【疾患解説】レビー小体型認知症

疾患解説

疾患概要

定義

レビー小体型認知症(Dementia with Lewy Bodies:DLB)は、大脳皮質や脳幹にレビー小体と呼ばれる異常タンパク質が蓄積することで起こる認知症です。アルツハイマー型認知症に次いで多い認知症で、認知機能の変動、視覚性幻覚、パーキンソン症状を特徴とします。

疫学

全認知症の約10-15%を占め、男性にやや多く、発症年齢は平均75歳前後となっています。日本では約50万人の患者がいると推定されています。アルツハイマー型認知症と併存することも多く、正確な診断が重要ですね。

原因

主な原因はα-シヌクレインというタンパク質の異常蓄積です。このタンパク質が神経細胞内でレビー小体を形成し、神経細胞の機能障害や死を引き起こします。遺伝的要因もありますが、多くは孤発性(原因不明)で発症します。

病態生理

レビー小体は主に以下の部位に蓄積します:

  • 大脳皮質:認知機能障害、視覚性幻覚の原因
  • 脳幹(黒質、青斑核):パーキンソン症状、睡眠障害の原因
  • 辺縁系:情動や記憶の障害

α-シヌクレインの蓄積により、ドパミン神経系とアセチルコリン神経系の機能低下が起こり、特徴的な症状が現れます。また、自律神経系にも影響を与えるため、起立性低血圧や便秘などの症状も見られます。

症状・診断・治療

症状

レビー小体型認知症の三大症状は以下の通りです:

  1. 認知機能の変動:日内変動が激しく、調子の良い時と悪い時の差が大きいのが特徴です。午前中は比較的調子が良く、夕方から夜にかけて悪化することが多いですね。
  2. 視覚性幻覚:「人が見える」「虫がいる」など、鮮明で具体的な幻覚が特徴的です。初期から出現することが多く、患者さんは幻覚を現実と区別できないことがあります。
  3. パーキンソン症状:動作緩慢、筋固縮、歩行障害などが見られます。振戦(震え)はパーキンソン病より軽度なことが多いです。

その他の症状として、レム睡眠行動障害(夢の中の行動を実際に行う)、起立性低血圧、便秘、嗅覚障害なども重要な症状となります。

診断

診断は臨床症状と画像検査を組み合わせて行います。決定的な診断方法はないため、複数の検査結果を総合的に判断します:

  • 神経心理学的検査:MMSEやHDS-Rで認知機能を評価
  • SPECT検査:ドパミントランスポーター(DaTscan)やMIBG心筋シンチグラフィー
  • MRI:他の疾患の除外診断
  • 睡眠ポリグラフ検査:レム睡眠行動障害の確認

診断基準としては、中核症状(認知機能変動、視覚性幻覚、パーキンソン症状)のうち2つ以上が存在し、**示唆的症状(レム睡眠行動障害、重篤な抗精神病薬過敏性など)**がある場合に診断されます。

治療

根本的な治療法はまだありませんが、症状に応じた対症療法が中心となります:

薬物療法では、認知症状に対してはアセチルコリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミン)が使用されます。パーキンソン症状にはレボドパが効果的ですが、幻覚を悪化させる可能性があるため慎重に使用します。幻覚に対しては、従来の抗精神病薬は副作用が強いため、クエチアピンなど副作用の少ない薬剤を選択します。

非薬物療法も重要で、規則正しい生活リズムの維持、適度な運動、音楽療法、回想法などが症状の改善に効果的です。環境調整により幻覚や混乱を軽減することも大切ですね。

看護アセスメント・介入

よくある看護診断・問題

・思考過程の変調
・知覚の変調(幻覚)
・転倒の危険性
・睡眠パターンの混乱
・セルフケア不足
・家族の介護負担
・社会的孤立
・栄養不足のリスク
・感染のリスク
・皮膚統合性の障害

ゴードンのポイント

健康知覚-健康管理パターンでは、患者さん自身の病識の程度と安全管理能力を評価することが重要です。認知機能の変動により、自分の状態を正しく認識できない時間帯があるため、服薬管理や危険行動の防止について継続的なアセスメントが必要になります。

活動-運動パターンでは、パーキンソン症状による歩行障害や動作緩慢を詳細に評価します。特に起立性低血圧による転倒リスクが高いため、体位変換時の血圧変動や歩行時のふらつきの程度を観察し、安全な移動方法を検討することが大切です。

睡眠-休息パターンでは、レム睡眠行動障害の有無と程度を評価します。夜間の異常行動は本人や家族の安全に関わるため、睡眠環境の調整と安全対策が必要ですね。また、日中の傾眠傾向も評価し、生活リズムの調整を図ります。

認知-知覚パターンでは、認知機能の日内変動と視覚性幻覚の特徴を詳しく評価します。幻覚の内容や出現パターン、患者さんの反応を記録し、環境要因との関連性を分析することで、適切な対応策を立案できます。

ヘンダーソンのポイント

安全なニードでは、幻覚による混乱状態での危険行動や、パーキンソン症状による転倒リスクを重点的に評価します。特に夜間の徘徊や、幻覚に対する反応行動(逃げる、隠れるなど)による怪我のリスクを予測し、環境調整と見守り体制を整備することが重要です。

正常な呼吸のニードでは、パーキンソン症状による呼吸筋の障害や、嚥下機能の低下による誤嚥性肺炎のリスクを評価します。特に進行期では呼吸器感染症のリスクが高くなるため、定期的な呼吸状態の観察と予防的ケアが必要になります。

適切な飲食のニードでは、嚥下機能の評価と栄養状態の維持が重要です。パーキンソン症状による筋固縮は嚥下にも影響するため、食事形態の調整と安全な摂食方法の指導が必要ですね。また、便秘も頻繁に見られるため、水分摂取と食物繊維の摂取について指導します。

身体の清潔と衣服の整容のニードでは、セルフケア能力の変動を考慮した援助が必要です。調子の良い時は自立を促し、困難な時は適切な援助を提供するという、柔軟な対応が求められます。

看護計画・介入の内容

・認知機能の変動パターンを記録し、調子の良い時間帯を活用したケアプランの作成
・幻覚に対して否定せず、患者の気持ちに共感しながら現実見当識を促す関わり
・転倒予防のための環境整備(手すりの設置、段差の解消、適切な照明の確保)
・起立性低血圧対策(ゆっくりとした体位変換、弾性ストッキングの着用)
・睡眠環境の調整(静かで安全な環境、適切な室温・照明の管理)
・服薬管理の支援と副作用の観察(特に抗精神病薬に対する過敏反応)
・家族への疾患教育と介護指導(症状の理解、対応方法、介護負担の軽減)
・規則正しい生活リズムの維持支援(日中の活動促進、夜間の良眠確保)
・栄養状態の維持と嚥下機能に応じた食事援助
・感染予防対策(手洗い指導、口腔ケア、予防接種の推奨)

よくある疑問・Q&A

Q:アルツハイマー型認知症との違いは何ですか? A:最も大きな違いは症状の変動性です。レビー小体型は日によって、また一日の中でも症状が大きく変動します。また、初期から視覚性幻覚が現れることも特徴的ですね。アルツハイマー型は比較的緩やかに進行しますが、レビー小体型は症状の波があるため、「昨日はしっかりしていたのに今日は全然ダメ」ということがよくあります。

Q:幻覚が見えると言われたときはどう対応すればいいですか? A:「そんなものは見えない」と否定してはいけません。患者さんにとって幻覚は現実なので、否定されると混乱や不安が増します。「心配ですね」「どんな風に見えるのですか」など、患者さんの気持ちに寄り添いながら、さりげなく他のことに注意を向けるようにしましょう。危険がない限り、無理に説得する必要はありません。

Q:パーキンソン病とレビー小体型認知症の関係は? A:どちらもα-シヌクレインの蓄積が原因で、症状も似ていますが、レビー小体の蓄積部位が異なります。パーキンソン病は主に脳幹(運動症状が中心)、レビー小体型認知症は大脳皮質にも蓄積するため認知症状が目立ちます。また、パーキンソン病が長期間経過すると認知症状が現れることもあり、区別が難しい場合もあります。

Q:薬物治療で注意すべきことは? A:レビー小体型認知症の患者さんは抗精神病薬に対して非常に過敏です。少量でも重篤な副作用(パーキンソン症状の悪化、意識障害など)が起こる可能性があります。幻覚があっても、まずは環境調整や非薬物的アプローチを試し、薬物が必要な場合は慎重に選択する必要がありますね。

Q:家族への指導で重要なポイントは? A:まず疾患の特徴を理解してもらうことが大切です。症状の変動があることや、幻覚は病気による症状であることを説明し、患者さんを責めないよう指導します。また、安全な環境作り(段差の解消、照明の調整など)と、介護者自身の健康管理も重要です。一人で抱え込まず、デイサービスなどの社会資源の活用も提案しましょう。

Q:進行を遅らせるためにできることは? A:規則正しい生活リズムの維持が最も重要です。日中の適度な活動と夜間の良質な睡眠、バランスの取れた食事、社会的な交流の維持などが効果的ですね。また、音楽療法や回想法などの非薬物療法も症状の改善に役立ちます。無理のない範囲での軽い運動も推奨されます。

関連事例・症例へのリンク

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【ゴードン】レビー小体型認知症 自宅療養が困難に(0031)

この記事の執筆者

なっちゃん
なっちゃん

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり

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