【高血圧症】疾患解説と看護の要点

循環器

疾患概要

定義

高血圧症とは、安静時に測定した血圧が慢性的に正常値を超えて高い状態が持続する疾患です。日本高血圧学会の診断基準では、収縮期血圧140mmHg以上または拡張期血圧90mmHg以上を高血圧と定義しています。家庭血圧では135/85mmHg以上が高血圧の基準となり、診察室血圧よりも低い値が設定されているのが特徴です。

疫学

日本では成人の約27%、推定2700万人が高血圧症を有しており、国民病と呼ばれるほど頻度の高い疾患です。年齢とともに有病率は上昇し、60歳以上では男性約60%、女性約50%が高血圧症です。男性では30歳代から、女性では50歳代(更年期以降)から急激に増加します。

近年は食生活の欧米化、運動不足、ストレス社会の影響により、若年者での発症も増加傾向にあります。また、高血圧は脳血管疾患、心疾患、腎疾患の最大のリスクファクターであり、日本人の死因の約25%に関与しています。

原因

高血圧の約90%は本態性高血圧(原発性高血圧)で、明確な原因は特定できませんが、遺伝的要因と環境要因が複合的に関与します。遺伝的要因では両親が高血圧の場合、子供の発症リスクは約50%に上昇します。

環境要因として、食塩過剰摂取、肥満、運動不足、過度の飲酒、喫煙、ストレス、睡眠不足などがあります。残りの約10%は二次性高血圧で、腎疾患(腎実質性、腎血管性)、内分泌疾患(原発性アルドステロン症、褐色細胞腫、クッシング症候群)、血管疾患、薬剤性などの明確な原因があります。

病態生理

血圧は心拍出量×末梢血管抵抗で決定されます。高血圧の発症には複数の機序が関与し、交感神経系の亢進、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)の活性化、血管内皮機能障害、インスリン抵抗性などが相互に作用します。

慢性的な高血圧状態では血管壁に持続的な圧負荷がかかり、動脈硬化が進行します。これにより血管の弾性が失われ、さらに血圧が上昇するという悪循環が形成されます。長期間放置すると、心臓、脳、腎臓、眼底などの標的臓器に不可逆的な障害(臓器障害)が生じ、生命予後に大きく影響します。


症状・診断・治療

症状

高血圧は「サイレントキラー」と呼ばれるように、初期段階では自覚症状がほとんどありません。そのため健康診断や他疾患の検査時に偶然発見されることが多く、患者自身が気づかないまま進行してしまう特徴があります。

症状が現れる場合は、頭痛(特に後頭部痛)、めまい、肩こり、動悸、息切れ、疲労感、のぼせ感などがありますが、これらは非特異的な症状で高血圧以外の原因でも生じます。重篤な症状として、激しい頭痛、視野障害、意識障害、胸痛、呼吸困難などが現れた場合は、高血圧緊急症の可能性があり緊急対応が必要です。

臓器障害が進行すると、脳血管障害(脳梗塞、脳出血)、心疾患(心筋梗塞、心不全)、腎障害(慢性腎臓病)、眼底変化(高血圧性網膜症)などの合併症症状が出現します。

診断

診断は複数回の血圧測定により行います。診察室血圧では異なる日の3回以上の測定で140/90mmHg以上を確認します。家庭血圧測定は診断と治療効果判定に重要で、朝と夜の2回測定し、135/85mmHg以上を高血圧とします。

24時間自由行動下血圧測定(ABPM)では日常生活中の血圧変動を詳細に評価でき、白衣高血圧や仮面高血圧の診断に有用です。二次性高血圧を除外するため、血液検査(腎機能、電解質、内分泌検査)、画像検査(腎動脈エコー、CTなど)も必要に応じて実施します。

臓器障害の評価として、心電図・心エコー検査(左室肥大)、眼底検査(網膜血管変化)、尿検査(蛋白尿、血尿)、頸動脈エコー(動脈硬化)などを行い、治療方針決定の参考とします。

治療

治療は生活習慣の改善と薬物療法の2本柱です。まず生活習慣の改善を行い、効果不十分な場合に薬物療法を追加します。目標血圧は一般的に130/80mmHg未満、高齢者では140/90mmHg未満に設定されます。

生活習慣の改善では、減塩(6g/日未満)、適正体重の維持(BMI25未満)、定期的な有酸素運動(週3回以上、30分以上)、禁煙、節酒(日本酒1合/日以下)、ストレス管理が重要です。

薬物療法では、ACE阻害薬・ARB、カルシウム拮抗薬、利尿薬、β遮断薬が第一選択薬として使用されます。患者の年齢、合併症、副作用を考慮して薬剤を選択し、単剤で効果不十分な場合は複数の薬剤を組み合わせます。


看護アセスメント・介入

よくある看護診断・問題

  • 非効果的自己健康管理(複雑な治療レジメンと生活習慣改善の困難さに関連した)
  • 知識不足(疾患の理解不足と自己管理方法に関連した)
  • 活動耐性低下(心機能低下や運動習慣の欠如に関連した)
  • 不安(無症状だが重篤な合併症への恐怖に関連した)
  • 非効果的治療計画管理(長期的な服薬継続の困難さに関連した)

ゴードン機能的健康パターン

健康知覚・健康管理パターンでは患者の疾患に対する理解度と健康管理への取り組み状況を評価します。高血圧は無症状のため軽視されがちですが、合併症の重篤性を理解し、継続的な管理の必要性を認識できているかを確認しましょう。

栄養・代謝パターンでは食事内容の詳細な聴取が重要です。塩分摂取量、外食頻度、調理方法、食事時間、間食の内容などを把握し、実現可能な食事改善計画を立案します。体重変化や水分バランスも継続的に評価します。

活動・運動パターンでは現在の運動習慣、日常生活活動レベル、運動に対する意識を評価します。年齢や体力に応じた適切な運動プログラムを提案し、継続可能な活動レベルを設定することが重要です。

ヘンダーソン14基本的ニード

循環のニードでは血圧値の変動パターン、心拍数、末梢循環状態を継続的に観察します。家庭血圧測定の結果と診察室血圧の比較、服薬前後の血圧変化なども重要な評価項目です。

栄養のニードでは食事療法の実践状況を詳細に評価します。塩分制限の理解度、実際の食事内容、外食時の注意点の実践状況などを確認し、個別性を考慮した指導を行います。

学習のニードでは疾患理解の促進と自己管理能力の向上を図ります。血圧測定方法、薬物の効果と副作用、生活習慣改善の具体的方法について継続的な教育を行い、患者の理解度に応じて指導内容を調整します。

看護計画・介入の内容

  • 血圧モニタリング:正確な血圧測定技術の指導、家庭血圧測定の推奨と記録方法の説明
  • 服薬指導:薬物の作用機序、服薬タイミング、副作用の説明、服薬遵守の重要性の教育
  • 食事指導:減塩食の具体的方法、栄養バランス、体重管理、外食時の注意点
  • 運動指導:個人に適した運動プログラムの提案、運動強度の設定、継続方法の支援
  • 生活習慣改善支援:禁煙・節酒指導、ストレス管理方法、睡眠の質向上
  • 合併症予防教育:定期検査の重要性、症状出現時の対応、緊急時の判断基準

よくある疑問・Q&A

Q: 血圧はどのタイミングで測定するのが正確ですか?

A: 家庭血圧では朝と夜の2回測定が基本です。朝は起床後1時間以内、排尿後、朝食前、服薬前に測定し、夜は就寝前に測定します。測定前は5分以上安静にし、カフェインやたばこは避けましょう。同じ時間帯、同じ条件で測定することで正確な血圧変動を把握できます。

Q: 薬を飲み始めたら一生続けなければいけませんか?

A: 基本的には長期間の服薬が必要ですが、生活習慣の改善により薬を減量・中止できる場合もあります。ただし、自己判断での中断は危険で、血圧が急激に上昇する可能性があります。定期的な受診で血圧をコントロールしながら、医師と相談して治療方針を決定することが重要です。

Q: 塩分制限はどの程度まで必要ですか?

A: 1日6g未満が目標ですが、日本人の平均摂取量は約10gのため大幅な減塩が必要です。醤油やみそなどの調味料を減らし、出汁や香辛料で味付けを工夫しましょう。加工食品や外食は塩分が多いため控えめにし、野菜や果物(カリウム)を積極的に摂取することで塩分の排出を促進できます。

Q: 高血圧でも運動して大丈夫ですか?

A: 適度な有酸素運動は血圧を下げる効果があり推奨されます。ウォーキング、水泳、サイクリングなどを週3回以上、30分程度行うのが理想的です。ただし、重篤な臓器障害がある場合や極端な高血圧(180/110mmHg以上)の場合は運動制限が必要なため、医師と相談して運動プログラムを決定しましょう。

Q: 白衣高血圧と仮面高血圧の違いは何ですか?

A: 白衣高血圧は診察室でのみ血圧が高く、家庭血圧は正常な状態です。一方、仮面高血圧は診察室血圧は正常だが家庭血圧が高い状態で、より注意が必要です。仮面高血圧は臓器障害のリスクが高いため、家庭血圧測定による早期発見と適切な治療が重要になります。


まとめ

高血圧症は無症状で進行するが重篤な合併症を引き起こす慢性疾患であり、生涯にわたる継続的な管理が必要です。看護師として重要なのは、患者の生活背景を理解し、実現可能な自己管理方法を一緒に見つけることです。

特に正確な血圧測定技術の習得支援個別性を考慮した生活習慣改善指導服薬継続への動機づけが看護の要点となります。高血圧は「治す」病気ではなく「コントロールする」病気であることを患者が理解し、長期的な視点での健康管理ができるよう継続的な支援が重要です。

実習では患者の日常生活を具体的に聞き取り、実践可能な改善策を患者と一緒に考える姿勢を大切にしましょう。また、数値だけでなく患者の気持ちや困りごとに寄り添い、治療継続への意欲を支える関わりを心がけてください。高血圧管理の成功は患者の主体的な取り組みにかかっているため、患者のエンパワーメントを支援する看護が求められます。


この記事の執筆者

なっちゃん
なっちゃん

・看護師と保健師
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり


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