【脳出血】疾患解説と看護のポイント

疾患解説

疾患概要

定義

脳出血は、脳の血管が破裂して、脳実質内に血液が流入する疾患です。脳卒中の約20%を占め、脳梗塞よりも予後が悪く、死亡率や後遺症発生率が高い重篤な脳血管障害です。出血により脳組織が圧迫され、脳が腫脹(脳浮腫)して頭蓋内圧が上昇します。出血量が多い場合や、重要な脳領域に出血が起こった場合は、生命に関わる医学的緊急事態となり、迅速な治療判断が必須です。

疫学

日本における脳出血の年間発症率は人口10万人あたり約20~30人で、脳卒中全体の約15~20%を占めます。発症年齢は50~70歳代が中心ですが、若年者での発症例も見られます。男性が女性より約1.5倍多く、季節では冬季に多い傾向があります。特に高血圧が管理されていない患者での発症が多いです。脳出血の死亡率は約40~50%と高く、生存者の大多数に重篤な神経学的後遺症が残ります。

原因

脳出血の約60~70%は、高血圧に伴う細い動脈(穿通枝)の破裂が原因です。特に被殻、視床、脳幹、小脳での出血が多いです。その他の原因として、脳動脈瘤の破裂(くも膜下出血として扱われることが多い)、動脈硬化、抗凝固薬の過剰投与、凝固異常、脳腫瘍、血管奇形などが挙げられます。危険因子には、高血圧、喫煙、過度な飲酒、糖尿病、脂質異常症、抗凝固薬使用などがあります。


病態生理

脳出血の発症と進行は、出血の場所、量、速度に依存した複雑なプロセスです。

初期段階では、血管破裂により脳実質内に血液が急速に流入します。出血により脳の神経細胞が直接破壊され、周囲の脳組織が圧迫を受けます。この圧迫により、脳の正常な機能が障害されます。

急性期の変化では、出血周辺に脳浮腫(脳が腫れる現象)が急速に進行し、特に発症後12~48時間で最も著しくなります。脳浮腫により、脳の容積が増加し、頭蓋内圧が上昇します。頭蓋骨は硬く拡張できないため、圧力が上昇することで、脳の血流が低下し、酸素供給が悪くなります。この過程が進むと、脳ヘルニアという生命に関わる状態に陥ります。

二次的障害が連鎖的に起こります。出血周辺から神経毒性物質が放出され、神経細胞が追加的にダメージを受けます。血液中の鉄分やヘモグロビンは神経毒性を有し、周囲の脳組織を傷つけます。また、炎症反応が亢進し、免疫細胞が集積して、さらに脳浮腫が進行します。

脳血流の異常も重要です。出血により脳血管が圧迫されたり、脳内圧上昇により脳血流が低下したりする結果、虚血領域が拡大し、脳梗塞も同時に起こることがあります。


症状・診断・治療

症状

脳出血の症状は急激かつ悪化する傾向が特徴です。

初期症状として、激しい頭痛、嘔吐、意識障害が現れます。出血がゆっくり進行する場合、初期には症状が軽いこともありますが、脳浮腫が進行するにつれて悪化していきます。

神経学的症状は出血部位により異なります。被殻出血では、対側の片麻痺、感覚障害、失語症(優位半球の場合)が見られます。視床出血では、片麻痺、感覚障害、眼球運動障害が起こります。脳幹出血は最も重篤で、意識障害、四肢麻痺、呼吸障害などが生じ、生命に関わることが多いです。小脳出血では、めまい、運動失調、嘔吐が著しく、水頭症や脳幹圧迫により急速に悪化することがあります。

けいれん発作も起こることがあり、これは脳出血周辺の神経興奮により生じます。

脳ヘルニアの兆候には、瞳孔の散大、呼吸パターンの異常(深大呼吸やチェーン・ストークス呼吸)、除脳硬直(上肢は過伸展、下肢は屈曲する異常姿勢)などが含まれ、これは医学的緊急事態です。

診断

頭部CT検査が最初の検査であり、出血の場所、量、形態を素早く把握できます。CT画像では出血は高吸収域(白く映る)として見えます。同時に、脳浮腫や脳室への出血拡大、脳ヘルニアの兆候の有無も評価されます。

頭部MRIは、出血の既往や微小出血の検出に有用です。特に繰り返す脳出血の原因調査に役立ちます。

脳血管造影(CTA/MRA または従来のカテーテル検査)は、出血の原因が動脈瘤や血管奇形の場合に実施されます。

血液検査では、凝固能評価、血小板数、抗凝固薬の効果測定が行われます。特に抗凝固薬を服用している患者では、その効果の程度を確認することが重要です。

神経学的評価は、Glasgow Coma Scaleやニューロチェックを用いた定期的な監視により、意識レベルや神経症状の変化を詳細に記録します。

治療

脳出血は医学的に完全に止血できないため、治療は対症的・支持的になります。

血圧管理が最優先課題です。高血圧は出血の再発や拡大を招くため、厳密な血圧管理が行われます。一方、血圧が低すぎると脳灌流が低下するため、医師は慎重なバランス調整を行います。

頭蓋内圧低下治療が重要です。浸透圧利尿薬(マンニトール)や高張食塩水が投与され、脳浮腫を軽減します。また、頭部を30度挙上させること、患者の頸部を圧迫しないことなども脳圧低下に有効です。

水頭症への対応では、脳室ドレナージが置かれ、脳脊髄液を排液して、脳圧を低下させます。

けいれん予防のため、抗けいれん薬が投与されることがあります。

出血性ショックの管理では、輸液や血液製剤の投与により、循環血液量を維持します。

手術は、出血量が多く、脳内血腫が脳を圧迫している場合に検討されます。特に小脳出血では、水頭症が急速に進行するため、外科的血腫除去やドレナージが救命的となることがあります。

慢性期の危険因子管理では、再発予防のため、高血圧、糖尿病、脂質異常症の治療が行われます。


看護アセスメント・介入

よくある看護診断・問題

  • 急激な頭蓋内圧上昇に関連した脳灌流圧低下の危険性
  • 出血の再発・拡大に関連した身体損傷の危険性
  • 脳浮腫の進行に関連した意識障害の危険性
  • けいれんに関連した身体損傷の危険性
  • 脳ヘルニアの危険性
  • 重度の神経学的後遺症に関連した適応困難

ゴードン機能的健康パターン

知覚・認知パターン

患者の意識レベルと神経学的徴候の微細な変化が、患者の予後を左右します。Glasgow Coma Scaleを用いた定期的な評価(発症直後は15分ごと、その後は30分~1時間ごと)により、意識の深さ、瞳孔反応、運動機能を客観的に記録します。意識障害が進行する兆候があれば、直ちに医師に報告します。意識のある患者に対しては、疾患と治療について、理解度に応じて丁寧に説明することが大切です。

活動・運動パターン

片麻痺など神経学的後遺症により、患者は活動能力が著しく制限されます。急性期は安静が必須であり、むしろ不用意な動きが脳圧を上昇させるため、患者の動きを制限することが必要な場合もあります。けいれんが起こった場合に備え、安全な環境を整備します。回復期には、リハビリテーションを段階的に進め、機能回復を支援します。

排泄パターン

脳の排泄中枢が侵されると、排尿・排便のコントロールが失われることがあります。尿が貯留すると膀胱内圧が上昇し、脳圧が二次的に上昇するため、導尿管理や間欠的自己導尿が行われます。便秘は腹腔内圧上昇により脳圧を上昇させるため、毎日の排便習慣を確保することが重要です。

栄養・代謝パターン

意識障害により経口摂取が困難な場合が多く、経管栄養や静脈栄養により栄養を維持します。血糖管理は脳出血の転帰に影響するため、厳密に行う必要があります。高血糖は脳浮腫を悪化させるため、インスリンにより血糖をコントロールします。

ストレス・対処パターン

脳出血後は重度の後遺症が残りやすく、患者と家族は極度のストレス、絶望感、喪失感を経験します。患者の死亡の可能性も高いため、家族は死別の覚悟と同時に、患者の回復への願いの間で揺れ動きます。看護者の誠実な情報提供と心理的支持が、家族の適応を支援します。

ヘンダーソン14基本的ニード

1. 呼吸

脳幹出血や意識障害が深い場合、自発呼吸が抑制されることがあり、人工呼吸管理が必須となります。誤嚥防止のため、吸引を準備し、患者を側臥位に保つ配慮が重要です。

2. 栄養と水分

経管栄養または静脈栄養により栄養を維持します。水分管理は厳密に行われ、過剰輸液による脳浮腫悪化を避けます。血糖値を定期的に測定し、高血糖をコントロールします。

3. 排泄

導尿管理により排尿を管理し、膀胱内圧の上昇による脳圧上昇を防ぎます。便秘予防のため、毎日の緩い排便を確保するよう、水分摂取と下剤を工夫します。

4. 安全と防御

最も重要なニードです。脳出血の再発防止のため、血圧を厳密に管理します。出血が拡大することを防ぐため、患者の安静を徹底し、脳圧を上昇させる操作を控えます。けいれんに備え、クッション材を配置し、舌を噛まないよう対応を準備します。脳ヘルニアの兆候を見逃さないよう、神経学的評価を継続的に行います。

5. 睡眠と休息

集中治療環境下では十分な睡眠が困難ですが、できるだけ静かで暗い環境を作り、患者が休息できる時間を確保します。

6. 体温調節

発熱は脳の酸素消費を増加させ、脳浮腫を悪化させるため、発熱の早期発見と対応が重要です。感染症予防(誤嚥性肺炎、尿路感染症など)に注力します。

看護計画・介入の内容

  • 神経学的徴候を15分~1時間ごとに評価し(意識レベル、瞳孔、運動機能、感覚機能)、変化をカルテに記録する。意識の悪化、瞳孔異常、呼吸パターンの変化、けいれん発作などは直ちに医師に報告する
  • 頭部を30度挙上させベッドに上げ、患者の頭部を正中線に保ち、頸部を圧迫しないようにする。これにより脳静脈還流が促進され、脳圧が低下する
  • 血圧を定期的(発症直後は15~30分ごと、その後は1時間ごと)に測定し、医師の指示する目標血圧内に管理する。降圧薬の投与状況を監視し、効果を評価する
  • 患者の安静を徹底し、用便時・体位変換時・吸引時など、脳圧が上昇する操作では、事前に医師に相談し、必要な脳圧対策(浸透圧利尿薬の投与タイミングなど)を調整する
  • 体温を4時間ごと(または指示に従い)測定し、発熱があれば対応する。感染症の早期発見のため、痰の性状、尿の混濁などに注意する
  • 脳室ドレナージ管が留置されている場合、管の位置、流出液の性状(色、量)を定期的に確認し、管理プロトコルに従う
  • 尿量を毎時間記録し、尿の量と色を確認する。乏尿(1時間あたり0.5mL/kg以下)があれば医師に報告する
  • けいれん発作に備え、舌圧子、クッション材、吸引機を患者の側に準備し、発作時に迅速に対応できるよう訓練する
  • 意識のある患者に対しては、疾患と治療について、簡潔でわかりやすい説明を繰り返し行う。患者の不安に傾聴し、質問に丁寧に答える
  • 家族に、現在の患者の状態、治療方針、予想される転帰について、医師とともに誠実に説明する。死亡の可能性がある場合も含め、家族の心の準備を支援する
  • 回復が期待できる患者に対しては、リハビリテーションチームと連携し、段階的な活動拡大とリハビリテーションを推進する
  • 出血性ショックの兆候(血圧低下、頻脈、皮膚蒼白、尿量減少)を監視し、異常があれば直ちに医師に報告する

よくある疑問・Q&A

Q: 患者が「頭が痛い」と訴える時、痛み止めを投与しても良いですか?

A: 脳出血の診断が確定した後であれば、医師の指示に従って鎮痛薬を投与することもあります。しかし、診断前の頭痛に対して無闇に鎮痛薬を使用すると、重篤な脳出血を見落とす危険があります。常に医師に相談してから投与決定をしてください。

Q: なぜ脳出血は脳梗塞より予後が悪いのですか?

A: 脳梗塞は血流を回復させることで神経細胞を救済できる可能性がありますが、脳出血の場合、血液が脳実質内に流入して神経細胞を直接破壊します。さらに、出血から生じた血腫と脳浮腫により、脳が圧迫される二次的害が生じます。医学的には、このプロセスを完全に止めることはできないため、対症的治療に留まります。

Q: 患者が意識なくても、患者に話しかけるべきですか?

A: はい、極めて重要です。意識のない患者でも、周囲の声や刺激を感知している可能性があります。看護ケア時に「今からお体をきれいにします」などと説明しながら行うことで、患者の不安が軽減されることが期待できます。また、家族による音声刺激も、患者の脳の回復を促進する可能性があります。

Q: 脳ヘルニアとは何ですか?

A: 脳ヘルニアは、頭蓋内圧が極度に上昇した結果、脳組織が頭蓋骨の開口部を通じて飛び出してしまう現象です。最も多い型は、脳の中心部が下方に押し出される中枢ヘルニアで、これが起こると意識が失われ、瞳孔が散大し、呼吸が停止するなど、生命に関わります。脳ヘルニアの兆候(瞳孔散大、除脳硬直、チェーン・ストークス呼吸など)を見つけたら、直ちに医師に報告してください。

Q: 抗凝固薬を服用していた患者が脳出血を起こしました。どのように対応しますか?

A: 抗凝固薬の効果を逆転させる治療(FFP=新鮮凍結血漿の投与、ビタミンKの投与、または特異的拮抗薬の投与など)が行われます。医師の指示に従い、凝固検査(PT-INR、活性化部分トロンボプラスチン時間など)を定期的に実施し、効果を監視します。


まとめ

脳出血は、脳梗塞と異なり、医学的には血液の流出を完全に止めることができないため、治療は脳浮腫の軽減、脳圧管理、二次的害の予防に集中します。看護学生が理解すべき最も重要なポイントは、神経学的徴候の微細な悪化を敏感に検出し、医師に直ちに報告する能力と、患者の脳圧を上昇させない工夫です。

頭部を30度挙上させ、患者の頭部を正中線に保ち、血圧を厳密に管理し、発熱を防ぎ、患者の不用意な動きを制限するといった看護実践は、医学的な脳圧管理治療と同等の価値を持ちます。

同時に、脳出血後は重度の神経学的後遺症(麻痺、失語症、意識障害など)が残りやすく、患者の死亡の可能性も高いため、患者と家族は極度の不安と絶望に直面します。看護者の誠実で希望的な関わりが、患者と家族の心理的適応を支援し、回復への力となります。

実習では、神経学的評価の正確性、脳圧管理の理論的背景、患者・家族とのコミュニケーション方法をしっかり身につけ、実践的で思慮深い看護を学んでください。


免責事項

本記事は教育・学習目的の情報提供です。

・一般的な医学知識の解説であり、個別の患者への診断・治療の根拠ではありません

・実際の看護実践は、患者の個別性を考慮し、指導者の指導のもと行ってください

・記事の情報は公開時点のものであり、最新の医学的知見と異なる場合があります

・本記事を課題としてそのまま提出しないでください

・正確な情報提供に努めていますが、内容の完全性・正確性を保証するものではありません

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