【疾患解説】脳出血

疾患解説

疾患概要

定義

脳出血は、脳血管が破綻して脳実質内に血液が流出し、血腫を形成する疾患です。脳卒中の一種で、出血により脳組織が圧迫・破壊されることで、様々な神経症状を引き起こします。急性期には生命に関わる重篤な状態となることが多く、迅速な対応が求められる疾患です。

疫学

日本では年間約10万人が脳出血を発症し、脳卒中全体の約20-25%を占めています。発症年齢は50-70歳代が多く、男性にやや多い傾向があります。近年は高血圧治療の普及により発症率は減少傾向にありますが、高齢化に伴い患者数は横ばいです。死亡率は約20-30%と高く、生存例でも重篤な後遺症を残すことが多い疾患です。

原因

最も多い原因は高血圧性脳出血で、全体の約60-70%を占めます。長期間の高血圧により細動脈に変性が起こり、血管壁が脆弱化することで出血が生じます。その他の原因として、脳動静脈奇形、脳動脈瘤、脳腫瘍、血液疾患、抗凝固薬の副作用などがあります。近年は高齢者の抗血栓薬服用による薬剤性出血も増加しています。

病態生理

脳出血が起こると、血腫による占拠性病変として脳組織を圧迫し、脳浮腫を引き起こします。血腫周囲の脳組織は虚血状態となり、機能が低下します。出血量が多い場合は脳ヘルニアを起こし、生命に関わる状態となります。また、血腫が脳室内に破綻すると急性水頭症を併発することもあります。出血部位により症状は異なり、被殻出血では片麻痺、視床出血では感覚障害、小脳出血では運動失調、脳幹出血では意識障害が主症状となります。

症状・診断・治療

症状

脳出血の症状は突然発症が特徴的です。激しい頭痛、嘔吐、意識障害が三大症状とされています。出血部位によって症状は異なりますが、被殻出血では反対側の片麻痺と感覚障害、視床出血では感覚障害が強く、小脳出血では歩行障害や構音障害、脳幹出血では意識障害と呼吸障害が主症状となります。軽症例では軽度の片麻痺や言語障害のみの場合もありますが、重症例では深昏睡から急速に脳死に至ることもあります。

診断

診断にはCT検査が第一選択となります。急性期の血腫は高吸収域として描出され、出血部位や血腫量の評価が可能です。MRI検査ではより詳細な評価ができ、微小出血や血管奇形の検出に有用です。血管造影検査は原因検索のために行われ、動脈瘤や血管奇形の診断に重要です。血液検査では凝固機能の評価も必要で、抗凝固薬服用の有無も確認します。

治療

急性期治療の基本は保存的治療です。血圧管理が最も重要で、過度の降圧は避けつつ、収縮期血圧を140-180mmHg程度に管理します。脳浮腫に対してはマンニトールやグリセオールによる浸透圧利尿薬を使用します。外科的治療は血腫量が30ml以上の場合や、小脳出血で脳幹圧迫がある場合に検討されます。開頭血腫除去術や定位的血腫吸引術が行われます。リハビリテーションは急性期から開始し、廃用症候群の予防と機能回復を図ります。

看護アセスメント・介入

よくある看護診断・問題

・非効果的脳組織灌流(脳出血による脳血流低下に関連して)
・身体可動性障害(片麻痺による運動機能低下に関連して)
・言語的コミュニケーション障害(失語症・構音障害に関連して)
・誤嚥リスク状態(嚥下障害に関連して)
・転倒・転落リスク状態(意識レベル低下・片麻痺に関連して)
・皮膚統合性障害リスク状態(活動性低下による褥瘡発生に関連して)
・家族の対処困難(突然の発症と重篤な状態に関連して)

ゴードンのポイント

健康知覚・健康管理パターンでは、患者さんの意識レベルや病識の程度を評価することが重要です。GCS(Glasgow Coma Scale)やJCS(Japan Coma Scale)を用いて客観的に意識レベルを評価しましょう。活動・運動パターンでは、麻痺の程度や関節可動域、日常生活動作能力を詳細にアセスメントします。運動機能回復の評価やADL評価スケールを用いた客観的な評価も有用です。認知・知覚パターンでは、高次脳機能障害の有無や程度を評価し、失語症や失認、失行などの症状を把握することが大切です。役割・関係パターンでは、家族の理解度や支援体制、社会復帰への準備状況を評価します。

ヘンダーソンのポイント

「正常に呼吸する」では、呼吸パターンや酸素飽和度の変化を継続的に観察することが重要で、特に脳幹出血例では呼吸中枢の障害に注意が必要です。「適切に飲食する」では、嚥下機能の評価が重要で、誤嚥性肺炎の予防に努めます。水飲みテストやVF検査(嚥下造影検査)の結果に基づいた食事形態の調整が必要です。「身体の位置を変え、良い姿勢を保持する」では、麻痺側の良肢位保持や体位変換により、関節拘縮や褥瘡の予防を図ることが大切です。「清潔に保ち、身だしなみを整える」では、患者さんの尊厳を保ちながら、できる範囲での自立支援を行います。

看護計画・介入の内容

・意識レベルと神経学的所見の継続的な観察と記録
・バイタルサインの厳重な監視(特に血圧管理)
・頭蓋内圧上昇の徴候の観察(頭痛、嘔吐、瞳孔所見)
・麻痺側の良肢位保持と関節可動域訓練の実施
・嚥下機能の評価と誤嚥予防対策の実施
・早期離床とリハビリテーションの促進
・褥瘡予防のための体位変換とスキンケア
・コミュニケーション支援と心理的ケア
・家族への疾患説明と心理的支援
・退院準備と社会資源の活用支援

よくある疑問・Q&A

Q: 脳出血の患者さんの血圧管理で注意すべきポイントは何ですか?

A: 急性期の血圧管理は非常に重要です。血圧が高すぎると再出血のリスクが高まりますが、急激な降圧は脳血流を低下させ、脳梗塞を引き起こす可能性があります。一般的に収縮期血圧140-180mmHg程度を目標とし、段階的に降圧することが推奨されています。降圧薬の投与前後は特に注意深く神経症状を観察し、悪化があれば医師に報告することが大切です。

Q: 意識レベルの評価で、どの変化を重要視すべきですか?

A: 意識レベルの悪化は脳ヘルニアの前兆である可能性があります。JCSやGCSの点数の変化はもちろん、呼びかけへの反応の変化、瞳孔の大きさや対光反射の変化、運動麻痺の進行などを総合的に評価します。特に瞳孔不同や対光反射の消失は緊急事態のサインです。わずかな変化でも見逃さず、客観的に記録し、医師に報告することが重要です。

Q: 嚥下障害のある患者さんの食事介助で気をつけることは?

A: まず嚥下機能の評価結果に基づいた適切な食事形態を確認します。とろみ剤の使用や刻み食、ミキサー食など、患者さんに適した形態を選択します。食事時は必ず覚醒状態を確認し、ベッドアップ角度は30-60度程度とします。一口量は少なめにし、飲み込みを確認してから次の一口を提供します。食後は30分程度座位を保持し、口腔ケアを行います。

Q: 家族への説明や支援で重要なことは何ですか?

A: 脳出血は突然発症するため、家族の動揺や混乱は計り知れません。まず疾患の説明を分かりやすく行い、現在の状態と今後の見通しについて段階的に説明します。回復には時間がかかることや、後遺症が残る可能性についても適切に伝えます。家族の不安や疑問を傾聴し、必要に応じて医師やソーシャルワーカーと連携します。また、家族自身の健康管理も大切であることを伝え、休息の重要性も説明します。

Q: リハビリテーションはいつから開始するのが適切ですか?

A: 医師の指示のもと、可能な限り早期から開始します。急性期であっても、全身状態が安定していれば、ベッドサイドでの関節可動域訓練や良肢位保持から始めます。通常、発症後48-72時間以内に理学療法士や作業療法士による評価が行われ、個別のリハビリテーションプログラムが作成されます。早期離床は廃用症候群の予防に重要ですが、患者さんの状態を見ながら段階的に進めることが大切です。

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この記事の執筆者

なっちゃん
なっちゃん

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり

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