【全身性エリテマトーデス(SLE)】疾患解説と看護の要点

疾患解説

疾患概要

定義

全身性エリテマトーデス(Systemic Lupus Erythematosus:SLE)は、自己免疫機序により全身の臓器・組織に炎症が生じる慢性の膠原病です。抗核抗体をはじめとする多彩な自己抗体が産生され、皮膚、関節、腎臓、中枢神経系、心血管系など全身の臓器が侵される疾患です。寛解と増悪を繰り返す慢性経過をたどり、女性に圧倒的に多いことが特徴です。適切な治療により長期予後の改善が期待できますが、重篤な臓器障害により生命に関わることもある重要な疾患です。

疫学

日本におけるSLEの有病率は人口10万人当たり約40-50人で、患者数は約6-7万人と推定されます。男女比は約1:9で女性に圧倒的に多く、特に妊娠可能年齢(20-40歳代)に好発します。発症年齢は20-30歳代がピークですが、小児期から高齢期まで幅広い年齢で発症します。人種差があり、アフリカ系、ヒスパニック系、アジア系で発症率が高く、白人では比較的低い傾向があります。近年、診断技術の向上と治療法の進歩により10年生存率は約90%まで改善していますが、腎症や中枢神経ループスなど重篤な臓器病変を伴う場合は予後に影響します。

原因

SLEの原因は完全には解明されていませんが、遺伝的素因環境因子の相互作用により発症すると考えられています。遺伝的要因ではHLA(ヒト白血球抗原)、補体欠損症免疫調節遺伝子の多型が関与します。環境因子としてウイルス感染(EBウイルス、サイトメガロウイルス)、紫外線曝露薬剤(プロカインアミド、ヒドララジン、抗TNF-α薬)、妊娠・出産ストレスなどが発症の誘因となります。ホルモン因子ではエストロゲンが病態を悪化させることが知られています。

病態生理

SLEの病態は自己免疫寛容の破綻により説明されます。アポトーシス細胞の処理異常により核内成分が抗原として提示され、抗核抗体抗DNA抗体抗Sm抗体などの自己抗体が産生されます。これらの自己抗体と抗原の免疫複合体が全身の臓器に沈着し、Ⅲ型アレルギー反応により組織傷害が生じます。Ⅰ型インターフェロンの過剰産生により自己抗体産生が促進され、B細胞の異常活性化T細胞の機能異常が病態を持続させます。補体系の活性化により炎症が増強され、血管炎糸球体腎炎漿膜炎などの多彩な臓器障害が生じます。


症状・診断・治療

症状

皮膚症状として特徴的な蝶形紅斑(頬部の紅斑)、円板状紅斑光線過敏症口腔内潰瘍が出現します。関節症状では多関節炎(手指、手関節、膝関節)を認めますが、関節破壊は稀です。腎症状(ループス腎炎)では蛋白尿血尿高血圧腎機能低下が生じ、重篤例では腎不全に至ります。中枢神経症状ではけいれん精神症状認知機能障害脳血管障害が出現します。心血管系症状では心膜炎弁膜症冠動脈疾患のリスクが高まります。血液症状では溶血性貧血血小板減少白血球減少を認めます。全身症状として発熱倦怠感体重減少リンパ節腫脹も認められます。

診断

診断は2019年EULAR/ACR分類基準に基づいて行われます。必須条件としてANA陽性(HEp-2細胞、1:80以上)があり、臨床項目免疫学的項目の合計スコアが10点以上でSLEと分類されます。重要な自己抗体として抗dsDNA抗体(疾患活動性と相関)、抗Sm抗体(SLE特異的)、抗SS-A/Ro抗体抗SS-B/La抗体抗リン脂質抗体があります。疾患活動性評価にはSLEDAI(SLE疾患活動性指標)、BILAG(英国アイルズループス評価グループ指標)が用いられます。臓器障害評価にはSLICC/ACR損傷指標が使用されます。

治療

治療はステロイド免疫抑制薬が中心となります。軽症例ではヒドロキシクロロキン低用量ステロイドを使用し、中等症以上ではプレドニゾロンを1mg/kg/日から開始し、症状改善後に漸減します。免疫抑制薬としてメトトレキサートミコフェノール酸モフェチルアザチオプリンシクロスポリンを使用します。重篤例ではステロイドパルス療法シクロホスファミドリツキシマブを考慮します。生物学的製剤としてベリムマブ(抗BLyS抗体)が使用可能です。ループス腎炎では寛解導入療法寛解維持療法を段階的に行います。支持療法として感染症予防、骨粗鬆症予防、心血管リスク管理、生活指導を行います。


看護アセスメント・介入

よくある看護診断・問題

  • 慢性疼痛:関節炎症に関連した持続的な関節痛
  • 感染リスク状態:免疫抑制治療による易感染性
  • ボディイメージの混乱:皮膚症状による外見の変化

ゴードン機能的健康パターン

健康知覚・健康管理パターンでは患者のSLEに対する理解度と自己管理能力を評価します。疾患活動性のセルフモニタリング、服薬アドヒアランス、感染予防行動、紫外線対策の実践状況を詳細に把握します。活動・運動パターンでは関節症状による活動制限、易疲労性の程度を評価し、日常生活動作への影響を確認します。認知・知覚パターンでは中枢神経ループスによる認知機能障害、気分変動、精神症状の有無を評価します。役割・関係パターンでは妊娠・出産への影響、職業継続の可能性、家族関係への影響を把握します。

ヘンダーソン14基本的ニード

清潔で健康な皮膚を維持し、衣服で身体を守るでは皮膚症状のケア、紫外線防護、適切なスキンケア方法を指導します。光線過敏症対策として日焼け止め、保護衣類、屋外活動時間の調整が重要です。安全で健康的な環境を維持し、他者に危険が及ばないようにするでは感染症予防対策を徹底し、免疫抑制状態を考慮した環境整備を行います。働くこと、達成感を得るでは疾患の特性を考慮した職業継続への支援、必要に応じた職場環境の調整を検討します。

看護計画・介入の内容

  • 疾患活動性の観察・管理:症状の変化の継続的モニタリング、疾患活動性指標の評価、増悪因子の特定と回避、定期受診の重要性説明、症状日記の記録支援
  • 薬物療法支援・副作用管理:ステロイドの適切な使用と副作用対策、免疫抑制薬の効果と注意事項説明、感染症の早期発見と対処、骨粗鬆症予防対策、血糖値管理
  • 生活指導・セルフケア支援:紫外線対策の徹底指導、適度な運動と休息のバランス、ストレス管理技法の指導、妊娠・出産に関する相談支援、社会資源の活用

よくある疑問・Q&A

Q: SLEは治る病気ですか?普通の生活を送ることはできますか?

A: SLEは現在のところ完治は困難な慢性疾患ですが、適切な治療により症状をコントロールして普通の生活を送ることは十分可能です。10年生存率は約90%まで改善しており、多くの患者さんが就労、結婚、妊娠・出産を経験しています。重要なのは早期診断・早期治療継続的な管理です。寛解状態(症状が落ち着いた状態)を維持することで、臓器障害の進行を防ぎ、生活の質を保つことができます。定期的な医療機関受診と適切な薬物療法により、病気とうまく付き合いながら充実した人生を送っている方も多くいます。

Q: ステロイドの副作用が心配です。長期間使用しても大丈夫でしょうか?

A: ステロイドは確かに副作用がありますが、SLEの治療には不可欠で、適切な管理により副作用を最小限に抑えることができます。主な副作用は感染症骨粗鬆症糖尿病高血圧白内障・緑内障ムーンフェイスなどです。予防策として感染症対策の徹底カルシウム・ビタミンD補充血糖・血圧管理定期的な眼科検診を行います。治療目標は必要最小限の用量で症状をコントロールすることで、症状改善後は段階的に減量していきます。免疫抑制薬との併用により、ステロイドの減量・中止が可能な場合もあります。

Q: 妊娠・出産は可能ですか?気をつけることはありますか?

A: SLEがあっても妊娠・出産は可能ですが、事前の計画と専門医の管理が重要です。妊娠前には疾患活動性を安定化させ、催奇形性のある薬剤(メトトレキサート、ミコフェノール酸モフェチル)を妊娠可能な薬剤に変更します。妊娠中は疾患活動性の変化、妊娠高血圧症候群血栓症のリスクが高まるため、産科と膠原病科の連携による管理が必要です。抗SS-A/Ro抗体陽性の場合は新生児ループス(先天性房室ブロック)のリスクがあります。適切な管理により多くの患者さんが安全に出産しており、授乳も可能な薬剤を選択することで継続できます。

Q: 日常生活で気をつけることはありますか?感染症予防はどうすればよいですか?

A: 紫外線対策が最も重要で、SPF30以上の日焼け止めを使用し、帽子、長袖、サングラスで皮膚を保護してください。屋外活動は紫外線の強い時間帯(10-14時)を避けます。感染症予防では手洗い・うがいの徹底マスク着用人混みを避ける十分な睡眠バランスの取れた食事を心がけます。予防接種では不活化ワクチンは推奨されますが、生ワクチンは免疫抑制中は避けます。ストレス管理も重要で、規則正しい生活適度な運動リラクゼーションにより増悪を予防できます。禁煙も心血管リスク軽減のために重要です。


まとめ

全身性エリテマトーデス(SLE)は自己免疫機序による全身性炎症疾患として、患者さんの人生に長期間にわたって影響を与える慢性疾患です。しかし、医療技術の進歩により予後は大幅に改善し、適切な管理のもとで充実した社会生活を送ることが可能な疾患となっています。

看護の要点は疾患活動性の継続的観察包括的なセルフケア支援です。SLEは寛解と増悪を繰り返す疾患であるため、患者さん自身が症状の変化を早期に発見し、適切に対応できるよう支援することが重要です。症状日記の記録疾患活動性の自己評価により、患者さんの自己管理能力を向上させることができます。

薬物療法の支援では、ステロイドや免疫抑制薬の効果と副作用について十分説明し、患者さんが安心して治療を継続できるよう支援します。特に感染症予防は生命に関わる重要な課題であり、具体的で実践可能な予防策を指導することが大切です。

生活指導では、紫外線対策ストレス管理適度な運動など、疾患の特性を考慮した生活習慣の改善を支援します。妊娠・出産を希望する患者さんには、専門的な情報提供と支援体制の整備が重要です。

心理社会的支援では、慢性疾患を抱えることによる不安、将来への心配、外見の変化への困惑などに共感的に対応し、患者さんが前向きに疾患と向き合えるよう支援することが重要です。ピアサポート患者会の活用により、同じ疾患を持つ仲間との交流を促進することも効果的です。

家族教育も重要な看護の視点です。家族の理解と協力は患者さんの療養生活に大きく影響するため、疾患の特徴、治療の必要性、日常生活での注意点について説明し、支援的な家族関係の構築を促進します。

実習では患者さんの個別性を重視し、疾患の進行段階、臓器病変の有無、年齢、生活背景などを総合的に評価することが重要です。SLEは複雑で多様な症状を呈する疾患ですが、適切な理解と支援により多くの患者さんがその人らしい生活を継続しています。希望を持って治療に取り組めるよう、患者さんとその家族を支援し、質の高い人生の実現に向けて包括的なケアを提供していきましょう。


この記事の執筆者

なっちゃん
なっちゃん

・看護師と保健師
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり


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