【先天性心疾患】疾患解説と看護の要点

小児

疾患概要

定義

先天性心疾患(Congenital Heart Disease:CHD)は、胎生期の心血管発生異常により生じる心臓および大血管の構造的異常です。心房中隔欠損症心室中隔欠損症動脈管開存症ファロー四徴症左心房心症候群など多様な病型があります。チアノーゼ性非チアノーゼ性単純型複雑型に分類され、重症度や予後は疾患により大きく異なります。多くは外科的治療カテーテル治療により根治または姑息的治療が可能ですが、生涯にわたる医学的管理が必要な疾患です。

疫学

先天性心疾患の発生頻度は出生1000人当たり約8-10人で、最も頻度の高い先天異常の一つです。心室中隔欠損症が最多(約30%)で、次いで心房中隔欠損症(約10%)、動脈管開存症(約7%)の順となります。ファロー四徴症は最も頻度の高いチアノーゼ性心疾患(約3-5%)です。男女比は疾患により異なり、動脈管開存症心房中隔欠損症は女児に多く、大血管転位左心房心症候群は男児に多い傾向があります。近年、胎児診断の普及により出生前診断率が向上し、計画的な周産期管理が可能となっています。

原因

先天性心疾患の原因は多因子性で、遺伝的要因環境要因の相互作用により発症します。遺伝的要因では染色体異常(ダウン症、ターナー症候群、22q11.2欠失症候群)、単一遺伝子異常多遺伝子要因が関与します。環境要因では母体の感染症(風疹、サイトメガロウイルス)、薬物(リチウム、抗てんかん薬)、アルコール糖尿病放射線被曝などが心血管発生に影響します。胎生期の心血管発生は妊娠3-8週の器官形成期に起こり、この時期の異常が先天性心疾患の原因となります。家族歴がある場合の再発率は約2-10%と一般人口より高くなります。

病態生理

先天性心疾患の病態は血行動態の異常により説明されます。左右短絡(心房・心室中隔欠損、動脈管開存)では肺血流増加により肺高血圧心不全を生じます。右左短絡(ファロー四徴症、単心室)ではチアノーゼ多血症血栓塞栓症のリスクが高まります。流出路狭窄(肺動脈狭窄、大動脈狭窄)では圧負荷により心肥大が生じ、重症例では心不全に至ります。複雑心奇形では単心室循環肺動脈閉鎖など、正常な二心室循環が不可能な状態となり、段階的外科治療(フォンタン循環など)が必要となります。アイゼンメンガー症候群では長期間の左右短絡により不可逆的肺高血圧が生じます。


症状・診断・治療

症状

症状は病型重症度により大きく異なります。新生児期・乳児期では哺乳困難体重増加不良多呼吸易疲労性発汗過多反復性呼吸器感染症が主症状となります。チアノーゼ性心疾患では中心性チアノーゼばち指蹲踞(しゃがみ込み)、無酸素発作を認めます。心不全症状では呼吸困難浮腫肝腫大頸静脈怒張が出現します。学童期以降では運動耐容能低下易疲労性失神胸痛動悸を認めることがあります。聴診所見では心雑音II音分裂ギャロップ音などの特徴的所見を聴取します。発育・発達では体重増加不良身長・体重の成長遅延精神運動発達遅延を認めることがあります。

診断

診断は身体所見胸部X線心電図心エコー検査を中心に行われます。心エコー検査非侵襲的確定診断に最も重要な検査です。胸部X線では心拡大肺血管影の変化、肺血流の増減を評価します。心電図では軸偏位心房・心室負荷不整脈を検出します。心臓カテーテル検査では血行動態の詳細評価肺血管抵抗測定治療方針決定を行います。CT・MRIでは三次元的構造評価血管走行心機能評価が可能です。胎児診断では妊娠18-22週の胎児心エコーにより出生前診断が可能です。遺伝学的検査では染色体検査遺伝子解析により原因遺伝子を特定します。

治療

治療は内科的治療外科的治療カテーテル治療を組み合わせて行います。内科的治療では心不全治療(利尿薬、ACE阻害薬、ジギタリス)、不整脈治療感染症予防を行います。外科的治療では根治手術(完全修復)と姑息手術(段階的治療)があり、手術時期は病型と重症度により決定されます。カテーテル治療ではバルーン拡張術(弁狭窄、血管狭窄)、コイル塞栓術(動脈管開存)、デバイス閉鎖術(心房・心室中隔欠損)が行われます。フォンタン手術単心室循環に対する姑息手術で、段階的アプローチ(ノーウッド手術→グレン手術→フォンタン手術)により行われます。心移植左心房心症候群拡張型心筋症など、他に治療選択肢がない場合に考慮されます。


看護アセスメント・介入

よくある看護診断・問題

  • 心拍出量減少:先天性心構造異常による循環血液量減少
  • 活動耐性低下:心機能低下による身体活動制限
  • 成長発達の変調:慢性的な心不全による身体発育・精神発達の遅延

ゴードン機能的健康パターン

循環・呼吸パターンでは心拍数、血圧、酸素飽和度、呼吸数、チアノーゼの有無を継続的にアセスメントします。栄養・代謝パターンでは哺乳量、摂食量、体重増加、成長曲線、水分バランスを詳細に評価します。活動・運動パターンでは運動耐容能、易疲労性、日常生活動作の制限程度を把握します。認知・知覚パターンでは発達段階、精神運動発達、学習能力への影響を評価し、対処・ストレス耐性パターンでは患児・家族の疾患受容、将来への不安、心理的負担を把握します。

ヘンダーソン14基本的ニード

正常な循環を維持するでは循環動態の安定化、心拍出量の最適化、不整脈の予防・早期発見が最優先となります。食べる・飲むでは心疾患による哺乳・摂食困難に対して、少量頻回授乳、高カロリー食品の活用、経管栄養の検討を行います。身体の位置を動かし、望ましい肢位を保持するでは心負荷を軽減する体位(半座位、側臥位)の指導を行います。学習するでは年齢に応じた疾患教育、生活指導、将来への準備について支援します。

看護計画・介入の内容

  • 循環・呼吸管理:バイタルサイン連続モニタリング、酸素飽和度測定、心電図監視、チアノーゼ・浮腫の観察、心不全症状の早期発見、水分出納バランス管理
  • 栄養・発育支援:哺乳・摂食状況の詳細評価、体重測定と成長曲線記録、高カロリー・高蛋白栄養の提供、摂食困難への対応、必要に応じた経管栄養管理
  • 発達支援・家族ケア:発達段階に応じた刺激提供、遊び・学習活動の調整、手術前後の心理的準備、家族の心理的支援、退院後の生活指導、長期フォローアップの重要性説明

よくある疑問・Q&A

Q: 先天性心疾患は手術で完全に治りますか?普通の生活を送れるようになりますか?

A: 先天性心疾患の予後は病型により大きく異なりますが、多くの疾患で手術により大幅な改善が期待できます。単純な欠損(心房・心室中隔欠損、動脈管開存)では完全修復が可能で、術後は正常な生活を送ることができます。複雑心奇形でも段階的手術により機能的修復が可能で、就学・就労・結婚・出産を経験している方も多くいます。ただし、生涯にわたる医学的管理(定期受診、内服薬、感染症予防、運動制限)が必要な場合もあります。現在の医療技術では95%以上のお子さんが成人期に到達し、充実した社会生活を送ることが可能です。重要なのは継続的な医学的管理適切な生活指導です。

Q: 手術のリスクはどの程度ですか?いつ頃手術を受けるのが良いでしょうか?

A: 手術リスクは病型、重症度、年齢、全身状態により異なりますが、現在の小児心臓外科では死亡率は1-5%程度まで改善しています。単純な修復術では1%未満、複雑心奇形でも5-10%程度です。手術時期は①自然治癒の可能性、②症状の程度、③合併症のリスク、④手術の安全性を総合的に判断して決定されます。心不全症状肺高血圧の進行がある場合は早期手術が必要で、症状が軽微な場合は待機的手術が選択されます。乳児期早期(生後6ヶ月以内)の手術では体重増加全身状態の安定を図ってから行うことが多く、学童期以降では学校生活への影響も考慮して時期を決定します。

Q: 日常生活で気をつけることはありますか?運動や学校生活に制限はありますか?

A: 日常生活での注意点は疾患の種類と重症度により異なります。共通する注意点として、①感染症予防(手洗い、うがい、予防接種、歯科衛生)、②適切な栄養摂取、③規則正しい生活、④定期受診の継続が重要です。運動制限は個別に判断され、軽症例では制限なし中等症では軽い運動のみ重症例では日常生活程度に制限されます。学校生活では①体育参加の可否、②修学旅行・宿泊行事の参加、③緊急時の対応について学校と事前に相談します。就職・結婚・妊娠についても医師と相談しながら計画を立てることで、多くの方が希望を実現しています。

Q: 兄弟姉妹にも同じ病気が遺伝する可能性はありますか?

A: 先天性心疾患の再発率は一般人口(約1%)より高く、同胞での再発率は約2-10%とされています。単純な欠損では2-3%程度、複雑心奇形では5-10%程度の再発率です。染色体異常(ダウン症など)が原因の場合はより高い再発率となります。遺伝カウンセリングにより再発リスクの評価遺伝学的検査の適応、胎児診断の可能性について相談できます。次子妊娠時には妊娠18-22週での胎児心エコーによる出生前診断が可能で、計画的な周産期管理によりより良い予後が期待できます。家族計画については医師や遺伝カウンセラーと十分相談し、正確な情報に基づいて決定することが重要です。再発したとしても現在の医療技術により良好な予後が期待できることも多いです。


まとめ

先天性心疾患は胎生期の心血管発生異常により生じる多様な疾患群として、患児とその家族の人生に大きな影響を与えます。しかし、医療技術の著しい進歩により予後は大幅に改善し、95%以上の患児が成人期に到達し、充実した社会生活を送ることが可能な疾患となっています。

看護の要点は包括的な循環管理発達支援です。循環動態の継続的観察により心不全や不整脈の早期発見を行い、適切なタイミングでの医学的介入を支援することが重要です。チアノーゼ、浮腫、呼吸困難などの症状変化を見逃さず、患児の状態に応じた個別的なケアを提供することが求められます。

栄養・発育支援では、心疾患による哺乳・摂食困難体重増加不良に対して、高カロリー栄養の提供、少量頻回授乳経管栄養の検討など、患児の状態に応じた個別的な栄養管理を行います。成長曲線の継続的な評価により発育状況を把握し、必要に応じて栄養方法を調整することが重要です。

手術前後のケアでは、術前の心理的準備術後の循環管理合併症の予防と早期発見が重要となります。特に小児の発達段階を考慮した年齢に応じた説明心理的支援により、患児と家族が安心して治療を受けられるよう支援することが大切です。

発達支援では、慢性疾患による活動制限入院生活将来への不安などが患児の精神運動発達に与える影響を最小限に抑えるため、発達段階に応じた刺激提供遊び・学習活動同年代との交流を促進します。

家族支援は先天性心疾患看護の重要な要素です。診断時のショック手術への不安将来への心配経済的負担など、家族が抱える多様な問題に包括的に対応し、正確な情報提供継続的な励ましにより、家族が希望を持って治療に取り組めるよう支援します。

長期フォローアップでは、成人期への移行を見据えた自己管理能力の育成社会復帰支援妊娠・出産・就労に関する相談支援を行います。成人先天性心疾患(ACHD)として生涯にわたる医学的管理が必要な場合も多く、継続的な医療チームとの連携が重要です。

実習では患児の個別性発達段階を重視し、その子らしい成長を支援する視点が重要です。先天性心疾患は確かに重篤な疾患ですが、適切な治療により多くの患児が普通の子どもとして成長し、社会で活躍しています。希望を持って治療に取り組めるよう、患児とその家族を支援し、その子らしい豊かな人生の実現に向けて包括的なケアを提供していきましょう。医療技術の進歩とともに、先天性心疾患を持つ子どもたちの未来はより明るくなっていることを忘れずに、前向きな看護を提供することが大切です。


この記事の執筆者

なっちゃん
なっちゃん

・看護師と保健師
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり


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