:インスリン注射を始めると一生続けなければならないのですか?
A:これは糖尿病の型や病状によって異なります。1型糖尿病では生涯にわたってインスリンが必要ですが、2型糖尿病では食事・運動療法により改善し、インスリンを中止できる場合もあります。治療は患者さんの状態に応じて調整されるものなので、主治医とよく相談することが大切です。
Q:血糖値が下がりすぎた時(低血糖)の症状と対処法は?
A:A低血糖の症状には、冷汗、動悸、手の震え、空腹感、イライラ感、集中力低下などがあります。重症になると意識障害を起こす危険性も。対処法は15gのブドウ糖(ブドウ糖タブレット3個程度)をすぐに摂取し、15分後に血糖値を再測定することです。ブドウ糖がない場合は砂糖やジュースでも代用できますが、効果はやや遅れます。
Q:風邪をひいた時の血糖管理はどうすればいいですか?
A:シックデイ(病気の日)ルールに従って対応します。発熱や食欲不振があっても、インスリンや内服薬は自己判断で中止せず、主治医に連絡を。食事が摂れない場合でも水分補給は重要で、経口補水液やスポーツドリンクなどで電解質も補給しましょう。血糖値は普段より頻回に測定することが大切ですね。
Q:糖尿病の人は感染症にかかりやすいと聞きましたが、なぜですか?
A:高血糖状態では白血球の機能が低下し、細菌やウイルスに対する抵抗力が弱くなります。また、血糖値が高いと細菌が繁殖しやすい環境になってしまうのです。特に足の感染症、尿路感染症、歯周病などに注意が必要です。予防には血糖コントロールが最も重要で、手洗い・うがい、予防接種も効果的でしょう。
Q:HbA1cとは何ですか?なぜ重要なのですか?
A:HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)は、過去1~2ヶ月の平均血糖値を表す指標です。赤血球中のヘモグロビンにブドウ糖が結合した状態を測定しており、日々の血糖変動に左右されません。目標値は一般的に7.0%未満ですが、年齢や合併症により個別に設定されます。定期的な検査で長期的な血糖コントロール状況を把握できる重要な検査ですね。
Q:妊娠を希望していますが、糖尿病があっても大丈夫ですか?
A:糖尿病があっても適切な血糖管理により安全な妊娠・出産は可能です。ただし、妊娠前からHbA1c 7.0%未満(できれば6.5%未満)にコントロールしておくことが重要です。妊娠中は血糖管理がより厳格になり、インスリン治療が必要になることが多いでしょう。必ず妊娠前に主治医と妊娠計画について相談することが大切です。
Q:糖尿病の合併症にはどのようなものがありますか?
A:糖尿病の合併症は3大合併症と大血管合併症に分けられます。3大合併症は糖尿病性網膜症(失明の原因となる)、糖尿病性腎症(透析の原因となる)、糖尿病性神経障害(足の感覚異常など)です。大血管合併症には心筋梗塞、脳梗塞、足の壊疽などがあります。しかし、良好な血糖コントロールにより予防・進行抑制が可能ですので、定期的な検査と継続的な治療が重要でしょう。
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この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
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