【めまい(メニエール病)】疾患解説と看護の要点

疾患解説

疾患概要

定義

メニエール病は内耳の膜迷路に内リンパ水腫が生じることで、回転性めまい発作、変動する感音難聴、耳鳴り、耳閉感を主症状とする疾患です。厚生労働省の診断基準では、①回転性めまい発作の反復、②めまい発作に伴う難聴・耳鳴り・耳閉感、③第8脳神経以外の神経症状を伴わない、の3項目により診断されます。反復性変動性が特徴的で、症状は一過性に改善と悪化を繰り返します。

疫学

日本におけるメニエール病の有病率は約1000人に1人とされ、患者数は約4-5万人と推定されています。30-50歳代の働き盛りに多く、男女比は約1:1.5でやや女性に多い傾向があります。都市部での発症率が高く、ストレスの多い職業(管理職、教師、看護師など)に従事する人に多いことが知られています。完全型メニエール病のほか、めまいのみを呈するメニエール病疑い蝸牛型メニエール病(難聴・耳鳴りのみ)も含めると患者数はさらに多くなります。

原因

根本的な原因は完全には解明されていませんが、内リンパ水腫の形成が病態の中心とされています。内リンパ水腫の原因として、内リンパ嚢の機能低下、ウイルス感染、免疫異常、遺伝的素因などが考えられています。発症に関与する因子として精神的ストレス過労睡眠不足気圧の変化月経周期食事要因(塩分過多、水分不足)などが挙げられます。近年、自己免疫機序の関与も注目されており、約30%の患者で自己抗体が検出されています。

病態生理

メニエール病の病態は内リンパ水腫により説明されます。内耳の内リンパ腔に過剰な内リンパ液が貯留し、膜迷路が拡張することで機械的圧迫が生じます。この圧迫により前庭機能(平衡感覚)と蝸牛機能(聴覚)が同時に障害されます。発作時には内リンパ圧の急激な上昇により、ライスネル膜の破綻や前庭器官の機能異常が生じ、回転性めまい、難聴、耳鳴りが出現します。発作間期には症状は軽快しますが、反復により徐々に内耳機能が低下し、難聴の進行や平衡機能障害の残存が見られるようになります。


症状・診断・治療

症状

回転性めまい発作が最も特徴的で、30分から数時間持続します。患者は「天井がぐるぐる回る」「世界が回転している」と表現し、立っていることができず、多くは臥床を余儀なくされます。めまいに伴い悪心・嘔吐冷汗顔面蒼白などの自律神経症状が強く現れます。感音難聴は低音域から始まることが多く、発作とともに悪化し、発作後に改善する変動性を示します。耳鳴りは「ザー」「ゴー」という低音性で、耳閉感も同側に認められます。進行すると難聴は非可逆性となり、めまい発作の頻度は減少しますが平衡機能障害が残存します。

診断

診断は臨床症状聴力検査により行われます。純音聴力検査では発作時に低音域の感音難聴を認め、発作間期には改善を示す変動性が確認されます。グリセロール試験は内リンパ水腫の診断に有用で、グリセロール投与後に聴力改善が見られる場合陽性とします。平衡機能検査では発作時に自発眼振、発作間期には温度眼振反応の低下を認めます。MRIでは内リンパ水腫の可視化が可能で、ガドリニウム造影剤投与後4時間でのFLAIR画像により内リンパ腔の拡大を確認できます。フロセミド負荷試験も内リンパ水腫の診断に用いられます。

治療

急性期治療では抗めまい薬(ベタヒスチン、ジフェンヒドラミン)、制吐薬(メトクロプラミド)、安定剤(ジアゼパム)を使用します。重篤な場合はステロイド薬の点滴投与を行います。慢性期治療では内リンパ水腫軽減を目的とした利尿薬(イソソルビド)、循環改善薬(ベタヒスチン)、ビタミンB12などが使用されます。生活指導として塩分制限(6g/日以下)、水分摂取(1.5-2L/日)、規則正しい生活、ストレス管理が重要です。薬物療法で改善しない場合は内リンパ嚢開放術前庭神経切断術鼓室内ステロイド注入などの手術療法も考慮されます。


看護アセスメント・介入

よくある看護診断・問題

  • 感覚知覚変調:内耳機能障害に関連しためまい・平衡感覚障害
  • 転倒リスク状態:めまいと平衡機能障害に関連した転倒の危険性
  • 不安:突然のめまい発作と予後への不安

ゴードン機能的健康パターン

健康知覚・健康管理パターンでは患者のメニエール病に対する理解度と治療への取り組み姿勢を評価します。発作の誘因や前兆、症状日記の記録状況、服薬アドヒアランスを詳細に把握します。活動・運動パターンでは発作によるめまい・平衡機能障害が日常生活活動に与える影響を評価します。歩行状態、転倒歴、外出頻度の変化、職業への影響を確認します。対処・ストレス耐性パターンでは発作に対する不安レベルとストレス管理能力を評価し、疾患による心理的影響を把握します。

ヘンダーソン14基本的ニード

身体の位置を動かし、望ましい肢位を保持するでは発作時の安全な体位と発作間期の活動レベルを評価します。めまい発作時は側臥位で安静を保ち、急激な体位変換を避ける必要があります。安全で健康的な環境を維持し、他者に危険が及ばないようにするでは転倒防止のための環境整備と危険回避行動を評価します。働くこと、達成感を得るでは職業への影響と社会復帰への支援ニーズを把握し、疾患による役割変化への適応を支援します。

看護計画・介入の内容

  • 発作時の安全管理:安全な体位の確保(側臥位、頭部固定)、転倒防止対策(ベッド柵、ナースコール手の届く位置)、環境調整(暗く静かな環境、刺激の除去)、バイタルサイン監視
  • 症状管理・観察:めまいの程度と持続時間の評価、随伴症状(悪心・嘔吐)の観察、聴力低下の程度確認、症状日記記録の支援、発作誘因の特定
  • 生活指導・教育:塩分制限食の指導、適切な水分摂取方法、ストレス管理技法の指導、発作時の対処方法教育、定期受診の重要性説明、職場環境の調整支援

よくある疑問・Q&A

Q: メニエール病は完治しますか?一生付き合っていかなければならないのでしょうか?

A: メニエール病は慢性疾患ですが、適切な治療により症状のコントロールは十分可能です。約70-80%の患者さんで薬物療法と生活指導により症状の改善が期待できます。完全な治癒は困難ですが、発作頻度の減少や症状の軽減により、普通の日常生活を送ることができます。進行すると自然に発作は減少する傾向がありますが、難聴が残存する可能性があります。早期からの適切な治療と生活管理により、良好な予後を期待できます。

Q: 発作はいつ起こるかわからないので、外出するのが不安です

A: 確かに発作の予測は困難ですが、多くの患者さんで発作には前兆があります。耳鳴りの増強、耳閉感、軽度のふらつきなどの前兆を感じたら、安全な場所で休息を取ることで重篤な発作を回避できることがあります。外出時は付き添いがいると安心で、症状日記をつけることで発作のパターンや誘因を把握できます。また、抗めまい薬を携帯し、必要時に服用できるよう準備しておくことも重要です。

Q: 食事で気をつけることはありますか?

A: 塩分制限が最も重要で、1日6g以下を目標とします。加工食品、外食、調味料の使用を控え、だしや香辛料を活用して味付けを工夫しましょう。水分摂取は1日1.5-2L程度を心がけ、一度に大量ではなく少量ずつこまめに摂取します。カフェインやアルコールは内耳循環に影響するため控えめにし、規則正しい食事時間を保つことも大切です。個人差があるため、症状日記で食事と発作の関連を観察することをお勧めします。

Q: 車の運転はできますか?仕事への影響が心配です

A: 発作が予測不可能なため、車の運転は原則として控えることが推奨されます。特に職業運転手の場合は職業変更が必要になることもあります。しかし、症状が安定し、医師の許可があれば短距離の運転は可能な場合もあります。職場ではめまい発作の可能性について理解を得ることが重要で、必要に応じて配置転換や勤務形態の調整を相談しましょう。障害者手帳の取得により就労支援を受けられる場合もあります。


まとめ

メニエール病は内リンパ水腫による内耳疾患として、患者さんの日常生活に大きな影響を与える慢性疾患です。病態の特徴は反復性変動性であり、突然の回転性めまい発作は患者さんに強い不安と生活の制約をもたらします。

看護の要点は発作時の安全確保長期的な自己管理支援です。発作時には転倒や外傷の予防が最優先となり、安全な環境での安静保持と症状観察が重要となります。症状日記の記録は発作パターンの把握と治療効果の評価に不可欠であり、患者さんの自己管理能力向上を支援します。

また、心理的支援も重要な看護の視点です。予測不可能な発作への不安、職業や社会生活への影響、将来への心配など、患者さんが抱える多様な不安に対して共感的に関わり、希望を持って治療に取り組めるよう支援することが大切です。

生活指導では塩分制限や水分管理、ストレス管理など、内リンパ水腫の軽減に向けた具体的な方法を指導し、患者さんが日常生活の中で実践できるよう支援します。

実習では患者さんの個別性を重視したアプローチを心がけましょう。発作の頻度や程度、誘因、生活背景は患者さんごとに大きく異なります。症状の詳細な観察患者さんの体験の理解を通じて、その人らしい生活の継続を支援することが重要です。また、家族への教育も含めた包括的なケアにより、患者さんが疾患とうまく付き合いながら充実した人生を送れるよう支援していきましょう。


この記事の執筆者

なっちゃん
なっちゃん

・看護師と保健師
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり


コメント

タイトルとURLをコピーしました