【カンジダ症】疾患解説と看護の要点

感染症・免疫

疾患概要

定義

カンジダ症は、カンジダ属真菌による感染症です。カンジダは通常、健康な人の皮膚、口腔、腸管、膣などに常在菌として存在していますが、免疫力の低下や菌叢バランスの崩れにより病原性を発揮し、様々な部位で感染症を引き起こします。表在性カンジダ症(皮膚・粘膜感染)と深在性カンジダ症(内臓感染)に大別され、軽症から生命に関わる重篤な感染まで幅広い病態を示します。特に免疫不全患者、高齢者、ICU患者では重篤な全身感染のリスクが高い疾患ですね。

疫学

表在性カンジダ症は非常に頻度が高く、特に女性の膣カンジダ症は約75%が生涯に一度は経験するとされています。口腔カンジダ症は免疫不全患者や高齢者に多く見られます。

深在性カンジダ症は院内感染症として重要で、ICU患者の約10~15%に発症し、血流感染症の約15%を占めます。死亡率は30~40%と高く、早期診断・早期治療が極めて重要です。

カンジダ・アルビカンスが最も多い原因菌ですが、近年はC.グラブラータ、C.パラプシローシス、C.トロピカリスなどの非アルビカンス系カンジダも増加傾向にあります。これらは抗真菌薬への耐性を示すことが多く、治療上の問題となっています。

原因

免疫力の低下が最も重要な発症要因です。糖尿病、悪性腫瘍、HIV感染、臓器移植後の免疫抑制薬使用、長期ステロイド使用などにより発症リスクが高まります。

抗菌薬の長期使用により正常細菌叢が破綻し、カンジダが異常増殖することがあります。特に広域スペクトラム抗菌薬の使用は高リスクとされています。

医療デバイス関連感染として、中心静脈カテーテル、尿道カテーテル、人工呼吸器などの留置により感染リスクが上昇します。手術長期入院ICU滞在なども重要な危険因子となります。

その他の要因として、妊娠経口避妊薬の使用湿潤環境(多汗、失禁など)、皮膚の損傷栄養不良などが挙げられます。

病態生理

カンジダは日和見感染菌として、宿主の免疫力低下時に病原性を発揮します。通常は上皮細胞に付着した酵母形で存在しますが、病原性を発揮する際は菌糸形に変化し、組織侵入能が増強されます。

表在性感染では、皮膚・粘膜のバリア機能の低下により感染が成立します。深在性感染では、消化管からの菌の侵入、血管内デバイスからの感染、血行性播種などにより全身に拡散します。

カンジダはバイオフィルムを形成する能力があり、これにより抗真菌薬に対する耐性が増強され、治療を困難にします。また、フェノタイプスイッチングにより表現型を変化させ、宿主免疫から逃避する能力も持っています。

炎症反応によりサイトカインの産生が誘導され、発熱、白血球増多などの全身症状が現れます。重篤な場合は敗血症性ショックに至ることもあります。


症状・診断・治療

症状

口腔カンジダ症では、舌や口腔粘膜に白色の偽膜(拭き取ると発赤びらん面が露出)が形成されます。疼痛、嚥下困難、味覚異常などを伴うことがあります。萎縮性カンジダ症では粘膜の発赤と萎縮が主体となります。

皮膚カンジダ症は、間擦部位(腋窩、鼠径部、乳房下部など)に好発し、境界明瞭な紅斑周囲の小丘疹・小水疱が特徴的です。強いかゆみと灼熱感を伴います。

膣カンジダ症では、外陰部のかゆみ白色のおりもの(カッテージチーズ様)、排尿時痛性交痛などが現れます。外陰部の発赤、腫脹、亀裂を認めることもあります。

深在性カンジダ症では、発熱悪寒血圧低下などの敗血症症状が主体となります。眼内炎(視力障害)、心内膜炎(心雑音)、髄膜炎(頭痛、項部硬直)、腹膜炎(腹痛)など、感染部位に応じた症状が現れます。

診断

表在性カンジダ症では、顕微鏡検査(KOH直接鏡検)により酵母様細胞と仮性菌糸を確認します。培養検査により菌種の同定と薬剤感受性を調べます。

深在性カンジダ症の診断は困難で、血液培養が確定診断となりますが陽性率は50%程度と低いです。β-D-グルカンカンジダ抗原(マンナン抗原)、カンジダ抗体などの血清学的検査が補助診断に用いられます。

画像検査では、CTで肝脾の小結節影(hepatosplenic candidiasis)、眼底検査で網膜の白色病変(眼内炎)などを認めることがあります。

リスクスコアとして、カンジダスコアが開発されており、発熱、中心静脈カテーテル、抗菌薬使用、手術、多臓器不全などの項目により感染リスクを評価します。

治療

表在性カンジダ症では、アゾール系抗真菌薬の外用薬が第一選択です。口腔カンジダ症にはミコナゾールゲル、皮膚カンジダ症にはイミダゾール系外用薬、膣カンジダ症には膣錠や内服薬を使用します。

深在性カンジダ症では、エキノカンディン系(ミカファンギン、カスポファンギンなど)が第一選択となります。重篤例や中枢神経感染ではアムホテリシンB、軽症例ではフルコナゾールも使用されます。

カテーテル関連感染では、可能な限りカテーテルの抜去を行います。抜去困難な場合は、抗真菌薬ロック療法を併用することがあります。

治療期間は感染部位と重症度により異なりますが、血流感染では培養陰性化後14日間、播種性感染では4~6週間の治療が推奨されます。予防的抗真菌薬投与は、高リスク患者において考慮されます。


看護アセスメント・介入

よくある看護診断・問題

  • 感染
  • 皮膚統合性の障害
  • 口腔粘膜の変調
  • 疼痛
  • 感染拡大のリスク状態

ゴードン機能的健康パターン

栄養-代謝パターンでは、口腔カンジダ症による摂食困難が重要な問題となります。疼痛や味覚異常により食事摂取量が減少し、栄養状態の悪化が感染の遷延化を招く悪循環を形成します。また、血糖コントロール不良はカンジダ感染のリスク因子となるため、糖尿病患者では特に注意が必要です。

排泄パターンでは、尿道カテーテル関連感染のリスクアセスメントが重要です。カテーテル留置期間、尿の性状、会陰部の清潔状態などを評価し、感染予防策を講じます。また、失禁による湿潤環境は皮膚カンジダ症のリスクとなります。

認知-知覚パターンでは、皮膚・粘膜のかゆみや疼痛が患者さんのQOLに大きく影響します。特に外陰部カンジダ症では強いかゆみにより睡眠障害や集中力低下を来すことがあります。

ヘンダーソン14基本的ニード

身体の清潔と身だしなみを整えるにおいて、適切なスキンケアが感染予防と治療の基本となります。特に間擦部位の清潔と乾燥保持、会陰部の清拭方法(前から後へ)の指導が重要です。

適切な飲食では、口腔カンジダ症患者の食事支援が必要です。刺激の少ない食品の選択、適切な温度での提供、口腔ケアのタイミングなどを個別に調整します。

正常な排泄において、カテーテル管理による感染予防が重要です。不要なカテーテルの早期抜去、閉鎖式システムの維持、適切な固定と清潔管理を徹底します。

看護計画・介入の内容

  • 感染予防策の実施:手指衛生の徹底、適切な清潔ケア、カテーテル等の医療器具の適正管理を行う
  • 皮膚・粘膜の観察:感染部位の状態を定期的に観察し、症状の変化や治療効果を評価する
  • 口腔ケアの実施:口腔カンジダ症の予防・治療のため、適切な口腔清拭と抗真菌薬の使用を行う
  • 環境調整:湿潤環境を避け、清潔で乾燥した環境を維持する
  • 薬物療法の管理:抗真菌薬の適切な投与と副作用の観察を行う

よくある疑問・Q&A

Q: 口腔カンジダ症の患者さんの口腔ケアで注意すべき点は?

A: 優しく丁寧に行うことが最も重要です。偽膜を無理に除去しようとすると出血や疼痛が増強するため、軟らかい歯ブラシやスポンジブラシを使用します。うがいには生理食塩水や重曹水を用い、アルコール系は刺激が強いため避けます。抗真菌薬の口腔用ゲルは食後に塗布し、一定時間口に含んでから嚥下または吐き出すよう指導します。

Q: 皮膚カンジダ症の患者さんのスキンケアはどのように行いますか?

A: 清潔と乾燥の維持が基本です。ぬるま湯での洗浄後、清潔なタオルで押し当てるように水分を除去します(擦らない)。間擦部位はガーゼやタオルで隔離し、通気性を保ちます。外用薬は清潔な手指で薄く塗布し、病変部位よりやや広範囲に塗布します。綿の下着の着用ゆったりとした衣類の選択も指導します。

Q: カテーテル関連カンジダ感染の予防で最も重要なことは?

A: 不要なカテーテルの早期抜去が最重要です。カテーテル留置の必要性を毎日評価し、適応がなくなれば速やかに抜去します。留置が必要な場合は、閉鎖式システムの維持適切な固定挿入部の清潔管理を徹底します。特に中心静脈カテーテルでは最大限無菌操作での管理が必要で、不必要な開放は避けるべきです。

Q: 深在性カンジダ症が疑われる患者さんの観察ポイントは?

A: 発熱パターンの変化が重要です。抗菌薬治療中にも関わらず発熱が持続する場合、カンジダ感染を疑います。眼症状(視力低下、飛蚊症)、皮膚病変(結節、膿疱)、心雑音の出現なども重要なサインです。血液検査ではβ-D-グルカンの上昇血液培養の結果に注意し、複数回の血液培養採取が診断に重要となります。

Q: 膣カンジダ症の患者さんへの生活指導で重要な点は?

A: 清潔で乾燥した環境の維持が最重要です。綿の下着の着用きつい衣類の避ける入浴後の十分な乾燥を指導します。会陰部の清拭は前から後へ行い、石鹸の過度な使用は避けるよう説明します。パートナーとの同時治療の必要性についても説明し、治療期間中の性交渉の制限についても指導します。再発予防のため免疫力の維持(十分な睡眠、バランスの良い食事)も重要ですね。


まとめ

カンジダ症は日和見感染として、免疫力低下時に様々な部位で感染を引き起こす疾患です。表在性感染から深在性感染まで幅広い病態を示し、特に深在性カンジダ症は生命に関わる重篤な感染症となります。

看護の要点として、感染予防の徹底早期発見のための観察適切なスキンケア環境調整が挙げられます。特に医療関連感染の予防は看護師の重要な役割であり、カテーテル管理や手指衛生の徹底が感染予防に直結します。

実習では、患者さんの免疫状態や基礎疾患を把握し、個別性を考慮したケアを心がけましょう。皮膚・粘膜の状態を詳細に観察し、わずかな変化も見逃さないことが早期発見につながります。また、プライバシーに配慮した関わりが必要な部位の感染も多いため、患者さんの尊厳を守りながら専門的なケアを提供することが大切です。感染対策の基本を徹底し、患者さんの回復促進と感染拡大防止に努めていきましょうね。


この記事の執筆者

なっちゃん
なっちゃん

・看護師と保健師
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり


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