疾患概要
定義
大腿骨近位部骨折とは、大腿骨の股関節に近い部分(頚部、転子間部、転子下部)に起こる骨折のことですね。高齢者に多く見られる骨折で、ADL(日常生活動作)に大きな影響を与える重要な外傷です。
疫学
日本では年間約20万人が発症し、その約80%が70歳以上の高齢者となっています。特に女性の発症率が高く、男性の約3倍の頻度で発生するのが特徴的です。骨粗鬆症の進行とともに増加傾向にあり、超高齢社会の進展により今後も患者数の増加が予想されます。
原因
主な原因は以下の通りです:
- 骨粗鬆症による骨強度の低下(最も重要な要因)
- 転倒による外力(特に側方への転倒)
- 加齢による筋力低下・バランス能力の低下
- 視力低下や薬剤の影響による転倒リスクの増加
- まれに病的骨折(がんの骨転移など)
病態生理
骨粗鬆症により骨密度が低下した状態で、比較的軽微な外力でも骨折が生じます。大腿骨近位部は解剖学的に応力が集中しやすい部位であり、特に大腿骨頚部は血流が乏しいため、骨折後の治癒が困難になりやすいのが特徴です。骨折により股関節の機能が失われ、荷重や歩行が困難となります。
症状・診断・治療
症状
主な症状として、激しい股関節痛が特徴的で、特に動作時に増強します。患肢の短縮や外旋変形も見られることが多く、荷重をかけることができません。完全骨折の場合は歩行不能となりますが、不全骨折では軽度の疼痛のみで歩行可能な場合もあるため注意が必要です。局所の腫脹や皮下出血も認められることがあります。
診断
診断は主に画像検査によって行われます。単純X線検査が第一選択で、正面像と側面像で骨折の有無と骨折型を確認します。不全骨折が疑われる場合や詳細な評価が必要な場合には、CT検査やMRI検査が追加されることもあります。血液検査では炎症反応や貧血の有無を確認し、全身状態の評価も併せて行います。
治療
治療は主に外科的治療が選択されます。骨折の部位や骨折型、患者の年齢や全身状態に応じて治療法が決定されます。大腿骨頚部骨折では人工骨頭置換術や全人工股関節置換術が、転子間骨折では髄内釘やプレート固定術が行われることが多いですね。保存的治療は全身状態が手術に耐えられない場合に限定されますが、長期臥床による合併症のリスクが高くなります。
看護アセスメント・介入
よくある看護診断・問題
・急性疼痛
・身体可動性の障害
・転倒リスク状態
・皮膚統合性の障害リスク状態
・感染リスク状態
・便秘
・活動耐性低下
・セルフケア不足
・不安
・睡眠パターンの混乱
ゴードンのポイント
健康知覚・健康管理パターンでは、患者の転倒に対する認識や骨粗鬆症に関する理解度を評価することが重要です。再転倒予防への意識や内服薬の管理能力も確認しましょう。
活動・運動パターンでは、骨折前の歩行能力やADL自立度を詳細に聴取し、リハビリテーションの目標設定に活用します。術後の可動域制限や荷重制限についても十分な説明が必要ですね。
認知・知覚パターンでは、疼痛の程度や性状を継続的に評価し、適切な疼痛管理を行います。また、せん妄の早期発見も重要な観察点となります。
ヘンダーソンのポイント
正常な呼吸については、術後の肺塞栓症予防のため深呼吸や下肢の運動を促進し、呼吸状態を継続的に観察することが重要です。
適切な飲食では、骨形成に必要なカルシウムやビタミンDの摂取を意識した栄養指導を行い、術後の食欲不振に対しても適切な対応を心がけます。
身体の正常な位置の保持と動作では、術後の肢位管理や可動域訓練の実施、転倒予防対策の徹底が必要です。早期離床を促進しながらも安全性を確保することが大切ですね。
清潔と身だしなみでは、セルフケア能力の評価と必要に応じた介助、感染予防のための創部管理を行います。
看護計画・介入の内容
・疼痛スケールを用いた定期的な疼痛評価と適切な鎮痛薬の投与
・医師の指示に従った肢位管理と可動域訓練の実施
・深部静脈血栓症予防のための下肢運動と弾性ストッキングの着用
・転倒予防のための環境整備と患者・家族への指導
・創部感染予防のための清潔ケアと観察
・栄養状態の評価と必要に応じた栄養補助
・排泄パターンの観察と便秘予防対策
・せん妄予防のための環境調整と見当識の維持
・リハビリテーションへの参加促進と動機づけ
・退院後の生活指導と社会資源の活用支援
よくある疑問・Q&A
Q: 手術後はいつから歩けるようになりますか? A: 骨折の部位や手術方法によって異なりますが、人工骨頭置換術の場合は術後1-2日で部分荷重から始まり、徐々に全荷重へと進めていきます。転子間骨折の場合は骨癒合の状況を見ながら荷重を増加させるため、やや時間がかかることもありますね。
Q: 術後の脱臼予防で気をつけることは? A: 股関節の過度な屈曲(90度以上)、内転、内旋を避けることが最も重要です。具体的には、深く腰掛けない、足を組まない、患側を下にして横向きに寝ないなどの指導を行います。
Q: 再骨折の予防はどうすればよいですか? A: 骨粗鬆症の治療継続、転倒予防対策の徹底、適度な運動の継続が重要です。ビスフォスフォネート製剤などの骨粗鬆症治療薬の適切な服用と、カルシウム・ビタミンDの摂取も効果的ですね。
Q: 高齢者の場合、手術のリスクは大きいですか? A: 確かに高齢者では手術リスクが高くなりますが、長期臥床による合併症(肺炎、褥瘡、筋力低下など)のリスクの方がより深刻です。そのため、全身状態が許す限り早期手術が推奨されています。
関連事例・症例へのリンク
この記事の執筆者

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり
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