【ゴードン】大腿骨転子部骨折 在宅復帰を目指す(0004)

ゴードン

本事例の要約

右大腿骨転子部骨折後、γネイル固定術を施行し、術後3週間が経過した85歳女性の事例。骨粗鬆症、高血圧症、高脂血症の既往があり、術後のリハビリテーションは概ね順調に進んでいるものの、ADLに一部介助を要する状態。本人は早期の茶道教室再開を希望しているが、家族は安全な在宅復帰を重視しており、目標設定に違いがみられる事例。介入は術後3週間目である。

この事例で勉強できること

大腿骨転子部骨折-術後・退院支援のアセスメント

今回の情報

基本情報

A氏は85歳の女性で、身長148cm、体重42kg(BMI 19.2)である。5年前に夫を亡くし、現在はマンション3階に独居している。長女(54歳)と次男(50歳)が近隣市に在住しており、キーパーソンは週2回の訪問をしている長女である。元会社員で定年後は趣味の茶道を活かし、自宅で教室を開いている(教授資格保持)。温厚な性格ながら自己主張が強く、医療者の助言を受け入れにくい面がある。また、仏教信仰があり入院前は週1回の読経会に参加していた。感染症の既往やアレルギー歴は特になし。

病名

右大腿骨転子部骨折
術式:γネイル固定術

既往歴と治療状況

骨粗鬆症を70歳時に診断され(T値 -3.2)、アレンドロン酸、カルシウム製剤、活性型ビタミンD3製剤を内服中である。68歳時より高血圧症に対してアムロジピン5mg/日の内服を開始し、72歳からは高脂血症に対してロスバスタチン2.5mg/日の内服を継続している。また、両側変形性膝関節症を有している。 

入院から現在までの情報

A氏は3週間前、自宅マンションの玄関で転倒し、右大腿部痛を自覚した。訪問中の長女により救急搬送され、X線検査で右大腿骨転子部骨折と診断された。全身状態が良好であったため、同日緊急でγネイル固定術が施行された。術後経過は概ね良好で、術後1週間目からベッド上での関節可動域訓練とレッグリフト、2週間目には平行棒内歩行訓練を開始した。現在は歩行器を使用して15m程度の歩行が可能である。疼痛は安静時NRS 1/10、運動時3/10と管理できているが、夜間の不眠と軽度の不安症状が出現している。検査所見では軽度の貧血(Hb 11.2g/dL)と低アルブミン血症(Alb 3.5g/dL)を認めているが、その他の検査値は概ね正常範囲内である。

バイタルサイン

来院時: 来院時のバイタルサインは、血圧142/84mmHg、脈拍78回/分、体温36.8℃、呼吸数16回/分、SpO2 98%(室内気)であった。

現在(術後3週間目): 現在のバイタルサインは安定しており、血圧132/78mmHg、脈拍68回/分、体温36.5℃、呼吸数14回/分、SpO2 97%(室内気)を維持している。

食事と嚥下状態

入院前: 食事は一日3食自力で摂取し、栄養バランスにも気を配っていた。嚥下機能は良好で、食事にかかる時間は1食あたり20~30分程度であった。水分摂取量は1日1500ml程度を意識的に摂取していた。喫煙歴・飲酒歴はない。

現在: 食事は自力摂取可能だが、疲労のため15分程度で休憩が必要となっている。嚥下機能は問題なく、食形態は常食を摂取している。水分摂取は1日1200-1400mlで、定時の声掛けと記録表を使用して管理している。喫煙・飲酒は入院前同様なし。

排泄

入院前: 自立しており、排尿は1日6-7回、排便は規則的に1日1回朝食後にトイレで行っていた。必要時に市販の酸化マグネシウムを服用することはあったが、常用はしていなかった。

現在: ポータブルトイレを使用して自立しており、排尿は1日6-7回、排便は1日1回と入院前と同様の回数を維持している。立ち上がりには手すりを使用し、必要時に軽介助を要する。夜間は1-2回の排尿がある。便秘予防のため、看護師の管理下で酸化マグネシウム330mg錠を1日1回朝食後に内服している。便性状はブリストルスケール4型で、概ね良好である。

睡眠

入院前: 就寝時間は21時頃で、起床は6時頃と規則正しい生活を送っていた。日中の活動性も保たれており、夜間は良眠できていた。入眠剤等の使用はなかった。

現在: 21時頃には床につくものの、術後の環境の変化や不安感から入眠までに1時間程度かかることがある。また、夜間の排尿や疼痛により1-2回の中途覚醒がみられ、再入眠に時間を要している。起床時間は6時頃と入院前と変わらないが、睡眠の質の低下を訴えている。医師と相談の上、不眠時の頓用薬としてゾルピデム5mgが処方されているが、本人の希望で内服は最小限にとどめている。日中は、午後2時頃から1時間程度の臥床休息を取っている。

視力・聴力・知覚・コミュニケーション・信仰

視力は老眼があり、読書時と茶道の際には近用眼鏡を使用している。聴力は左右ともに軽度低下があるものの、通常の会話に支障はない。知覚は年齢相応で、術側の右下肢に術後の創部痛以外の異常感覚はない。

コミュニケーションは良好で、会話の理解力も保たれている。元会社員としての経験もあり、論理的な思考と表現が可能である。温厚な性格だが、自己主張が強く、医療者の助言を受け入れにくい面がある。

仏教信仰があり、入院前は週1回の読経会に参加していた。入院中も仏壇の写真を枕元に置き、毎朝読経の時間を設けている。信仰は精神的な支えとなっており、回復への意欲にもつながっている。

動作状況

【ADLの状況】 入院前のADLは、変形性膝関節症による長距離歩行時の膝の疲労感はあったものの、屋内外の移動は自立していた。変形性膝関節症による膝折れで2回の転倒歴があったが、大きな怪我には至らなかった。

現在は、歩行器を使用して15m程度の歩行が可能であるが、立ち上がり動作では手すりと軽介助を要する。ベッドから車椅子やポータブルトイレへの移乗時には手すりを使用し、必要時は軽介助を受けている。排泄動作はポータブルトイレを使用して概ね自立しているものの、立ち上がり時の安全確保のため見守りが必要な場合がある。入浴は週2回実施しており、浴室への移動は車椅子を使用し、洗体時には介助を要する。更衣動作については、上衣の着脱は自立しているが、下衣の着脱は疼痛と可動域制限により軽介助を必要としている。今回の骨折を機に、リハビリテーションを通じて転倒予防への意識が高まっている。

内服中の薬

<定期内服薬>
・アレンドロン酸錠35mg 1錠 週1回 起床時 空腹時
・沈降炭酸カルシウム錠500mg 3錠 毎食後
・アルファカルシドール錠1.0μg 1錠 朝食後
・アムロジピン錠5mg 1錠 朝食後
・ロスバスタチン錠2.5mg 1錠 夕食後
・酸化マグネシウム錠330mg 1錠 朝食後

<頓用薬>
・ゾルピデム錠5mg 1錠 不眠時

【服薬状況】
入院前は自己管理で、曜日別の薬箱を使用し確実に内服できていた。入院後は、安静度の制限や術後の疼痛管理の必要性から、現在は看護師管理としている。今後、退院に向けて自己管理への移行を検討中である。

認知力

見当識は保たれており、日時・場所・人物の認識に問題はない。入院時のMMSEは28/30点で、計算と遅延再生で各1点減点があったものの、日常生活に支障をきたすような認知機能の低下は認められない。会話の理解力も良好で、新しい情報の習得も可能である。

検査データ
検査項目基準値入院時現在(術後3週間)
WBC4,000-9,000/μL7,8006,500
RBC380-500万/μL355348
Hb11.5-15.0g/dL11.511.2
Ht35-45%34.834.2
Plt15-35万/μL22.523.1
TP6.5-8.2g/dL6.86.5
Alb3.8-5.2g/dL3.83.5
AST10-35U/L2825
ALT5-40U/L3228
BUN8-20mg/dL1816
Cr0.4-1.1mg/dL0.80.7
Na135-145mEq/L140138
K3.5-5.0mEq/L4.24.0
Cl98-108mEq/L102101
CRP0.3以下mg/dL0.80.4
今後の治療方針と医師の指示

骨折部の確実な癒合と基本的ADLの自立を目標に治療を継続する。骨密度検査でのT値の低下(-3.2)を受けて、骨粗鬆症に対する投薬内容の見直しを検討中である。リハビリテーションは現在の進捗状況を考慮し、歩行器歩行の距離延長と応用動作の練習を進めていく。また、両側の変形性膝関節症による膝折れのリスクも考慮し、下肢筋力強化を継続する。

医師からの指示として、1日2単位の理学療法を継続し、平行棒内歩行から歩行器歩行への移行を進め、最終的には杖歩行の獲得を目指すこととなっている。病棟内の活動は歩行器使用を許可されているが、夜間のトイレ歩行は転倒リスクを考慮し、ポータブルトイレを使用することとなっている。創部は感染徴候なく経過しているため消毒は不要とされ、シャワー浴が許可されている。また、骨癒合促進のため、タンパク質とカルシウムを意識した食事摂取を指導されている。退院時期については、骨癒合の状態とADLの自立度を評価しながら、4週間後を目途に検討することとなっている。

退院後は、2週間毎の外来診察とリハビリテーション外来(週2回)を予定している。また、骨粗鬆症に対する投薬内容の調整と、再骨折予防のための生活指導を行う方針である。

本人と家族の想いと言動

A氏は3ヶ月以内の杖歩行自立と茶道教室再開を強く希望している。茶道の教授資格を持っており、「早く教室に戻りたい。生徒たちが待っているから」と、リハビリテーションにも意欲的に取り組んでいる。一方で、夜間の不眠や軽度の不安症状が出現しており、「このまま元通りの生活に戻れるだろうか」という不安も抱えている。医療者の助言に対しては、自己主張が強く受け入れにくい面があり、「今までも自分のやり方でやってきた」と話すことがある。

長女は週2回の面会時に、A氏の回復を気遣いながらも、「早く元の生活に戻りたがっているけれど、無理をさせたくない」と心配している。次男とともに、安全な在宅復帰と転倒予防策の確立を最優先に考えており、「もう一度転んでしまったら大変」と不安を表出している。特に長女は、仕事と介護の両立に対する不安も語っており、「できるだけ母の希望に沿いたいが、私たちにできるサポートには限界がある」と話している。

この記事の執筆者

なっちゃん
なっちゃん

・看護師と保健師免許を保有
・現場での経験-約15年
・プリセプター、看護学生指導、看護研究の経験あり

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