疾患概要
定義
不整脈とは、心臓の電気的興奮(刺激伝導系)の異常により、正常な心拍リズムが乱れる疾患の総称です。正常洞調律(60-100回/分の規則的なリズム)から逸脱したすべての心拍異常を指し、頻脈性不整脈(100回/分以上)、徐脈性不整脈(60回/分未満)、期外収縮などに分類されます。
疫学
不整脈は年齢とともに発生頻度が増加し、80歳以上では約80%の人に何らかの不整脈が認められます。最も多いのは心房細動で、日本では約100万人の患者がいると推定されています。男性では40歳以降、女性では50歳以降に発症率が上昇し、高血圧や心疾患の合併が多く見られます。期外収縮は健常者でも24時間ホルター心電図で90%以上の人に認められる比較的よくある現象です。
原因
不整脈の原因は多岐にわたります。器質的心疾患として、冠動脈疾患、心筋症、弁膜症、先天性心疾患などがあり、これらは重篤な不整脈の原因となりやすいです。非器質的要因では、電解質異常(カリウム、マグネシウム、カルシウム)、甲状腺機能異常、薬物(ジギタリス、抗不整脈薬)、カフェイン、アルコール、ストレス、睡眠不足などがあります。
また、加齢による刺激伝導系の変性も重要な要因で、洞不全症候群や房室ブロックの原因となります。遺伝的要因による特発性不整脈(ブルガダ症候群、QT延長症候群など)も存在します。
病態生理
正常な心拍は洞房結節から発生した電気的興奮が心房→房室結節→His束→脚→プルキンエ線維を経て心室に伝導されることで生じます。この刺激伝導系のどこかに異常が生じると不整脈となります。
発生機序は大きく3つに分けられます。自動能異常では洞房結節以外の部位で異常な電気的興奮が発生し、伝導異常では電気的興奮の伝わり方に問題が生じ、リエントリーでは電気的興奮が旋回することで持続的な不整脈が生じます。これらの機序により、心拍数の異常や心房・心室の協調性の破綻が起こり、血行動態に影響を与えます。
症状・診断・治療
症状
不整脈の症状は種類や程度により大きく異なります。軽度の不整脈では無症状のことも多く、健康診断で偶然発見されることがあります。自覚症状として、動悸、胸部不快感、めまい、息切れ、胸痛、失神などが見られます。
期外収縮では「心臓が止まった感じ」「ドキッとする」と表現されることが多く、頻脈性不整脈では激しい動悸、胸苦しさ、冷汗を伴います。徐脈性不整脈では疲労感、めまい、失神発作が主症状となり、重篤な場合はAdams-Stokes発作(一過性の意識消失)を起こすことがあります。
心房細動では脳梗塞のリスクが高まるため、突然の片麻痺や言語障害で発症することもあります。
診断
12誘導心電図は最も基本的な検査で、不整脈の種類や重篤度を判定できます。ただし、一時的な記録のため間欠的に起こる不整脈は捉えられないことがあります。
24時間ホルター心電図では日常生活中の心電図を連続記録し、症状と心電図変化の関連を評価できます。イベント心電図は症状出現時に患者自身が記録するもので、稀に起こる不整脈の診断に有用です。
電気生理学的検査(EPS)では心臓内にカテーテルを挿入し、不整脈の発生機序や治療方針を詳細に評価します。心エコー検査では器質的心疾患の有無を確認し、血液検査では電解質異常や甲状腺機能を評価します。
治療
治療は不整脈の種類、重篤度、基礎疾患により決定されます。薬物療法では、抗不整脈薬(Ia群:キニジン、Ib群:リドカイン、Ic群:フレカイニド、II群:β遮断薬、III群:アミオダロン、IV群:カルシウム拮抗薬)が使用されます。
非薬物療法として、カテーテルアブレーション(経皮的心筋焼灼術)では不整脈の原因となる異常な電気的興奮部位を焼灼し、根治的治療が可能です。ペースメーカー植込みは徐脈性不整脈に対する確立された治療法で、植込み型除細動器(ICD)は致死的不整脈に対する予防的治療として用いられます。
心房細動では抗凝固療法による脳梗塞予防が重要で、ワルファリンや新規経口抗凝固薬(DOAC)が使用されます。
看護アセスメント・介入
よくある看護診断・問題
- 心拍出量減少(不整脈による血行動態の変化に関連した)
- 活動耐性低下(心機能低下に関連した)
- 不安(突然の症状や予後への恐怖に関連した)
- 知識不足(疾患や治療に関する理解不足に関連した)
- 転倒リスク(めまいや失神の可能性に関連した)
ゴードン機能的健康パターン
健康知覚・健康管理パターンでは患者の不整脈に対する理解度と自己管理能力を評価します。症状の自覚の有無、服薬遵守状況、生活習慣(喫煙、飲酒、カフェイン摂取)について詳しく聴取しましょう。
活動・運動パターンでは運動耐容能と日常生活への影響を評価します。どの程度の活動で症状が出現するか、階段昇降や歩行距離の制限があるかを具体的に把握し、安全な活動レベルを設定します。
認知・知覚パターンでは動悸、胸部不快感、めまいなどの症状の性状、頻度、持続時間、誘発因子を詳細に聴取します。患者の表現をそのまま記録することで、症状の変化を客観的に評価できます。
ヘンダーソン14基本的ニード
循環のニードでは血行動態の評価が最も重要です。血圧、脈拍(性状、規則性、強弱)、心音の聴取、末梢循環(皮膚色、冷感、浮腫)を詳細に観察し、不整脈が循環動態に与える影響を評価します。
安全のニードでは転倒や失神のリスク評価が重要です。めまいや失神の既往、起立性低血圧の有無、歩行時のふらつきなどを評価し、安全な環境整備と行動指導を行います。
学習のニードでは疾患理解の促進と自己管理能力の向上を図ります。不整脈の種類、症状の意味、薬物の効果と副作用、緊急時の対応について継続的な教育を行います。
看護計画・介入の内容
- 心電図モニタリング:連続心電図監視、異常時の迅速な対応、医師への適切な報告
- バイタルサイン測定:定期的な血圧・脈拍測定、症状出現時の詳細な観察と記録
- 活動制限と指導:患者の状態に応じた活動レベルの設定、段階的な活動量増加の支援
- 薬物療法の管理:服薬指導、副作用の観察、血中濃度モニタリング(ジギタリスなど)
- 環境調整:転倒防止対策、夜間照明の確保、ナースコール設置の確認
- 心理的支援:不安軽減のための傾聴、疾患教育、家族への説明と協力体制構築
よくある疑問・Q&A
Q: 期外収縮は危険な不整脈ですか?
A: 健常者にも見られる比較的良性の不整脈です。器質的心疾患がなければ生命に危険はありませんが、頻発する場合や症状が強い場合は治療が必要になることがあります。ストレス、カフェイン、睡眠不足などが誘因となるため、生活習慣の見直しが重要ですね。
Q: 心房細動と心室細動の違いは何ですか?
A: 緊急度が全く異なります。心房細動は心房の不規則な興奮で、脈が不規則になりますが直ちに生命に危険はありません。一方、心室細動は心室の無秩序な興奮で心拍出が停止し、数分以内に死に至る致死的不整脈です。心室細動では直ちに除細動が必要になります。
Q: ペースメーカー植込み後の生活で注意することは?
A: 電磁波干渉に注意が必要です。MRI検査は基本的に禁忌(MRI対応機種を除く)、電気毛布や電磁調理器は適度な距離を保つ、携帯電話は植込み部位から15cm以上離す、空港の金属探知機は事前に申告するなどの注意点があります。定期的な外来受診も重要です。
Q: 抗凝固薬服用中の出血リスクはどう評価しますか?
A: 出血症状の早期発見が重要です。鼻出血、歯肉出血、皮下出血、黒色便、血尿などの症状に注意し、発見時は速やかに報告するよう指導します。また、外傷リスクの高い活動は避け、他科受診時は必ず抗凝固薬服用を伝えるよう説明しましょう。
Q: 不整脈の患者は運動を避けるべきですか?
A: 不整脈の種類により異なります。器質的心疾患のない期外収縮では運動制限は不要ですが、重篤な不整脈では運動負荷試験の結果に基づいて運動処方を決定します。一般的には症状が出現しない範囲での軽度から中等度の運動は推奨されており、個別の評価が重要です。
まとめ
不整脈は心臓の電気的興奮の異常により起こる多様な病態であり、良性のものから致死的なものまで幅広く存在します。看護師として重要なのは、患者の症状と心電図変化を正確に観察・評価し、緊急度を適切に判断することです。
特に心電図モニタリングの継続的な観察、血行動態への影響の評価、転倒・失神予防のための安全管理が看護の要点となります。また、患者が不整脈という疾患を正しく理解し、適切な自己管理と生活調整ができるよう継続的な教育と支援を行うことが重要です。
実習では不整脈の心電図波形の特徴を理解し、患者の訴える症状との関連を考察する習慣をつけましょう。また、緊急性の高い不整脈を見逃さない観察力と、患者の不安に寄り添う姿勢を大切にしてください。薬物療法から侵襲的治療まで治療選択肢が多様な疾患だからこそ、患者・家族の理解を深める教育的役割も重要になります。
この記事の執筆者

・看護師と保健師
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
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