【炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎・クローン病)】疾患解説と看護の要点

消化器

疾患概要

定義

炎症性腸疾患(IBD:Inflammatory Bowel Disease)は、腸管に慢性的な炎症を起こす原因不明の疾患群で、主に潰瘍性大腸炎(UC:Ulcerative Colitis)クローン病(CD:Crohn’s Disease)があります。どちらも若年者に好発し、寛解と再燃を繰り返す慢性疾患で、患者のQOLに大きな影響を与える難病です。完治は困難ですが、適切な治療により症状をコントロールし、日常生活を維持することが可能です。

疫学

日本では潰瘍性大腸炎の患者数は約22万人、クローン病は約7万人で、両疾患とも増加傾向にあります。潰瘍性大腸炎は20-30歳代と50-60歳代に発症のピークがあり、男女差はほとんどありません。クローン病は10-20歳代の若年者に多く、男性がやや多い傾向があります。欧米に比べて日本では発症率が低いものの、食生活の欧米化により増加が懸念されています。

原因

両疾患とも多因子性の疾患で、遺伝的素因、環境因子、免疫異常が複雑に関与していると考えられています。遺伝的素因では、家族歴を有する患者が10-15%存在し、特定の遺伝子変異が関与しています。環境因子として、食生活の変化(高脂肪・低食物繊維食)、喫煙、感染症、ストレスなどが挙げられます。喫煙は興味深いことに、潰瘍性大腸炎では予防的に働き、クローン病では悪化因子となります。

病態生理

両疾患とも腸管粘膜における異常な免疫反応が病態の中心です。正常では腸管は腸内細菌や食物抗原に対して適切な免疫寛容を示しますが、IBDでは遺伝的素因を持つ個体において、環境因子の刺激により異常な炎症反応が惹起されます。

潰瘍性大腸炎では、大腸粘膜に限局した炎症が生じ、びまん性・連続性に病変が拡がります。炎症は粘膜表層から始まり、深層への進展は限定的です。主にTh2細胞とTh17細胞が関与し、好中球浸潤が特徴的です。

クローン病では、口腔から肛門まで消化管全域に非連続性・区域性の炎症が生じます。炎症は全層性(粘膜から漿膜まで)で、Th1細胞とTh17細胞が主体となり、マクロファージや類上皮細胞からなる肉芽腫形成が特徴的です。


症状・診断・治療

症状

潰瘍性大腸炎の主症状は血便・粘血便、下痢、腹痛です。病変が直腸から連続的に拡がるため、血便が高頻度で見られるのが特徴です。重症例では1日10回以上の血性下痢、発熱、体重減少、貧血を呈します。腸管外症状として関節炎、皮膚症状(結節性紅斑、壊疽性膿皮症)、眼症状(虹彩炎)、肝胆道系障害が約20%の患者に見られます。

クローン病では下痢、腹痛、体重減少が三大症状です。血便は潰瘍性大腸炎ほど頻繁ではありませんが、発熱や栄養障害がより目立ちます。小腸病変による吸収不良や、全層性炎症による合併症(狭窄、穿孔、瘻孔形成)が特徴的です。肛門部病変(痔瘻、肛門潰瘍)も高頻度で見られ、しばしば初発症状となります。

診断

診断は臨床症状、血液検査、画像検査、内視鏡検査、病理組織検査を総合して行います。血液検査では炎症マーカー(CRP、ESR)の上昇、貧血、低蛋白血症、栄養障害を確認します。便中カルプロテクチンは腸管炎症の活動性評価に有用です。

内視鏡検査が最も重要で、潰瘍性大腸炎では直腸から連続的な発赤、びらん、潰瘍形成を認めます。クローン病では縦走潰瘍、敷石像、非連続性病変が特徴的です。小腸病変の評価にはカプセル内視鏡やバルーン内視鏡が用いられます。

画像検査では、CTやMRIで腸管壁肥厚、膿瘍、瘻孔の評価を行います。小腸造影検査は狭窄の評価に有用です。

治療

潰瘍性大腸炎の治療は病変範囲と重症度に応じて選択します。軽症から中等症では5-ASA製剤(メサラジン)が第一選択で、直腸型では局所製剤(注腸、坐剤)、全大腸型では経口薬を使用します。ステロイド抵抗性や依存性の場合は、免疫調節薬(アザチオプリン、シクロスポリン)や生物学的製剤(抗TNF-α抗体、抗IL-12/23抗体)を導入します。

クローン病では病型(炎症型、狭窄型、瘻孔型)に応じた治療を行います。炎症型では5-ASA製剤、ステロイド、免疫調節薬、生物学的製剤を使用します。狭窄型では内視鏡的バルーン拡張術や外科的治療、瘻孔型では抗菌薬や外科的治療が検討されます。

両疾患とも栄養療法が重要で、特にクローン病では成分栄養剤による栄養療法が炎症の改善に有効です。重症例や合併症例では外科的治療が必要となることもあります。


看護アセスメント・介入

よくある看護診断・問題

  • 下痢(炎症による腸管蠕動亢進と吸収障害)
  • 栄養摂取消費バランス異常(下痢、食事制限、栄養吸収障害による栄養不良)
  • 皮膚統合性障害リスク状態(頻回な下痢による肛門周囲皮膚の損傷リスク)

ゴードン機能的健康パターン

栄養代謝パターンが最も重要なアセスメント領域です。食事摂取量、体重変化、血液検査データ(Alb、総蛋白、電解質、ビタミン)を継続的に評価し、栄養状態を把握します。特にクローン病では小腸病変による吸収不良や瘻孔からの喪失により、重篤な栄養障害を来しやすいため注意が必要です。

排泄パターンでは、排便回数、便性状(血液、粘液、膿の有無)、腹痛の程度と排便との関係を詳細に観察します。排便日誌をつけることで、病気の活動性や治療効果の評価が可能になります。

活動・運動パターンでは、貧血や栄養不良による易疲労性、腹痛による活動制限を評価します。また、ステロイド長期使用による骨密度低下や筋力低下にも注意が必要です。

ヘンダーソン14基本的ニード

食べる・飲むニードでは、食事制限や食欲不振による栄養摂取不足を評価します。患者個々の症状誘発食品を把握し、個別化した食事指導が必要です。成分栄養剤使用時は、味や温度の工夫により継続性を高めることが重要です。

正常に排泄するニードでは、頻回な下痢による脱水や電解質異常のリスクを評価します。排便前後の腹痛、便失禁の有無、肛門周囲の皮膚状態を継続的に観察し、適切なスキンケアを提供します。

清潔で衣服を調整するニードでは、下痢による皮膚汚染や臭気への対応が必要です。患者の羞恥心に配慮しながら、清潔保持と皮膚保護を支援します。

看護計画・介入の内容

  • 排便管理:排便日誌の記録指導、便性状の観察、腹痛の評価、脱水予防のための水分管理、電解質バランスの監視
  • 栄養管理:体重・食事摂取量の記録、血液検査データの評価、個別化された食事指導、成分栄養剤の服薬指導と副作用観察
  • 皮膚ケア:肛門周囲の皮膚保護(保護クリーム使用、清拭方法の指導)、皮膚トラブルの早期発見と対応、適切な下着・衣類の選択指導

よくある疑問・Q&A

Q: 潰瘍性大腸炎とクローン病の違いを簡単に教えてください

A: 病変部位が大きな違いです。潰瘍性大腸炎は大腸のみに連続的に病変があり、血便が特徴的です。クローン病は口から肛門まで消化管全域に飛び飛びで病変があり、腹痛と栄養障害が目立ちます。また、潰瘍性大腸炎は粘膜表層の炎症ですが、クローン病は腸管壁全層の炎症で瘻孔や狭窄を起こしやすいのが特徴です。

Q: なぜこの病気の患者さんは食事制限が多いのですか?

A: 特定の食品が症状を悪化させることがあるためです。しかし、食事が原因で病気になるわけではありません。脂肪の多い食事、香辛料、アルコール、食物繊維の多い食品などが症状を誘発することがありますが、個人差が大きいため、患者さん自身が症状誘発食品を見つけることが重要です。

Q: 薬を飲み続ける必要があるのはなぜですか?

A: IBDは寛解と再燃を繰り返す慢性疾患だからです。症状が落ち着いても炎症は完全には治まっておらず、薬を中断すると再燃のリスクが高くなります。寛解期の治療(維持療法)により、再燃を予防し、長期的な腸管損傷を防ぐことができます。自己判断での中断は絶対に避けるよう指導が必要です。

Q: ストレスは病気に影響しますか?

A: ストレスは直接的な原因ではありませんが、症状悪化の誘因となることがあります。ストレスにより免疫機能や腸管運動に影響を与え、炎症が悪化する可能性があります。ストレス管理として、十分な睡眠、適度な運動、リラクゼーション法の実践が推奨されます。心理的サポートも重要な治療の一部です。

Q: 妊娠・出産はできますか?

A: 寛解期であれば妊娠・出産は可能です。むしろ活動期での妊娠の方がリスクが高いため、寛解を維持した状態で妊娠を計画することが重要です。妊娠中も安全に使用できる薬剤があるため、医師と相談しながら治療を継続します。妊娠により症状が改善することもあります。


まとめ

炎症性腸疾患は若年者に発症する慢性疾患で、患者の人生設計や社会復帰に大きな影響を与えるため、医学的治療だけでなく心理社会的支援が不可欠です。看護の要点は症状の継続的なモニタリング患者教育であり、特に服薬アドヒアランスの向上、栄養管理、ストレス管理への支援が重要となります。

病気受容の支援も重要な看護介入で、診断されたばかりの患者は将来への不安や絶望感を抱くことが多いため、正しい疾患理解希望を持てる情報提供が必要です。同病者との交流や患者会の紹介も有効です。

実習では、患者の排便パターンや栄養状態の変化を敏感に察知し、根拠に基づいた個別性のある看護を実践することで、患者のQOL向上に貢献できるよう心がけましょう。また、プライバシーへの配慮羞恥心への理解を忘れずに、温かく支援的な関わりを持つことが大切です。


この記事の執筆者

なっちゃん
なっちゃん

・看護師と保健師
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり


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